米商務省、海洋毒素の輸出管理を提案、今後は新興技術と基盤的技術を区別しない方針

(米国)

ニューヨーク発

2022年05月24日

米国商務省産業安全保障局(BIS)は5月23日、2018年に成立した輸出管理改革法(ECRA)に基づき、特定の海洋毒素を輸出管理対象に追加する規則案を官報で公示外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。BISは、輸出管理を行う場合の効果的かつ適切な範囲などに関して、6月22日までパブリックコメントを募集する(注1)。

追加対象の海洋毒素は、ブレビトキシン、ゴニオトキシン、ノジュラリン、パリトキシンの4種類となる。BISは、これらの毒素は人体や穀物、環境などに害を与え得る一方、新しい合成手法や機器により毒素の抽出や純化が容易になっており、生物兵器に使用される可能性があるため、輸出管理が必要としている。具体的には、輸出管理規則(EAR)の規制品目リスト(CCL)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、輸出管理分類番号(ECCN)の1C351に当該海洋毒素を加える。EAR上での管理理由は、化学・生物兵器関連拡散防止(CB)と対テロリズム(AT)となる。(注2)。

今後の規則では「新興技術」と「基盤的技術」を区別しない方針

BISは今回の官報で、ECRAの1758条で特定が義務付けられている「新興技術」と「基盤的技術」について、今後の規則策定に当たっては各技術を区別せず、全て「1758条の技術」として表すとの方針を表明した(注3)。BISはこれまでに新興・基盤的技術の特定に向けパブコメを募集したが、両技術の具体的なリストは公表していない(2018年11月22日記事2020年9月1日記事参照)。2021年9月には、商務省高官が、米国連邦議会の諮問委員会である米中経済・安全保障調査委員会(USCC)の公聴会で、新興・基盤的技術について個別のリストを作るのではなく、既存のCCLに追加していくとの方針を示した。こうした状況に対し、USCCは両技術の特定が遅れていることに懸念を示していた(2021年6月9日記事2021年11月26日記事参照)。

官報によると、BISは、新興・基盤的技術のパブコメ募集に対して寄せられた意見や省庁間協議に基づいて、今回の方針を採択した。BISは特に、新興技術と基盤的技術がいつも容易に区別できるとは限らないことを強調し、今回の規則案の対象である海洋毒素についても、毒素自体は基盤的技術であると考えられる一方、毒素の合成や収集は新興技術として評価できるとしている。また、特定の技術を新興または基盤的技術に分類しようとすることで、輸出管理の実施が遅れることがあるとし、今回の方針により輸出管理の迅速な実施が可能になると説明している。

(注1)連邦政府ポータルサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(ドケット番号:BIS-2022-0013)へのオンライン提出もしくは、PublicComments@bis.doc.gov宛てにEメールでの提出(タイトルにRIN 0694-AI21を含める)が可能。

(注2)米国の輸出管理法令の概要・運用などについては、ジェトロ調査レポート「厳格化する米国の輸出管理法令」「続・厳格化する米国の輸出管理法令 留意点と対策」を参照。

(注3)BISは、今回の方針について、2020年2月に施行された外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)に基づく対米外国投資委員会(CFIUS)の審査に関わる「重要技術」(2020年9月18日記事参照)の指定には影響しないとしている。すなわち、今後「1758条の技術」と指定された技術は全て、CFIUSが審査対象とする「重要技術」とみなされる。FIRRMAの概要については、ジェトロ調査レポート「対米外国投資委員会(CFIUS)および2018年外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)に関する報告書」を参照。

(甲斐野裕之)

(米国)

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