アブダビ、ドバイ(UAE)
中東のアニメイベントを歩く(1)

2025年10月21日

日本アニメは、中東で意外に長い歴史をもつ。特にアラブ首長国連邦(UAE)、カタール、バーレーンでは、日本アニメに関連する各種イベントの開催が活発だ。これら各国は平均年齢が低く、若年層を中心に高い関心がうかがえる。

この連載では、これら3カ国での日本アニメの現状について、イベントの取材を通じて、消費者の嗜好(しこう)やニーズ、市場トレンドを分析・考察する。前編の本稿では、UAE(アブダビとドバイ)で開催したイベントの様子を紹介。日本アニメに対する現地での受けとめなどにも触れる。

日本アニメ特化型イベントを続々開催、制作現場への高い関心も

中東における日本のアニメの歴史は、1970年代から1980年代にかけて始まったと言われる。特に「UFOロボ グレンダイザー」〔放送局:フジテレビ系列、制作:東映動画(現・東映アニメーション)〕と「キャプテン翼」は、中東で非常に人気を博した。現在でもなお、根強いファンを多く持つ。

日本で「UFOロボ グレンダイザー」の放送を開始したのは、1975年。中東では、1980年代にイラクやレバノン、サウジアラビア、クウェートなどで放送が始まると、多くの子供たちが夢中で視聴し、瞬く間に大ヒットした。特にレバノン内戦に時期がかぶったこともあり、平和や正義を象徴するキャラクターとして多くの支持を集めたという。

2022年にサウジアラビア(リヤド)で開催した「リヤド・シーズン」では、「ジャパンアニメタウン」を設けた。会場には等身大(33.7メートル)のグレンダイザー像を設置し、「世界最大の金属製彫刻」としてギネス認定も受けている。中東の人々にとって、グレンダイザーは日本アニメの象徴的存在と言える。


グレンダイザー像(ジェトロ撮影)

「キャプテン翼」は、1980年代にアラビア語に吹き替えて放送。この際、タイトルを「キャプテン・マジッド」に変えている(「マジッド」はアラビア語圏の男性の名前)。サッカーは中東で最も人気があるスポーツのため、放送開始以降およそ40年にわたって、人気が安定している。また、アラビア語翻訳版が販売されている唯一の日本マンガでもある(「キャプテン翼」以外は、英訳版で読むケースが大半)。


紀伊國屋書店ドバイ店が扱うアラビア語版「キャプテン翼」(ジェトロ撮影)

なお、UAE、バーレーン、カタールでは、2024年秋から2025年5月にかけて、4件の日本アニメイベントを確認できる(表参照)。


「アニメニア」会場入り口風景(ジェトロ撮影)
表:日本アニメを対象とした主なイベント
No イベント名 開催地 会期 主催者 入場者数
(推定)
1 Animenia(アニメニア) UAE
(アブダビ)
2024年10月23~27日 Brag 2万~3万人
2 Middle East Film & Comic Con(アブダビ・コミコン) UAEd
(アブダビ)
2025年4月18~20日 Informa 4万6,000人
3 JPEX Entertainment Exhibition UAE
(ドバイ)
2025年4月 JPEX 数千人(主催者発表)
4 Bahrain Comic Con
(バーレーンコミコン)
バーレーン 2025年5月2~3日 バーレーン文化庁など 2万5,000人
5 シャルジャ・アニメーション・カンファレンス UAE
(シャルジャ)
2025年5月2~4日 Sharjah Book Authority 未発表
6 Geekdom/Geekend(ギークダム・ギークエンド) カタール
(ドーハ)
2025年5月22~24日 Doha Film Institute 未発表

日本アニメに特化した「アニメニア」

UAEの首都アブダビでは2024年10月23〜27日の5日間、「アニメニア」を初開催。日本のアニメ、マンガ、ゲーム、ポップカルチャーをテーマにした大型イベントだ。特に若年層やオタク文化ファンを対象にしているのも特徴になっている。

会場には、「NARUTO -ナルト-」「進撃の巨人」「呪術廻戦」「サンリオキャラクター」などのセットがあり、来場者は、アニメの舞台に入り込んだような体験を得ることができる。同時に1980年代からUAEで放映されていたアニメ(「小公女セーラ」「未来少年コナン」「アルプスの少女ハイジ」「アニメひみつの花園」「家なき子レミ」など)の展示ブースでは、親子で楽しむ光景も見られた。UAEでの長い日本アニメ放映歴を象徴している。

なお、UAEで初めて日本アニメに特化したイベントは、「ANI:ME」だ(2016年、アブダビのヤス島で開催)。それまでは、アメリカンコミック(アメコミ)を中心とするイベントが主流だった(アブダビ・コミコンなど)。その中で、初めて「日本アニメ・文化」に特化したことで大きな注目を集めた。日本と中東の文化交流で、新たな扉を開いたかたちだ。

この「ANI:ME」を引き継いだのが、「アニメニア」と言える。


「NARUTO -ナルト-」の世界観を体験
(ジェトロ撮影)

「進撃の巨人」の展示(ジェトロ撮影)

サンリオキャラクターの展示(ジェトロ撮影)

1980年代アニメ(小公女セーラ、未来少年コナンなど)(ジェトロ撮影)

1980年代アニメ(家なき子レミ、アニメひみつの花園)(ジェトロ撮影)

中東最大規模「Middle East Film & Comic Con(アブダビ・コミコン)」

2012年に初開催。初期の開催地はドバイだった。しかし、2018年からアブダビでの開催になり、今日に至る。

このイベントには、4万6,000人が来場した(2025年)。中東最大級のポップカルチャーイベントで、圧倒的な動員力を誇る。また、アニメだけでなく、映画、TVドラマ、ゲーム、コミック、コスプレ、アートなど、ポップカルチャー全般を網羅している。他のイベントがアニメやマンガに特化しているのに対し、総合エンタメフェスと位置づけている。

その他の特徴は、日本からの声優・漫画家に加え、ハリウッド俳優や世界的なコミッククリエイターを多数招待し、ファンと交流する機会があることだ。2025年は日本人声優として、三石琴乃氏(美少女戦士セーラームーン、ONE PIECE、新世紀エヴァンゲリオン)、山下大輝氏(僕のヒーローアカデミア、ジョジョの奇妙な冒険) 石川英郎氏(NARUTO-ナルト-、BLEACH、FFシリーズ)、伊藤健太郎氏(BLEACH、NARUTO -ナルト-)、柿原徹也氏(FAIRY TAIL、天元突破グレンラガン、FFXV)、速水奨氏(BLEACH、銀魂)らが参加した。これら著名人と握手したり、サインをもらうためには入場料に加えて追加料金を支払う必要がある。参加料は他のイベントより高く、参加できる範囲や優先入場の特典などに応じ、約4万~22万円にもおよぶ。

日本企業も参加し、バンダイナムコ、紀伊國屋書店が販売ブースを出展した。「鉄拳8」など、ゲームブースの設置もあって、ゲームファンにも訴求力が高い。

加えて、際立った特徴は、(1)体験型コンテンツが多いこと、(2)一般アニメファンの創作ブースが多いことだ。(1)に関するイベントとしては、コスプレ大会、ゲームトーナメント、ライブパフォーマンス、日本文化体験などがある。


ゲーム大会の様子(ジェトロ撮影)

日本の屋台を体験できるコーナー(ジェトロ撮影)

日本アニメファン有志による「JPEX Entertainment Exhibition」

日本文化とポップカルチャーをテーマにしたイベント。ドバイで、2025年に初開催。日本アニメファンのエミラティー(UAE人)4人が立ち上げた。

内容は、他のアニメイベントに似ており、声優イベントやコスプレ大会、カードゲーム大会、グッズ販売、ファンアート販売などがある。

特徴的なのは、茶道や習字など、日本の伝統芸術を紹介することだ。また、日本にある様々な狐(きつね)伝説にインスパイアされたイベントキャラクターを創作している。「スヘイル(アラビア語で『輝き』を意味する一般的な男性の名前)という名前で、日本と中東の文化を融合した象徴として強い存在感を放つ。

日本からは声優の中尾隆聖氏(ドラゴンボールZ、ONE PIECE)、森久保祥太郎氏(NARUTO -ナルト-)、アニソン(アニメソング)歌手のきただにひろし氏(ONE PIECE)を招待し、熱心なファンと交流する機会を設けた。


オリジナルキャラクター「スヘイル」(ジェトロ撮影)

日本をイメージした会場風景(ジェトロ撮影)

中東のアニメイベントを歩く

執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
吉村 優美子(よしむら ゆみこ)
貿易開発部、技術交流部、農林水産部等を経て、2021年7月から現職。