EV市場の現状
消費者視点で考えるインドEV四輪市場(1)

2025年12月2日

インドの自動車市場は世界有数の市場規模を誇っており、2024年の自動車販売台数(注1)は522万6,784台と、中国、米国に次ぐ世界で3番目の市場だ。昨今のインドでは、人口の増加や所得水準の向上、安定的な経済成長が、自動車市場の拡大に好影響をもたらしている。その一方で、大気汚染や水質汚染など、深刻な環境問題に直面しているのも事実だ。また、中国を中心に輸入に依存する部分が多く、貿易赤字額は年々拡大傾向にある。インド政府は、これらの問題を改善すべく、電気自動車(EV)の普及を促進してきた。EV市場は、これまでに二輪車・三輪車を中心に登録台数を大きく伸ばしてきた一方で、四輪車のシェアはEV登録台数全体の約5.6%と、現状では発展途上にある状況だ。

本連載(2部構成)では、EV四輪車に対する「消費者目線からの購入障壁」を探るべく、エンドユーザーである消費者に対し、ラウンドテーブル(注2)や家庭訪問を交えた調査を実施した。本稿では、統計データをもとにEV市場の現状を見ていく。

登録台数は、コロナ禍以降、急速に増加

図1は、過去8年間(2017~2024年)のEV登録台数の推移を示している。新型コロナがまん延した2021年以前まで、登録台数は横ばいで推移していたが、2022年以降は急速に増加した。表1は、車種別の登録台数を示している。2021年以降、二輪車の割合が著しく増えており、二輪車を中心にEV市場が拡大してきたことがわかる。二輪車は、他の車種に比して価格帯が相対的に低廉で、農村部を中心とした低所得層でも購入できることが普及の要因として考えられる。

図1:インドのEV登録台数の推移
新型コロナがまん延した2021年以前まで、登録台数は横ばいで推移していたが、2022年以降は急速に増加した。

注:登録台数には、二輪・三輪・四輪車など(商用車、バス、トラックなど含む)を含む。
出所:VAHAN発表資料を基にジェトロ作成

表1:インドのEV登録台数の推移(車種別)(単位:万台、%)
販売台数(万台) 構成比(%)
二輪車 三輪車 四輪車など 二輪車 三輪車 四輪車など
2017年 0.2 8.3 0.3 1.7 95.4 2.9
2018年 1.7 11.0 0.3 13.1 84.6 2.3
2019年 3.0 13.3 0.3 18.2 80.0 1.8
2020年 2.9 9.0 0.5 23.4 72.5 4.1
2021年 15.6 15.8 1.7 47.1 47.7 5.1
2022年 63.1 35.1 4.3 61.6 34.2 4.2
2023年 86.0 58.4 8.8 56.2 38.1 5.8
2024年 114.9 69.1 11.0 58.9 35.4 5.6

注:四輪車には、商用車、バス、トラックなどを含む。
出所:VAHAN発表資料を基にジェトロ作成

四輪車市場は、タタ・モーターズが圧倒的なシェアを誇る

インドのEV市場における四輪車のシェアは表1のとおり、直近2024年時点で約5.6%と二輪車や三輪車と比べて普及が限定的だ。メーカー別のシェア(表2参照)を見ると、地場タタ・モーターズ(以下、タタ、注3)が61.7%と圧倒的なシェアを誇っており、四輪車市場を牽引している。上海汽車集団(SAIC)傘下のJSW・MGモーター(以下、MG)もEV四輪車市場に名乗りを上げてきた。2023年に発売した小型車の安価モデル「Comet EV」が躍進を遂げ、登録台数が前年度(9,549台)から2倍以上伸展した。

表2:インドの2024年EV四輪車登録台数・シェア(メーカー別)(単位:台、%)
メーカー 登録台数(台) 構成比(%)
タタ・モーターズ 67,789 61.7
JSW・MGモーター 21,802 19.8
マヒンドラ&マヒンドラ 7,838 7.1
BYD 2,952 2.7
PCAモーターズ 1,875 1.7
その他 7,688 7.0
合計 109,944 100.0

出所:VAHAN発表資料を基にジェトロ作成

表3は、インドのEV四輪車市場でシェアの大きい上位3社(タタ、MG、マヒンドラ&マヒンドラ)の商品ラインアップだ。これを見ると、タタは他社に比して多くの商品を展開していることがわかる。価格帯を見ても、タタの四輪車は100~200万円といった手頃な価格で購入できる自動車(Tiago.ev、Punch.ev、Tigor.evなど)を複数展開している。なお、首都ニューデリー近郊の北部グルグラム(旧グルガオン)にはEV専用のショールーム「Tata.evストア」が開設されている(写真参照)。加えて、同社は英国の自動車メーカー「ジャガー・ランドローバー」の親会社でもあり、欧州のEV技術を取り込んだ開発体制を構築している。MGは前述したとおり、Comet EVが若者に人気で、2023年11月に地場の鉄鋼大手JSWグループと合弁会社「JSW・MGモーター」を設立し、積極的な投資を行ってきた。これまで、インドのEV四輪市場における中国系企業の存在感は限定的だったが、地場企業の資本導入により同社の販売網は拡大傾向にある(2025年4月17日付ビジネス短信参照)。

表3:インドのEV四輪車主要メーカーの商品ラインアップ
メーカー 主要モデル 価格帯
タタ・モーターズ Tiago.ev 136~189 万円
Punch.ev 170~237 万円
Tigor.ev 212~234 万円
Nexon.ev 212~294 万円
curvv.ev 297~374 万円
Harrier.ev 365~501 万円
JSW・MGモーター Comet EV 127~170 万円
Windsor EV 238~313 万円
ZS EV 306~348 万円
マヒンドラ&マヒンドラ XEV 9e 372~531 万円
BE 6 321~470 万円

注:1ルピー=1.7円に換算して算出。
出所:各社サイトを基にジェトロ作成


EV専用のショールーム「Tata.evストア」(ジェトロ撮影)

政府によるEV自動車販売の推進

インド政府は、2030年までに新車販売に占めるEVの割合を二輪・三輪車で8割、乗用車(四輪)で3割、商用車で7割にするという目標を掲げている。この野心的な目標を実現するために、政府はこれまでに生産・販売面から支援策を打ち出してきた。

生産面では、EVおよびバッテリー製造企業に対して、生産量や売上げに応じてインセンティブを支給するといった生産連動型優遇策(PLI)を設けている。そのほか、2025年6月には、国内生産促進のための輸入関税優遇策のガイドラインを発表した。これにより、投資金額や国内付加価値などの各基準達成を条件に、CIF価格3万5,000ドル以上のEVを関税率15%で5年間輸入可能となる見込みだ。

販売面では、EV購入者への補助金制度として、2015年4月~2024年3月にEV生産早期普及策(FAME)を2フェーズに分けて導入した。2024年4月~7月には、EV二輪車と三輪車の普及を目的とした電動モビリティー促進スキーム「EMPS2024」を実施した。現在は、EVの販売促進に加え、充電インフラの拡充を目的としたスキーム「PM E-DRIVE」を展開している(施行期間:2024年10月~2028年3月)。

EVの普及促進については、中央政府のみならず州政府単位でも促進策が展開されている。国立インド改革委員会(NITI Aayog)によれば、合計29の州および連邦直轄地が独自の政策を通達済みだ(図2参照)。主要州における取り組み事例は以下のとおりだ(表4参照)。

図2:EV政策の通達状況
EVの普及促進については、中央政府のみならず州政府単位でも促進策が展開されており、国立インド改革委員会(NITI Aayog)によれば、合計29の州および連邦直轄地が独自の政策を通達済みだ。

出所:NITI Aayog「India Electric Mobility Index 2024」からジェトロ作成

表4:州政府の主なEV促進策
政策名・期間 特徴
デリー準州 Delhi Electric Vehicles Policy 2020
2020年8月~2023年8月
(※期間は発表当初。3度にわたり施工期間を延長中)
(1)EV普及目標
  • 政策発表から4年以内に新車登録台数に占めるBEVの割合を25%
(2)補助金
  • 二輪車:最大3万ルピー
  • 三輪車:最大3万ルピー
  • 四輪車:最大15万ルピー
(3)インフラ整備
  • 家庭向け:6,000ルピーを上限として、充電設備あたり最大100%の補助金を支給。そのほか新設ビルには20%のEV向け駐車場設置を義務付け。
  • 公共向け:3キロごとに、充電またはバッテリー交換設備を設置。
マハーラーシュトラ州 Electric Vehicle Policy 2025
2025年4月~3月
(1)EV普及目標
  • 二輪、三輪車:40%
  • 自家用四輪車:30%
  • バス、大型貨物:15~40%
(2)補助金
  • 二輪車:最大1万ルピー
  • 四輪車:最大15万ルピー
  • バス、大型車:最大200万ルピー
(3)インフラ整備
  • 州道、国道沿いに25kmごとに急速充電ステーション設置
  • 新築集合住宅にEV充電設備の設置を義務化
カルナータカ州 Karnataka Clean Mobility Policy 2025–2030
2025年2月~2030年2月
(1)目標
  • クリーンモビリティー関連分野での5,000億ルピーの投資誘致
  • バリューチェーン上での10万人の雇用創出
(2)補助金
  • 零細企業:20~35%(最大350万ルピー)
  • 小規模企業:20~30%(最大2,250万ルピー)
  • 中規模企業:20~25%(最大1億ルピー)
  • 大企業:20~25%
(3)インフラ整備
  • 2,600カ所の充電ステーション新設
タミル・ナドゥ州 Tamil Nadu Electric Vehicle Policy 2023
2023年2月~2028年2月
(1)補助金
  • 生産面:5年間の電気税免除など
  • 販売面:5,000~100万ルピー
(2)インフラ整備
  • 公共充電ステーション設置金額の25%
ハリヤナ州 Haryana Electric Vehicle Policy 2022
2022年7月~2027年7月
(1)補助金
  • 生産面:企業規模・投資金額に応じて、最大で2億ルピー
  • 販売面:最大で100万ルピー支給、登録料免除など
(2)インフラ整備
  • 公共充電ステーションに対する電力料金の見直し

注:掲載州については、NITI Aayog「India Electric Mobility Index 2024」をもとに「先進的に取り組み中(Frontrunner)」または「一定の取り組みが評価できる(Performer)」として位置付けられた上位5州をピックアップ。
出所:各州政府公表の資料を基にジェトロ作成

なお各州のEV政策とは別に、「乗り合いタクシー」としてもインド国内で多用されている自動三輪車(オートリキシャ)について、ディーゼル車両の規制が厳格化されている。デリー首都圏・周辺地域の大気汚染対策を所管する大気質管理局(CAQM)は2022年、デリー準州、ハリヤナ州、ウッタル・プラデシュ州、ラジャスタン州を対象に、2023年1月以降に新規登録できるオートリキシャを圧縮天然ガス(CNG)またはEVに限定するよう要請した。既存のディーゼル車両の自動三輪車に関しても、デリー首都圏での走行は2026年12月末までに段階的に禁止される予定だ。同規制は、環境規制としての意味合いが強いものの、EV化促進の一端を担っているといえる。

EV四輪車の購入障壁を消費者視点で調査

これまで、統計データや促進策などを概観してきたが、インド政府はEV四輪車の普及に向けて力を注いできたことが伺える。次稿では、消費者へのアンケート調査やヒアリングを通じて、政府の姿勢とは裏腹にEV四輪車の普及が限定的である原因を消費者目線で検討していく。


注1:
四輪車(新車)の総販売台数。乗用車、商用車、トラック、バスを含む。
注2:
役職や立場、年齢など関係なく数人で円卓を囲み、自由に意見交換を行う会議を指す。
注3:
タタ・モーターズは2025年11月に商用車部門を「タタ・モーターズ」、乗用車部門を「タタ・パッセンジャー・ビークルズ」に分社化したが、本稿では乗用車に関する記載についても「タタ・モーターズ」に統一している。

消費者視点で考えるインドEV四輪市場

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執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
野本 直希(のもと なおき)
2016年大手生命保険会社入社、2025年から現職。