ポルトガル、防衛投資を産業イノベーションに積極転用

2026年8月24日

欧州委員会は2026年4月15日、欧州防衛基金(EDF)の2025年公募において、防衛分野の共同研究開発プロジェクト57件に対し、10億7,000万ユーロを投資することを発表した。EDFはEUの防衛分野における研究開発協力の枠組みであり、2021~2027年に総額約73億ユーロの予算を有する。2025年公募には過去最多となる410件の応募が寄せられ、EU加盟26カ国とノルウェー、ウクライナから634の組織が参加した。

採択された57件のプロジェクトには、人工知能(AI)やサイバー防衛、ドローン、対ドローンシステムなど幅広い重要分野が含まれている。また、中小企業が参加者の38%以上を占め、総資金の21%以上を獲得している。

欧州防衛分野で存在感を確保

EDFの2025年公募で採択された全57件のうち、ポルトガルからは全体の約3割にあたる17件のプロジェクトに、宇宙・衛星、防衛システム、無人機・ロボティクス、海洋技術、先端材料などの分野の企業・スタートアップ、政府や大学関係の研究機関、軍関係機関など19社・団体が参加する(表参照)。2024年ラウンドの10件、13社・団体から参加数を伸ばしており、ポルトガルが欧州の防衛分野において一定の存在感を確保しつつあることがうかがえ、その背景にはポルトガルの深海技術の強みや政府のDTIB(防衛技術・産業基盤)戦略がある。

表: EDF2025採択プロジェクト(ポルトガル企業・機関参加分) 注:各プロジェクトの詳細は添付資料(277.91KB)に参照URLを記載しています。
No. プロジェクト名 参加企業・機関 目的(概要)注
1 SPIDER 2 N3O
NEWSPACE EARTH OBSERVATION ORBITAL OBJECTS, LDA.
防衛用途の情報収集・監視・偵察(ISR)向け低コスト衛星コンステレーションの開発プロジェクト
2 RHESIS VOICEINTERACTION
TECNOLOGIAS DE PROCESSAMENTO DA FALA, SA
防衛分野向けAI対話システムの開発
3 EPIIC 2 ALMADESIGN CONCEITO E DESENVOLVIMENTO DE
DESIGN LDA
次世代コックピット技術高度化及び運用効率・安全性向上プロジェクト
EMPORDEF TECNOLOGIAS DE INFORMACAO SA
GMVIS SKYSOFT SA
4 EICACS 2 THALES EDISOFT PORTUGAL, S.A. 相互運用性標準を通じた協働機能の開発による欧州の航空戦力強化プロジェクト
5 EURODAMM TEKEVER UAS, S.A. 精密打撃、EMSOレジリエンス、C2/ISR統合推進及び、5G、AI、デジタルツイン、先進製造技術などのデュアルプロジェクト
6 FAMOUS3 BEYONDCOMPOSITE
COMPOSITE ENGINEERING
SOLUTIONS, LDA
全地形対応車両・軽装甲車両におけるライフサイクルコスト低減プロジェクト
7 TRIDENT INESC TEC ー INSTITUTO DE
ENGENHARIADE SISTEMAS E
COMPUTADORES, TECNOLOGIA E CIENCIA
次世代対砲兵システムの開発
8 E-DOMINION INEGI-INSTITUTO DE CIENCIA E
INOVACAO EM ENGENHARIA
MECANICA E ENGENHARIA INDUSTRIAL
海軍作戦能力を統合するための参照アーキテクチャの確立、デジタル艦艇の基盤を提供
9 SHIELD INEGI ー INSTITUTO DE CIENCIA E INOVACAO EM ENGENHARIA
MECANICA E ENGENHARIA INDUSTRIAL
一貫性、拡張性、および強靭性を備えた防衛アーキテクチャ構築のための無人水中スーパーシステムの確立
OCEANSCAN MARINE SYSTEMS
& TECHNOLOGY LDA
10 DART OPTIMALSATELLITE UNIPESSOAL, LDA 防衛システムの標準化、相互運用性の確保、協調的な設計・運用による欧州の防衛単一市場強化
11 DEEP-TECH (Coordinator) INESC TEC INSTITUTO DE ENGENHARIADE SISTEMAS E COMPUTADORES, TECNOLOGIA E CIENCIA 移設可能かつロボット化された海底ランダー、自律型水中インフラおよび基地ステーションのための革新的能力の開発
A. SILVA MATOS METALOMECÂNICA SA
MARINHA PORTUGUESA (PT NAVY)
12 SPIN DEFENDER INTERNATIONAL IBERIAN NANOTECHNOLOGY LABORATORY 防衛作戦における無線周波数信号処理の新手法。デジタル化の代替となるスピンベース学習。
13 EM-MORTAR INEGI-INSTITUTO DE CIENCIA E
INOVACAO EM ENGENHARIA
MECANICA E ENGENHARIA INDUSTRIAL
パルス電磁加速を用いた電磁式迫撃砲発射装置
14 R3DSURFIN INOVA+ -
INNOVATION SERVICES, SA
積層造形技術における後処理の技術を軍事環境での運用に適用
15 RESISTCAM BIOFABICS LDA 高温耐性基材、多機能ナノファイバー膜、および先進的なコーティング技術を組み合わせた新たな繊維材料の開発
16 SOUND2 BLUE OCEAN SUSTAINABLE SOLUTIONS S.A. 複数領域の無人ビークルを用いたソノブイ(音を探知するセンサーを搭載した浮標)展開による水中監視ソリューションの提供
17 STRATUS INEGI-INSTITUTO DE CIENCIA E
INOVACAO EM ENGENHARIA
MECANICA E ENGENHARIA INDUSTRIAL
サイバー・電磁波領域環境下において、フォース・マルチプライヤー戦力増強手段としての信頼性の高い無人機の運用

注:各プロジェクトの詳細は添付資料PDFファイル(277.91KB)に参照URLを記載しています。

出所:欧州委員会資料からジェトロ作成

採択案件を見ると、海洋技術、AI、無人システム、先端材料など民生分野への応用が可能な技術が多く含まれており、防衛投資を産業イノベーションの促進につなげようとするポルトガルの方針がうかがえる。17件のうち、自律型水中システムや海底インフラ技術の開発をテーマとする「DEEP-TECHプロジェクト」では、ポルトガルの研究機関INESC TECがコンソーシアムのコーディネーターとして研究開発を主導する。同プロジェクトはエネルギー、通信、センシング、脅威検出を統合し、深海の過酷環境におけるロボット水中プラットフォームや自律インフラの耐久性、回復力、運用自律性の向上を目指す。ドッキングシステム、エネルギー貯蔵、通信、センシング、先進知覚、物流、自律システムなど、深海作業に必要な技術に焦点を当てている。ポルトガルは排他的経済水域(EEZ)において欧州最大級の深海を有し、この分野での防衛産業の発展を重要視している。DEEP-TECHプロジェクトは、国家主権に関わる分野として、海底管理に関する技術開発を大陸棚(沿岸国が海底・海底下資源について主権的権利を有する海域)の拡張も見据えて推進している。

また「TRIDENTプロジェクト」では、異種センサーの融合やAIを活用した意思決定支援、火力統制技術を組み合わせた次世代の対砲兵(Counter-Battery)システムの研究開発を目的とする。近年の戦場で拡大する無人航空機(UAV)の活用や電子戦(EW)への対応を見据え、レジリエントな能力の構築を目指している。

政府はデュアルユース技術を産業政策の柱に位置付け

ポルトガル政府は2023年、DTIB戦略を承認し、EU・NATO方針と整合させながら、産学官軍の連携強化を通じて研究開発・イノベーションを促進することを決定した。重点分野として、(1)航空、(2)C4ISR(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察)、(3)サイバー空間(サイバー防衛・サイバーセキュリティー)、(4)エネルギー・環境、(5)宇宙、(6)海洋・造船、(7)自律システム(無人機・無人システム)、(8)防衛用繊維を挙げている。また、軍民両用(デュアルユース)技術への重点的な投資を進め、科学技術イノベーションの加速、投資効果の最大化、DTIBの持続性強化、ならびに防衛関連産業と他産業との連携強化を同時に促進することを目的としている。ポルトガルの取り組みは、防衛能力の強化だけでなく、EU域内の防衛サプライチェーンや技術基盤を強化を目指す近年の欧州防衛政策とも方向性を共有している。

またポルトガル政府は、2026年の防衛予算プログラムで総支出額37億7,190万ユーロを計上した。2025年予算の32億8,490万ユーロと比較して14.8%増加している。2025~2026年の防衛投資拡大においては、DTIBにおけるデュアルユース技術重視の方針を明確にし、医療、防災、サイバー、AI、宇宙などへの投資を通じて、防衛力と産業競争力の強化を図るとしている。防衛技術・産業部門には300社以上の企業と61の研究・教育機関が存在し、40分野・21クラスターにまたがる幅広い産業基盤を形成している。多くの企業はデュアルユース製品・サービスを展開し、民間および軍事双方の市場に対応している。

例えば、ハイドロツイン社(HydroTWIN)は、海中音響データをAIで解析することで、環境保全と安全保障の両面に活用可能なデュアルユース技術「Digital Twin of the Ocean」を提供する。海洋生態系のリアルタイム監視と同時に船舶や潜在的脅威の検知を可能にし、民生・防衛の両領域で活用されている。Digital Twin of the Oceanによる広域監視は、環境科学と海上安全保障をつなぐ典型的なデュアルユース事例だ。また、テックエバー社(Tekever)は、軍事と民生の双方で活用可能なデュアルユース型ドローンを手がける企業だ。防衛分野では情報収集・監視・偵察任務に活用される一方、民間分野では海洋環境監視、捜索救難、重要インフラ保護など幅広い用途に対応する。英仏海峡での不法移民や密輸の監視、海洋監視、環境モニタリングなどにも活用されている。同社は日本で防衛ドローンの製造拠点を設立する予定と報じられている。

ポルトガルは伝統的に観光業やサービス業への依存度が高く、製造業や先端技術産業の規模は大きくない。政府は民間市場と軍事市場の双方で需要が見込めるデュアルユース技術を成長産業として捉え、積極的な投資によってイノベーションを加速させるとともに、高付加価値産業として育成することを目指している。防衛・海洋技術・AIなどのデュアルユース分野では、欧州企業との共同研究開発やサプライチェーン連携を検討する日本企業にとっても、新たな協業機会となる可能性がある。

執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所(在リスボン)
小野 恵美(おの えみ)
2007年よりジェトロ・パリ事務所コレスポンデント(在リスボン)