R&Dや調達も支援
インドの財閥・ビジネスリーダーに聞く協業(3)

2025年10月16日

インド進出日系企業1,434社(2024年)のうち、中小企業が占める割合は15%程度だといわれている。大企業と比べてリソースが限られる中小企業は、インド進出へのハードルがより高い状況がうかがえるが、物事の変化が早く、突発的に起こる問題に臨機応変に対応することが求められるインドでのビジネスでは、中小企業の意思決定の早さや機動力がマッチする場面もあるだろう。その上で、現地事情に精通した地場企業との協業は、ビジネスの支えとなることが期待できる。インドのビジネスリーダーたちに日本との協業について聞く連載最終回の本稿では、日本の中小企業やインド市場への理解などについて聞いた。

南部の有力財閥、ムルガッパ・グループ

インド南部タミル・ナドゥ州チェンナイを地盤とする財閥のムルガッパ・グループ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、肥料、砂糖、茶葉、ゴムなどの農業分野、自動車部品、研磨材およびセラミックス、電気機器などのエンジニアリング、金融サービスなどを展開。最近は、半導体ビジネスにも積極的に参入している。三井住友海上火災保険と協働して保険事業を手掛けるほか、日本企業との協業経験も多数あり、最近はスタートアップ企業との協業にも関心を示す。日本企業への理解も深い同グループのM.M.ムルガッパン元会長に、日本企業の印象などについて聞いた。

質問:
日本企業や日本のビジネス文化をどう捉えているか。
答え:
日本企業とは、45年以上にわたり関係を築いてきている。時間はかかるが、日本企業とはとても親しい関係を築くことができると感じている。日本企業は、出会って間もないうちは自社の考えや戦略の開示が限定的で、なかなか本音を話してくれないと感じる。そのためインド側は、日本企業は一体何を考えているのだろうと疑心暗鬼になる場合があるように思う。しかしこれは、日本はインドとは異なり、担当者が案件を上司に諮りながら進めていくボトムアップの文化であることなどに起因すると理解している。文化的な違いを踏まえ、私はインド側には、日本企業に対しアグレッシブになりすぎないこと、時間をかけて、敬意を表しつつ、打ち解けていくことを伝えている。相互理解が何より重要だ。

時間をかけてインドを深く理解することが重要

質問:
日本の中小企業に対して、どのように思うか。
答え:
中小企業は人材が限られ、1人でマネジメントから技術、管理などを担当する場合も多く、その状況は日印で同様だ。私の知り合いの日本の中小企業の代表は、そうした多忙な状況で短期間のインド出張を繰り返すことが多いが、回数を少なくしても、少しまとまった期間インドに滞在することをお勧めしたい。少し時間をかけて滞在することで、インドのさまざまな面が見えてくるだろう。インドを深く理解する必要がある。日本の中小企業のインドビジネスの成功事例が広まれば、企業が積極的にインドに人を送れるようになるだろう。若い世代に任せていくことも重要だ。
質問:
日本企業との協業が期待できる分野は。
答え:
協力できる事項の1つとして、私が役員を務めるインド工科大学(IIT)マドラス校のリサーチパークの活用がある。先日も日本のスタートアップと面談し、投資を決定した。同リサーチパークにはインキュベーション施設があり、各国企業が利用している。日本企業もR&D(研究開発)機能を同リサーチパークに設置することができる。

ムルガッパ・グループのM.M.ムルガッパン氏(本人提供)

自動車部品大手マザーサン・グループ傘下のユニビルド

北部ウッタル・プラデシュ州ノイダに本社を置く自動車部品大手のマザーサン・グループ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、ワイヤーハーネスや内外装部品などの製造・販売を手掛けている。44カ国に425拠点を有し、海外ビジネスや海外企業との協業経験も豊富だ。中でも日本企業との関係性は深く、1986年に住友電装と合弁会社を設立、現在協業する企業は9カ国23社に拡大している。

最近の動きとしては、2023年に美里工業、2024年に八千代工業(現マザーサンヤチヨ・オートモーティブシステムズ)、2025年にはアツミテック(現マザーサンアツミテック)がグループ傘下となった。同グループが世界各地の拠点やこれまでの経験を活用し、インドを含むサプライチェーン多様化のため立ち上げたB to Bベンチャー事業がユニビルド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだ。同社は、インド進出時の工場建設やサプライチェーン構築、世界各国の調達先紹介や調達委託などを支援する。同社のパンカジ・アガルワル最高執行責任者(COO)に、その取り組みについて聞いた。

自動車以外の分野でも調達活動やインド進出を支援

質問:
ユニビルドは日本企業との協業をどう考えるか。また、日本企業に対し何を提供できるのか。
答え:
日本企業は技術と品質に優れ、規律を守り、最も信頼できるパートナーだと認識している。当グループは日本企業との協業経験が多数あるが、日本文化を尊重することを心がけている。
インド進出の有無にかかわらず、当社のネットワークを活用し、世界中から企業の調達活動(原材料、部品、機械・設備および消耗品)の支援をすることが可能だ。また、インド進出に関心のある日本企業に対し、進出時の支援も提供できる。マザーサンは主に自動車、航空・宇宙、医療関連部品を扱っているが、ユニビルドではこれら以外の様々な業種でも協業や支援を検討している。インド政府がインセンティブを提供している電子分野なども有望だろう。
質問:
インド進出を検討する日本の中小企業への関心は。
答え:
中小企業との協業にも関心は高い。企業規模などの条件はなく、当グループの日本法人MSSL Japanに日本人担当者が在籍しているので、関心のある企業にはぜひ気軽にコンタクトしてほしい。
中小企業は合弁に踏み切れない企業も多いだろうと想像するが、当社は市場開拓や量産支援を含む日本国外での工場設立やサプライチェーン構築を支援することができる。

ユニビルドのパンカジ・アガルワル氏(ジェトロ撮影)

インドの財閥・ビジネスリーダーに聞く協業

執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課 課長代理
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課、 ジェトロ・ニューデリー事務所(2015~2019年)を経て、2019年11月から現職。