グリア米USTR代表、WTO体制から脱却し、関税措置用いたサプライチェーン再編の必要性訴える論説発表

(米国、世界)

ニューヨーク発

2025年08月12日

米国通商代表部(USTR)のジェミソン・グリア代表はトランプ政権発足200日に当たる8月7日、「なぜわれわれはグローバル秩序を再構築したのか」と題する論説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(注)。論説は、これまでのWTO体制から脱却し、関税措置を用いて市場アクセスやサプライチェーンを再編する必要性を訴えている。USTRは3月に発表した「2025年の通商政策課題と2024年の年次報告」でも、WTO改革の必要性を訴えていた(2025年3月4日記事参照)。

論説ではまず、WTOを基軸とした現在の通商システムの下で、米国は雇用と経済安全保障を喪失する一方、中国が最大の受益者となり、持続不可能な状態にあると不満を述べた。また、これまでのシステムは「公共政策の正当な手段」として関税を用いることを拒否していたと指摘した。その中で、米国は重要な製造業などへの保護を犠牲にし、米国市場への障壁を削減することで、外国の製品やサービスの大量流入を可能にしたと説明している。また、生産拠点の米国外への移転が進んだことで、米国は中国、ベトナム、メキシコなどとの貿易赤字が拡大し、重要なサプライチェーンの敵対国への依存が高まったと述べた。

相互関税発表後に行われた米国と各国・地域との交渉を「トランプ・ラウンド」と称し、米国の貿易相手国は「かつてないほど米国への市場開放を行い、経済的・国家安全保障上の課題で一致した」として、米国は「長年にわたるWTO交渉では達成できなかった多くの市場アクセスを確保した」と評価した。具体的には、インドネシアは米国からの輸入に対する関税を99.3%撤廃(2025年7月23日記事参照)、ベトナムは全ての関税障壁(2025年7月3日記事参照)を撤廃し、韓国は米国の自動車基準を受け入れたと例示した(2025年8月1日記事参照)。EUとの関税措置を巡る合意は(2025年7月29日記事参照)、多国間機関の曖昧な目標ではなく、具体的な国家利益を重視した公平でバランスの取れた内容と評価した。

また、ドナルド・トランプ大統領は、世界最大の消費市場への輸出特権が「強力なアメ」、関税は「恐るべきムチ」であることを認識しているとして、各国・地域との合意を確実に履行するため、必要に応じて関税率を引き上げることもあると述べた。

論説の終盤では、トランプ氏は「関税やその他の経済手段を駆使してサプライチェーンを再編し、製造業を活性化させる能力を示してきた」「広範な関税を導入しているにもかかわらず、インフレ率は抑制されている」とし、「(新たなシステムへの移行)プロセスは必ずしもスムーズではない」としながらも、「米国の産業基盤を強化するためには、強固で断固とした行動が求められている」と述べた。

グリア代表の論説は、これまでのトランプ政権の各国・地域との合意を評価する内容となっている。だが、米国通商専門誌「インサイドUSトレード」(8月7日)は、米国と各国の合意が「具体的に何を要求しているかが明確でない」「詳細が詰められていないことに加え、ホワイトハウスとその交渉相手国は、協定の幾つかの重要な項目について、矛盾した見解を表明しており、このような紛争を解決するために双方が引用できる決定的な文書は存在しない」と指摘している。最も注目されている事例として、「米日合意は半導体、重要鉱物、造船など米国の主要産業への5,500億ドルの対米投資を盛り込んでいるが、両国は当該約束の性質について対立している」として、日米合意(2025年7月28日記事参照)を挙げている。

(注)論説は「ニューヨーク・タイムズ」紙に寄稿された。

(赤平大寿)

(米国、世界)

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