特集 主要国・地域の越境EC(電子商取引)
― 日本企業の海外販路拡大に向けて ―

世界主要国・地域では、所得水準(購買意欲)の向上、インターネットやスマートフォン(以下、スマホ)などの普及、EC(電子商取引)および越境ECに関する活用上のさまざまなメリットの存在、関連企業の新規参入、消費者側の関心の高まりから、越境EC市場が拡大傾向にある。高品質な日本商品に対するニーズも総じて高く、日本企業にとって海外での商機拡大につながると考えられる。

ジェトロが海外事務所などのネットワークを活用し、23カ国・地域を対象に実施した調査を基に、日本企業の海外販路拡大に資する越境ECの現状を報告する。

2017年12月20日

ECおよび越境EC市場の大幅な伸びと更なる成長潜在性

主要国・地域の所得水準の上昇、消費市場の拡大、インターネットやスマホの急速な普及などから、数年来、EC市場は大幅な伸び。越境ECに対する関心も高まり、例えば、米国オンラインユーザーで、ECサイトを利用して海外店舗から購入した利用率は1年間で2016年の43%から2017年の47%へ上昇。

一方、小売額全体に占めるECの割合は(世界EC市場の4割を占める)中国でさえ13.8%。香港3.1%、シンガポール2.1%などとまだまだ低く、今後のEC市場の発展に向けた潜在性の高さがうかがえる。

EC市場(香港など)は円滑な取引に向けたインフラ整備段階にあり、市場拡大を後押しする見込み。

日本商品に対する高い関心と売れ筋品目

越境ECでは、日本の良質かつブランド力のある商品に対する関心が高い(例えば、中国では、最近、日本の高付加価値商品[高品質な家庭用繊維製品]も売れている)。

越境ECでの日本の売れ筋品目は、「健康食品、ベビー用品、化粧品、魔法瓶、鍋、温水洗浄便座、収納用具、米びつなど」(中国)、「美容・健康関連(マウスウオッシュ、ヘアマスクなど)。ファッション・美容商品、電子機器なども期待」(マレーシア)、「化粧品、時計、衣類、ベビー用品など」(ベトナム)、「低価格の文房具」(インド)、「スポーツ用品や化粧品、高級バッグなど」(米国)、「アニメグッズ系や、ウィッグ、エクステンションのようなアクセサリー系、お菓子」(メキシコ)、「玩具、生理用品、文房具、美容関係雑貨など、中でもボールペン関連」(ドイツ)など。

※ジェトロが情報収集した「日本から出品可能な主なECサイトおよび販売上位品目」は データ集1.(1)、(2)参照

越境ECに多くのメリット

商品供給側の日本企業も、海外ECサイトへの出品(または、出店)を通じ、(1)取引上の手続き簡素化、(2)自社製品のPR・販売に向けた現地消費者へのアクセスが確保できること、(3)現地進出に比べ低廉なコストで販路拡大が可能となることなど多くのメリットあり。

消費者が越境ECを利用する主な理由は、「『比較的安い価格で商品購入可能』(43%)、『国内に無いユニークな商品が欲しい』(36%)、『好きなブランドや商品が国内で購入不可』(34%)」(米国)など。

越境EC決済方法では、安全な第三者決済(ペイパルなど)やクレジットカードが主流

「国内ECは代金引換が主流だが、越境ECの場合はクレジットカード決済になろう」(ベトナム)

「EC(含越境EC)利用時の主な決済システム利用割合(複数回答)は個人情報伝達の必要がないペイパル(62%)が最も高く、デビットカード(56%)、クレジットカード(51%)、コンビニ決済(30%)、銀行送金(27%)」(メキシコ)。一方、ナイジェリアでは「根強い現金主義を反映し代金引換が中心」。

※ 「越境EC利用の際の主な決済システムの利用割合」についてはデータ集1.(1)、(3)参照。

越境EC拡大に向け必要な事項

海外から商品購入時に消費者が考慮する点は「『関税その他経費を含む合計額が明記されていること』(77%)、『価格が自国通貨で表示されていること』(76%)、『購入する海外店舗の知名度』(74%)」(米国)。

各国・地域で越境ECに取り組む際の課題、日本企業の海外ECサイト出品(出店)時の留意点

中国

  • 競争激しい中国市場においては、日本企業の強みは“ブランド力”と“品質”であり、商品付加価値の高さと、ブランドの知的財産権などの権利保護に留意が必要。
  • 出店・出品時、信頼できる中国側パートナーと連携した中国市場アクセス確保が効率かつ効果的。

台湾

  • パッケージは日本語のままで良いが、ラベルや宣伝用広告などのテキストは台湾の繁体字中国語にする必要あり。また、繁体字中国語は、中国の簡体字と(ニュアンスが)異なるため簡体字中国語の翻訳文をそのまま繁体字中国語に転換して出品するのは避けた方が無難。
  • 消費者は日本製品に対し目が肥えているので、ユニークさよりも品質やサービスが重視。日本企業は、アフターサービスや商品の返品・交換の現地対応策を講じた方が良い。

香港

  • 日本商品出品時の留意点は(1)ブランドの市場浸透度、(2)流行商品になるかどうか、(3)季節商品かどうか、(4)ECサイト直接出店かスーパーマーケット部門卸取引か、(5)輸入・小売販売制度の把握。
  • 販路拡大の際の注意点は、(1)一定の客層確保のため専属代理サイトを指定すること、(2)在庫を確保し、最短での商品配送のため信頼でき経験豊富な物流業者とパートナーシップを構築すること。

シンガポール

  • 新規参入のアマゾンは国内どこでも1~2時間で配送する同国最速サービスで、他社と差別化。
  • 競争激化するシンガポールEC市場に新規参入のためには、単に“日本”を売りにするだけでは不十分で、先行企業との差別化、独自性、価格競争力が不可欠。

タイ

  • 越境ECについて関税や食品医薬品局(FDA)ライセンスの取得関連で、想定以上の関税支払いを要求されるケースや、商品が届かないなどのトラブルが多い。

マレーシア

  • 日本製品は物流コストがかさみ、相対的に価格競争力が低下することが課題。

インドネシア

  • 越境ECでは、「輸入手続き」が一番の課題。
  • (1)消費者に受け入れられる価格帯、(2)電圧やバルブなど海外規格への対応、(3)適正製造規範(GMP)などの国際認証の取得、(4)プロモーション映像など販促素材の用意などが必要。
  • 越境EC流行などで小口貨物が増加したことを理由に、小口貨物輸入通関時の検査方法に関し、運送状ベースでの書類確認に加え現物検査を行う旨、財務大臣令(2016年11月発布)で新たに規定。クーリエ業者にとっては、申告手続きが煩雑化し、輸入通関所要時間が長くなるなど、影響あり。

ベトナム

  • 越境ECでは、税関(手続き)が非常に煩雑。

インド

  • 在庫を持ち決済をする方式でのEC事業への参画は外資規制により制限されている。

米国

  • 越境ECの課題は、越境EC向けのB2C配送サービスや、決済時の送料・関税などを一括支払いする仕組みが確立されていないこと。
  • 日本からの出品に際する留意点として、商品情報をより正確に魅力的に伝えるため、適正な翻訳(自動翻訳エンジンは利用しない)や写真によるアピール、英語でのカスタマーサポートが必要。

メキシコ

  • 日本からの出店に際し、メルカド・リブレは出店者がメキシコ居住であることを求めており、現地進出企業か現地パートナーが必要。リニオ、アマゾンは国際配送が可能で、海外からの出店が可能。

ブラジル

  • 物流システムが脆弱(ぜいじゃく)で、税制が複雑、ECに関する国内規制が十分整備されていないこと。

アラブ首長国連邦(UAE)

  • 多くのサイトはUAE国内からの出品に限られ、国外企業が出品するには国内に代理店が必要。

ナイジェリア

  • 日本の事業者がナイジェリア向けに越境ECサイトで商品を販売するのはハードルがいまだ高い。

※ジェトロが情報収集した主要国・地域の「国内規制」、「小口配送に関する税制や輸入手続き関連制度上のメリットの有無と販売への影響」は、データ集 2. (1)、(2)参照。

各国・地域のEC関連の特筆事項

「中国政府は2017年9月、EC新制度の通関証明書提出などの施行を2018年末まで再延長する旨、発表。これは同証明書取得に必要な書類が準備できないケースの多発や、一部商品に義務付けられる輸入許可書取得に数カ月から1年以上要することなどによる。」、また「注文の8割は携帯経由」(中国)

「“セール・キャンペーン”や“キーワード検索”で探し求められた商品に対する反応が良い。品目数の多いサイトでの滞留時間が長く、“お得感”にこだわるなどの消費行動パターンが特徴。」(香港)

「アリババはウタパオ空港(バンコク郊外)拡張時新設するフリートレードゾーンへの進出を計画。カンボジア、ラオス、ミャンマーなど、周辺諸国に対するECのハブとしての活用を検討。」(タイ)

「既に進出している外資や地元EC事業者との競争がますます加速。」(シンガポール)

「インターネット利用率18~29歳99%、30~49歳96%と若い世代がEC市場拡大後押し」(米国)。

「オンライン販売は拡大しているものの、消費者の多くはオンラインで価格の比較などを行い、実際の購入は実店舗ですることを好む傾向がある。」(カナダ)

「アマゾンによると、日本からの配送はメディアコンテンツ系のみで、その他商品は個別配送が必要(EMS、SALが多い)」、また「“もし出店者が改善すればよりオンライン・ショッピングを行うだろうと思われる点”は、『決済手段の安全性』(91%)、『配送無料』(90%)、『返品保証』(89%)。」(メキシコ)

「不透明で時間のかかる通関手続きや物流インフラの未整備などもあり、米英などのECサイトとナイジェリアの顧客の間に立って代金決済と配送の機能を仲介するECサイトも誕生。」(ナイジェリア)

まとめ

各国・地域における所得水準(購買意欲)の向上、インターネットやスマホなどの普及、ECおよび越境ECに関する活用上のさまざまなメリットの存在、関連企業の新規参入、消費者側の関心の高まりなどから、越境EC市場は拡大傾向にある。

高品質な日本商品に対するニーズも総じて高く、日本企業にとって海外での商機拡大が可能。

日本企業の越境EC促進のためには、各国・地域における越境EC関連の事業環境整備が必要。具体的には、(1)物流・配送システムの改善、(2)決済手段の安全性確保、(3)支払総額が明瞭な決済方法の確立、(4)出店・出品の障害となりうる輸入・小売り販売規則などの見直し、(5)ブランドの知的財産権や情報セキュリティーの確立など。また、各国・地域の市場消費動向はもとより、消費者ニーズや消費行動など特徴を可能な限り把握すること、が必要。

調査概要

23カ国・地域を対象に、日本企業の海外販路拡大に資する越境ECの活用促進に向けた情報収集を実施。内容は、(1)報告書本編(海外でのヒアリング報告など)、(2)データ集(項目別一覧表、別添)にとりまとめた。

情報収集期間:
2017年7月~10月
対象国・地域:
本編は中国、台湾、香港、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、インド、米国、カナダ、メキシコ、ブラジル、ドイツ、アラブ首長国連邦(UAE)、ナイジェリア
データ集は韓国、フィリピン、豪州、英国、フランス、ロシア、南アフリカ共和国を加えた計23カ国・地域。

ジェトロ海外調査部