ジェトロ世界貿易投資報告 2025年版

第2章 世界と日本の直接投資
第2節 主要国・地域の産業動向
第1項 戦略的産業の政策・投資動向

近年直接投資が増加する戦略的産業

2020年代に入り、世界各国は経済安全保障や脱炭素、技術覇権の確保を目的として、戦略的産業への公的支援を加速させてきた。中でも、半導体、EV、再生可能エネルギーは、いずれも新型コロナ禍以降、米国のCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)やインフレ削減法(IRA)、EUのグリーンディール産業計画などを通じて、巨額の補助金が投入されてきた。これにより、半導体では主要国・地域において製造拠点の国内回帰とサプライチェーンの再構築が進んでいる。世界全体のEV販売台数は着実に拡大を続けており、中国がその成長を牽引している。中国は、市場規模でも生産能力の面でも中心的な役割を果たしているほか、中国企業による海外投資も加速している。再生可能エネルギーの導入は拡大を続け、2022年以降は、水素や蓄電池、送電網など再生可能エネルギーを効率的・安定的に使用するための投資が増加。本節では、各国の戦略的産業への投資政策とプロジェクト動向について解説する。

主要国・地域による産業支援策は対内直接投資の呼び水にもなっており、特に再生可能エネルギーと半導体分野では大規模投資が相次いでいる。2024年の世界のグリーンフィールド投資総額(発表ベース)を業種別に見ると、再生可能エネルギーが全体の20.7%を占め、半導体が通信に次ぐ第3位で9.5%を占める(本章第1節第1項参照)。

公的支援をベースに投資が活発化しているグリーン、半導体分野に対し、グローバルIT企業による市場主導型の投資が急増しているのがデータセンター分野である。データセンターは主要国・地域による大規模な支援策の対象となることは比較的少なかったが、生成AI(人工知能)の急速な普及が需要を押し上げている。前述の2024年のグリーンフィールド投資総額では、再生可能エネルギーに次ぐ第2位に通信(構成比は12.8%)がランクインしているが、これは主にデータセンター関連プロジェクトが占めている。さらに、データセンター分野は半導体、グリーン分野とも密接に関わり合う。データセンターは先端半導体の最大の需要先であり、半導体産業の成長を下支えするアプリケーションインフラとしての役割を果たしている。また、その莫大な電力消費により、再生可能エネルギーとの接続や冷却効率の改善を軸に、「グリーンデータセンター」への転換が進められている。このように、再生可能エネルギー、データセンター、半導体という3つの分野は相互に需要を生み出し、投資を呼び込む関係にあるといえる。  

特記しない限り、本報告の記述は2025年6月末時点のものである。