USMCA紛争解決パネル、カナダの乳製品関税割当の協定違反認めず

(米国、カナダ)

ニューヨーク発

2023年11月29日

米国通商代表部(USTR)は11月24日、カナダ政府が乳製品輸入に設定している関税割当制度(TRQ)の運用が米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に違反しているとして米国が提訴した案件について、USMCAの紛争解決パネルによる最終報告書を公開外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。パネルは報告書で、カナダのTRQがUSMCAに矛盾しないとの裁定を下し、米国の主張を退けた。

米国は、カナダによるTRQの運用がUSMCAで認められた米国乳製品業者のカナダ市場へのアクセスを不当に阻害していると問題視し、これまでUSMCAの紛争解決パネルの設置を2回要請している。1回目のパネル裁定は米国の主張を認め(2022年1月6日記事参照)、カナダ政府は2022年5月に裁定を反映した運用方針を発表した(2022年5月18日記事参照)。しかし、米国は依然として問題が解決されていないとして、2023年1月に再びパネル設置を要請していた(2023年2月1日記事参照)。

今回、パネルは、カナダのTRQがUSMCAに違反していないことを認めたが、USTRはプレスリリースで、米国の主張の一部に関しては、パネリストの意見が割れたと指摘した。具体的には、カナダがTRQの対象から小売業者や食品サービス業者などを除外していることが協定に違反しているとの主張に対し、3人のパネリストのうち1人が同意したと言及した。

パネルの裁定を受け、USTRのキャサリン・タイ代表は声明で「非常に失望している」と述べ、報告書の結論にかかわらず、カナダによる乳製品の市場アクセスに関する協定の実施状況に引き続き深刻な懸念を抱いていると言明した。また、協定を執行し、米国の農家や輸出業者がUSMCAの恩恵を完全に享受できるよう「あらゆる手段を用いることをちゅうちょしない」と表明した。

全米牛乳生産者連盟(NMPF)のジム・マルハーン会長兼最高経営責任者(CEO)は11月24日の声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、タイ代表とトム・ビルサック農務長官に対し、カナダによる協定順守を確実にするため、利用可能なあらゆる選択肢を検討するよう求めた。米国の乳製品企業や食品小売業者などが加盟する国際乳製品協会(IDFA)のマイケル・ダイクス会長兼CEOは同日の声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、今回の結果を受け「バイデン・ハリス政権には通商政策アジェンダを早急にリセットするよう要請する」とした。ルールに基づく貿易を損なう歪み(のある他国の政策)を解体するために、新たな貿易協定の交渉を進めることが不可欠だと訴えた。

一方、カナダ政府は11月24日、パネルの裁定は「カナダの酪農産業と供給管理システムにとって朗報だ」と歓迎する声明を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。カナダ政府は今後もTRQに基づく供給管理システムを維持・保護していくと表明した。

(甲斐野裕之)

(米国、カナダ)

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