広東省新エネ車(NEV)メーカーの競争力強化に向けた取り組み(中国)
淘汰、再編に向かうNEV産業

2019年12月6日

中国では、新エネルギー車(NEV)に対する補助金が2019年6月から大幅に減額され、NEVの販売は7月以降、減速が鮮明となっている。他方で、乗用車メーカーに対して一定台数のNEVの生産または輸入・販売を義務付けるクレジット制度が導入された。今後、NEV業界では淘汰(とうた)、再編が進み、優勝劣敗が顕著になることが予想される中、広東省のNEVメーカーは新たな取り組みを打ち出している。

足元のNEVの販売は減速が鮮明

中国自動車工業協会の11月11日の発表によると、10月のNEVの販売台数は前年同月比45.6%減の7万5,000台と、4カ月連続で前年同月を割り込んだ。うち、電気自動車(EV)が47.3%減の5万9,000台、プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)が38.7%減の1万6,000台となった(表1参照)。

表1:2019年10月までの中国新エネルギー車(NEV)の販売状況(単位:万台、%)(△はマイナス値)
車種 2019年10月 2019年1~10月
販売
台数
前年
同月比
販売
台数
前年
同期比
電気自動車 (EV) 5.9 △47.3 75.0 15.0
プラグイン・ハイブリッド自動車(PHEV) 1.6 △38.7 19.6 △5.7
新エネルギー車(NEV)合計 7.5 △45.6 94.7 10.1

出所:中国自動車工業協会の発表に基づきジェトロ作成

NEVの販売台数が急減している要因について、同協会の許海東・秘書長助理は「6月からNEVに対する補助金が大きく削減され、その影響が予想を上回った。特にここ2カ月(9~10月)の落ち込みは比較的大きく、2019年内の回復は難しい」との見方を示している(「21世紀経済報道」11月12日)。中国政府は、2012 年に策定した「省エネ・新エネ自動車産業発展規画(2012~2020年)」で、2020年までにNEV販売台数を年間200万台にするとの目標を掲げている。また、2017年 4月に発表した「自動車産業中長期発展規画」では、2025 年には自動車生産台数3,500 万台(予測値)の中でNEVの比率を20%(700 万台)に拡大すると計画する。

補助金は終了へ、クレジット制度をさらに推進

NEVの普及に向けたこれまでの具体的な支援策として、NEVの購入税免除や都市でのナンバープレートの規制緩和、補助金の支給などが実施された。政府の補助金制度は2009年に試行都市でスタートし、2015年には対象を全国に広げ、NEVの販売台数に応じた補助金をメーカーに支給してきた(表2参照)。

表2:中国のNEVに対する補助金制度 対象拡大の推移
適用地域の拡大
2009年 北京、上海、重慶など13都市で公共サービス分野を対象に試行
バスのガソリン節約率に対して最大42万元を補助
2010年 北京、上海、深センなど5都市で個人購入のNEVに対象を拡大
2013年 北京周辺地域、長江デルタ、珠江デルタ地域に対象を拡大
2015年 全国に拡大

注:1元=約15円。
出所:各種通達に基づきジェトロ作成

しかし、補助金政策は販売促進に偏り、申請資料偽造などメーカーの補助金不正受給も多発した(2016年10月7日付ビジネス短信参照)。その後、純電動航続距離など補助金支給の基準が年々引き上げられ、2019年3月末から基準が150キロ以上から250キロ以上になった。また、6月末には地方政府の補助金が廃止されたほか、中央政府の補助金も大幅に減額された(表3参照)。2020年には中央政府による補助も終了する予定だ(2019年4月5日付ビジネス短信参照)。

表3:乗用車の純電動航続距離に対する中央政府の補助金支給額(1台当たり)(単位:元、Rは純電動航続距離、単位キロ)(―は値なし)
電気自動車(BEV) プラグイン・ハイブリッド自動車
(PHEV)
80≦R<150 100≦R<150 150≦R<250 R≧250 R≧400 R≧50
2013年 35,000 35,000 50,000 60,000 35,000
2014年 33,250 33,250 47,500 57,000 33,250
2015年 31,500 31,500 45,000 54,000 31,500
2016年 0 25,000 45,000 55,000 30,000
2017年 0 20,000 36,000 44,000 24,000
2018年 0 0 150≦R<200
15,000
200≦R<250
24,000
250≦R<300
34,000
300≦R<400
45,000
50,000 22,000
2019年 0 0 0 250≦R<400
18,000
25,000 10,000

出所:中国財政部、科技部、工業・情報化部、発展改革委員会が発表した関連通達に基づきジェトロ作成

NEV産業の育成を促す政策としては、2017年9月27日に「乗用車企業平均燃費消費量・新エネルギー車自動ポイント並行管理弁法」(以下、管理弁法)を発布し、乗用車企業に対し一定台数のNEV生産または輸入・販売を義務付ける新エネ車クレジット制度を2018年4月に施行し、2019年から導入された(2017年10月16日付地域・分析レポートおよび2017年11月13日付ビジネス短信参照)。2018年末時点で基準値をクリアできたのは、141社中66社にとどまった(2019年7月30日付ビジネス短信参照)。

導入後の初年度である2019年分については、翌年のポイントで挽回できる特例が設けられているが 、解消できない場合は他社から余剰のポイントを購入せざるを得ない。余剰ポイントを売却する企業は、その資金で製造開発や販売促進に注力できる 。

中国政府は今後もクレジット制度をさらに推し進める方針で、9月11日には管理弁法の改正について意見募集稿を発表した。そこでは、乗用車生産台数に占めるNEV比率の引き上げや、クレジットポイントの計算式改定などが盛り込まれている(表4参照)。

表4:クレジット制度の改正案要旨

必要なクレジット (目標値)(注1)
現行 意見徴集案内容
2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
10% 12% 14% 16% 18%
クレジットポイント 計算方法
車種 現行 意見徴集案内容
BEV 0.012 ×(R)+0.8 0.006X(R)+0.4
PHEV 2 1.6
FCV 0.16X(P) 0.08X(P)

注1:乗用車生産台数に占めるNEVの割合。
注2:(R)は純電動方式による航続距離(km)、(P)は燃料電池系統の定格出(kW)、標準型車のクレジット上限は5ポイント。
出所:「乗用車企業の平均燃費と新エネルギー車クレジットの並行管理弁法改正に関する意見募集稿」に基づきジェトロ作成

広東省のNEV企業も競争力強化へ布石

補助金が終了に向かう一方で、クレジット制度のさらなる推進が打ち出される中、今後はNEVメーカーの淘汰が進み、優勝劣敗が顕著になることが予想される。NEV最大手の比亜迪(BYD、本社:広東省深セン市)のほか、広東省のNEV企業も対応を急いでいる。

(1)小鵬汽車:シャオミとの連携を開始

新興NEVメーカーの小鵬汽車(本社:広東省広州市)はIT企業との連携を深化させ、ソフト面の強みを生かそうとしている。同社は2014年に設立、2019年6月にEV「G3」の1万台の量産を達成した。

設立当初から中国のインターネット通販最大手のアリババなどが出資したことで注目を集めたが、11月14日には、スマートフォンメーカーの小米科技(シャオミ、本社:北京市)などからCラウンド融資で4億ドルの出資を受け入れると発表した。

シャオミ創業者の雷軍会長兼最高経営責任者(CEO)は、同日付のプレスリリースで「シャオミと小鵬汽車は、スマートフォンとインテリジェントカーの相互運用で深い提携を行い、多くの成果を挙げてきた。今回の出資を通じて、自動車との融合やモノのインターネット(IoT)分野でさらなる協力が深まることを期待する」と語った。

(2)恒大集団:NEV産業チェーンの構築急ぐ

不動産開発大手の恒大集団(本社:広東省深セン市)の許家印董事長は11月12日、傘下のNEVメーカーが量産1号となる「恒馳1」を2020年上半期に発表し、2021年から量産する発表した。同社は3~5年間で世界最大規模のNEVメーカーとなる目標を掲げ、2019~2021年の3年間で合計450億元(約6,750億円、1元=約15元)をNEVの開発に投じる予定。目標の達成に向けて恒大集団は2019年1月以降、グループ内の企業を通じて積極的に国内外の企業買収や合弁事業を実施。製造技術や販売ネットワーク、充電インフラなど多岐にわたる産業チェーンの構築を急いでいる(表5参照)。

表5:恒大グループのNEV分野買収事例

恒大健康産業集団
分野 概要
完成車
  • 2019年1月、9億3,000万ドルを投じてスウェーデンのEVメーカーNational Electric Vehicle Sweden AB(NEVS)の株式51%を取得した。NEVSは75年の歴史を持つ老舗メーカーSAAB(サーブ)の事業を承継するかたちで2012年に設立され、500人以上の研究開発部隊がNEVの研究開発に取り組んでいる。
  • 2019年1月、買収直後のNEVSを通じ、1億5,000万ユーロでスーパーカーを製造するKoenigsegg Automotiveの親会社の株式を取得。NEVSとKoenigsegg Automotiveはそれぞれ出資比率65%と35%で新エネ車を製造する合弁会社を設立。
動力
  • 2019年1月、傘下の恒大新能源科技を通じ、10億6,000万元で車載三元系リチウムイオン電池メーカーの上海卡耐新能源(セナット)の58%の株式を取得。セナットは、中国自動車技術研究センターと日本のエナックスの合弁によって2010年に設立され、1,500人の技術者を擁し、中国内に4カ所の生産拠点を有する。
  • 2019年3月、傘下の子会社が5億元で湖北泰特機電の株式70%を取得。湖北泰特機電はホイールモーターやハブモーター技術で先進的な技術を有するオランダのe-Tractionの100%株主。
  • 2019年5月、傘下のNEVSを通じて英国のインホイールモーター製造企業Proteanを買収。
恒大集団
分野 概要
販売 2018年9月、144億9,000万元を投じ、第三者割り当て増資と持ち分譲渡により自動車ディーラーの広匯集団の41%の株式を取得。
充電インフラ 2019年6 月、国家電網との折半出資で国網恒大智慧能源服務を設立。登録資本金は1億8,000万元。充電インフラ事業を立ち上げる。

出所:恒大健康産業集団、恒大集団のプレスリリースに基づきジェトロが作成

(3)BYD:トヨタ自動車とEVを共同開発

BYDは日本メーカーとの提携を推進する。同社は7月19日にトヨタ自動車との間でEVの共同開発契約を締結。11月7日には、さらに両社の折半出資による研究開発会社の設立に向けた合弁契約を締結と発表した。EVおよびそのプラットフォーム、関連部品の設計・開発を行う。BYD高級副総裁の廉玉波氏は同日付のプレスリリースで「BYDのEV市場での競争力と開発力、トヨタの品質と安全というそれぞれの会社が持つ強みを融合することで、市場ニーズに合致したEVの可能な限り早いタイミングでの提供を目指す」と語った。

NEV業界で淘汰と再編が進展すれば、結果的には産業全体の技術力の底上げにつながり、ひいてはユーザーへのさらなる普及拡大にも裨益(ひえき)する可能性がある。2020年の補助金終了を目前に控え、今後のNEV産業の動向に引き続き注目したい。

執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
盧 真(ロ シン)
2004年、ジェトロ・広州事務所入所。これまでに総務関係、日本企業の中国進出支援、調査、対日投資、イノベーション促進、経済分析などを担当。