カザフスタンの自動車市場、生産・販売ともに中国車が存在感

2025年7月2日

カザフスタン自動車ビジネス協会の調査によると、2024年の同国の自動車新車販売台数は、前年比3.2%増の20万5,133台となった(表1)。前年比60.3%増を記録した2023年からさらに市場が拡大した(2024年5月31日付ビジネス短信参照)。この背景として、非営利団体カザフスタン自動車連合によると、ディーラーとメーカーなど市場のプレーヤー間の競争が激化した結果、頭金なしでの購入や割引など、消費者に有利な条件で購入できるようになり、購入に踏み切る消費者が増加したと指摘する。

自動車販売市場は拡大、一般ブランド車が牽引

ブランド別販売台数では、現代が2024年に4万4,218台で5.4%減、シボレーが3万927台で32.5%減、起亜が9.6%減の2万3,045台となった。

日本ブランドでは、トヨタは2.7%増、レクサスは3.1%増、三菱は11.8%増、スバルは27.4%減となった。トヨタは、カザフスタン市場で人気のある2つのモデル(カムリ、RAV4)を主に同社ロシア工場で生産していたが(2020年1月27日付ビジネス短信参照)、ロシアでの操業停止(2023年10月4日付地域・分析レポート参照)の影響でカザフスタン向け供給が滞ったこともあり、2021年の販売台数の水準まで回復していない。

表1:主要ブランド別乗用車新車販売台数 (単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
No. ブランド名 2021年 2022年 2023年 2024年 前年比
1 現代 22,736 28,864 46,725 44,218 △ 5.4
2 シボレー 29,112 34,289 45,807 30,927 △ 32.5
3 起亜 9,707 14,421 25,495 23,045 △ 9.6
4 チェリー(奇瑞汽車) 59 4,464 12,229 14,883 21.7
5 JAC 2,743 3,371 7,514 11,771 56.7
6 トヨタ 13,847 9,622 10,756 11,045 2.7
7 ハバル 1,210 1,500 7,558 10,983 45.3
8 ジェトゥール 3,930 9,507 141.9
9 長安 245 6,087 8,510 39.8
10 Geely 163 3,643 8,252 126.5
11 レクサス 1,757 2,540 3,569 3,678 3.1
12 オモダ 1,385 2,088 50.8
13 タンク 1,015 2,047 101.7
14 EXEED 1,876 3,884 1,621 △ 58.3
15 シュコダ 237 1,401
16 スバル 764 654 1,521 1,105 △ 27.4
17 ラーダ 9,349 7,386 1,477 1,085 △ 26.5
18 三菱 1,211 498 794 888 11.8
19 Zeekr 35 809 2211.4
20 カイー 0 773
21 BMW 1,220 899 1,207 619 △ 48.7
22 メルセデス・ベンツ 392 314 558 546 △ 2.2
23 GAC 128 544 325.0
24 ジェクー(Jaecoo) 0 501
25 ホンチー 90 490 444.4
26 長城汽車 254 480 89.0
27 FAW 80 148 129 451 249.6
28 アウディ 110 136 758 424 △ 44.1
29 インフィニティ 460 276 266 402 51.1
30 ポルシェ 154 378 386 365 △ 5.4
合計(他ブランドを含む) 117,586 124,010 198,700 205,133 3.2

注:合計には小型商用車を含む。
出所:カザフスタン自動車ビジネス協会「カザフスタン共和国自動車市場レポート 2024年1~12月」

カザフスタンの自動車ディーラー、オルビス・オートのディナラ・イスカコワ社長は、2024年の市場の特徴として一般ブランド車が牽引し、プレミアムセグメント車の販売が停滞・減少したことを指摘する。2023年には7,322台のプレミアムセグメント車が販売され、市場全体の3.7%を占めたが、2024年には販売台数が減少し、事前の予測では、シェアが3.3%に低下するとしている(「フォーブス・カザフスタン」2024年12月25日)。BMW、アウディ、中国のEXEEDはいずれも、2023年に好調だったが、2024年にはほぼ半減し、メルセデス・ベンツも2023年に好調だったが、2024年は減少に転じた。

イスカコワ氏によると、プレミアムセグメント車の需要は、供給不足に陥った新型コロナウイルス禍時の反動により、2021~2023年に一時的に盛り上がったものの、販売は一服した。プレミアムセグメント車とは裏腹に、低価格帯の車については、2023年から2024年の2年間で1,100万テンゲ(2万3,400ドル、1ドル=約470テンゲ)以下の価格帯の車の供給が拡大し、市場は60%以上成長した。

中国車販売がさらに拡大

ブランド別にみると、現代、シボレー、起亜の3大ブランドの販売が減少した一方で、ほとんどの中国ブランド車は2024年に高い成長率を達成した。例えば、奇瑞汽車は21.7%増、JACは56.7%増、ハバルは45.3%増、ジェトゥールは2.4倍、長安は39.8%増、Geely は2.3倍だった(表1)。上位30ブランドのうち、16の中国ブランドが売り上げを伸ばしている。2024年12月末までに合計25の中国ブランドがカザフスタン市場に進出している。

自動車評論家のディヤス・ワリハン氏は中国車の人気が高まっている主な理由について、ロシアで生産され、ユーラシア経済連合(EAEU)内で関税を支払うことなくカザフスタンに供給されていた外国ブランド車が国内市場から撤退したことだと指摘する(「デジタル・ビジネス」2025年6月11日)。同氏によると、ロシアでの生産から撤退したことで、カザフスタン市場から姿を消したブランドとしては、フォルクスワーゲン、ルノー、日産(2019年4月11日付ビジネス短信参照)などがある。それらは消費者にとって手頃な価格で買える一般車のセグメントを占めていたが、撤退後は代替として中国車が席巻しているという。

2023年に拡大した中国車市場は2024年も続いた。人気上位20車種では、2023年にはわずか5車種だったのに対し、2024年には半数の10車種を中国車が占めている(表2)。

表2:自動車販売店における主要ブランド・モデル乗用車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
No. ブランド名/モデル 2021年 2022年 2023年 2024年 前年比
1 シボレー コバルト 14,605 23,178 30,425 26,537 △ 12.8
2 現代 ツーソン 2,378 8,862 14,409 22,389 55.4
3 起亜 スポーテージ 2,093 3,321 10,503 8,834 △ 15.9
4 現代 エラントラ 3,174 4,981 5,975 6,520 9.1
5 チェリー ティゴ2 3,678 5,310 44.4
6 ハバル M6 2,390 5,185 116.9
7 チェリー ティゴ7プロ 39 2,324 4,309 4,907 13.9
8 現代 サンタフェ 2,014 2,969 7,433 4,423 △ 40.5
9 JAC J7 918 1,409 3,844 4,350 13.2
10 起亜 ソレント 1,054 2,132 3,043 4,208 38.3
11 現代 ソナタ 2,135 4,563 4,770 4,092 △ 14.2
12 ジェトゥールX70 1,169 3,792 224.4
13 長安 CS55PLUS 109 3,255 3,678 13.0
14 トヨタ カムリ 5,599 991 3,724 3,385 △ 9.1
15 ハバル ジョリオン 286 354 1,684 3,097 83.9
16 起亜 シード 1,571 2,856 3,044 6.6
17 Geely Emgrand 579 3,009 419.7
18 チェリー ティゴ4 98 2,966
19 トヨタ LCプラド 2,263 3,511 1,462 2,727 86.5
20 ジェトゥールX70ЗPLUS 1,119 2,620 134.1

出所:カザフスタン自動車ビジネス協会「カザフスタン共和国自動車市場レポート 2024年1~12月」

その結果、2019年の新車販売市場に占める中国ブランド車の割合は1.96%だったが、2023年に25.2%を占め、2024年には38.3%に上昇した。イスカコワ氏は、この傾向は今後も続き、今後1~2年で中国ブランド車が同国の自動車市場の50%を占めるようになると予測している(「フォーブス・カザフスタン」2024年12月25日)。

生産台数は1.2%減

2024年のカザフスタンの乗用車生産台数は13万4,884台となり、過去最高だった2023年の13万6,459台(2024年6月4日付ビジネス短信参照)から1.2%減少した。主要ブランドの生産台数が減少し、現代は7.1%減、起亜は3.3%減、JACは26.5%減となった(表3)。

表3:主要ブランド・モデル別組み立て台数 (単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
ブランド名/モデル 2021年 2022年 2023年 2024年 前年比
(%)
前年比
現代 26,035 37,205 48,857 45,364 △ 7.1 △ 3,493
ツーソン 2,501 11,557 15,765 21,881 38.8 6,116
エラントラ 4,894 6,134 6,048 8,022 32.6 1,974
サンタフェ 3,142 4,876 7,632 4,887 △ 36.0 △ 2,745
ソナタ 2,541 5,857 4,896 3,792 △ 22.5 △ 1,104
カスティン 1 2,239 223800.0 2,238
シボレー 34,138 40,019 38,089 39,270 3.1 1,181
コバルト 16,901 28,464 23,707 33,843 42.8 10,136
オニックス 6,868 3,224 △ 53.1 △ 3,644
起亜 9,850 15,262 24,825 23,998 △ 3.3 △ 827
スポーテージ 2,160 3,583 11,344 9,192 △ 19.0 △ 2,152
ソレント 1,368 2,015 2,960 4,423 49.4 1,463
シード 1,914 2,247 3,151 40.2 904
K5 720 2,442 1,954 2,563 31.2 609
セラート 538 1,222 2,483 2,288 △ 7.9 △ 195
JAC 5,520 7,652 17,465 12,833 △ 26.5 △ 4,632
J7 1,856 3,421 11,967 4,837 △ 59.6 △ 7,130
S3 960 644 220 2,477 1025.9 2,257
ジェトゥール 5,230 11,305 116.2 6,075
X70 1,376 5,259 282.2 3,883
X70+ 1,746 1,889 8.2 143
シュコダ 1,599 1,599
コディアック 1,339 1,339
合計(他ブランドを含む) 82,772 105,629 136,459 134,884 △ 1.2 △ 1,575

注:各ブランドの合計台数には、表にある車種以外の台数も含む。
出所:カザフスタン自動車ビジネス協会「カザフスタン共和国自動車市場レポート 2024年1~12月」

カザフスタン自動車産業最大の生産拠点のサリアルカアフトプロム工場では、起亜、シボレー、中国のJAC、ジェトゥール、そして2024年末からチェコのシュコダを組み立てる。カザフスタンの総生産台数に占める同工場のシェアは、2023年の64.1%から、2024年には66.3%(8万9,474台)と微増した。

自動車販売大手アスタナ・モータース傘下の国内第2位の乗用車メーカー、ヒュンダイ・トランス・カザフスタンの2024年の現代車の生産台数は4万5,364台で、2023年の4万8,857台から7.1%減少した。同社が現地生産する現代自動車のブランド「ジェネシス」車も含めると、カザフスタンの総生産台数に占める同社のシェアは、2023年の35.8%から2024年には33.7%に減少した。

2024年のカザフスタン製自動車の国内販売台数は13万1,351台で、2023年と比べ6.5%減少した。主な理由は、輸入車、特に中国からの輸入車の増加だ。

中国ブランド車中心に生産拡大、輸出も

カザフスタン国内での生産計画を見ると、販売が好調な中国ブランド車の生産が拡大する見込みだ。アスタナ・モーターズ・マニュファクチャリング・カザフスタンは、アルマトイ近郊に建設中のマルチブランド工場で、奇瑞汽車(ブランド名:チェリー)、長安、長城汽車(同:ハバル、タンク)の乗用車9車種の生産を2025年から開始する予定だ(2024年6月4日付ビジネス短信参照)。新工場の生産能力は年間9万台を計画している。2024年の奇瑞汽車、長安、長城汽車(ハバル、タンク)の総販売台数が3万7,000台に満たないことを考えると、新工場で生産された車種は、ロシアを含むユーラシア経済連合の近隣諸国に輸出される可能性が高い。アスタナ・モータース親会社のアスタナ・グループのヌルラン・スマグロフ会長によると、同工場の生産台数の40%は国内市場で販売され、60%はCIS諸国に輸出されるという(「フォーブス・カザフスタン」(2024年5月23日))。

韓国ブランド車の生産も拡大する見込みだ。カザフスタン最大の自動車メーカーで、サリアルカアフトプロム工場を傘下に持つアリュール(Allur)グループは、既に中国ブランドのJACとジェトゥールの乗用車を生産しているが、韓国の起亜車の生産能力を大幅に増強し、コスタナイ州の新拠点で年間7万台の生産を目指す。工場は2025年10月に稼働する予定で、初期段階ではソレントを、2026年1月からはスポーテージの生産を開始する予定だ(「フォーブス・カザフスタン」(2024年9月10日))。

執筆者紹介
ジェトロ・タシケント事務所
ウラジミル・スタノフォフ
2015年からジェトロ・タシケント事務所勤務。ウズベキスタンの経済状況や企業動向の調査や分析を担当。