トランプ米政権、EUとの関税合意に関するファクトシート発表

(米国、EU)

ニューヨーク発

2025年07月29日

米国のトランプ政権は7月28日、米国の関税措置を巡るEUとの合意に関して、ファクトシートを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。ジェミソン・グリア通商代表部(USTR)代表も同日、EUとの合意を歓迎する声明を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。ドナルド・トランプ大統領は7月27日、英国スコットランドで欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長と会談し、EUと合意したと明らかにしていた。

ファクトシートで発表した主な合意内容は次のとおり。

  • EUはトランプ氏の任期中の2028年までに、米国に6,000億ドルを投資する。
  • EUは2028年までに、7,500億ドル分の米国のエネルギー産品を購入する。
  • EUは米国と協力し、さまざまな分野で関税を撤廃、あるいは関税割当を設定する。
  • 米国とEUは、特に中小企業にとって負担となる、EUが輸出者に求める非関税障壁の撤廃に取り組む。
  • 米国とEUは、米国産豚肉、乳製品に関する衛生証明書の手続き簡素化など、食品・農業製品の貿易に影響を与える非関税障壁に対処するため、協力する意向がある。
  • 米国とEUは、第三国が「フリーライド」(注1)しないよう、強力な原産地規則を確立する。
  • 米国とEUは、不当なデジタル貿易障壁に対処する。EUはネットワーク使用料を導入または維持しない。米国とEUは、電子送信に対する関税をゼロのまま維持する(注2)。
  • 米国とEUは、経済安全保障の観点から、対内投資・対外投資審査、輸出管理、関税回避などで協力する。
  • 米国とEUは、エネルギーや半導体など重要分野の商業協定が米国からEU市場への輸出拡大につながることを認識する。
  • EUは、米国の軍事装備を大量に購入する。

EUに対する米国の関税率は、1962年通商拡大法232条に基づいて25%の追加関税が課されている自動車・同部品、調査が行われている医薬品や半導体を含め、15%となる。ただし、鉄鋼・アルミニウムは対象外で、50%の追加関税が引き続き課される。なお、ハワード・ラトニック商務長官は半導体に対する調査を2週間以内に終了すると述べている(米国通商専門誌「インサイドUSトレード」7月27日)。今後は、米国側で関税率を変更するため、連邦官報での公示などが必要になる。EU側の関税については、米国から輸出される全ての工業製品の関税を撤廃するとも記載された。

今回の合意内容は、15%の関税率や米国産エネルギーの購入拡大、投資拡大など、7月23日の日米間の合意に近い(2025年7月28日記事参照)。米国の有識者は、主要な貿易相手国との初めての合意となった日米合意の発表後、EUや韓国などは日本との合意に近い内容を目指して交渉を加速するのではないかと指摘していた(2025年7月24日記事参照)。

各国・地域との関税合意が発表されている中、米国はこれら国・地域別の関税率を中長期的に維持するのではないかとの指摘もみられはじめている。こうした状況が続けば、企業は米国に対する事業計画について、これまでの低関税市場から、ほぼ全ての品目に10%超の関税率が課される市場として策定し直す必要性もでてくる。関税率引き上げ期限となる8月1日が迫る中(注3)、米国の主要な貿易相手国の間では、メキシコやカナダ、韓国、インドなどとはいまだ合意が成立していない。足元ではこれらの国との関税率の行方が注目される。

(注1)トランプ政権は迂回輸出を防止するための「積み替え品」への対策を重視している。インドネシアとの共同声明でも、新たな原産地規則の交渉を示唆している(2025年7月23日記事参照)。

(注2)トランプ政権はデジタル貿易障壁の撤廃を重視しており、「米国第一の通商政策」などでも、電子的取引に関税を課されないよう取り組む方針を表明していた(2025年4月7日記事参照)。

(注3)中国との追加関税適用期限は8月12日。7月28日からスウェーデンのストックホルムで両国間の協議が始まっている。

(赤平大寿)

(米国、EU)

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