米議会の米中調査委員会、米政府による新興・基盤的技術の指定の遅れを指摘

(米国、中国)

ニューヨーク発

2021年06月09日

米国連邦議会の諮問委員会である米中経済・安全保障調査委員会(USCC)は6月1日、2018年8月に成立した輸出管理改革法(ECRA)と外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)が商務省に求めている「新興技術」および「基盤的技術」の指定作業が遅れていると指摘する報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。

ECRAとFIRRMAはいずれも、軍民融合戦略や「中国製造2025」といった政策を進める中国を念頭に、安全保障上、機微な米国の技術が懸念国に流出しないよう、米国の輸出管理および対内直接投資の審査を厳しくしたものだ。その重要な要素として両法は、従来の制度では管理対象に含まれない「新興技術」と「基盤的技術」を管理の対象とし、商務省に対して、これらの対象となる具体的技術の指定を義務付けている。USCCは「未達成の業務:輸出管理と外国投資改革」と題した今回の報告書で、両法の成立から3年近くたつ中で、これら技術の指定作業が進んでいないことを指摘し、その遅れは国家安全保障上のリスクを悪化させ得るとしている。

商務省は、2018年11月に「新興技術」のパブリックコメントの募集を開始し(2018年11月22日記事参照)、2020年8月には「基盤的技術」に関してもコメントの募集を開始した(2020年9月1日記事参照)。いずれもコメント期間は終了しているが、USCCの指摘どおり、両技術の包括的リストはいまだ公表されていない。USCCは、両技術のリストの欠如がもたらす弊害として、FIRRMAの実施主体で、外国企業による米国企業買収の審査を行う対米外国投資委員会(CFIUS)の、潜在的にリスクのある買収案件を審査する能力が損なわれる点を挙げている。ECRAとFIRRMAは連動した法律となっており、ECRAに基づき商務省が指定した「新興技術」と「基盤的技術」がそのまま、CFIUSが審査すべき重要技術に含まれることになっている。

USCCは上記の懸念を挙げた上で、米国議会は輸出管理改革上の遅れを解決するために、次の問いについて検討すべきと提案している。

  • 議会は新興・基盤的技術のリストの選定作業の遅れに関して商務省の監察官と協働すべきか。
  • 新興・基盤的技術のリストの欠如により、CFIUSの動きはどれほど抑制されているか。
  • 新興・基盤的技術の指定のために、商務省内の産官学から成る諮問委員会をどう活用すべきか。
  • 米政府全体に対する脅威に迅速かつ統一的に対応する上で、省庁間の判断はどう調整されるべきか。
  • 商務省が新興・基盤的技術に関するリスクに迅速に対応するには、どのような追加の監督体制が必要か。
  • 商務省は輸出管理を執行する主体として最適なのか。そうでない場合、議会はどう権限を委譲すべきか。

なお、バイデン政権では、新興・基盤的技術の指定を所管する商務省・産業安全保障局(BIS)を統括する次官、次官補はいずれも指名待ちで、代行が務めている状態になっている。

(磯部真一)

(米国、中国)

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