日本からの投資額が2年連続首位、製造業の追加投資も拡大(ベトナム)
2018年の対ベトナム直接投資の分析
2019年6月17日
米朝首脳会談のハノイ開催や米中貿易摩擦などを通じて、ベトナムに対する国際的な注目度が高まっている。世界からベトナムへの直接投資も好調で、2018年は過去最高の投資認可件数を記録した。日本からの投資も含め、2018年のベトナムへの外国直接投資の状況について、ベトナム計画投資省傘下の外国投資庁(FIA)の統計(認可ベース、確報値)を基に解説する。
投資認可件数は過去最高を更新
FIAによると、2018年の対ベトナム直接投資の件数は新規・拡張を合わせて4,342件となり、過去最高を更新した。認可額は262億6,327万ドルで、前年よりは減少したものの、過去3番目に高い数値となった(図1参照)。
業種別にみると、「製造」が認可額の半分以上を占めた。認可件数では「製造」が1,864件(新規は1,106件)で1位となり、「小売り・卸売」が911件(同788件)で2位、「コンサル等」(注)が482件(同391件)で3位と続いた。これらの主要業種の構成比は、2017年と比べて大きな変化はなかった。
投資認可額、日本が2年連続1位
国・地域別にみると、住友商事などによるハノイ市でのスマートシティー開発案件(41億3,800万ドル)が寄与し、認可額では、日本が83億4,305万ドルで、2年連続の首位となった(表参照)。認可件数では、韓国が日本の2倍以上に当たる1,482件を記録し、首位となった。2018年の大型投資上位10案件には、日本の2案件、韓国の3案件(シンガポール出資のロッテマートの投資を含むと4件)が入っている。2018年末までの累積直接投資額(認可ベース)は、韓国が1位、日本が2位を維持しており、この2カ国の影響力が引き続き大きいと言える。
順位 | 国・地域 | 新規 | 拡張 | 合計 | |||||
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件数 | 認可額 | 件数 | 認可額 | 件数 | 前年比 | 認可額 | 前年比 | ||
1 | 日本 | 440 | 6,856 | 203 | 1,487 | 643 | 7.0% | 8,343 | △4.3% |
2 | 韓国 | 1,071 | 3,692 | 411 | 2,300 | 1,482 | 10.7% | 5,992 | △23.2% |
3 | シンガポール | 228 | 1,499 | 70 | 1,866 | 298 | 10.0% | 3,365 | △31.9% |
4 | 香港 | 174 | 1,142 | 87 | 811 | 261 | 12.5% | 1,953 | 38.2% |
5 | 中国 | 408 | 1,276 | 92 | 452 | 500 | 31.6% | 1,728 | 5.0% |
合計(その他含む) | 3,147 | 18,494 | 1,195 | 7,769 | 4,342 | 9.2% | 26,263 | △14.7% |
注:端数処理上、合計は必ずしも一致しない。
出所:ベトナム計画投資省データからジェトロ作成
日本からの投資件数は3年連続増加、過去最高を更新
日本からの投資件数は新規・拡張を合わせて643件で、3年連続増加し、過去最高を更新した。認可額は83億4,305万ドルで、2017年に次ぎ高水準となった(図2参照)。
新規案件を業種別にみると、件数では「製造」(108件)、「小売り・卸売」(95件)、「コンサル等」(82件)、「IT」(66件)が上位を占め、これら4業種で新規全体の約8割を占めた(図3参照)。主要な産業の構成比は2017年から大きく変わらず、世界からの投資と比べると、日本は「コンサル等」と「IT」の割合が高く、「製造」の割合が低い。2016年以降は「製造」の占める割合が3割を切っており、非製造業での投資の割合が増えている。ジェトロ・ハノイ事務所への相談の傾向をみても、コンサル等、人材、教育など、非製造業の件数が伸びている。ジェトロがベトナム進出日系企業を対象に実施した調査では、ベトナムの投資環境上のメリットとして、「市場規模・成長性」が2017年、2018年と連続で1位に挙げられた(2019年4月26日付地域・分析レポート参照)。ベトナムは製造業の輸出拠点としてだけでなく、製品やサービスを販売・提供する市場としても注目度が高まっている。

出所:ベトナム計画投資省データからジェトロ作成
日本の製造業の投資が復調、追加投資が拡大
2018年の日本からの製造業の新規投資は、速報値ベースで106件、16億7,614万ドルだった。認可額は2013年以降減少が続いていたが、6年ぶりに増加した(図4参照)。認可件数も前年に続き増加となり、製造業の投資が再び活気を帯びた。

注:年ごとの傾向をみるため、速報値ベースで集計。認可取り消し案件も含む。
出所:ベトナム計画投資省データからジェトロ作成
日本の製造業の拡大を支えているのが、既にベトナムに拠点を構える日系企業による追加投資だ。ジェトロ・ハノイ事務所の調べでは、製造業の新規投資のうち、4割以上が既にベトナムに拠点を構える日系企業による新規プロジェクトであることがわかった。とりわけ認可額上位の20案件に絞ると、その割合は8割以上となる。前述のジェトロの調査では、ベトナム進出日系企業の69.5%が今後1~2年の事業展開の方向性を「拡大」と回答しており、追加投資の拡大を裏付ける結果となった。企業によっては、ベトナムの既存工場に次ぐ新たな製造拠点を検討する際、周辺国への進出も検討するが、最終的にベトナム国内での追加投資を選択することがあるようだ。大都市近郊の製造業の集積地では最低賃金が上がるとともに、人材確保が以前よりも難しくなっているとの声が多い。2018年の日本の製造業の新規投資先をみると、新たに工業団地整備が進む地方省への投資が増加しており、北部ではハナム省やビンフック省、中部ではクアンガイ省への投資件数が増えた。
2018年の大型直接投資では、米中貿易摩擦の影響は顕在せず
米中貿易摩擦を1つの要因として、外国企業の生産拠点としてベトナムへの注目度は増しており、2018年内は生産委託先を中国からベトナムに代える動きが見られた。新規投資の認可額ベースでは、目立った案件はまだ見受けらなかった。実際、2018年の中国からの投資認可件数は前年比31.6%増と大きく伸びたが、認可額は同5.0%増にとどまった。
2019年に入ってからは状況が変わり、中国からの新規投資で大型の製造案件が増加している(2019年6月13日付ビジネス短信参照)。今後は生産委託の面だけでなく、直接投資の面でも、米中貿易摩擦を受けたベトナムへの投資が加速してくるだろう。
- 注:
- コンサル等は、税務、法務、ビジネスコンサル、建築・設計業務、R&D、広告・市場調査などが該当する。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ハノイ事務所
庄 浩充(しょう ひろみつ) - 2010年、ジェトロ入構。海外事務所運営課(2010~2012年)、横浜貿易情報センター(2012~2014年)、ジェトロ・ビエンチャン事務所(ラオス)(2015~2016年)、広報課(2016~2018年)を経て、現職。