米商務省、CHIPSプラス法に基づき米磁石製造企業に5,000万ドル拠出、重要鉱物サプライチェーン確保へ

(米国)

ニューヨーク発

2025年11月05日

米国商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)CHIPSプログラム局は11月3日、米国の希土類(レアアース)磁石製造企業のバルカン・エレメンツに対して、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)に基づき、5,000万ドルを拠出する予備的意向表明書に署名外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしたと発表した。商務省は同社の株式5,000万ドル相当を取得する。

NISTの発表によれば、今回の拠出金は、バルカン・エレメンツによるネオジム鉄ホウ素(NdFeB)磁石の生産設備の購入に充てられる。NdFeB磁石は、半導体製造やロボット、産業用モーター、電気自動車(EV)、ドローン、戦闘機、原子力潜水艦、衛星などに使われることから、商業および防衛分野で重要な素材となっている。同社は今後数年間で最大1万トンのNdFeB磁石材料を製造・加工・生産する計画で、これにより、米国のNdFeB磁石の供給不足が大幅に解消される見込みだという。

さらに、CHIPSプログラムによる5,000万ドルの奨励金に加え、戦争省(国防総省)は、米国内でのNdFeB磁石生産の拡大と米国の重要鉱物サプライチェーン強化を目的に、バルカン・エレメンツと米国のリエレメント・テクノロジーズに対し、7億ドルを条件付きで融資する。バルカン・エレメンツの発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによれば、リエレメント・テクノロジーズは、使用済み磁石、電子廃棄物などを高純度のレアアース酸化物に加工し、バルカン・エレメンツは、これらの酸化物を還元して高純度のレアアース金属にし、レアアース磁石を生産するという提携関係にある。

トランプ政権は、重要鉱物のサプライチェーン強靭(きょうじん)化を進めている。今回の事例以外にも、戦争省によるMPマテリアルズ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますとの提携を通じたレアアース磁石の製造強化(2025年7月15日記事参照)やトリロジー・メタルズ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの重要鉱物資源開発のための投資、エネルギー省によるリチウム・アメリカズ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに対する融資を通じたリチウムの生産拡大(2025年10月6日記事参照)などがある。

そのほか、同盟国・パートナー国との協力に向けた取り組みも進めている。ドナルド・トランプ大統領の10月末のアジア歴訪で、マレーシア、タイ(2025年10月28日記事参照)、日本(2025年10月29日記事参照)と重要鉱物の安定供給で協力する合意文書を結んだ。また、米韓首脳会談後に発表された投資に関するファクトシートでは、リエレメント・テクノロジーズが、韓国のポスコ・インターナショナルとの提携によって、高付加価値モビリティー磁石に特化したレアアースの分離・精製・磁石生産複合施設を米国で設立すると記載されている(2025年10月30日記事参照)。

その背景にあるのが、中国との関係だ。中国はレアアースなどに対する輸出管理を段階的に強化しており、米国では一時、レアアースや磁石などが供給不足に陥った。そのため、10月末に行われた米中首脳会談では、中国側の輸出管理の緩和が争点の1つとなった(2025年11月4日記事参照)。レアアースなどの重要鉱物の安定確保は、サプライチェーンで重要な位置を占める中国との緊張関係が続く状況において、トランプ政権の重要課題の1つとなっている。

(赤平大寿)

(米国)

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