知財の力で挑むグローバル市場:海外展開する日本企業の知財の取り組み模倣品対策でキャラクターの価値を最大化
バンダイの知財戦略に迫る
2025年9月11日
バンダイ(本社・東京都台東区)は、アニメやマンガ、ゲームなどのIP(キャラクターなどの知的財産)をライセンサーの許諾を得て、商品・サービス化する事業を主に展開している。それぞれのキャラクターが登場するアニメの放送時期などに合わせたベストなタイミングで、キャラクターの価値が最大化できるような作品の世界観を生かした商品を取り扱う。さらに、店舗・Eコマースなどの最適な流通を通じて、そのキャラクターの市場性に応じた地域で販売するという「IP軸戦略」を取っている。
同社ではファンの期待を裏切らないようキャラクターの世界観を守り、また、ファンの支持をさらなるIP創出につなげるビジネスサイクルを維持・発展させるため、「模倣品を容認しない」という強い気持ちの下、模倣品対策やブランド保護の活動に日々取り組んでいる。本稿では、バンダイ法務・知的財産部の岡崎高之氏、藤井慎也氏に聞いた同社の知財戦略について紹介する。
人気あるものが模倣される状況変わらず
- 質問:
- バンダイの海外展開の状況は。
- 答え:
- 全世界にビジネスを展開しているが、アジア、特に中国は事業の成長率が高い(図参照)。海外で人気があり、売り上げが成長している商品の代表例としては、「ガンプラ」(注1)が挙げられる。ガンプラは基本的に日本国内で製品の生産を行っており、メード・イン・ジャパン製品のクオリティーの高さと独自のブランド力が強みだ。一方で、模倣品が主に海外で流通しており、継続した対策が必要になっている。
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図:2024年3月期のバンダイナムコグループの北米地域・
アジア地域での売上高推移出所:バンダイ公式ホームページ「強みと戦略」
- 質問:
- 模倣品・海賊版にも変化があるか。
- 答え:
- 近年、グッズの模倣品は3Dプリンターなどの新技術によって模倣が容易になり、業者が市場に参入しやすくなっている。電子商取引(EC)サイトの普及で、いつでもどこでも商品を購入できる時代になったことも、模倣品を増加させている。
- また、摘発を逃れようとする業者がロゴを隠したり、製造拠点を分散したり、SNSのクローズドな集まりで購入者を募ったりと、巧妙化も進んでいる。ただ、人気のあるものが模倣されるという根本は変わっていない。
- 自社の模倣品は出ないだろうと考える企業もあるかもしれないが、人気が出ればどんな商品でも模倣される。今は複製技術が進んでおり、「コピーできない商品はない」時代だ。特に海外市場で販売するのであれば、人気が出る過程で模倣品が発生する可能性は高い。模倣品が出ることを見越した上で、模倣品対策にどれくらい予算をつけるか、どの程度取り組むかが権利者の課題だ。
模倣品業者を摘発するだけでなく、摘発行動をPR
- 質問:
- バンダイが海外の模倣品対策として行っていることは。
- 答え:
- 海外、特に中国の警察・行政機関に相談し、模倣品業者の摘発を行っている。摘発が成功した際には、バンダイのSNSやホームページでリリース文を公開し、ユーザーに周知するとともに、模倣品業者に対しても圧力をかけている。模倣品対策に関する取材にも適宜応じている。
- また、ユーザー向けに模倣品の危険性や見分け方を普及・啓発する動画も作って公開している。単に摘発して終わりではなく、世の中にその活動を周知することも、侵害抑止という観点で同じく重要と考えている。
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バンダイの藤井氏(左)と岡崎氏(右)(ジェトロ撮影) - 質問:
- ECの模倣品対策についても教えてほしい。
- 答え:
- 大手のECサイトで模倣品の削除申請を行っている。手法として、自社でパトロールしてECサイトで直接削除申請を行う場合と、調査会社に定期パトロールと削除申請を委託する場合がある。言語的な難易度や、模倣品抽出の手間を考えて、内製・外注を使い分けている。
- また、ECサイトの模倣品を効率的に探し出せるITシステムの会社とも年間契約しており、当該システムを用いて月数千件の模倣品削除もグローバルに行っている。
- 模倣品工場を簡単に見つけられるわけではないので、入り口としてECサイトで対象国・地域の模倣品状況を調査し、適宜削除を行う。大量に模倣品を出品していたり、削除を繰り返しても何度も出品したりする悪質な模倣品業者に対しては、実地調査も行い、拠点の特定や工場摘発を行う。ECサイトは消費者にとって身近な市場になっているので、ECサイトでの対策を入り口として、さらに上流の販売店・工場対策につなげていくことが有効だ。
模倣品との戦いは持久戦
- 質問:
- 模倣品対策を継続していくこつはあるか。
- 答え:
- 模倣品があるからといって、最初から一気に大量に削除することにこだわると、活動として息切れしやすい。模倣品市場の状況を毎月見つつ、件数を徐々に増やしていくのも有効だろう。大量に削除しても、しばらくたつと復活してくるのが模倣品の実情だ。毎月の目標件数を決めて、市場の変化を見ながらデータも蓄積し、無理なく続けていくことが大事と考えている。
- 企業によっては、1人で知財を管轄されていたり、他業務と兼務している方も多いと思う。知財業務でも権利化・侵害対策のプロセスで仕事のペースが異なり、業務のペース配分を間違えると続かなくなる。模倣品との戦いは持久戦で、効果を期待するなら、長く続けて対策できるようにするべきだ。模倣品市場の調査や分析を続けていくことで、フォーカスすべき対象も絞れる。
- 質問:
- 社内で模倣品を許さないマインドをどのように醸成してきたのか。
- 答え:
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バンダイは、キャラクターや作品の魅力を、商品化を通じて引き出すことを大切にしており、模倣品によってキャラクターや作品の価値が損なわれることに対して、「絶対に容認しない」という共通認識がベースとして醸成されていると感じている。歴史をひも解くと、1990年代に国内で見つかった「たまごっち
」(注2)模倣品への対策がバンダイ知財部門のターニングポイントだった。当初はライセンス部門が顧問弁護士と協力して訴訟を行い、本業の傍らで対策を開始していたが、対策をより専門的にやろうと独立した知財部門が立ち上がった。
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ユーザーや自社ビジネスを守るため、まず「模倣品を許さない」という気持ちを持つことがスタートで、その上で予算や人員などに鑑みて、どれほどのコストを割くことができるのかを検討するのがよい。われわれも予算は有限なため、海外での知的財産権侵害問題の解決を目指す企業の集まりの国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)
など、無料で参加できる団体で他の企業から情報を収集し、他社から費用の安い法律事務所を紹介してもらうなど、なるべく費用のかからないやり方を模索している。
さまざまな他団体とも連携して消費者啓発
- 質問:
- キャラクター商品の模倣品対策で、他のライセンサーの方との連携はあるか。
- 答え:
- 日本商品化権協会(注3)に加盟し、消費者向けイベントの日本商品化権協会ブースで、模倣品サンプルを展示するなどの啓発活動を行っている。また、委員会活動として、他のライセンサーと交流し、模倣品との戦い方をともに研究するなどの活動を行っている。
- 質問:
- 海外消費者向けの啓発も行っているか。
- 答え:
-
海外については、「ALIBABA ANTI-COUNTERFEITING ALLIANCE(AACA)(中国語)
」(注4)に加盟し、アリババ社が主催する消費者向けの模倣品展示イベントに出展するなどの活動をしている。このようなイベントはアリババの削除申請の審査を行う人も来場する可能性があり、削除申請で自社の模倣品を判別してもらう際の真贋(しんがん)判定のポイントを伝えられるというメリットもある。また、模倣品についての注意喚起や摘発レポ―トなど、自社の海外向けSNSなどでの情報発信にも取り組んでいる。
- 海外ではあらゆる国をカバーすることは難しいが、外部団体とも連携して、日本からでもできることから取り組むようにしている。
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バンダイ本社ビル前のたまごっちキャラクター(ジェトロ撮影)
自社商標の不正使用は許さない
- 質問:
- 自社のブランド保護で注力していることは。
- 答え:
- 模倣品対策以外にも、海外での商標の普通名称化には注意を払っている。海外ビジネスの伸長やインバウンドの活性化で世界的に認知が急拡大しているブランドについては、そのブランドを一般名称として誤用されるケースが散見される。ブランド展開の拡大により、これまで登録していなかった分類に商標出願したところ、一般名称であることを理由に拒絶理由通知を受け取った事例もある。
- 希釈化・普通名称化の対策として、自社で適切な権利化と使用をすることはもちろん、バンダイのブランドを一般名称であるかのように不適切な説明・使用がされているウェブサイトや海外の販売店などに対して、そのブランドはバンダイの登録商標と伝え、表記の変更や撤去を求めている。
- 事業部ともコミュニケーションをとり、ブランドの誤った使い方をしている店舗を発見した場合は、情報の共有を徹底してもらっている。常日頃、直接現地代理人とのネットワークを構築しているため、その都度、現地の代理人、あるいは現地販売代理店が対応できるようにしている。
- 質問:
- ほかに、ブランドを守るための活動はどのようなものがあるか。
- 答え:
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海外ではたまごっちではない液晶がついた電子玩具に「たまごっち」の商標が付されて販売されていることや、バンダイとは関係なく勝手に「たまごっち」の名称を使った無許諾アプリが作られたこともある。これらは商標権侵害に当たるため、警告や、悪質なケースでは摘発も行っている。また、「たまごっち」の商標についての正しい知識を啓発するため、公式ウェブサイト
で情報公開もしている。
社外の人との協力で幅広がる知財活動
- 質問:
- 海外展開をする企業に対して、知財活動を行う上でのアドバイスは。
- 答え:
- 知財活動と言われてすぐに思いつくのは、「権利化を漏れなくやる」ということだと思うが、「世の中の認知を変えていくこと」も重要な知財活動だ。バンダイでは模倣品を作ってはいけないと世の中に訴え、特定の企業の商標登録だと正しく認知されていない商標について情報発信している。権利を取得するだけでなく、世間にブランドの存在や価値を正しく認識してもらう活動も知財活動として認識し、力を注ぐことが大切だ。
- こうした活動は事業部による市場のマーケティングや知財部の商標登録、模倣品対策も併せて、社内全体で行う活動で、社外の人とも協力することで仕事の面白み、戦略性も出てくる。実施したことのない人は難しそうだと思うかもしれないが、ブランドの維持・認知拡大はあらゆるビジネスに共通する項目だ。知財部門もその一員として、社内外一丸となって取り組むという気持ちでやると良い。
- また、知財活動では1人で悩まないことが重要だ。弁護士や弁理士のアドバイスも重要だが、事業に対してどう知財を生かせば良いのか、偽物に対してどうアプローチするかなど、同じ悩みを持つ人が他の企業にたくさんいる。協力者を見つけてつながっていくことが大事だ。IIPPFを一例にして、さまざまな団体の活動に参加し、他社と関わって情報収集し、自社なりの活動をアレンジして創り出すことで、効果的な知財活動ができると思う。
- 注1:
- アニメ「機動戦士ガンダム」のシリーズに登場するモビルスーツ(ロボット)のプラモデルの総称。
- 注2:
- 「たまごっち」と呼ばれる生物を育成する電子ゲームで、バンダイが1996年11月に初代を発売した。
- 注3:
- 日本商品化権協会は「商品化権」の確立と、商品化権に対する侵害行為の防止を図り、一般消費者の利益を確保するとともに、文化の発展に寄与することを目的として、1977年に任意団体として設立。2009年からは一般社団法人として活動している。キャラクタービジネスに関するテーマのセミナー開催や、人的交流事業、偽物対策のための啓発活動などを行っている。
- 注4:
- AACAは、中国のテック大手アリババが2017年に立ち上げた知的財産保護連盟。ブランド権利者と法執行機関との連携を通じ、多方面の協力環境を構築しながら、権利者、ECプラットフォームの知的財産権保護を強化することを目的とする。

- 執筆者紹介
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ジェトロ知的資産部知的財産課
泉 高晟(いずみ こうせい) - 2023年、ジェトロ入構。同年から現職。