日本とつながりが深いニッテ大学
インドの大学と地方企業の連携(1)

2025年4月18日

インド工科大学(IIT)やインド理科大学院(IISc)などは、優秀な理系人材を豊富に輩出する大学として日本でも徐々に知名度が高まっているが、インドには他にも優良大学が数多く存在する。日本国内の人材不足もあり、日本企業の間でもインド人材の需要がますます高まっている。ただ、情報不足などにより、インドの新卒者の採用が難しいと感じている企業の声も多く聞く。日本企業の求める人材像をよく理解し、日本に関心の高い学生を把握して、日本企業に提案してくれる大学の存在は貴重だ。南部カルナータカ州西海岸のマンガルールにある私立ニッテ大学はその1つだ。本稿では、同大学の活動、次稿では同校の卒業生を採用した日本の地方企業を取り上げる。

インド教育省の最新の「全インド高等教育調査2021-2022PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(9.3MB)」によると、インド国内には大学・大学相当の教育機関(注1)は1,168校、カレッジ(注2)は4万5,473校存在しており、高等教育に修学している学生は全体で約4,330万人に上る。一方、2023年度時点で日本の大学などに在籍する学生数は、810大学を含めた高等教育機関で約364万人と、母集団の大きさの違いは一目瞭然だ。

日本の経済産業省の「IT人材需給に関する調査(2019年)」によると、2030年には日本で最大78万7,000人のエンジニア人材が不足する見込みだ。一方、インドではSTEM(科学・技術・工学・数学)教育が普及していることから理系人材が豊富といわれる。2022/2023年度(2022年4月~2023年3月)は約250万人がSTEM教育を修了した。また、約450万人のテクノロジー人材が産業界で活躍しており、毎年約150万人のエンジニアリングの学位を取得した卒業生が新たに労働市場に供給されている。この層の厚さが、日本でのインド人材への注目度の高さにつながっているとみられる。

日本を熟知するつなぎ役がいるニッテ大学

インドの大学の採用システムは各大学によって異なるケースが多く、また州によっても学期の期間などが統一されていない。日本での新卒一括採用とはシステムが大きく異なる。インドで日本企業の採用方法や、日本に関心の高い学生のことを理解している大学は多くはないが、ニッテ大学はその1つだ。同大学は36の教育機関からなる総合私立大学群で、医学や医療関連全般、工学、経営学、人文科学など多岐にわたる学問分野を提供しており、約2万5,000人の学生が在籍する。インド教育省が発表する「インド国内大学ランキング(NIRF)2024」では、大学総合部門で66位、歯科部門で6位(A・Bシェティ記念歯科大学)、薬学部門で41位(NGSM薬科大学)にランクインしている。

大学群の1つ、NMAM工科大学は、2024年度時点で15学部に4,980人の学生が在籍しており、2023年度は231社から1,212人の学生が内定を得た。同大学が日本とのつながりを構築したきっかけは、30年以上にわたり日本企業やインドIT企業の日本法人で活躍したハリクリシュナ・バート氏が、2019年に同大学の国際連携部長に就任したことだ。同年に12人の学生が日本企業に就職して以来、これまで100人以上の学生が35社の日本企業や在インドの日系企業に就職した。就職先は大企業だけでなく、中部圏や北関東の中堅中小企業も多い。就職先の業種も多岐にわたり、半導体、自動車関連部品、電子部品、医療機器などの製造業だけでなく、印刷会社や金融機関、人材派遣会社など様々だ。

同大学では、計測機器を手掛けるニデックアドバンステクノロジーや印刷関連事業の小林クリエイトがキャンパス内に研究拠点を設立しており、産学連携にも力を入れている。日本の大学との協力では、宮崎大学、九州工業大学、京都先端科学大学、立命館大学、聖マリアンナ医科大学、金沢大学と覚書を交わしており、積極的に学生や教員の交流が行われてきた。現在は日本語教育も実施している。選択科目として40時間の初級日本語コースを設置し、履修したすべての科目の成績の平均値(CGPA)が7.8以上の優秀な学生に対してのみ門戸を開いている。毎コース60人の学生が日本語を学んでおり、過去に履修した学生の約半数は実際に日本に渡航している。

バート部長によると、「企業が提示する採用ポストの業務内容や職能要件をもとに学生を選出する。日本語コースを履修した学生を中心に、成績や性格面などを考慮し、日本企業になじみやすい学生をある程度選考して、日本企業に提示する」ことで、双方のミスマッチを最大限防ぐ配慮を行っている(2024年6月17日取材)。こうした丁寧な対応が評価され、NMAM工科大学から採用実績のある日本企業の紹介により、新規の日本企業からの引き合いも増えているという。

学生の約7割は地元カルナータカ州の出身。カルナータカ州は、大都市と比較して娯楽が少ない地方都市だ。ここで学んだ学生は日本の地方都市と親和性があり、日本の地方都市で就職して活躍する学生も多い。次稿では、同大学から学生の採用を行い、さらには産学連携プロジェクトへと発展させ、インドへの進出を果たした金沢市の企業について取り上げる。


注1:
大学・大学相当の教育機関とは、議会または州法に基づき学位を授与する権限を与えられている教育機関を指す。
注2:
カレッジとは、独自の名称で学位を授与する権限を持たず、大学から認定を受けた学習課程を提供し、単位取得の証明書を授与する教育機関を指す。

インドの大学と地方企業の連携

  1. 日本とつながりが深いニッテ大学
  2. 澁谷工業(金沢市)の取り組み
執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所
大野 真奈(おおの まな)
2017年、ジェトロ入構。ものづくり産業部環境・インフラ課、福島事務所を経て2023年1月から現職。