バイデン米政権、2024年外国貿易障壁報告書を公表、産業界はデジタル貿易・非関税障壁軽視と反発

(米国)

ニューヨーク発

2024年04月02日

米国通商代表部(USTR)は3月29日、2024年版の「外国貿易障壁報告書(NTE)」を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。NTEは、米国企業の輸出や投資に対して障壁となる外国の貿易慣行などについて、主要な国・地域別に示した報告書で、1985年以降毎年公表している。USTRが3月に発表した「2024年の通商政策課題と2023年の年次報告」(2024年3月5日記事参照)と併せて、米国が優先的に取り組む通商課題を示した資料と位置付けられる。

2024年版のNTEPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は59カ国・地域を対象としている(注)。中でも多くのページを割いたのは、中国(44ページ)、EU(29ページ)、湾岸協力理事会(GCC、16ページ)、ロシア(15ページ)、インド(14ページ)、インドネシア(12ページ)、日本(10ページ)などだった。各国・地域について、輸入政策、貿易の技術的障壁(TBT)、衛生植物検疫(SPS)措置、政府調達、知的財産保護、サービス分野の障壁、デジタル貿易障壁、投資障壁、補助金、非競争的慣行、国有企業、労働、環境の主に13の報告対象分野に分けて記載している。

USTRは、最も多くの分量を割いた中国に関して、中国政府主導の資金援助や優遇措置が不公正な競争上の優位性を中国企業に提供していると問題視した。また、こうした行為が市場を大きくゆがめ、特に鉄鋼・アルミや太陽光発電などの分野で中国の過剰な生産能力獲得につながっていると指摘した。財務省のジャネット・イエレン長官は3月27日に演説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、この問題が自身の次回訪中時の重要な論点になるとした上で、「必要な措置を講じるよう、中国側に働きかけるつもりだ」などと述べている。

全体のページ数は前年の466ページから394ページへ大きくボリュームダウンした。USTRのキャサリン・タイ代表はプレスリリースの中で、「各国政府が公共の利益のために規制を講じる主権を有することを尊重する」と述べ、これまでのNTEが取り上げてきたテーマを見直し、市場機会を拡大し得る重要な貿易障壁にスコープを限定したと説明している。特にデジタル貿易に関して、前年までプレスリリース(2023年4月5日記事参照)で明示していた「米国のデジタル製品・サービスの輸出に重大な影響を与える(制限的なデータ)政策に関して(障壁を取り除くために)外国政府に働きかけていく」などの記載が削除されている。

これに対して、産業界は反発している。米国商工会議所は同日発表した声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、USTRがデジタル貿易障壁や非関税障壁を無視していると非難した上で、当該分野の貿易障壁がより深刻なものになり、米国企業が不公正な条件にさらされ得るなどと警告している。デジタル貿易を巡っては、USTRが2023年10月にWTO交渉でルール形成に対する支持を撤回したのに対し(2023年10月30日記事参照)、議会や産業界から賛否両論が巻き起こっていた(2024年2月15日記事3月11日記事参照)。

(注)前年版は64カ国・地域が対象。ただし、前年版は個別に報告していたバーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国について、2024年版は湾岸協力理事会(GCC)の1地域にまとめて報告している。

(葛西泰介)

(米国)

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