乳製品の関税割当制度とデジタル関税に懸念表明、米USTR2024年外国貿易障壁報告書(カナダ編)

(米国、カナダ)

調査部米州課

2024年04月05日

米国通商代表部(USTR)は3月29日に発表した「2024年版「外国貿易障壁報告書(NTE)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2024年4月2日記事参照)で、カナダに関しては、(1)貿易協定、(2)輸入政策、(3)貿易の技術的障壁(TBT)・衛生植物検疫(SPS)障壁、(4)知的財産保護、(5)サービス分野の障壁、(6)デジタル貿易の障壁の6項目を取り上げた。

今回の報告書は、前年版と比較して(2023年4月10日記事参照)、デジタル貿易の障壁内のデータローカライゼーションの節が削除され、オンライン配信に関する節が加えられる変化があったが、ページ数は前年度と変わらず5ページだった。

(2)の輸入政策については、前年に続き、乳製品の関税割当制度(TRQ、注1)の運用に関する2023年1月以降の協議の進捗が新たに記載された。米国は2023年1月、乳製品輸入に関するカナダのTRQの運用が協定違反として、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づき、2度目の紛争解決パネル設置を要請したと公表した(2023年2月1日記事参照)。同パネルの最終報告書は2023年11月に公表され、カナダの措置は米国が引用したUSMCAの条項と矛盾しないと判断した(2023年11月29日記事参照)。米国は、「カナダがUSMCAの下で約束した市場アクセスの完全な利益と、カナダのUSMCA義務の完全な順守を確保することに引き続き尽力する」「カナダの乳製品市場への米国の輸出をさらに制限する、カナダの潜在的な行動を引き続き懸念しており、米国の市場アクセスが悪影響を受けないよう、乳製品の関税分類の変更を引き続き注意深く監視していく」としている。

(5)サービス分野の障壁では、視聴覚サービスと、オンライン配信の項目に関し、新たに記載があった。視聴覚サービスに関しては、カナダの法律では、ケーブルテレビおよび家庭向け放送サービスでは、加入者が受信するチャンネルの50%以上がカナダのチャンネルでなければならない。しかし、カナダはUSMCAの「サービスにおける国境を越えた貿易」章の付属文書で、「ホームショッピングに特化した米国の番組サービスが、カナダでの配信を許可されるようにする」ことを約束した。その約束を守るため、カナダは2023年8月に新規則を導入し、カナダのケーブル・衛星放送業者が国境付近で米国の放送局の電波を拾い、米国の放送事業者の同意なしにカナダ全土に再配信することを認めた。

また、オンライン配信に関しては、2023年4月に可決した「オンライン・ストリーミング法」に対し、同法の実施とUSMCAへの影響を注意深く監視していくとしている。

(6)デジタル貿易の障壁については、2022年、2023年に続き、デジタルサービスへの課税を取り上げた。カナダではデジタルサービス税(DST)の導入が審議されており、2022年1月1日にさかのぼって適用されるという方針を示している(2021年12月23日記事参照)。米USTRはこれまでにもカナダのDST導入に対して懸念を表明しており(2022年5月11日記事2022年12月2日記事参照)、2024年末まで新たなDSTまたは類似の措置を課さないことに合意したOECD交渉に参加している140の国・地域に加わるようカナダに求めている(注2)。なお、2023年12月31日時点において、カナダと米国はこの問題について協議中だ。

(注1)輸入国が特定の品目の輸入に関して、一定量までは低い関税率を適用し、その割当枠を超えた輸入には高い関税率を適用する制度。一般的には、輸入国で国際競争上劣位にある品目に導入される。

(注2)カナダ政府は2023年3月28日に発表した2023年度連邦予算案(2023年4月7日記事参照)で、2023年半ばまでにOECDによる国際課税改革のための新枠組みの「第1の柱」を実施する条約に署名できるよう、多国間交渉の完了に向けて取り組んでいるとしている。また、いかなる状況でもカナダ国民の利益が守られるよう、DSTに関する法案を引き続き推進することを表明する一方で、OECDによる新枠組みが適時に実施されれば、DSTが不要となるとしている。

(谷本皓哉)

(米国、カナダ)

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