乳製品の関税割当制度やデジタル貿易の障壁にあらためて懸念表明、米USTR2023年外国貿易障壁報告書(カナダ編)

(米国、カナダ)

米州課

2023年04月10日

米国通商代表部(USTR)が3月31日に発表した2023年版「外国貿易障壁報告書(NTE)」(2023年4月5日記事参照)で、カナダについては(1)貿易協定、(2)輸入政策、(3)貿易の技術的障壁(TBT)・衛生植物検疫(SPS)障壁、(4)知的財産保護、(5)サービス分野の障壁(6)デジタル貿易の障壁の6項目を取り上げた。今回の報告書では、前年版から政府調達と投資障壁の2項目を削除し、そのページ数も5ページと、前年版から2ページ減少した。

(2)の輸入政策については、乳製品の関税割当制度(TRQ、注1)の運用に関する2022年4月以降の協議の推移を新たに記載した。米国は2022年5月、カナダの乳製品のTRQ運用に関して、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の紛争解決手続きに基づいて協議を要請した(2022年5月26日記事参照)。米国による協議要請は2020年12月以来2度目で、その理由として、1度目のパネル裁定後にカナダが示した運用変更の方針が「USMCAの義務を順守していないままのため」と、NTEの中であらためて示している。さらに、2022年12月には3度目の協議を要請しており(2022年12月21日記事参照)、NTEでも前年に引き続き「カナダの乳製品市場への米国の輸出をさらに制限するようなカナダ側の潜在的な行動に対し、引き続き懸念を持っている」「米国からの市場アクセスが悪影響を受けないように、乳製品に課される関税の再分類を引き続き注意深く監視していく」としている。

(6)のデジタル貿易の障壁については、データローカライゼーションやデジタルサービスへの課税に関して、新たな記述がみられた。データローカライゼーションについて、カナダではデータ保護に関するケベック州の州法を2021年9月改正し、個人情報の州外への移転を厳格化している。2023年版のNTEでは、同州法の改正によって2022年9月から2年間、個人情報を保護する新たな規定も発効することに触れた上で、「米国はこの州法や、国境を越えたデータの移転に関するそのほかの提案された措置の実施を監視する」としている。

デジタルサービスへの課税では、カナダ政府が導入を決定したデジタルサービス税(DST)を前年に続いて取り上げた。カナダでは2024年1月1日からDSTが課税され、2022年1月1日にさかのぼって適用されるという方針を示している(2021年12月23日記事参照)。USTRはこれまでにもカナダのDST導入に対して懸念を表明しており(2022年5月11日記事2022年12月2日記事参照)、NTEでも「カナダが提案するDSTは、米国企業に直ちに影響を及ぼす遡及(そきゅう)的な税負担の可能性を生じさせている」とし、改めて深刻な懸念を表明している(注2)。

(注1)輸入国が特定の品目の輸入に関して、一定量までは低い関税率を適用し、その割当枠を超えた輸入には高い関税率を適用する制度。一般的には輸入国で国際競争上劣位にある品目に導入される。

(注2)カナダ政府は3月28日に発表した2023年度連邦予算案(2023年4月7日記事参照)で、2023年半ばまでにOECDによる国際課税改革のための新枠組みの「第1の柱」を実施する条約に署名できるよう、多国間交渉の完了に向けて取り組んでいるとしている。また、いかなる状況でもカナダ国民の利益が守られるよう、DSTに関する法案を引き続き推進することを表明する一方で、OECDによる新枠組みが適時に実施されれば、DSTが不要となるとしている。

(滝本慎一郎)

(米国、カナダ)

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