コンプライアンス対応の必要性
米国デミニミス制度廃止の衝撃(2)

2025年10月27日

米国のデミニミス制度廃止で、800ドル以下の貨物でも正式申告と同等のクライテリアとコンプライアンスが求められるようになった。HTSコードの明記や保証金の納付など、越境EC事業者にとって高度な通関対応が必要となる。米国の越境EC市場を展望する3本シリーズの2本目の本稿では、主にデミニミス制度廃止で求められる通関手続きについて解説する。

デミニミス制度の恩恵で米国は世界第2位のEC市場に成長

トランプ政権は2025年5月2日、米国への貨物輸入にあたり、中国と香港を原産とする少額貨物について、免税輸入制度(デミニミス制度)を廃止し、8月29日には、同措置の対象を全世界に拡大した。これにより、米国向けの越境EC(主にB to C、一部B to Bも含む)は、ビジネスモデルの転換期を迎えた。

一般的にデミニミス制度は、当該国・地域が独自に定める非課税基準額を超えない範囲の商品に対して、輸入時の関税やその他諸税を免除するという税制面に注目が集まりがちだ。しかし、輸出入に必要な書類や手続きを一般貿易よりも簡素化し、国境を越えた物品の流動性を高める側面があることも見逃せない。ペーパーワークと手続きの簡略化は、米国のEC市場へのアクセスを容易にしていた要因の1つだった。

800ドル以下でも輸入申告手続きが一般貿易と同レベルに

米国の輸入申告方式には、大きく2つある。(1)輸出品の評価額が2,500ドル未満の略式申告(Informal Entry)と、(2)2,500ドル以上の正式申告(Formal Entry)だ。(1)のうち、特に課税評価額が800ドル以下の場合がデミニミス適用対象で、関税を含む諸税が免除され、必要な手続きも基本情報の提出のみだった(表1参照)。

しかし、全世界を対象にデミニミス制度が廃止されたことで、800ドル以下の商品にも、正式申告で求められる課税基準や手続きと実質的に同等のクライテリアが適用されることになった。正式申告では一般貨物の輸入として扱われ、課税方法は従価税または従量税で、輸入手続きとペーパーワークは商業取引に必要な条件に準ずることになる(表2参照)。

表1:米国の輸入申告形式別のクライテリア
関税評価額 800ドル以下
(デミニミス制度)
800ドル超~2,500ドル未満 2,500ドル以上
輸入申告形式 Informal Entry(略式) Informal Entry(略式) Formal Entry(正式)
諸税(関税等) 免除 従価税または従量税 従価税または従量税
ペーパーワーク インボイスなど、基本書類だけ
(CBPフォームの提出不要)
一般貨物より簡易な書類
(CBP Form 3461または7523)
一般貨物に準ずる
(CBP Form 7501、保証金必要)

出所:米国税関・国境警備局(CBP)、在米通関企業各社ウェブサイトなど

表2:デミニミス制度廃止後のクライテリア
キャリア 申告形式 関税・税金 必要書類 有効期間
民間の国際宅配便(クーリエ) Formal Entry(正式)と同等 一般的な課税と同様
従価税または定額税
インボイス、HTSコード、原産国証明、Entry Summary(CBP Form 7501)、保証金(Bond)など
国際郵便
(EMS)
簡易申告(定額税の暫定処理) 80〜200ドル/品目か一般的な課税と同様を選択 インボイス、原産国情報、簡易税申告書(USPS対応) 2026年2月28日以降は、一般的な課税だけ

出所:米国税関・国境警備局(CBP)、在米通関企業各社ウェブサイトなど

主に越境ECで米国向けに輸出されていた商品は、インボイス上の輸入申告額をベースにデミニミス制度の適用可否が判断された。適用可の場合、正式申告で必要な対象商品ごとのHTSコード(米国の関税分類番号)の確認などは要せず、最短数時間程度で通関した後、米国内の目的地に配達できた。こうした簡易的な輸入手続きが存在したことで、2024年の通関件数が22年比での倍増を可能にした。

また、米国の輸入課税評価はFOB価格を基準にしている。FOB価格は貨物輸送料と輸送保険料を含まない価格のため、実質的に輸出国での商品取引額に近くなり、中国製の安価な商品の流入を容易にしたとも考えられる。だが、デミニミス制度廃止で、通関にあたって高いコンプライアンス要件が求められるようになった。米国の複数メディアが、(1)貨物の通関遅滞が増え、配送までのリードタイムを見通しづらくなった、(2)予想以上の関税額が商品価格に上乗せされたことで、商品購入者が不満を持った(商品をキャンセルした、購入したECモールの商品ページで低評価が付けた)ケースを報じた。

米国への輸出入に求められるコンプライアンスが強化

デミニミス制度の廃止で、輸入対象品の価額にかかわらず、米国への輸入時の関税率は基本的に一般貿易と同じになった。デミニミス制度適用の場合は不要だった原産国やHTSコード10桁を、関税評価のため商業インボイスに明記する必要がある。一般的に、輸入国の税関が輸入対象品のHTSコードの正誤を決定する。そのため、輸出者がHTSコードを十分に確認せずに郵送し、税関で疑義が生じるケースがある。その場合、税関での留置きや通関遅滞、または課徴金などにつながる可能性がある。

輸入者に対しても、コンプライアンス要件が増えた(表3参照)。特に、保証金納付には、注意を要する。

保証金とは

正式申告では、輸入者が関税や諸税を支払わなかった場合や輸入品が米国の規則に違反していた場合は、罰金や没収費用が発生する。こうした場合にCBPが損失を被らないようにするため、輸入者はCBPが認定する保証会社(Surety)と契約して、保証金(Customs Bond)を納める必要がある。

略式申告で輸入する場合、従前は、食品などの現物検査が生じ得る品目を除き保証金の提出義務はなかった。しかしデミニミス制度の廃止で、個人輸入でも輸入者または代理者が保証金を納める必要が生じている。

納付実務

実務的には、個人が保証会社を通じて契約をすることは煩雑なことから、通関業者を通じた代理手続きになる。また、輸入の責任者を明らかにするため、輸入者情報をCBPに登録する必要がある。

法人の場合は、輸入者側の責任者の署名、または輸入者からの代理権授与書(POA:Power of Attorney)を基に委託された通関業者(Custom Broker)が手続きを行う。輸入者が個人の場合は、略式申告では不要だった社会保障番号(SSN:Social Security Number)などの個人情報の提出が必要になる。

個人情報をそのまま外部に出すことがはばかられる場合は、法人と同様に通関業者のようなサードパーティに委託することも可能だ。

保証金の種別

保証金には、(1)継続保証(Continuous Bond)と、(2)単発保証(Single Transaction Bond)の2種類がある。

(1)は1年間有効で、複数の通関業者に適用可能。年1回の契約で自動適用になるため、手続きや通関の迅速化につながるが、初期費用が高く契約管理が必要になる。

(2)は、1件限りの輸入通関に向いている。初期費用は安く手続き自体は簡単だが、輸入ごとの手続きになるため手間がかかる。そのため、輸入頻度が少ない個人でも、通関業者に委託する場合は一般的に継続保証が選ばれる。

表3:越境EC輸出時に求められる主要な書類とコンプライアンスの要件

輸出者 Exporter
書類 コンプライアンス要件
商業インボイス 商品の詳細な説明と価格を記載
パッキングリスト すべての品目と数量を明確に記載
HTSコード分類(10桁) 正確なHTSコードを使用して分類
原産国表示 商品の原産国を宣言・証明
正確な配送ラベル キャリアが正式申告に対応していることを確認
輸出ライセンス(該当の場合) 規制対象品に必要な輸出ライセンス取得
輸入者 Importer
書類 コンプライアンス要件
商業インボイス インボイスが貨物内容と一致していることを確認
パッキングリスト 品目の詳細な内訳を提供
申告概要(CBPフォーム7501) ACE (Automated Commercial Environment)から電子申告
保証書類(単発または継続) 関税支払いとコンプライアンス保証のための保証を取得
輸入業者番号(EINまたはSSN) CBPに輸入業者番号を登録
通関業者契約 申告のために認可された通関業者と契約
代理権授与書 通関業者が輸入者情報をCBPに登録するために必要

注:品目によって必要となる書類が異なるため、輸出者は輸出前に事前の確認が重要。
出所:在米通関企業各社ウェブサイトなど

執筆者紹介
ジェトロデジタルマーケティング部ECビジネス課
志賀 大祐(しが だいすけ)
2011年、ジェトロ入構。展示事業部展示事業課、ジェトロ・メキシコ事務所海外実習、お客様サポート部貿易投資相談課、海外調査部米州課、ジェトロ・メキシコ事務所などを経て2024年10月から現職。