日系生保の商機、ICICIプルデンシャルが語るインド生保市場

2026年9月3日

インドの生命保険(以下、生保)市場は、長年にわたり国営のライフ・インシュランス・コーポレーション・オブ・インディア(以下、LIC)が中心であったが、2000年のインド保険規制開発局(IRDAI)の設立や外資系を含む民間企業の参入を契機に、市場構造は大きく変化した。過去10年で、民間生保会社の市場シェアは、2015年度(2015年4月~2016年3月)の27.4%から2024年度には44.8%へと約1.6倍に拡大し、LIC一強の時代から競争の激しい時代へと移行しつつある。さらに2025年度は、物品・サービス税(GST)の制度改革や保険業の外資出資比率の上限を100%へ引き上げるなど、インド生保業界を取り巻く環境変化が加速しており、新たな成長局面を迎えている。こうした中、成長機会を取り込むためには、商品力だけでなく銀行や代理店といった販売チャネルを生かすための有力パートナーとの連携が競争力を左右する要素となっている。

本稿では、インドの大手民間生保会社ICICIプルデンシャル生命保険(以下、ICICI)(注1)のビジネスヘッドであるラクシャク・マルホトラ氏、IR(Investor Relations)担当部バイスプレジデントのスウェタ・シャルマ氏、同部シニアマネージャーのシュレニック・シャー氏にヒアリングを実施した。地場企業から見るインド保険市場の特徴や日系生保会社のビジネス機会について述べていく(取材日:2026年6月30日)。


ICICIプルデンシャル生命保険の企業ロゴ(同社提供)

インド生保市場を牽引する民間生保会社

ICICIは、地場大手のICICI銀行と英国の大手プルデンシャル・コーポレーション・ホールディングス・リミテッド(PCHL)の合弁会社として設立され、2000年度に事業を開始した。2016年度には、インドの保険会社として初めて国立証券取引所(NSE)およびボンベイ証券取引所(BSE)に上場した。同社によると、インド国内の保障対象者数は、2025年度時点で個人と法人を含む合計7,373万人を有しており、インド有数の生命保険会社として確固たる地位を築いている。

図1はICICIの保険料収入総額の推移を示している。過去10年で2倍以上に増加しており、インド生保市場の成長とともにその規模は拡大し続けている。また、表1は2024年度のLICおよび民間生保会社上位10社の保険料収入総額を示している。ICICIは26社ある民間生保の中で3位に位置しており、高い競争力を有していることがうかがえる。

図1:ICICIの保険料収入総額の推移(注)
ICICIの保険料収入総額の推移。2016年度2,235億ルピー、2017年度2,707億ルピー、2018年度3,093億ルピー、2019年度3,343億ルピー、2020年度3,573億ルピー、2021年度3,746億ルピー、2022年度3,993億ルピー、2023年度4,324億ルピー、2024年度4,895億ルピー、2025年度5,312億ルピー。

注:2025年度はICICIの社外公表資料の数値。
出所:IRDAI「Hand Book on Insurance Statistics 2024-2025」、ICICIの公表資料を基にジェトロ作成

表1:2024年度保険料収入総額(LIC、民間生保上位10社)(単位:10億ルピー)
項目 2024年度
保険料収入総額
LIC(国営) 4,888.5
民間生保会社(計26社) 3,969.2
SBI 849.8
HDFC 710.4
ICICIプルデンシャル 489.5
アクシス・マックスライフ 332.2
タタAIA 314.8
バジャジ・アリアンツ 271.6
アディティア・ビルラ・サンライフ 206.4
コタック・マヒンドラ 183.8
PNBメットライフ 117.5
スター・ユニオン・第一ライフ 82.6

出所:IRDAI「Hand Book on Insurance Statistics 2024-2025」を基にジェトロ作成

税制改革を追い風に保障性商品の需要が拡大

ICICIによれば、2025年度は税制改革がインドの生保市場全体に好機をもたらした1年であったという。特に、死亡や重度疾病などのリスクに備える「保障性商品」の需要拡大が顕著であり、ICICIもその恩恵を受けた会社の一つだ。表2はICICIの2025年度の新契約年換算保険料(APE)(注2)を示している。全体のAPEは1,064億1,000万ルピー(約1,808億9,700万円、1ルピー=1.7円)と前年度比2.2%増にとどまった一方、個人向けの保障性商品は79億1,000万ルピーで、前年度比32.3%増の大幅な成長を記録した。

表2:ICICI 2025年度新契約年換算保険料(注)(単位:10億ルピー、%)(△はマイナス値)
項目 2025年度 2024年度
金額 前年比 金額
全体 106.41 + 2.2 104.00
貯蓄性商品 87.35 △ 0.4 87.69
保障性商品(個人) 7.91 + 32.3 5.98
保障性商品(企業) 11.14 + 7.1 10.40

出所:ICICIの社外公表資料を基にジェトロ作成

その背景には、GSTの税制改革がある(2025年9月25日付ビジネス短信参照)。GSTとは日本の消費税に相当するインドの間接税であり、商品やサービスの購入者が負担し、販売者が代金とともに徴収して政府へ納付する仕組みだ。表3は保険商品別のGST課税率を示している。旧制度では、個人向けの生命保険・医療保険には18%のGSTが課されていたが、2025年9月の制度改正により非課税(0%)とされた。この改正によって、保険加入者の保険料負担が軽減され、保障性商品の需要が高まり、販売拡大につながったという。実際に、制度改正後の2025年度下半期の個人向け保障性商品のAPEは、前年同期比50.9%増と大幅に伸びた。一方、企業向けの団体保険については、今回の制度改正の対象外であり、引き続き18%のGSTが課されている。

表3:保険商品別のGST課税率注1:「保障」と「投資」の2つの機能を併せ持つハイブリッド型商品。保険料の一部を保障に、残りは投資信託型ファンドに割り当てられる。 注2:保険期間中に亡くなった場合は死亡保険金が支払われ、満期を迎えた場合は生存給付金を受け取れる保険。
保険商品 旧制度
(2025年9月21日まで)
新制度
(2025年9月22日以降)
定期保険(保障性) 保険料全額に18%課税 非課税(0%)
ユニットリンク保険(注1)
(保障性+貯蓄性)
手数料・保障部分に18%課税 非課税(0%)
養老保険(注2)(貯蓄性) 初年度4.5%、
更新時2.25%相当の税負担
非課税(0%)
一時払い年金(貯蓄性) 保険料全額に1.8%課税 非課税(0%)
団体保険(保障性) 保険料全額に18%課税 変更なし(18%)

注1:「保障」と「投資」の2つの機能を併せ持つハイブリッド型商品。保険料の一部を保障に、残りは投資信託型ファンドに割り当てられる。
注2:保険期間中に亡くなった場合は死亡保険金が支払われ、満期を迎えた場合は生存給付金を受け取れる保険。

出所:インド民間生保各社のウェブサイトを基にジェトロ作成

市場変化を見据えた販売チャネルの抜本改革

ICICIは業界屈指の多様な販売チャネルを有しており、それが大きな強みだという。図2は同社の2025年度の各販売チャネル別のAPE内訳を示している。最も高い割合を占めるのは、銀行窓口を通じて保険を販売する「銀行窓販」で、全体の約30%を占めている。しかし、販売は他のチャネルにも分散しており、特定チャネルへの依存度が高くない点がICICIの特徴だ。なお、2025年度実績で、APEの販売チャネル構成比が全チャネルで二桁(10%以上)となったのは、ICICI1社のみだったという。

図2:2025年度の各販売チャネル別APE内訳
ICICIの販売チャネルの内訳。代理店25%、ダイレクト販売14%、銀行窓販30%、提携チャネル13%、団体保険18%。

出所:ICICIの社外公表資料を基にジェトロ作成

ICICIは、2018年度に販売チャネルの拡大・多様化を目的として抜本的な改革を実施した。当時、APEの約55%は銀行窓販が占めており、その大半は親会社であるICICI銀行の支店網によるものだった。その後、同社は代理店チャネルの拡大やほかの金融機関との連携強化を進めることで、多様な販売チャネルの構築に注力してきた。その結果、ICICI銀行以外の販売チャネルが着実に成長し、販売基盤の多様化が実現した。実際に、APEに占める銀行窓販チャネルの割合は、2018年度の55%から2025年度には30%まで低下した。こうしたチャネルの多様化により、特定の販売パートナーへの依存リスクは大幅に低減されたという。

日系生保のインド参入のカギは販売パートナーとの連携

ICICIは、インド市場への参入を検討する日系生保会社に対し「多様な販売パートナーとの連携による顧客接点の拡大が成功のカギ」であると指摘する。同社は、オンラインチャネルの強化や代理店、銀行、ノンバンク(非銀行金融機関)との提携を通じて、それぞれが有する広範な顧客基盤や販売網を活用することの重要性を強調している。

同社はまた、インド生保市場の高い成長性にも注目している。インドは世界最多となる約14億人の人口を擁する一方、生保普及率(注3)は2024年度時点で2.7%にとどまり、日本(6.4%)と比較しても低水準だ(注4)。そのため、同国の保険市場は大きな成長余地がある。インド政府も保険加入の拡大に向けて、2047年までに全国民の保険加入を目指す「Insurance for All 2047」を推進している。特に、農村部では都市部に比べて所得水準が低く、保険加入率も低い。加入している場合でも、その多くは政府が低所得者層向けに導入した生命保険制度PMJJBY(Pradhan Mantri Jeevan Jyoti Bima Yojana)に代表される低廉な保険商品に限定される。そのため、農村部は今後の保険普及に向けた有望市場の一つと考えられている。

さらに、ICICIは人口動態の変化がもたらす潜在的ニーズにも着目している。現在のインドは生産年齢人口の割合が高いが、今後10年から20年の間に60歳以上の人口が大幅に増加すると見込まれている。これに伴い、老後の生活保障や医療保障、資産形成に対するニーズの高まりが予想されており、新たな保険需要の創出が期待される。

低い生保普及率が生む成長余地

インド市場に参入する生保会社にとって、インドの保険普及率の向上には、多様なパートナーとの連携を進め、より広範な地域へサービスを届けることが重要だと考えられる。その結果、保険に対する認知度や理解が高まり、国民の金融リテラシーの向上とともに、より多くの人が保険の必要性を認識するようになるだろう。日本の生保市場は、少子高齢化の進展により国内市場の成熟化・飽和が進み、多くの保険会社が海外市場への進出や投資機会を模索している。中でもインドは、巨大な人口規模と生保普及率の低さを背景に、市場開拓の余地が大きい。こうした点を踏まえると、インドは日系生保会社にとって有力な投資先候補の一つになると考えられる。特に、保険普及率の向上が政策課題となる中、単なる資本参入ではなく、銀行やノンバンク、代理店網を有する現地有力パートナーとの連携をいかに構築できるかが競争力を左右する要因となりそうだ。


注1:
共同出資会社であるPCHLの区分変更(プロモーターから投資家)に伴い、2026年8月7日付でICICI生命保険(ICICI Life Insurance Limited)への社名変更をIRDAIが承認。本文に戻る
注2:
Annualized Premium Equivalentの略。支払い方法(月払い、半年払い、年払い、一時払い)の異なる新規保険契約の保険料を、年払いの水準に換算した指標(一時払い保険料は一部、一定割合の額を加算)。 本文に戻る
注3:
GDPに占める年間保険料収入の割合を指す。(1)各国の保険市場規模や国民が保険に依存する度合いを測るため、さらに(2)その結果を国際比較するために用いられる。 本文に戻る
注4:
IRDAI「Hand Book on Insurance Statistics 2024-2025」参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所
野本 直希(のもと なおき)
2016年大手生命保険会社入社、ジェトロ調査部アジア大洋州課を経て2026年4月から現職。