カタール、シャルジャ首長国、バーレーン
中東のアニメイベントを歩く(2)

2025年10月21日

中東地域、特にアラブ首長国連邦(UAE)、カタール、バーレーンでは、日本アニメに関連するイベントを継続的に開催。若年層を中心に高い関心を集めている。

連載後編の本稿では、カタール、UAEのシャルジャ首長国、バーレーンでのイベントを紹介。そこから、各国における日本アニメの受容状況について考察する。

バーレーン・コミコン

2018年に初めて開催。以来、F1サーキット場として有名なバーレーン・インターナショナル・サーキットが会場になっている。新型コロナウイルス禍下の2020年と2021年を除いて毎年開催し、2025年で第6回を迎えた。バーレーンで最大規模のポップカルチャーイベントとして定着した。

主催はバーレーン王国文化庁、民間イベント会社。ほかの類種イベントにない特徴は、バーレーン王室の一員、ハーリド・ビン・ハマド・アール・ハリーファ殿下が後援していることだ。殿下は、スポーツ・文化振興の支援者として有名だ。

他国のコミコンと同様、物販ブース、ファンアート、ステージでのパフォーマンスという構成になっている。来場者の多くが地元の若者だ。コスプレする来場者も一部にいるものの、湾岸諸国の他コミコンと比較して少ないように感じた。また、日本アニメより、アメコミ(米国系のアニメ)にちなむコスプレをする人の方が多いように見えた。

企業ブースは、米国フィギュア企業Funko以外に、地場のアニメグッズ店が出展していた。並行輸入品や海賊版も、かなり多く散見される。また、日本の中古ゲーム機、ゲームカセットを販売するブースが複数あったのも印象的だ。日本アニメグッズは、「鬼滅の刃」「呪術廻戦」「BLEACH」「ONE PIECE」が多かった。また、サンリオの製品販売も各所にあった。

日本からは、声優の宝亀克寿氏(ONE PIECE)、戸谷菊之介氏(チェンソーマン)に加え、原田勝弘氏(「鉄拳」シリーズのエグゼクティブゲームディレクター兼チーフプロデューサー)などが参加した。


会場入り口(最上段に、スポンサーのハーリド殿下)(ジェトロ撮影)

ファンアート販売の様子(ジェトロ撮影)

シャルジャ・アニメーション・カンファレンス(SAC)

シャルジャはUAEを構成する首長国の1つで、ドバイの東隣に位置する。SACは、2023年から当首長国で開催するイベントだ。シャルジャ政府機関であるシャルジャ図書局が主催し、イタリアの国際的なアニメフェスティバル「ベルガモ・アニメーション・デーズ」との共同企画で開催された。

開催目的で、他のアニメイベントと一線を画している。「アニメーションという『国境・文化・世代を超える普遍的な言語』を通じて、創造性を向上し、次世代のクリエイターを育成し、業界のリーダーがつながる場を提供すること」を目指している。より具体的には、(1)アニメ制作の側に立って、作画スキルを高めること、(2)アニメーターなどとのパネルディスカッションを通じて、アニメに関して議論を深めることを追求している。(2)のテーマは、制作技術や作家のモノの考え方、アニメ業界の課題〔制作環境や国際展開、人工知能(AI)の活用〕、アニメ業界を目指す若者のキャリア形成などだ。

アニメグッズの販売は、ほとんどない。それでも、大学生を中心に、非常に多くの来場者が駆け付け、どのセッションも、会場を埋め尽くし立ち見まで出ている中、専門家と熱心な意見を交換していた。

日本からは元スタジオジブリの宮地昌幸氏が、アニメーション演出や制作プロセスについてのワークショップを実施。また、寺嶋民哉氏(スタジオジブリ作品の作曲家)が、アニメ音楽の制作過程や感情表現などを講演した。そのほかにも、著名なアニメ監督やキャラクターデザイナーが参加し、それぞれの専門知識を参加者に伝えた。

また、日本を代表するアニメーター、故・須田正己氏の記念展示もあった。「科学忍者隊ガッチャマン」「マッハGoGoGo」「北斗の拳」「キャンディ・キャンディ」「妖怪ウォッチ」などのキャラクターデザインを多数展示した。

SACワークショップでは、ほぼ日本のアニメを中心に議論が進んだ。参加者の日本アニメへの知識は非常に高く、同時にアニメ制作関係者への深い敬意を感じ取れた。同時に、「将来の夢として真剣にアニメ業界に関わりたい」というUAE在住若者参加者の熱意が強く伝わるイベントだった。


会場入り口(ジェトロ撮影)

会場に描かれた日本アニメ風の作画(ジェトロ撮影)

プロのイタリア人アニメーターから直接作画指導を
受ける(ジェトロ撮影)

須田正己氏の記念展示(ジェトロ撮影)

宮地昌幸氏のワークショップ(ジェトロ撮影)

ギークダム・ギークエンド(カタール)

2013年から開催。カタール最大のポップカルチャーイベント「ギークダム」のスピンオフという位置づけだ。

開催は年に数回。地元中心のファンに相互交流の場を提供し、地元アーティストの支援を目的に実施している。

主な趣旨は「オタク文化の普及」だ。同時に、日本文化を知る催事という側面もある。その観点から、カタールの日本文化コミュニティー「Nakama(仲間)」とともに、アラビア語版ポケモン主題歌のカラオケ大会を共催している。これ以外にも、ゲームイベント「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」の競技会や地元のアーティストによるオリジナルアートの販売、アニメ知識を問うクイズ大会、参加者が短時間でデジタルアートを制作する競技など、体験型イベントを数多く設けた。

クイズ大会では、「紫雲寺家の子供たち」「薬屋のひとりごと」「黒執事⁻寄宿学校編/緑の魔女編」など、かなり新しいアニメに関する出題にも難なく回答する現地アニメファンの姿が印象的だった。


日本アニメ風のパネル(ジェトロ撮影)

ポケモンカラオケ大会(ジェトロ撮影)

ゲーム体験コーナー(ジェトロ撮影)

最後に、今後、湾岸協力会議(GCC)諸国で予定しているアニメイベント(一部)を紹介する(2025年9月時点、表参照)。なお中東では、(1)直前にならないと詳細が判明しないケースが多いこと、(2)ウェブサイトより、SNS (Instagramなど)での告知が主になっていること、に注意を要する。

表:湾岸協力会議(GCC)諸国でのアニメイベント予定
No イベント名 開催地 会期
1 Comifescon(Comic Festival Convention)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます クウェート 2025年9月25~27日
2 FNDM外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます UAE(ドバイ) 2025年10月4~5日
3 Animmenia外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます UAE(アブダビ) 2026年2月11~15日
4 Geekdom外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます カタール 2025年11月18~22日
5 Saudi Anime Expo外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます サウジアラビア 2025年内
6 968gamez外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます オマーン 未定(冬)
7 Middle East Film & Comic Con(アブダビコミコン)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます UAE(アブダビ) 2026年4月10~12日

出所:主催者ウェブサイトやSNSなどからジェトロ作成

中東のアニメイベントを歩く

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(1)アブダビ、ドバイ(UAE)

執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
吉村 優美子(よしむら ゆみこ)
貿易開発部、技術交流部、農林水産部等を経て、2021年7月から現職。