国家変革を担うGMC構想とは
LDC卒業後のブータン(2)
2026年10月15日
南西アジアの内陸国で、自然との調和と経済成長の両立を目指すブータンでは、ジグミ・ケサル・ナムギャル・ワンチュク国王主導のもと、特別行政地域「ゲレフ・マインドフルネス・シティ(Gelephu Mindfulness City:GMC
)」の建設が進む。ブータン南中部に位置する同行政区は、4,000平方キロメートルの用地のうち80%が自然保護地区となっており、4ギガワットの水力発電プラントを擁するなど、環境に配慮した投資誘致を目指す。本稿では、ゲレフ・マインドフルネス・シティ・オーソリティー(GMCA)でマネージングディレクター(観光担当)を務めるラブセル・ドルジ氏へのインタビューをもとに、GMC構想の全容を紹介する(取材日:2026年3月11日)。

国家変革の「起爆剤」としてのGMC構想
- 質問:
- GMCとは。
- 答え:
- ブータン南部、インドとの国境沿いに位置するゲレフで建設が進む特別行政区だ。GMCは、新都市開発という枠組みを超え、ブータンの将来像そのものを転換させることを目的とした、まさに「国家変革の起爆剤(catalyst)」として設計されたプロジェクトだ。
- GMCには大きく2つの役割がある。1つは、ブータン経済の構造転換を担う中核的役割だ。これまで、ブータンの経済構造は水力発電と観光に依存してきたが、GMCでは外国企業の投資誘致を通じ、高度人材の雇用創出やイノベーションの促進、国際競争力の強化を進め、より多角的で持続可能な成長基盤の構築を目指している。
- もう1つは、 GDPや投資額といった経済指標だけではなく、人々の幸福や精神的充足、文化・環境の保全を重視する発展アプローチだ。GMCでは、国民総幸福(GNH)(注1)の理念を土台に据え、文化や環境、社会との調和を維持しながら、経済発展を段階的に推進していくことを目指す。
- 質問:
- 具体的に、経済発展と文化や環境調和をどのように進めるのか。
- 答え:
- GMCはシンガポールの5倍に相当する約4,000平方キロメートルの用地を有する。しかし、そのうち実際に開発されるのは20%程度にとどまり、80%以上は将来にわたって常に緑地として維持される計画だ。都市設計は、周囲の地形、水系、生態系に寄り添いながら進められており、森林や野生動物の移動回廊を保護しながら、同地域に残る棚田の景観も維持する方針だ。建物は5~6階建ての中層を中心とし、随所にブータンの伝統意匠を取り入れることで、都市全体が地域文化と調和するようにデザインされている。
- GMCは「どこにでもある大都市」を目指しているのではなく、「マインドフル・プロスペリティ(思いやりある繁栄)」という理念を都市の形として表現しようとしている。文化・環境・ガバナンス・経済の4つのバランスを取りながら、地域と国家にもたらされる機会を最大化することが狙いだ。
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GMCの建設が進む地域(GMCA提供) 
GMC完成予想図(GMCA提供) - 質問:
- 特に誘致に力を入れたい産業分野は。
- 答え:
- GMCでは、産業エコシステム(産業を支える連携体制)を形づくるために、8つの重点分野(参考参照)を掲げている。これらはブータンが持つ精神性や自然環境、地政学的な重要性、そしてワンチュク国王のビジョンを踏まえ、国内外の企業や人材が集まりやすいよう設計されたものだ。まず、精神性や仏教文化を軸にした都市づくりを進めるとともに、ヘルス・ウェルネス、教育・研究といった“人の力”を高める分野を強化する。また、ブータンが伝統的に強みを持つ農林業にはスマート農業やカーボンネガティブの視点を取り入れ、持続可能性を高める方針だ。さらに、未来志向の都市を目指すため、スマートシティや再生可能エネルギー、デジタル資産や国際金融といった新産業も重点領域に据えている。地政学的に重要な立地を生かした物流経済圏の形成や、ブータンの主要産業でもある観光・ホスピタリティの高度化も図る。これらの中には、日本との親和性が高い領域もある。都市交通やインフラのほか、防災といった分野は日本が国際的に強みを持つ領域であり、GMCの都市基盤整備に大きな貢献が見込まれる。また、再生可能エネルギー、医療・ウェルネス、高齢化社会への対応、教育・人材育成、そして観光・ホスピタリティなどの分野でも、日本の経験や技術が生かされやすい。GMCと日本の協力が進むことで、双方にとって大きな相乗効果が期待できる。
参考:GMCの投資誘致注力分野
- 精神性/仏教都市
- ヘルス・ウェルネス
- 教育・研究
- 農林業(スマート農業・カーボンネガティブ)
- 再生可能エネルギーおよび環境技術
- 金融・デジタル資産
- 航空、物流経済圏
- 観光・ホスピタリティ
出所:GMCA公表資料等からジェトロ作成
段階的に進むGMC開発構想
GMCの開発は、フェーズ0からフェーズ4までの5段階に分けて進行中だ。フェーズ0では、GMC内での法規制整備、2026年から2030年を予定するフェーズ1では、基礎的なインフラ整備やゲレフ国際空港の完成などが予定されている(表参照)。
| フェーズ | 時期 | 実施内容 |
|---|---|---|
| フェーズ0 | 2025年 |
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| フェーズ1 | 2026~2030年 |
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| フェーズ2および3 | 2030~2044年 |
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| フェーズ4 | 2045年以降 | 中長期的に相当規模の人口を支える能力を備えた「マインドフルネス・シティ」のエコシステムを確立し、活気あふれる地域経済拠点を目指す。 |
出所:GMCA公表資料等からジェトロ作成
- 質問:
- GMCではどのような法制度・規制の仕組みが導入されるのか。
- 答え:
- GMCでは、行政・立法・司法の各分野で高い自治権が認められ、独自の法律や規制、インセンティブを設計することが可能となる。既存のブータン法は自動的には適用されず、GMCに最適化された制度を個別に設計できる点が大きな特徴で、まさに「一国二制度」だ。制度設計にあたっては、シンガポールの商業関連法制のほか、アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)(注2)の金融規制や、国際商事仲裁制度など、各国・地域における先行事例を参考にしている。これらを、ブータンの社会制度や価値観との整合性を考慮しつつ調整を加えたうえで適用する計画だ。こうした制度設計上の柔軟性が、GMCを国際的な事業活動の拠点として位置付ける基盤となっている。
- 質問:
- そのほかの規制やインセンティブに関する策定状況は。
- 答え:
- GMCの開発に向けては、今後数十億ドル規模の投資が必要になると見込まれている。現在は、税制や規制、投資家向けインセンティブなど、都市運営の基盤となる制度をブータン政府とGMCAが共同で設計している段階だ。制度が確定する前のフェーズであるがゆえに、初期参入者が制度設計の議論に関与できる余地があり、将来的なビジネス環境に自らの意見を反映しやすい。日本企業は、品質や信頼性などの観点から世界的にも高い評価を得ており、ぜひGMCの制度設計の議論に加わってもらいたい。
- 質問:
- ブータンでは、若者の人材流出が顕著だが、人材採用に影響はあるか。
- 答え:
- GMC建設により、若者が再びブータン国内に戻り、将来を描ける環境が整うだろう。ブータンでは、教育や医療が無償で提供されており、社会基盤が強固だ。また、最近では海外で経験を積んだ若者がGMCで働くために帰国し、そのスキルを生かして活躍し始めている。GMCでは、こうした海外経験のある人材がキャリアを築ける産業や環境が徐々に整備されており、国内人材の循環を生み出す動きがみられる。GMCは元々社会問題の解決を目的にしたプロジェクトではないが、結果として若者の雇用や人材還流に対して前向きな影響をもたらすことが期待できる。
- 質問:
- 周辺国・地域との接続性は。
- 答え:
- GMCが建設されるゲレフは、インド・アッサム州と国境を接する場所に位置しており、元々地域連結性の要衝としてのポテンシャルがある。アッサム州では、インドの大手財閥タタ・グループによる半導体製造をはじめとした複数の生産拠点の設置が進展しており、こうした周辺地域の産業基盤は、GMCとの経済的なつながりをさらに強化する要素となるだろう。インフラでは、現在、インドとブータンを結ぶコクラジャル=ゲレフ鉄道の整備が進められているほか、3,000メートル規模の滑走路を備えたゲレフ国際空港が2029年12月の完成を予定している。これらの交通インフラが整うことで、人や貨物の移動が格段に効率化され、GMCは南アジアにおける貿易・物流・観光の新たなハブとして発展する可能性が高い。
40年間の友好を背景に、日本への強い期待
- 質問:
- 今後、日本に期待することは。
- 答え:
- 2026年は、日本とブータンの外交関係樹立40周年の節目にあたる。両国はこれまで、信頼と相互尊重を基盤に長期的な関係を築いており、日本は開発協力などを通じてブータンを支えてきた信頼できるパートナーだ。こうした背景を踏まえ、GMCでは都市計画、インフラ、観光、教育といった幅広い分野で、日本との協力の可能性がある。いずれの分野でも、日本は実績と専門性を有しており、GMCの発展過程で双方の強みが掛け合わさることで相乗効果が生まれるだろう。個人的にも、日本文化へは強い親しみを持っており、今後の連携に大きな期待を寄せている。
LDC卒業後のブータン
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- 執筆者紹介
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ジェトロ企画部企画課海外地域戦略班(南西アジア担当)プロジェクト・マネージャー
原 悠伸(はら はるのぶ) - 2022年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課、イノベーション部ビジネスデベロップメント課を経て、2024年2月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ浜松 係長
深津 佑野(ふかつ ゆうの) - 2022年、ジェトロ入構。調査部アジア大洋州課(インド担当)を経て、2026年8月から現職。





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