ジェトロ世界貿易投資報告 2025年版
第2章 世界と日本の直接投資
第1節 世界の直接投資 第4項 2025年の見通し
2025年の世界の直接投資は、導管国・地域を除くと、2年連続で減少が見込まれる。UNCTADは、2025年初頭には2025年の見通しについて緩やかな成長を予測していたが、同年6月に同予測を下方修正した。追加関税の応酬に伴い、投資家心理の悪化、世界経済や資本市場や貿易の混乱、為替レートの乱高下、金融市場でのボラティリティの上昇が反映された。2025年上半期に実行された、世界のクロスボーダーM&A件数は前年同期比16.3%減の5,294件、1~5月に発表された世界のグリーンフィールド投資件数は18.3%減の6,159件といずれも低い水準であった(図表Ⅱ-23)。
- 注:
-
- クロスボーダーM&Aは実行ベース、グリーンフィールド投資は発表ベース。
- グリーンフィールド投資は2025年第1四半期まで。
- 出所:
- ワークスペース(LSEG)(2025年7月2日時点)および fDi Markets(Financial Times)から作成
世界最大の直接投資受け入れ国である米国では、2025年1月のトランプ政権発足以降、対米投資誘致を強力に推進している。2025年5月のUAE訪問時には、トランプ大統領は在任中の総額12兆ドルの直接投資の誘致目標について言及、海外投資家向けのトップセールスでは、その都度1兆ドルに及ぶ投資プロジェクト誘致を目指しているとも発言した注1。米国政府が高関税を賦課することで、同関税回避に向けて米国国内への投資を促している。また、同盟国・パートナー国の企業による対米投資に対しては、米国第一の投資政策によって、投資実行の迅速化を行うなど、投資に向けた各種のインセンティブを提供する。
ホワイトハウスのウェブサイトには、トランプ政権発足後に発表された巨額の対米投資案件が並ぶ(図表Ⅱ-24)注2。そこにはUAEによる投資額1兆4,000億ドルに及ぶ技術・航空宇宙・エネルギー関連プロジェクトを筆頭に、カタールの技術・製造業プロジェクト(1兆2,000億ドル)、サウジアラビアによる技術・製造業分野の投資案件(6,000億ドル)が上位3件を占めている。それに続いてソフトバンク・オープンAI・オラクルによるAIインフラの「スターゲート」計画(5,000億ドル)やエヌビディアによるAIインフラ案件(5,000億ドル)など、国内外企業による巨額の投資案件が並ぶ。
| 国名・社名 | 投資額(億ドル) | 産業 | 概要 |
|---|---|---|---|
| UAE(外資) | 14,000 | 製造業 | 技術、航空宇宙、エネルギー |
| カタール(外資) | 12,000 | 製造業 | 技術、製造業 |
| サウジアラビア(外資) | 6,000 | 製造業 | 技術、製造業 |
| ソフトバンク、オープンAI、オラクル | 5,000 | 技術 ・AI | AIインフラ(「スターゲート」計画) |
| エヌビディア | 5,000 | 技術 ・AI | AIインフラ、スーパーコンピュータ |
| アップル | 5,000 | 技術 ・AI | 製造業、技術トレーニング |
| マイクロン | 2,000 | 技術 ・AI | 半導体製造、研究開発 |
| IBM | 1,500 | 技術 ・AI | 製造業 |
| 台湾積体電路製造(TSMC) | 1,000 | 製造業 ・産業 | アリゾナ州の半導体製造施設 |
| ジョンソン・エンド・ジョンソン | 550 | 製薬 ・バイオ | 製造業、研究開発、技術 |
| ジェネンテック(ロシュ) | 500 | 製薬 ・バイオ | 製造業、研究開発 |
| ブリストル・マイヤーズ・スクイブ | 400 | 製薬 ・バイオ | 製造業、研究開発、技術 |
| アマゾン | 340 | Eコマース ・クラウド | クラウド部門のAI拡張、データセンター |
| イーライ・リリー・アンド・カンパニー | 270 | 製薬 ・バイオ | 製造能力の拡大 |
| ADQ、エナジー・キャピタル・パートナーズ | 250 | エネルギー ・環境 | データセンター、エネルギーインフラ |
| ノバルティス | 230 | 製薬 ・バイオ | 製造能力の拡大 |
| ヒュンダイ | 210 | 製造業 ・産業 | 製鉄所、その他の投資 |
| ダマック・プロパティーズ | 200 | 不動産開発 | データセンターの拡張 |
| CMA CGM | 200 | 輸送 ・ロジスティクス | 船舶、ロジスティクス |
| ベンチャーグローバル | 180 | エネルギー ・環境 | 輸送設備の拡張 |
| ギリアド・サイエンシズ | 110 | 製薬 ・バイオ | 製造業、研究技術 |
| アッヴィ | 100 | 製薬 ・バイオ | 製造能力の拡大 |
- 注:
- 100億ドル以上の案件のみ。
- 出所:
- ホワイトハウス ウェブサイトから作成
ただし、米国の対内直接投資が額面通りに実行されるか、米国の直接投資額の大幅な増加につながるのか、については疑問視する声もある。ピーターソン国際経済研究所(PIIE)は、2025年の米国の対内直接投資(フロー)は、2024年の3,000億ドルの水準から倍増する可能性は低いが、1,000億ドル増の4,000億ドル近傍へと増加するとの予測を示した注3。関税措置によって、米国で事業を行う外資系企業の事業環境が変化し、従来の原材料調達や海外市場へのアクセスにおける障壁が増えれば、投資の意思決定へマイナスに作用する可能性がある。さらに、米国国内の高い人件費や、大学院生やパートタイム労働者のビザ発給制度の変更やWTOやFTAの批判など、既存の米国の社会システムに対する大幅な変更が、外国企業に投資を足踏みさせうる点も指摘されている。
注記
- 注1
- POLITICO“In states, tariffs aren’t yet producing the surge of foreign investment Trump is promising”(2025年5月18日付)
- 注2
- The White House“The Trump Effect”
- 注3
- ピーターソン国際経済研究所(PIIE)“Trump’s quest for foreign direct investment”(2025年6月13日)
特記しない限り、本報告の記述は2025年6月末時点のものである。
目次
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第1章
世界と日本の経済・貿易 -
第2章
世界と日本の直接投資 -
- 第1節 世界の直接投資
- 世界の直接投資動向
- グローバル企業の投資動向
- グローバルサウス諸国の投資動向
- 2025年の見通し
- 第2節 主要国・地域の産業動向
- 第3節 日本の直接投資と企業動向
- 第1節 世界の直接投資
-
第3章
世界の通商ルール形成の動向
(2025年7月24日)



