1. サイトトップ
  2. 海外ビジネス情報
  3. 地域・分析レポート
  4. EU節目の2019年、ジェトロ所長が商機とリスクを解説

EU節目の2019年、ジェトロ所長が商機とリスクを解説
西欧最新経済動向セミナー報告

2018年12月27日

ジェトロは11月13日に、「西欧経済動向セミナー」を東京で開催、ジェトロの欧州5事務所長がEUと西欧主要国の最新動向を報告した。英国のEU離脱(ブレグジット)や、米国の鉄鋼・アルミニウム追加関税導入による影響、中国企業の台頭など、西欧諸国が抱えるリスクの現状が報告される一方、発効が待たれる日EU経済連携協定(EPA)や、成長著しい欧州発スタートアップ企業の動向が紹介され、イノベーション創出と日本企業の連携の可能性など動きなどのビジネスチャンスが指摘された。

EU:2019年が節目、自由貿易の旗手としての役割を担う

まず、ブリュッセル事務所の井上博雄所長が登壇、EUの重要政策について解説した。2019年5月に欧州議会選挙が行われ、秋には、欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長、マリオ・ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁、欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長の任期終了を迎えるなど、2019年はEU節目の1年となる。ユンケル体制最後の1年の重点事項として、多国間協調を志向するとともに、テロ対策、気候変動対策などに加えて、ビッグデータ、人工知能(AI)、自動化と標準化における優位性の確立も重要視する。また、移民問題の解決やアフリカ諸国との関係強化なども重視しつつ、米国と中国のプラットフォーム企業(注1)への対抗を念頭に、デジタル課税の導入も視野に入れる。


ブリュッセル事務所の井上博雄所長は、EUの重要政策を解説
(ジェトロ撮影)

対外関係では、独自路線を進む米国と中国の動きを受けて、日本がEUにとって価値観を共有できるパートナーとして存在感を増していることを指摘。日EU・EPAについても重要視しているとした。欧州議会の国際貿易委員会(INTA)は11月5日、日EU・EPAについて勧告案を採択、12月10~14日に予定されている欧州議会本会議で採決、承認されれば、EU側での同協定発効に向けた準備が整うことになる(その後、12月21日に同協定の効力発生に関する日本とEU内の手続きが完了したことを相互に通知。2月1日に発効する。2018年12月25日記事参照)。

そのほかのEUの対外政策でも、特に中国の動きを念頭に置いたものがみられるとする。その1つが、重要技術やインフラなど戦略的部門での企買買収に対して、加盟国やEUが審査を行う制度の導入で、2018年の法案成立を目指している(その後11月20日に暫定合意、2018年11月22日記事参照)。また、EUは中国の国営企業など、国の補助金が多く投入され不当な競争力を得ている製品に対する対抗措置の強化にも取り組む、新たな措置を2018年6月から発動した。具体的には、アンチダンピング税率の引き上げ、迅速な対応措置実施のための調査期間の短縮などが含まれる。このほか、EU域内外の競争環境の公平化を図るべく、EUの公共調達へのEU域外企業の参加条件の見直しと、EU企業のEU域外での公共調達への参加促進を目指していく。

対米関係では、2018年6月1日に、米国がEUに対して鉄鋼、アルミ製品を対象とする追加関税を発動した。この対抗措置として、EUは6月22日に、米国からの鉄鋼や自動二輪車などに対して追加関税を発動、また、7月19日には鉄鋼製品のEUへの輸入に関して暫定的セーフガード措置の適用を開始している。米国が検討中の自動車と自動車部品への追加関税の導入を阻止すべく、2018年7月にはユンケル委員長がトランプ大統領と会談し、米国とEUの通商関係の強化に関する行動声明を発表した。当面は、新たな追加関税の発動は見合わせることで合意した。ただし、その後、北米自由貿易協定(NAFTA)交渉で米国は、メキシコとカナダから有利な条件の引き出しに成功していることから、対EUでもこれまで以上に強気な交渉態度に転じる可能性があることも、井上所長は指摘した。

英国:混迷続くブレグジット交渉がリスク材料に

EU域内で最大のリスクとなっているブレグジットに関しては、ロンドン事務所の藤野琢巳所長が講演した。EUとの離脱交渉は既に95%ほど合意しており、残りは北アイルランドとアイルランド共和国との国境問題のみだが、近々合意する見込みと考えられるとした(その後11月14日に交渉妥結、11月25日の臨時欧州理事会で承認)。ただし、合意された離脱協定案が英国議会で拒否される可能性も残されており、その結果、英国が合意なくEUから離脱する「ノー・ディール」のリスクも残る。藤野所長は日系企業の取るべき対策として、在庫の積み増し、物流ルートの見直し、EU側での販売・物流拠点の設置、英国拠点で雇用しているEU市民の英国在留許可申請支援、などを挙げた。


ロンドン事務所の藤野琢巳所長は、ブレグジットに際して
日系企業が現時点で準備する対策を説明(ジェトロ撮影)

英国の財の貿易では、全体のおよそ5割をEU向けが占める。しかし、その一方で国際化の進展に伴い、英国内ではEU域外の企業による投資なども進んでいたとする。国際情勢の変化から中国・米国との関係が変化を見せる中、英国はブレグジットも念頭に、アフリカ諸国など新興国との関係も重視してきている。英国はOECD加盟国の中で最大の対アフリカ投資国となることをうたっており、テレーザ・メイ首相もアフリカ諸国との関係強化のため足を運んだ。また、日本も、同じ価値観を共有するパートナーとして英国が注目する国となっている。その1つの表れが環太平洋パートナーシップ(TPP)協定への参加をめぐる関心の提示といえるだろう。

ドイツ:政治体制に不安定要素があるも経済は好調

国内政治情勢に揺れるドイツの最新事情については、デュッセルドルフ事務所の渡邊全佳所長が講演した。アンゲラ・メルケル首相は、同氏が率いるキリスト教民主同盟(CDU)と協力関係にある地域政党キリスト教社会同盟(CSU)の州議会選挙での惨敗を受け、CDU党首を辞任することを表明した。一方、首相職は続投する意向を示しているが、政権運営が不安定化することは否めない。2018年12月7~8日にはCDUの党大会が予定されており、新党首が選ばれることになる(その後、12月7日に党幹事長のアンネグレート・クランプカレンバウアー氏が新党首に選出)。

一方、国内経済は緩やかな成長を続ける見込みだ。渡邊所長は、ドイツ経済の強みは地方経済の強さにあると指摘。特に、自動車産業や機械産業、その他多くの産業が集積する南ドイツ地域の経済は活況で、日系企業の進出数も多い。経済成長を需要項目別にみると、個人消費や投資など内需が経済を牽引している。失業率は低下傾向を続けており、個人消費を後押ししている。欧州の日系企業に対してジェトロが実施した調査でも、将来有望な販売先としてドイツが重要視される傾向がみられている。懸念事項としては、失業率の低さから、進出する日系企業にとっては、人材確保が大きな課題として浮上している点が指摘された。

一方、貿易立国ドイツにとって、ブレクジットは大きな関心事項となっている。英国は、ドイツの主力産業である自動車、機械、医薬品などの主要品目における主要な輸出先となっており、対英貿易は大幅な黒字になっている。こうしたことからも、英国との貿易にかかる関税、通関手続きなどはドイツ産業にとって大きな懸念事項だ。将来のEUと英国の関係について「いいとこどり」を許さないスタンスをドイツは崩していないが、合意なき離脱が引き起こす負の影響は大きいため、「落としどころ」を模索する姿勢も見せている。

対中関係については、中国側のドイツに対する関心が非常に高い点を、渡邊所長は指摘した。ドイツも中国市場を重視する点は同じだが、ドイツ側は中国に対し、公正で開かれた市場と対等な競争条件の整備を求めている。中国に対するEU加盟国の距離感の取り方には差異があり、これにより加盟国が分断される恐れもあるとした。

また、新しい流れとして、スタートアップから生まれるイノベーションが、ドイツ大手企業の間で大きな関心事項となっている点を紹介した。従来、被雇用者に対して手厚い社会福祉が導入されていることから、ドイツ人は、起業家精神は控えめであるとされてきたが、ここ数年、有望なスタートアップが生まれているとする。大手ドイツ企業による新しい技術の囲い込みの動きも進んでおり、起業を後押しする。化学大手のBASF、バイエル、自動車のBMWやボッシュ、ドイツ銀行といった大手企業は軒並み、スタートアップの育成、投資といった仕組みを取り入れている。技術やイノベーションの源泉となってるのが大学などの高等教育機関で、特にカールスルーエ、ミュンヘン、アーヘンといった研究水準の高い工科大学から、有望なスタートアップが多く生まれている。


リスクと商機の双方が注目される西欧の最新状況に高い関心が
示され、多くの参加者を集めたセミナー(ジェトロ撮影)

フランス:EU統合の深化に不信、スタートアップの経済牽引に期待

フランスの政治情勢やスタートアップ育成などの最新動向について、パリ事務所の片岡進所長が講演した。EUの救世主として名乗りを上げたエマニュエル・マクロン大統領率いるフランスだが、盤石なはずのマクロン大統領体制にも不安要素が浮上している。富裕層優遇策や地方政府の予算削減などの大都市圏優遇の政策が批判を受けたほか、フランス国民に人気が高い閣僚や古くから親マクロン派であった閣僚の相次ぐ辞任、その後の内閣改造により、支持率がこれまでになく低下した。ただ現状、マクロン大統領に対抗しうる野党勢力が不在の状況だ。また、マクロン大統領が描いていたEUの統合政策もドイツ・メルケル政権の弱体化、イタリアでのポピュリスト政権成立、極右勢力の伸長により、思ったとおりの進捗(しんちょく)は見られていない。EU内での支持を得るため、英国がEUを離脱した後、フランスがEU加盟国唯一の国連安全保障理事会常任理事国となることを踏まえ、その議決権をEUのために活用するなどEUからの支持を集める姿勢を打ち出している。

ブレグジットに関しては、EUの統合深化を命題とするマクロン大統領にとってみると、英国へ有利な条件について譲歩することは、加盟国の離脱の連鎖を引き起こしかねないことから、一貫して妥協をしないスタンスを打ち出しており、英国とEUが何らの合意をせず離脱する場合に対応した、法律の準備も進めている。対米関係では、米国と友好な関係を築いてきたものの、米国のパリ協定をはじめとした国際条約からの離脱に対しては、批判姿勢を強めている。対中政策については、中国市場を魅力的としながらも、引き続き警戒を強めており、同国を念頭に置いたEU企業への投資スクリーニング制度にも賛成の立場を打ち出している。

また、産業育成策としては、2013年から進めているベンチャーエコシステム(注2)形成を支援する取り組みを重視し、手厚い起業家支援の体制を敷き、イノベーション創出の苗床としてのフランスを促進している。フランスの代表的スタートアップカンファレンスで、スタートアップと大企業の出会いの場を提供する「Viva Technology」に、ジェトロは初めてジャパンパビリオンを設置し、参加している。片岡所長は、フランスが強みを持つ分野の筆頭として、人工知能(AI)などのデータ分野を挙げた。フランスはもともと、基礎数学・アルゴリズムの分野で強みがあり、これを背景にAIやデータ解析の分野で国際的に著名な研究機関、大学、研究者の集積があるためだとした。現在、国際的に活躍するAI技術の牽引役としてフランス国籍の人材が活躍している点からも明らかで、これを重視するマクロン大統領は2018年3月に「AI国家戦略」を策定した。特に、米国や中国に対抗できる欧州ワイドの取り組み推進の必要性を提唱している。

イタリア:新政権の運営に注視、日本のソフトパワーに商機

一方、イタリアの最新経済動向については、ミラノ事務所の井出謙太郎所長が講演した。イタリアでは2018年3月の総選挙で、厳しい難民規制を主張する右派政党「同盟(LEGA)」とアンチ既存政党を打ち出す政党「五つ星同盟」が躍進、6月には両党首を副首相とし、法学者のジュゼッペ・コンテ氏を首相とする新政権が誕生した。イタリアの財政を巡っては欧州の不確実性要素として不安視されており、2019年の予算計画案についてはEUが求める財政赤字水準を超えたため、EUが修正を求める事態に陥った。イタリアは、EUに対して強硬姿勢を取っており、予算案を押し切る構えを見せている(その後、イタリアは財政赤字を削減する予算案を提示、12月19日にEUと合意)。

イタリアのEU域外の政策については、前述のフランスよりも域外に接近する政策を取っている。その背景には、低水準な経済成長があるとする。失業率は引き続き高く、中でも南部と北部の格差、また若年層の失業率の高さ(2018年10月の25歳未満の失業率32.5%)が深刻な問題となっている。イタリアは経済回復の突破口をEU域外に見いだしており、中国に関しても、対中輸出、対内投資、両国による第三国協力などに期待している。中国に対して警戒を強める西欧諸国の中では、比較的親中のスタンスを崩していないとした。一方、ロシアに対しても、コンテ首相が、プーチン大統領のイタリア訪問を招請するなど、ロシアにやや接近する姿勢も見られている。

対日関係は、2015年に開催されたミラノ万博以降、経済・ビジネスレベルのみならず、市民・消費者のレベルでもさらに好転しているとする。「日本食」に対する認知度が定着し、本格的な「日本食」から、そうではない日本「風」の食に至るまで、商機は広がっている。また、日本に対する関心もこれまでになく高まっており、訪日イタリア人の数はここ数年右肩上がりとなっている。これにより、日本の持ついわゆる「ソフトパワー」(注3)によって、イタリア消費者への影響力が増していることを、井出所長は指摘した。これは、食品だけでなく、伝統産品やファッション、デザインに至るまで、日本のブランドには、良いものを求める高感度な消費者に対しての訴求効果が近年、高まっているとした。


注1:
商品やサービス・情報を集めた「場」を提供する企業のこと。アマゾンやテンセントなどの企業のことを指す。
注2:
支援機関や企業で構成される起業・事業推進を支援する環境。
注3:
社会の価値観、文化的な存在感、政治体制などが、他国に好感を持って迎えられること。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 欧州ロシアCIS課
福井 崇泰(ふくい たかやす)
2004年、ジェトロ入構。貿易投資相談センター対日ビジネス課、ジェトロ北九州、総務部広報課、ジェトロ・デュッセルドルフ事務所(調査及び海外展開支援担当)等を経て現職。

この情報はお役に立ちましたか?

役立った

役立たなかった

ご質問・お問い合わせ