澁谷工業(金沢市)の取り組み
インドの大学と地方企業の連携(2)
2025年4月18日
本連載の前編では、インド南部カルナータカ州の私立ニッテ大学が、日本企業に就職する卒業生を多く輩出していることを紹介した。後編では、本大学から、新卒者を採用する地方の中堅企業の事例として、石川県金沢市の機械装置メーカー、澁谷工業を取り上げる。19人のインド国籍の社員を擁する同社の採用の背景や海外大学との連携、今後の展望などについて、宮前和浩常務執行役員に聞いた(2024年6月19日取材)。
外国人の具体的職務を各部署にヒアリング
同社は、飲料の無菌充填(じゅうてん)システムで、国内で約8割のシェアを持つ。このシステムを主力製品とするパッケージングプラント事業に加え、工作加工や半導体・電池製造システムなどを扱うメカトロシステム事業、選果選別システムなどを扱う農業設備事業、再生医療システム事業を展開する。グループ全体で在籍する約3,800人のうち、日本の外国人籍従業員は約80人。そしてインド人従業員19人のうち16人が金沢市内で業務に従事している。海外拠点は、米国に製造販売拠点、中国、台湾、タイ、マレーシア、インドネシアに販売およびメンテナンスなどのアフターフォローを行う現地法人がある。

澁谷工業は2009年に初めて外国人技能実習生を受け入れ、これまでに中国とタイから受け入れた実習生に対して、機械の組み立てを3年間指導してきた。インドの高度外国人材の採用を検討したきっかけは、ニッテ大学から学生を採用した経験のある企業からの紹介で、同大学国際連携部長のハリクリシュナ・バート氏に会ったことだった。単なる人手不足の解消ではなく、国籍や文化的背景の異なる社員を迎えることで会社内の多様化とグローバル化を実現し、イノベーションの促進、海外への事業拡大を加速することが狙いだ。
高度人材の採用に向けた検討と準備を行うにあたり、まずは配属する部署や任せる業務内容について精査するため、各部署へ外国人材の受け入れや具体的な職務に関するヒアリングを行った。その結果、機械設計、電気設計、情報技術部門でエンジニアポストの需要が判明した。また、社内からのフィードバックには、「次世代の機械やシステムの開発を加速させるためのチームに、海外からの高度人材は欠かせない」との声もあった。
各部署から吸い上げた求人要件から、人事部で求人票や職務記述書を作成し、ニッテ大学側に提出した。そして応募のあった学生を対象に、書類による一次選考とウェブ面接による二次選考を実施した。選考のポイントは、会社や業務への関心、日本語クラスの履修実績、日本への関心や日本での就業意欲だ。また、日本での暮らしや澁谷工業への順応度合の確認においては、日本企業と学生の採用のマッチング経験を豊富に持つハリクリシュナ氏の推薦内容も参考にした。
最終的には、プログラミングやデータサイエンスを履修した10人に内定通知を出し、内定者は2023年10月末に同社に入社した。彼らは、入社から約半年間は、午前中に日本語研修、午後に技術研修を受講し、2024年4月からは日本人の新卒社員と共に新入社員研修に参加した。研修を受け入れた現場からは、「インド人社員は日本人社員と比較してより技術的な専門性が高く、特に情報技術に関しては使用できる言語数が多く優秀だ」と高評価だった。経営陣からは、日本人への能力向上の波及効果や社員の底上げの期待が寄せられた。なお、外国人材と働く上で心がけたことは、わかりやすい日本語で話すこと、共通の認識を持っているかどうかを細かく確認すること、技術用語は同時翻訳ソフトなどで英語にして意思疎通を図ることが挙げられた。

インド市場進出への布石も
インド人高度人材には、同社の海外展開の推進役としての役割も期待されている。同社は、主力製品であるパッケージプラント製品を、ボトル入り茶飲料が市場に多く流通するタイや、ボトル入り飲料水が多く売られる中国をはじめ、インドネシア、マレーシア、韓国、米国などに輸出している。足元の海外売上高比率は全体の3割ほどだ。人口減少による日本国内市場の縮小を見込んで、2030年から海外事業をさらに強化していく。
順調な経済成長を背景に上位中間層の拡大がすすむインドにも進出を計画している。現在インドには、同社の医療機器が年間約2,000台出荷されており、半導体製造装置の納入実績もある。飲料や製薬業界で使用されるパッケージプラント製品にも、インド国内のメーカーからの引き合いが増えている。2024年8月にはマーケティングと顧客開拓の拠点としてインドに営業拠点を設立しており、2025年6月までには現地法人化を進める予定だ。

澁谷工業は、採用面以外でもニッテ大学と関係を強化している。産学連携の覚書を締結し、金沢大学を含めた3者での連携が動き出している。技術・人文知識・国際業務の在留資格を保有する、日本の国籍別在留外国人数は、中国やベトナムはそれぞれ9万人であるのに対し、インドは1万2,177人にとどまっている(2023年12月1日時点)。日本語で入手できるインドの大学の情報が限られていることもあり、インドの高度人材が日本で活躍している事例は現状多いとは言えない。今後本事例のような取り組みが日本で知られることで、インドのトップ大学と日本の大企業の連携だけでなく、インドの地方大学と日本の地方企業の連携も増えることを期待したい。
インドの大学と地方企業の連携
- 日本とつながりが深いニッテ大学
- 澁谷工業(金沢市)の取り組み

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ベンガルール事務所
大野 真奈(おおの まな) - 2017年、ジェトロ入構。ものづくり産業部環境・インフラ課、福島事務所を経て2023年1月から現職。

- 執筆者紹介
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ジェトロ知的資産部高度外国人材課
スワスティック・クルカルニ - 2023年、ジェトロ入構。同年3月から現職。