消費者物価指数の構成品目とウエートを変更(メキシコ)

2018年9月14日

メキシコの国立統計地理情報院(INEGI)は2018年8月23日、消費者物価指数(CPI)の計算に用いる品目と各品目の価格変動が全体の変動に与えるウエートを8月から刷新したことを発表した。従来の品目およびウエートは2010年の全国家計調査(ENIGH)のデータを基準に設定されていたため、今回、その後のメキシコ世帯の消費傾向の変化が反映されたかたちとなる。CPIの変動に及ぼすウエートが最も大きくなったのはレギュラーガソリンであり、エネルギー改革の実現を契機に2017年初にガソリンに対する補助金が大きく削減された影響が表れている。一方で、携帯電話サービスのウエートは通信市場改革による価格低下を反映して下がっており、現政権による構造改革の成果としては明暗が分かれる結果となった。

構成品目が16品目、対象都市も9市増加

INEGIは8月前半(15日間)のCPI上昇率(インフレ率)から、2018年7月後半を基準としたデータを発表するようになった。CPI計算のために用いる小売価格データとしては、これまでの283品目から299品目に対象が増え、データを取得する都市も46都市から55都市に拡大された。また、以前は都市別のデータを発表していたが、8月からは州別のデータも発表するようになった。

CPIを構成する品目として、新規に追加されたのは豆乳、お茶、住宅修理用品など10品目(表1参照)であり、近年の消費スタイルの変化が反映されている。豆乳やお茶などは肥満問題が深刻化していることもあり、国民の健康志向の高まりが家計消費に反映されているとみることもできる。反対に、対象品目から削除されたものとして、長距離国内電話サービスがあるが、これは2014年以降に進められた通信市場改革により、長距離国内電話料金の徴収が禁止され、国内電話料金は全て市内電話と同一料金体系となったことによる(ビジネス短信2015年2月23日記事参照)。

表1:消費者物価指数計算のための品目の変化(―は値なし)
変更 2010年基準 2018年基準
追加 豆乳
お茶
住宅修理用品
電灯
絨毯・その他床用品
家庭用大規模工具・機材
小規模工具・アクセサリー
通学バス
宅配便
ペット用サービス
削除 温水器
長距離国内電話サービス
分離 包装されたチリ、モーレ等ソース 包装されたチリ
モーレ等ソース
チョコレート 液体・飲料用チョコレート
チョコレート・菓子類
砂糖菓子・カスタードクリーム・蜂蜜 チョコレート・菓子類
ゼリー・蜂蜜・マーマレード
その他電気機器 掃除機・その他の家庭用機器
コーヒーメーカー・トースター・扇風機、その他小さな家電機器
パーソナルケア用電気機器
その他の台所用具 ガラス用品、食器類、家庭用器具
使い捨て用品、非耐久用品
自転車・オートバイ オートバイ
自転車
映画、音楽、ビデオゲーム 映画・音楽
電子ゲーム、ゲーム機、ビデオゲームソフト
その他の家庭用繊維製品 シーツ類、その他の家庭用繊維
使い捨て用品、非耐久用品
健康診断・検査 臨床検査
分娩中の医療措置
統合 その他の豆類
えんどう豆
その他の野菜・豆類
扇風機 コーヒーメーカー・トースター・扇風機、その他小さな家電機器
固定電話機 通信端末
市内固定電話サービス
国際長距離電話
固定電話サービス
美容院 美容院・マッサージ
出所:
国立統計地理情報院(INEGI)

食費とガソリンのウエートが上がる

2010年と2018年のCPIを構成する消費分類別ウエートの変化(表2参照)をみると、食品・ノンアルコール飲料のウエートが18.72から25.76へと7ポイント以上も上昇し、エンゲル係数が高まっている状況がみえる。また、交通のウエートが12.71から13.76に上昇しているが、これはレギュラーガソリンのウエートが3.79から5.36へと大きく上昇した影響が大きい。他方、保健医療、娯楽・教養のウエートはわずかに上昇しているものの、教育のウエートが下がっており、国の将来にとっては望ましくない。

表2:消費者物価指数(CPI)の消費分類別ウエートの変化 (単位:ポイント)(△はマイナス値)
分類 基準年 増減
2010年 2018年
食品・ノンアルコール飲料 18.72 25.76 7.05
アルコール飲料・タバコ 2.63 2.69 0.06
衣類・履物 5.46 4.78 △ 0.68
住居・光熱・水道 23.53 19.64 △ 3.89
家具・家事用品 5.19 4.53 △ 0.66
保健医療 2.18 3.08 0.90
交通 12.71 13.76 1.04
通信 3.99 3.13 △ 0.86
娯楽・教養 4.36 4.87 0.52
教育 5.11 3.54 △ 1.57
レストラン・ホテル 9.65 9.52 △ 0.13
その他の財・サービス 6.46 4.69 △ 1.77
階層レベル2の項目 うちパーソナルケア 4.96 3.59 △ 1.37
合計 100.00 100.00 0.00
出所:
表1に同じ

CPIの構成ウエートの増減が大きい具体的な品目(表3参照)をみると、最もウエートが上昇したのはレギュラーガソリンであり、1.57ポイントも上昇している。これは2013年末の憲法改正の後に段階的に実施されたエネルギー改革により、ガソリンに対する補助金が2017年1月に大きく削減され、小売価格が急上昇したことが影響している。また、国内の精製能力不足により、2018年6月時点で国内消費の7割以上を輸入に依存しているため、昨今の国際原油価格の高止まりが輸入ガソリン価格に反映されている影響もある。そのほか、同様に販売価格が自由化された家庭用液化石油ガス(LPG)など他の化石燃料のウエートも上昇している。食品分野では、清涼飲料水や牛肉、ボトルドウォーターのウエートが高くなっている。清涼飲料水については、肥満対策として2014年1月から砂糖含有飲料に1リットル当たり1ペソ(約5.7円)の生産サービス特別税(IEPS)が課税されているが、同課税に消費を効果的に減らす効果はなかったようだ。

表3:CPIの構成ウエートの増減が大きい品目

ウエートが大きくなった上位10品目 (単位:ポイント)
品名 2010年 2018年 増減
レギュラーガソリン 3.79 5.36 1.57
清涼飲料水 1.09 2.06 0.97
軽食堂 3.88 4.58 0.70
家庭用LPG 1.48 2.17 0.69
自動車メンテナンス 0.2 0.66 0.46
ペットフード 0.14 0.56 0.42
牛肉 1.78 2.16 0.38
長距離バス 0.42 0.79 0.37
ボトルドウォーター 0.4 0.73 0.33
トルティージャ 1.54 1.87 0.33
ウエートが小さくなった上位10品目 (単位:ポイント)(△はマイナス値)
品名 2010年 2018年 増減
住宅(持ち家) 14.15 12.01 △ 2.14
電気代 2.81 1.49 △ 1.32
家賃 3.38 2.17 △ 1.21
自動車 2.9 1.9 △ 1.00
携帯電話サービス 2.11 1.28 △ 0.83
乗合バス 1.88 1.23 △ 0.65
レストラン等 3.43 2.83 △ 0.60
家庭サービス(家政婦) 1.4 0.88 △ 0.52
香水・ローション 0.66 0.24 △ 0.42
映画館 0.58 0.18 △ 0.40
出所:
表1に同じ

他方、ウエートが低下した主要品目は、住宅、電気代、家賃、自動車、携帯電話サービスなどである。携帯電話サービスについては2014年以降に進められた通信市場改革に基づき、最大手のアメリカモビル(メキシコ市場では「テルセル(Telcel)」ブランドを展開)が「支配的企業」として認定され、非対称の規制(ドミナント規制)が導入されたことにより競争環境が整備され、携帯電話サービス料金が大きく低下したことが影響している(ビジネス短信2015年12月3日記事参照)。

日本と比べると外食のウエートが非常に高い

メキシコの2018年基準のCPIに占める消費分類別のウエートを、日本(2015年基準)と比較すると表4のとおり。メキシコは途上国であるため、食品・ノンアルコール飲料の占めるウエートが日本と比べるとかなり高い。そのほかにメキシコの方が日本よりもウエートが高い品目として、衣類・履物、家具・家庭用品、交通、教育、外食がある。特に外食のウエートが日本よりも4.06ポイントも高いのが特徴的である。また、パーソナルケア分野の消費のウエートが日本よりも1.01ポイント高く、自分の身の回りに気を配っている様子がうかがえる。

表4:メキシコと日本のCPIにおける分類別ウエート比較 (単位:ポイント)(△はマイナス値)
分類 メキシコ 日本 メキシコ-日本
食品・ノンアルコール飲料 25.76 19.83 5.93
アルコール飲料・タバコ 2.69 1.19 1.50
衣類・履物 4.78 4.12 0.66
住居・光熱・水道 19.64 28.32 △ 8.68
家具・家事用品 4.53 3.48 1.05
保健医療 3.08 4.30 △ 1.22
交通 13.76 10.60 3.16
通信 3.13 4.16 △ 1.03
娯楽・教養 5.12 9.89 △ 4.77
教育 3.54 3.16 0.38
外食 9.27 5.21 4.06
その他の財・サービス 4.69 5.74 △ 1.05
階層レベル2の項目うちパーソナルケア 3.59 2.58 1.01
合計 100.00 100.00 0.00
注:
メキシコは2018年7月基準、日本は2015年基準。
出所:
INEGIデータ及び日本統計局データから作成

他方、日本の方がメキシコよりもウエートが高い消費分類としては、住宅・光熱・水道、保健医療、通信、娯楽・教養が挙げられる。住宅分野の差は、家賃の差が影響している。娯楽・教養は日本の方が4.77ポイントも高い。

CPIを構成する具体的品目のうち、メキシコと日本で上位20品目を比較してみた(表5参照)。日本とメキシコで共通して上位20位以内にランクされる品目のうち、日本がメキシコよりもウエートが大きい品目は、住宅、電気代、家賃、携帯電話サービスであった。他方、メキシコの方がウエートの高い品目は、ガソリン、都市ガス(家庭用LPG)、大学授業料であった。

表5:メキシコと日本のCPI構成ウエートが最も大きい20品目

メキシコ(単位:ポイント)
品名 ウエート
住宅(持ち家の帰属家賃)* 12.01
レギュラーガソリン* 5.36
軽食堂 4.58
レストラン等 2.83
家庭用LPG* 2.17
家賃* 2.17
牛肉 2.16
清涼飲料水 2.06
自動車 1.90
トルティージャ 1.87
鶏肉 1.52
大学授業料* 1.51
牛乳 1.50
電気代* 1.49
ビール 1.33
携帯電話サービス* 1.28
乗り合いバス 1.23
トリプルプレイ(注) 1.09
その他調理された食品 1.08
市内バス 1.03
日本(単位:ポイント)
品名 ウエート
住宅(持ち家の帰属家賃)* 14.99
電気代* 3.56
家賃* 2.61
携帯電話サービス* 2.30
診療代 2.07
ガソリン* 2.06
自動車保険料 1.89
傷害保険料 1.27
都市ガス代* 1.16
宿泊料 1.13
水道料 0.94
大学授業料* 0.90
新聞代 0.88
鉄道運賃(JR) 0.86
固定電話サービス 0.81
普通乗用車A 0.80
インターネット接続料 0.79
携帯電話機 0.77
下水道料 0.73
プロパンガス 0.65
注1:
インターネット、電話、有料テレビのパッケージサービス。
注2:
(*)は、メキシコと日本の間で、ウエートに差のある品目。
出所:
表4に同じ

メキシコでは鉄道が普及していないため、乗り合いバスや市内バスなどのバスが低中所得層の主要交通手段であり、中高所得層の主要交通手段は自家用車である(ガソリンを多く消費する)。他方、日本の場合は都市部における駐車場の不足から、自家用車で通勤する人は中高所得層でも少なく、鉄道が主要な交通手段となっている。両国の上位20品目にはこれらの生活スタイルの違いが表れている。

メキシコのCPIにおけるガソリンのウエートは高く、日本との間で3ポイント以上の差がある。また、ガソリン価格の上昇は、乗り合いバスや市内バスの料金にも反映される。ガソリン価格上昇が国民の消費に与える悪影響を問題視するアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール次期大統領は、ガソリン価格をインフレ率以下に抑えることを公約としており、また、ガソリン輸入を減らすために国内における新製油所の建設と既存製油所の改修を計画している。ガソリン価格抑制の手段としては、国際原油価格や外国為替レートの変動に応じてガソリン消費に課されるIEPSの税率を柔軟に変更することで対応するとしているが、原油価格や為替レートの急変動が起きた場合に、IEPSだけで十分に対応できるかどうかは不透明だ。また、新製油所の建設や既存製油所の改修には多額の投資が必要となるため、十分な財源を確保できるのかが注目されている(地域・分析レポート2018年6月22日付記事ビジネス短信2018年8月1日記事参照)。

なお、INEGIのCPIに関するウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます では多様なデータを入手できる。分野別物価上昇率などの基本的な統計データに加え、CPIを構成する299品目について、実際に計測された具体的な価格データの平均値を、調査都市別にダウンロードする平均価格検索サイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます もあり、同じ品目について都市別の比較をすることが可能だ。物価上昇率の差を地図上で確認できる州別・都市別インフレマップ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (消費分野別のインフレ率も表示可能)もあり、メキシコの物価を調査するには最適なサイトとなっている。

執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所 次長
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部(1998~2002年)、海外調査部中南米課(2002~2006年)、ジェトロ・メキシコ事務所(2006~2012年)、海外調査部米州課(2012~2018年)を経て2018年3月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『FTAガイドブック2014』、共著『世界の医療機器市場』など。