ミャンマーで政変後初の総選挙開催、軍系政党が過半数獲得
2026年2月12日
2025年12月末から2026年1月にかけて、ミャンマーで総選挙が実施された(注1)。本稿は、2021年に発生した政変から選挙に至る間の経済情勢、今回の選挙の概要と結果、選挙に対する国際社会の対応や反応などについてまとめたものである(詳細はビジネス短信特集:国軍による権力掌握後のミャンマー情勢参照)。
政変後、経済環境は悪化
ミャンマーでは、2021年2月1日、2020年に実施された選挙に不正があったとして、軍による政変が発生した。同日に非常事態宣言が発令されて以降、軍政が敷かれていた(注2)。政変後、欧米諸国は経済制裁を実施し、日本は新規のODA供与を停止した。また、外国直接投資も政変以降は低迷している(図参照)。さらに、新型コロナウイルスの影響で外国人観光客数は回復せず、観光による外貨収入も減少した。その結果、国内の外貨不足が深刻となり、2022年4月には輸出で得た外貨収入を1営業日以内に現地通貨に両替することを義務付ける強制兌換(だかん)制度が導入された(注3)。同年10月には、金融活動作業部会(FATF)の行動要請の対象国リストに入った(2022年10月27日付ビジネス短信参照)。また、政変以降、自国に見切りをつけたホワイトカラーの国外流出に加え、2024年4月に施行された徴兵制はホワイトカラー以外の労働者の国外流出も加速させ、国内の労働者不足が深刻化している。
注1:ティラワ経済特区は除く。
注2:2018~2020年度は10月~翌9月、2021年度は10月~翌3月、2022年度以降は4月~翌3月。
出所:ミャンマー投資企業管理局(DICA)
政変後初の総選挙実施、軍系政党の圧勝
非常事態宣言は2025年7月31日に解除された。憲法で「非常事態宣言の解除から6カ月以内に総選挙を実施する」と定められていることから、今回の選挙が実施された(2025年8月1日付ビジネス短信参照)。2021年2月1日の非常事態宣言から選挙実施まで、約5年の月日が経過していた。
今回の総選挙は治安対策や選挙体制整備の事情により地区を分けて、3回にわたって投票が実施された。1回目の投票は2025年12月28日にミャンマー各地の102地区で実施された。後日、連邦選挙管理委員会が発表した投票率は52.13%であった。2回目は2026年1月11日に100地区で、3回目は2026年1月25日に63地区で実施された。速報ベースでは、3回とも地方部で少数民族政党が議席を獲得しているものの、軍系政党である連邦団結発展党(USDP)が下院231議席、上院108議席の合計339議席を獲得し、過半数(294議席)を上回ったと報道されている。なお、今回の選挙は全土で実施されたわけではなく、治安上の理由から選挙が実施できなかった地区が20%近く残っている。
今回の選挙では、インド製の電子投票システムが初めて導入された。1回目の投票時に、首都ネピドーの投票所を視察した関係者によると、有権者名簿と投票者の照合に時間を要し、また慣れない電子投票制度のため、長い行列ができたということだった。投票までに1時間以上を要している様子もみられたが大きな混乱はなかった模様だ。
国際社会の対応・反応は分かれる
今回の選挙に対する国際社会の対応や反応はさまざまだ。国として選挙監視団を派遣したのは、中国、ロシア、ベラルーシ、カンボジア、インドネシア、ベトナム、ニカラグア、ネパールなど数カ国にとどまった。このうち、ロシア、中国、カザフスタン、ベラルーシの選挙監視団はミンアウンフライン国軍司令官による歓迎を受けたことがミャンマー国営紙で報道されている。
ASEANは政変後の2021年4月、同国軍司令官出席のもと首脳級会合を開催し、ミャンマー情勢に関する5つの合意事項を定めた。具体的には(1)暴力行為の即時停止、(2)関係者間での建設的な対話の実施、(3)ASEAN議長の特使による対話プロセスの仲介、(4)人道支援、(5)特使が全ての関係者と面談すること、だ。
2026年1月28~29日に開催されたASEAN外相非公式会合では、ミャンマー情勢について「いかなる意味のある政治的進展も、暴力の停止および関係者による包摂的な対話が可能となるような平和・安全・包摂性の担保された環境のもとで初めて可能となる」との声明が発表された。また、5つの合意事項に基づきミャンマーの危機対応を進めていくことをあらためて確認したことにも言及された。ミャンマー特使を務める、議長国フィリピンのマリア・テレサ・ラザロ外相は会合後の記者会見で「現時点で、ASEANはミャンマーの選挙を承認していない」と明言した。
日本政府は2026年1月30日、アウン・サン・スー・チー氏を含む拘束者の解放や対話など、国際社会が求めてきた政治的進展への取り組みが選挙実施に至るまでに実現されなかったことに遺憾の意を示す外務大臣談話を発表した。同談話では、政治的進展に向けた動きや、それに続く民主的体制の回復に向けたプロセスを注視していくこと、また、空爆を含む暴力の停止や被拘束者の解放などに向けた働きかけを強化していくことも述べられた。
新政権動向に注目
一部地区で投票を実施できないという条件下でも選挙を実施した背景には、ミャンマーの置かれた厳しい環境がある。政変と並行して発生した現政権と民主派との武装闘争や、国境周辺を中心とした少数民族武装勢力との紛争は拡大しており、収束の兆しは見えていない。また、国境周辺での公権力の空白は非合法組織の活動を助長し、こうした犯罪集団の問題は中国、タイ、インドなど周辺国を巻き込む大きな国際問題にも発展している。
現政権は、選挙の実施によって国際社会へ復帰でき、現在直面しているさまざまな問題の解決の糸口を見い出せると考えているようだ。実際に、ミンアウンフライン国軍最高司令官は2026年1月1日、今回の選挙によって民主主義国家を再構築できると述べている。
選挙に伴う政党登録で、政変前までの政権与党であった国民民主連盟(NLD)は政党登録が抹消され今回の選挙には参加できていない。投票した人々も、投票しないことで受けかねない不利益の可能性を示唆するコメントを残している。このような状況から今回の選挙を正当なものとみなさないとする意見が国内外に数多く存在する。選挙実施だけでは国際社会から復帰の承認を得ることは難しい。国際社会への復帰を判断するためには、選挙によって誕生する新政権の行動を注意深く見ていく必要があるだろう。
- 注1:
-
ミャンマーの議会は上院〔(小選挙区+比例代表制)定数224(公選168、国軍任命56)〕、 下院〔(小選挙区制)定数440(公選330、国軍任命110)〕 で構成され、このうち公選議席について争われた。一部の選挙区では、地域・州議会選挙も同時に実施された。
- 注2:
-
2025年7月31日の非常事態宣言解除以降は、国家治安平和委員会(SSPC)による暫定的な統治に移行。
- 注3:
-
執筆時点(2026年2月2日時点)では、企業が輸出で得た外貨収入の15%について1営業日以内に現地通貨に両替することが義務付けられている(2026年1月14日付ビジネス短信参照)。
- 執筆者紹介
- ジェトロ調査部アジア大洋州課




閉じる





