卵を生かした、たまごパンを世界へ(日本)
鶏卵の課題と加工食品の可能性

2026年8月17日

日本の鶏卵は香港などで高く評価されているが、検疫条件や認定施設の制約、鳥インフルエンザの影響などから輸出先が限定的だ。こうした中、日本産液卵を使用した菓子やパンなどの加工食品輸出が、新たな選択肢として注目される可能性がある。日本の菓子やパンなどが評価されることで、原料となる日本産鶏卵の認知度向上につながり、鶏卵の輸出拡大への波及効果も期待される。鶏卵そのものの輸出には制度面や物流面で制約がある一方、加工食品として輸出することで海外展開の可能性が広がる。

本稿では、日本産鶏卵を生地にたっぷり使った「たまごパン」を製造し、海外に輸出しているティンカーベル(長野県安曇野市)の営業部長の石井洋平氏、総務部長の石井百花氏に、海外展開の取り組みや今後の展望などについて聞いた(取材日:2026年7月16日)。

鶏卵の輸出は香港を中心に拡大

鶏卵は、鶏(にわとり)の卵殻付きの鳥卵のほか、割卵した液卵や乾燥卵などとして輸出されている(注1)

日本における鶏卵の生産量は、2024年は前年と同水準の244万トンとなった。2010年代は家庭用、業務加工用ともに需要が旺盛で増加傾向だったが、2020年以降は鳥インフルエンザの記録的な発生などの影響により、減少傾向に転じた。2025年の鶏卵(注2)の輸出量は2万1,396トン(前年比9.8%増)、輸出額は81億4,030万円(同14.5%増)だった。金額ベースでは2016年の約9倍となった(図1)。

次に2025年の輸出額を国・地域別に見ると、1位は香港で76億6,570万円(前年比14.4%増)だった(図2)。全体の94.2%を占めている。

なお、鶏卵は農林水産省の輸出拡大実行戦略外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2025年5月)において輸出重点品目に指定されており、2030年までに全体109億円(香港91億円など)を目標としている(詳細は、輸出品目別レポート「鶏卵、畜産加工品」PDFファイル(1.04MB)(2025年7月)参照)。

図1:鶏卵の輸出額・数量(2016~2025年)
鶏卵の日本からの輸出を年別動向に関して、2017年輸出量全体で4,012トン、輸出額12億2800万円から、2025年輸出量2万1,396トン、輸出額81億4,030万円で推移している。

注1:HSコード=0407.21、0407.29、0407.90、0408、3502.11、3502.19(ふ化用受精卵を除く)。
注2:2025年の輸出額上位10カ国・地域を抽出。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

図2:日本からの主要国向け鶏卵輸出額構成比(2025年)
2025年の日本からの輸出額構成比に関して、1位は香港で76.7億円、構成比は94.2%であった。2位はシンガポールで2億円、構成比は2.5%であった。

注:HSコード=0407.21、0407.29、0407.90、0408、3502.11、3502.19(ふ化用受精卵を除く)。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

香港では日本産鶏卵が人気

従来、香港ではすき焼きや鍋物、カツ煮など、生卵や半熟卵を使う料理向けに日本産鶏卵が使われており、需要の中心は日本料理店や在住日本人だった。2020年代に入り、日本産鶏卵の輸出は大幅に増加したが、その背景には、鳥インフルエンザによる他国産鶏卵の供給不安や、為替の影響(円安)による需要の高まりがあった。また、他国産と比較して色味に鮮度感があり、卵黄や卵白に厚みがあり、香りが良いと評価されている。「衛生的」かつ「安全・安心」とのイメージも相まって、消費者に支持されている。

今では、日本料理店や日系スーパーのみならず、現地系の飲食店や小売店、ベーカリーなどにも広がりをみせている。また、日本産鶏卵は生食も可能(注3)であることが知られ、卵かけご飯のように生食で消費されることも増えてきた(詳細は、香港輸出支援プラットフォーム「香港への農林水産物・食品の輸出に関するカントリーレポート(鶏卵)PDFファイル(2.5MB)(2025年12月)」参照)。加えて、シンガポールなどでも日本産鶏卵の輸出拡大に向けた取り組みが進められている(注4)

検疫条件、輸送の問題、輸出国多角化へ高いハードル

鳥インフルエンザの影響などにより、現在、中国などでは日本産鶏卵の輸入が禁止されている。諸外国と輸出解禁に向けた協議を進める一方で、そもそも多くの国では二国間における検疫条件が設定されておらず、輸出できない場合も多い。また、米国やシンガポール向けでは、農場・鶏卵処理施設の輸出認定数が少ないため、今後、認定数を増やすことが課題とされる(注5)。このように、輸出先を多角化しようにもハードルが高いのが現状だ。また、輸送面では、生食を前提とする場合は賞味期限が短くなり、航空便を利用すると、物流コストやリードタイムの問題が生じる。

その1つの打開策が、鶏卵を加工食品に使うことだ。菓子やケーキ、パンなどの加工食品として輸出する。添加物や産地証明書など一部規制があるものの、常温や冷凍での輸送も選択肢となり、検疫条件や輸送面での課題を乗り越えることができる。

鶏卵をたっぷり使った、ふわふわのたまごパン

1985年創業のティンカーベルは、パン、焼き菓子の製造販売を手がける企業だ。たまごパンは同社の代名詞となっている。ブランド強化を図るため、「いつでもどこでも誰もが食べられる手軽で美味しいパン」というコンセプトで開発され、試行錯誤の末、2015年頃に完成した。

たまごパンは生地に国産鶏卵をたっぷり使用し、ほんのり甘く、素材本来のやさしい味わいが特徴だ。国産鶏卵の液卵を100%使用している。しっとり、もっちりとした食感が特徴で、カステラとも蒸しパンとも違う独特の食感を楽しめる。卵の風味を最も感じられる定番のプレーンのほか、あんバター、キャラメル、抹茶、季節の果物を使ったものなど、バリエーションも豊富だ。

SNSなどで話題となり、口コミでも評判が広がったことから、長野県から日本全国へ人気が広がり、大手スーパーや有名セレクトショップなどでも取り扱われるようになった。

そのような中、新規販路開拓を目的として海外市場への輸出に挑戦することを決意し、長野県やジェトロ諏訪、地元の金融機関である長野県信用組合などに相談した。


たまごパン(同社提供)

現地商流を確保して、海外展示会に参加

2017年、米国ハワイを皮切りに、タイ、米国本土、シンガポール、マカオへと輸出先を広げていった。2023年にジェトロのハンズオン支援を開始し、本格的に海外展開に取り組んだ。例えば、FHA-HoReCa2024(シンガポール)の長野県信用組合ブースへの出展に加え、Food Taipei2019(台湾)、Food Expo2019(香港)などの展示会にも出展した。また、専門家とともに積極的に海外出張し、現地での商談や市場視察、販路開拓を進めた。海外展開では、販路開拓と現地パートナーの確保を並行して進めた。

その結果、現在は商社を経由した間接取引で、米国、カナダ、香港、マカオ、インドネシア、タイ、シンガポール、オーストラリアの8カ国・地域に輸出している。

石井洋平氏は、現地での対面商談を通じて、取引先やパートナーとの信頼関係を構築することを最も重視してきた。「以前、新規販路開拓を目的に海外展示会に出展したところ、現地への商流がない状態だったため、直接取引が難しく、商談がうまくいかなかった。その経験から、信頼ができる現地パートナーや商社経由の商流を確保したタイミングで、現地展示会に出展することを徹底し、成約可能性が高い商談の実現に努めている」と言う。


FHA-HoReCa2024出展(ジェトロ撮影)

Food Expo2019出展(同社提供)

常温かつ冷凍保存可能に商品開発、現地に合わせたフレーバーの提案

海外市場で評価された背景には、商品そのものの特性もあった。 同社の海外ビジネスの成功は、同社の海外展開戦略や営業努力による部分が大きいものの、商品特性である「ロングライフ×クオリティ」「現地嗜好に合わせた提案」は、輸出を目指す食品企業にとって参考になる。

同社の場合、製品が常温で60日間の賞味期限を確保できるよう開発した。冷凍すればさらに長期間保存できる。冷凍で輸送し、現地で自然解凍しても、冷凍前と変わらないクオリティで提供できる。そのため、遠隔地でも扱いやすく、現地の小売店やパートナーから評価されている。

また、たまごパンは生地特性がシンプルで、現地の市場ニーズに合わせて柔軟にフレーバー開発ができることも強みだ。これまで300種類を超えるフレーバーや期間限定品を開発してきた。現在も継続的に商品開発を行い、新商品や限定商品を販売している。例えば、現地市場に合わせて、香港向けに香港風ミルクティ味、ハワイ向けにはマンゴー味やライチ味などを提案した。また、シンガポールでは長野県フェアに合わせて、県特産品である柿味やシャインマスカット味など、現地の食文化や要望に寄り添ったフレーバーを企画、提案してきた。さらに、現地パートナーとのPB(プライベートブランド)商品の開発などにも柔軟に対応できる点が強みだ。


歴代商品パッケージの一部(ジェトロ撮影)

シャインマスカット味(同社提供)

マンゴー味(同社提供)

「世界のTAMAGOPAN」を目指して

「海外でもプレーンやチョコレート、ミルクなどの定番が人気だが、季節や期間限定のフレーバー商品も人気がある。たまごパンの食感は、日本産鶏卵を同社のノウハウによる黄金比で使用することで実現している。特徴的なもっちり、ふわふわ食感は、海外市場でも評価されている」と、石井百花氏は話す。

海外売上高比率を5年後に売上高全体の20%まで引き上げたい。また、今後は輸出先国・地域を拡大し、「世界のTAMAGOPAN」になることを目指したいと意気込みをみせた。


同社工場(ジェトロ撮影)

鶏卵を使った菓子、加工食品で市場拡大

このように、日本産鶏卵そのものの輸出は、検疫条件や鳥インフルエンザの影響、認定施設の制約などから輸出先拡大に限界がある。一方、鶏卵を使用した菓子やパンなどの加工食品は、これらの制約を相対的に受けにくく、輸出拡大を通じて日本産鶏卵の需要喚起につながる。

ティンカーベルの事例は、鶏卵そのものの輸出が難しい国・地域に対しても、日本産鶏卵の価値を加工食品として届けるモデルケースといえる。日本には高品質でユニークな菓子が数多くあり、卵加工食品は海外市場で受け入れられる可能性が高く、今後の輸出拡大が期待される(注6)。加工食品を起点に日本産原料の価値を海外へ発信するモデルは、鶏卵以外の農林水産物・食品にも応用できる可能性がある。


注1:
液状卵黄は主にマヨネーズの原料、液状卵白は菓子やケーキ類などの原料、液状全卵は菓子やパン、総菜、加工品の原料にそれぞれ用いられる。乾燥卵は、割卵し噴射乾燥により粉状にしたもので、菓子やケーキ類、アイスクリーム類などの加工用原料として使われる。 本文に戻る
注2:
HSコード0407.21、0407.29、0408、3502.11、3502.19(ふ化用受精卵を除く)を対象とする。鶏卵のほか、液卵や乾燥卵などが含まれる。 本文に戻る
注3:
香港では、「生食用」および「加熱用」のパッケージの表示規制はないが、表示を付して区別して販売する場合が多い。生食用は主に航空便、加熱用は冷蔵コンテナの船で輸送されることが多い。 本文に戻る
注4:
シンガポールへの輸出の取り組みに関する詳細は、三栄鶏卵株式会社:商品を売るのではなくおいしさを伝える。ストーリーを大切にして | ジェトロ活用事例 (2019年3月)などを参照。 本文に戻る
注5:
鶏卵の輸出手続きに関する詳細は、農林水産省「乳・乳製品及び卵・卵製品の輸出について」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます動物検疫所「鳥インフルエンザの発生に伴う家きん肉・家きん卵の輸出停止・再開について」およびジェトロ「日本からの輸出に関する制度」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。 本文に戻る
注6:
菓子の輸出に関する詳細は、2025年10月6日付地域・分析レポート「『スイーツとしてのわらび餅』で海外市場を開拓(日本)」を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理
古城 達也(ふるじょう たつや)
2011年、ジェトロ入構。人材開発支援課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ諏訪を経て、2024年11月から現職。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の輸入規制、法令や市場情報などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。
執筆者紹介
ジェトロ長野 諏訪支所長
荒井 慎哉(あらい しんや)
2022年、ジェトロ入構。総務部総務課を経て、2024年から現職。
現在、諏訪地域を中心に長野県内企業に対してセミナー開催や商談会開催などの支援を担当。
執筆者紹介
ジェトロ諏訪 アドバイザー
植松 麻早(うえまつ まさ)
2011年、ジェトロ入構。ジェトロ諏訪のアシスタントを経て2018年から現職。現在、諏訪地域を中心に長野県内企業に対して、輸出や海外進出の支援を担当。