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【中国・潮流】米中経済関係の行方 ‐ 在米有識者へのヒアリングより(2)

2018年3月30日

中国共産党第19回党大会が2017年10月に行われ、習近平政権の2期目がスタートした。中国は、貿易赤字削減を重要課題に掲げるトランプ政権にとって、その赤字の半分を占める国であり、世界第1位と第2位の国の関係は変化が不可避に見える。1月から2月にかけ、ワシントンDCとニューヨークで行った中国経済・政治の専門家へのヒアリングと最近の公開情報を踏まえ、当面の米中経済関係について考えてみた。

日本と環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への期待

ワシントンDCとニューヨークでは、中国の経済的・政治的台頭、つまり米国のTPP協議からの離脱でアジアに生じた空白を中国が「一帯一路」構想などを通じ埋め、国際社会における影響力・権益の拡大を図ろうとしている、といったことが強く意識されていると感じた。

ある専門家はこんな見方を示した。米国のアジアにおけるプレゼンスの低下に加えアジアにおける中国の経済的影響力が増す中、アジア諸国の中国への接近の動きが顕在化しつつある。アジア諸国にとって中国との経済的結びつきは、自国の繁栄のために欠かせない。安全保障面においては米国に然(しか)るべき役割を引き続き担ってほしいというのがアジアの中小国の基本的な考えである。しかし同時にそれらの国々は、それは難しいのではないかとの懸念も抱いており、それが日本やオーストラリアに一層の影響力を発揮してほしいとの期待につながっている。

アジア諸国だけでなく米国にも、日本を評価する声があった。日本がTPPの枠組みの維持に動いていることは高く評価されていた。TPPについては、かつて世界貿易機関(WTO)加盟が外圧として90年代後半の三大改革を後押ししたように、中国がTPP加入を考えるならば中国国内の経済改革推進の梃(てこ)にもなりうるとの見方もあった。他方、米国のTPP離脱や一帯一路構想への注力もあってか、その対抗軸ともいうべき東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に対し中国の関心は低下していると捉えられていた。

中国の対米依存度低下も、あくまでも対中貿易赤字削減を重視する米国

習近平国家主席は2017年4月に訪米し、マールアラーゴでトランプ大統領と初めて会談した。トランプ大統領は、「習主席と私が築いた関係は特別なものだと思っている」と述べたが(注1)、就任以来の貿易赤字削減重視の姿勢に変化はないといってよいだろう。ワシントンでは、2018年は米中の利害の対立が、貿易を中心とした経済面で顕在化するとの声が多かった。

貿易赤字の拡大については、そもそも失業率の低さに象徴されるように米国経済の好調によるものであり赤字を問題視することに疑問を呈するという意見もあった。ムチだけでなくアメを交えた対応が中国に必要との声も聞かれた。また、米国では米通商代表部(USTR)をはじめ多くの高官ポストが空席のままであり、対中通商交渉が本格化した際の米国政府の対応を不安視する向きもあった。全く別の角度から、北朝鮮への対応も米国にとって重要であるため、対中貿易赤字への対応の強弱は北朝鮮に関する中国の対応いかんとの見方もあった。

しかし、2017年も米国の対中貿易赤字が拡大を続けた点を踏まえ、2018~19年にかけトランプ政権は中国に対し赤字削減を具体的に求めていくとの見方が結局のところ多かった。

もっとも、米国の制裁措置の中国経済への影響については、近年中国は輸出依存度が低下し経済が内需型に転換しつつあるとの理由から、以前より小さいとみられていた。データを見ても、中国の名目GDPを100とした場合の対米輸出の規模は2006年の7.4から2017年には3.5と半分以下になっている。この間、輸出総額に占める米国向けの比率は17~21%で比較的安定しているのに対し、GDPと比較した場合の輸出規模は2006年の35から2017年には19に縮小している(図参照)。

図:中国経済と対米輸出
(1)中国のGDPを100とする中国の輸出の規模は、2000年は21、2001年は20、2002年は22、2003年は26、2004年は30、2005年は33、2006年は35、2007年は35、2008年は31、2009年は23、2010年は26、2011年は25、2012年は24、2013年は23、2014年は22、2015年は20、2016年は19、2017年は19。 (2)中国の輸出のうち、米国向けの割合(%)は、2000年は21、2001年は20、2002年は21、2003年は21、2004年は21、2005年は21、2006年は21、2007年は19、2008年は18、2009年は18、2010年は18、2011年は17、2012年は17、2013年は17、2014年は17、2015年は18、2016年は18、2017年は19。 (3)中国のGDPを100とする対米輸出の規模は、2000年は4.3、2001年は4.1、2002年は4.8、2003年は5.6、2004年は6.4、2005年は7.1、2006年は7.4、2007年は6.6、2008年は5.5、2009年は4.3、2010年は4.7、2011年は4.3、2012年は4.1、2013年は3.8、2014年は3.8、2015年は3.7、2016年は3.4、2017年は3.5。
注:
(1)は名目GDP(元)=100とした場合の通関輸出(元)の規模、(2)は輸出総額(米ドル)に占める米国向け(米ドル)の割合、(3)は(1)×(2)で名目GDP=100とした場合の対米輸出の規模を計算したもの。
資料:
CEIC

対抗措置の応酬、予断を許さず

対する中国の動きだが、米国が太陽光パネルと大型洗濯機に対するセーフガードを発動した2018年1月、商務部の定例会見で記者が「米国の一連の行動への対抗措置をとり、貿易戦争に備えているのか」と問うたのに対し高峰報道官は、「中米の貿易摩擦がエスカレートせず、双方が建設的な手段でトラブルを適切に解決し、実務的な協力を推進することを望む」と冷静に答えた。

3月に中国・北京で開かれた全人代(国会に相当)の冒頭、「政府活動報告」で李克強首相は、「中国は、対等な立場での協議による貿易紛争の解決を主張し、保護貿易主義に反対し、自らの合法的な権益を断固として守る」と述べている。

米国は秋に中間選挙を控えており、中国への対応が今後厳しさを増していく可能性は否定できない。米国政府は3月8日、中国を狙い撃ちした措置ではないが、通商拡大法232条に基づき鉄鋼・アルミニウム製品の輸入関税引き上げを発表した(注2)。知的財産権侵害などをめぐり通商法301条に基づく制裁措置も決めた。

これまでのところ中国の反応は冷静だが、それはワシントンの専門家がいうように、経済が内需型に移行しつつある中国にとって米国の措置が慌てる必要のないものであるためか、それとも米国との交渉が可能とみているからか。

中国の王毅外相は、全人代の会期中である3月8日の記者会見で、「米中関係は常に対話と協力を主とすることが賢明かつ現実的選択」との見解を示した。一方で、「貿易戦争を選択することは処方の誤りで、人々に害を与えるだけであり、中国は必ず正当かつ必要な対応をする」とも述べている(注3)。

中国の「正当かつ必要な対応」については対話と協力にとどまることが望ましいが、それは貿易赤字縮小に向けた米国の措置にも左右されるだろう。米国と中国をはじめとする諸外国との間で対抗措置の応酬が繰り広げられることになるのか、予断を許さない。


注1:
Bloomberg 2017年4月8日付「米中首脳、初会談終える-互いを知る機会だったと米側説明」
注2:
その後、3月6日には国家経済会議(NEC)のゲーリー・コーン委員長の辞任が明らかとなった。コーン委員長は鉄鋼・アルミニウムの輸入制限に強く反対していたとされる。(日本経済新聞2018年3月7日「コーン米国家経済会議委員長が辞任へ 通商政策巡り溝」)
注3:
「王毅外務大臣が中国外交政策と対外関係について内外の記者の質問に答える」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 外交部ウェブサイト2018年3月8日
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課長
箱﨑 大(はこざき だい)
都市銀行に入行後、日本経済研究センター、銀行系シンクタンク出向、香港駐在エコノミストを経て、2003年にジェトロ入構。ジェトロ・北京事務所次長(調査担当)を経て、2014年より現職。編著に『2020年の中国と日本企業のビジネス戦略』(2015)、『中国経済最前線―対内・対外投資戦略の実態』(2009)がある。

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