中堅・中小、サステナビリティ対応で海外に挑む野菜残渣活用ビーガン菓子、米国など海外へ輸出

2025年3月3日

東京バル(本社:茨城県土浦市)は、原材料にこだわった個性豊かなビーガン対応食品を販売し、米国やシンガポールへの輸出を行う。地元の食品加工業者と連携し、廃棄予定だった原材料を再利用することは、地域の食品廃棄物の削減につながり、環境保護への貢献も果たす。同社の筒井宏明社長および筒井玲子共同創業者兼取締役に話を聞いた(2024年10月30日取材)。

「サステナブル」をメインストリームに

茨城県つくば市で飲食店を経営する同社は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う人々の健康への配慮の高まりと、それに伴う消費行動の変化を契機に、ビーガン対応食品の開発に取り組み始めた。同社が扱う商品は全て植物性原料のみで作られるプラントベースで、動物性原材料を使用していない。また、グルテンフリーおよびMSGフリー(注1)にも対応する。消費者のアレルギー、嗜好(しこう)および健康上の懸念などに対し、さまざまな観点から配慮が行われている。当初は経営するレストランの厨房(ちゅうぼう)で商品の開発を行っていた同社は、現在では自社工場で複数種類のビーガン対応食品の製造を行う。

同社が調査したところ、「日本国内では、サステナブルな製品(注2)に対する消費者意識はまだ発展途上で、サステナビリティ対応の有無が商品購入の決定要因にはなりづらい」(筒井宏明社長)と話す。そのため、「現在、国内販売では、健康志向を掲げた『ヘルス&ベネフィット』を商品ブランディングの中心に据え、サステナビリティ対応を前面に押し出した商品設計は行っていない」という。しかし、「商品の購入者が、商品開発の過程にあるサステナブルな取り組みを改めて理解することで、当社のファンとなってくれることもある」と話す。共同創業者兼取締役である筒井玲子氏は、「今後、『サステナブルな商品を市場のメインストリームに持っていくこと』が当社のミッションである」と力強く語る。

茨城名産のサツマイモの「皮」をアップサイクル

同社の商品は、商品自体からは一見想像のつかないユニークな原材料を使用している点で、従来の他のビーガン対応食品と異なるのが特徴だ。例えば、酒粕(さけかす)から製造した粉末チーズや、こんにゃくを原材料としたジャーキーなど、工夫を凝らした製品を「EASY VEGAN」ブランドで、同社は生み出している。筒井宏明社長は、これらの商品を開発した背景について、「一口にビーガン対応食品といっても、商品カテゴリーは幅広く、例えば大豆ミートなどの代替肉は類似製品が多く、当社が独自性を発揮しづらい。また、加工過程で食品添加物が加えられていることも少なくないが、当社としては食品添加物の使用をできるだけ抑えたい」と話す。

同社が商品開発の過程で最も着目をしたのが、地元である茨城県の食品加工業者から排出される加工残渣(ざんさ)だった。加工残渣とは、加工食品を製造する際に排出される食品廃棄物を指し、加工残渣を含む食品メーカーなどの食品関連事業者から排出された食品廃棄物などは全国で1,525万トンに上る(2022年)と報告されている(注3)。茨城県は、サツマイモの農業産出額で国内第1位(2022年、注4)であり、サツマイモを原材料とした干し芋の主要産地である。干し芋の加工過程において、皮の部分は加工残渣の一部となって廃棄されてしまう。しかし、この皮には「ヤラピン」と呼ばれる整腸作用を持つサツマイモ特有の栄養成分が含まれており、「サツマイモ事業者も、加工過程で皮部分を廃棄しなければならないことに、もったいなさを感じていた」(筒井宏明社長)という。

筒井宏明社長は、「加工残渣は野菜の葉や皮が多くを占め、この部分は栄養価が高い」と指摘する。半面、消費者は「食べにくい」または「調理しにくい」と感じている、という。同社が消費者に聞いたところ、「(当社の)消費者の半数程度はそれらの部分の栄養価の高さを認識している」というが、実際には食卓まで届くことは少ない。「栄養があると分かっているのに、捨てられてしまう」という生産者、消費者の両者が抱えるジレンマを克服できる商品があれば、フードロスという社会課題の解決につながる。それに加え、消費者に対しても栄養価が高い食品を摂取する機会も提供できる。そんな思いの下、アップサイクルブランド「KAWAIINE」の芋皮スナックは開発された。自身の子育ての経験の中で、筒井宏明社長・玲子取締役の長女は食が細く、成長に必要な栄養素を少量の食事の中で摂取させることに苦労していた。同じような経験をする消費者にも、栄養価が高い自社の商品が届くことを期待する。


サツマイモ本来の色が生かされた芋皮スナック(東京バル提供)

「皮こそ(栄養価が高くて)いいね」というコンセプトから命名された本ブランドの芋皮スナック「KAWAIINE」は、原材料にサツマイモと米ぬかのみを使用し、添加物不使用で素材本来の味が引き出されるよう工夫が施されている。同ブランドから、地元のオーガニックファームで生産されている青汁の残滓(ざんし)を利用したグラノーラやクラッカー「THIS IS SALAD」も販売されており、健康食品に特化した大手コンビニエンスストア・チェーンや外資系オーガニックスーパーマーケット・チェーンにも商品が並ぶ。

現地の声をもとにローカルにヒットする商品を輸出

同社は、前述のアップサイクル素材を使用した芋皮スナックやグラノーラを中心に、米国、シンガポールへの輸出を行っている。特に、米国では近年、健康への関心が高まり、特に所得水準の高い地域において、オーガニックやビーガン食品の消費量が増えている(ジェトロ「米国向け農林水産物・食品の輸出に関するカントリーレポートPDFファイル(4.3MB)」参照)。同社も、前述のアップサイクル素材を使用した菓子を軸とした輸出戦略を立てる。一方で、海外展開に取り組み始めた当初は試行錯誤の繰り返しだったという。例えば、米国でのグラノーラスナックの販売にあたっては、商品表示を含めパッケージを改良する必要があった。筒井玲子取締役が、実際に米国で類似商品を複数購入し、現地で受け入れられるパッケージのデザインについて研究を重ねた上で完成にたどり着いたという。


同社がデザインした「THIS IS SALAD」のパッケージ(東京バル提供)

商品のマーケティングには、現地のバイヤーや消費者の声は欠かせない、と筒井宏明社長は語る。米国では、「ビーガン」「アップサイクル」「オーガニック」といった要素を意識したサステナブル消費への感度の高い消費者が存在する〔2023年4月19日付地域・分析レポート「ジェトロが消費者座談会、普段使いの製品のサステナビリティーを重視(米国)」および2023年4月19日付地域・分析レポート「自分に合ったサステナブルを求めて(米国)」参照〕。そういった消費者が存在する米国市場で商品をヒットさせたいと意気込む同社にとって、米国人のリアルな意見に耳を傾け、嗜好やトレンドを把握することは、商品のターゲティングや開発を行う上で必要不可欠ということだ。こうした背景も踏まえ、同社はWorld Plant Base Expo(米国)やFancy Food Show(米国)、Mummy’s Market(シンガポール)など、来場者であるバイヤーと直接コミュニケーションの取れる展示会への出展も積極的に行ってきた。

同社の商品を試した米国の消費者の、日本人とは異なる反応や嗜好に驚くことも多かったという。「例えば、同社の商品であるビーガン対応の粉末チーズは、日本ではパスタなどの料理に使用する消費者が多いが、米国ではポップコーンにかけて食べる消費者がいた。グラノーラスナックも、日本では甘いタイプが人気だが、米国では塩味が人気」(筒井宏明社長)という。こうした米国独自の嗜好を理解するために、同社では在米商社を通じて米国のレストランで商品のテスト導入を行い、レストラン経営者の商品に対するレビューを回収する取り組みも行っている。

さまざまな市場で商品が受け入れられるよう、常にバイヤーや消費者の声に耳を傾け、商品開発に取り組んできた同社。2024年度からはジェトロの新輸出大国コンソーシアム事業も利用し、インドネシアやアラブ首長国連邦、オーストラリアへの輸出も見据えるが、「現在は、どの国・地域の市場でもサステナブルな取り組みが大きな価値として認識されるわけではない。特に、輸出を見据えるインドネシアを含む東南アジアでは、欧米に比べるとサステナブル消費についての意識は高くない印象」(筒井宏明社長)と語る。ただ、日本国内では商品購入後に、同社商品がフードロス回避などのサステナビリティを意識した取り組みを行っていることを知り、それを評価し、同社のファンとなってくれる人がいる。同社は、東南アジアなどでもそういったファンを増やすべく、輸出を通してより多くの人々に同社の商品を手に取ってもらい、サステナブルな商品に触れる機会を増やすことにつなげようとしている。栄養価の高い加工残渣を再利用することで、地域の環境と消費者の健康の両面に貢献し、ビーガンやグルテンフリーなど多様な食の選択を提供する同社は、「サステナブルをメインストリームに」という思いを携えて、その取り組みの認知度拡大および販路拡大へと邁進(まいしん)する。


注1:
グルタミン酸ナトリウムのことを指す。旨味(うまみ)成分を加える用途として使用される食品添加物の一種。
注2:
本稿で使う「サステナブル」や「サステナビリティ」は、省資源、脱炭素化やリサイクル可能などの環境負荷の軽減、生物多様性への配慮、社会(人権、ジェンダー、動物福祉など)への配慮など、持続可能な社会に向けた経済活動を指す。
注3:
農林水産省「食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢」(2024年7月時点版)参照。
注4:
茨城県ウェブサイト「令和4年品目別産出額について」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2024年5月31日更新)参照。「かんしょ」はサツマイモの別名。元の統計データは、農林水産省「農業産出額及び生産農業所得」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(生産農業所得統計)より令和4年統計「4-1主要農産物の産出額と構成割合(100位まで)」統計表を参照。
執筆者紹介
ジェトロ企画部国内事務所運営課
小谷田 浩希(こやた ひろき)
2022年、ジェトロ入構。2022年4月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ茨城
永峰 恵介(ながみね けいすけ)
2024年4月から、いばらき中小企業グローバル推進機構よりジェトロに出向。民間研修生としてジェトロ茨城勤務。