2024年は新車登録増、中国車が存在感(スペイン)
生産はHEV成長とBEV移行の踊り場続く
2025年9月16日
2024年のスペイン自動車市場は、新規登録台数が121万9,267台(前年比8.1%増)、生産台数が237万7,091台(3.0%減)となった。ハイブリッド車(HEV)が需要と生産を牽引する一方、バッテリー式電気自動車(BEV)の対中相殺関税発動の影響下でも中国ブランドは急成長し、国内拠点におけるBEVサプライチェーン構築が加速した。
新車登録はトヨタが3年連続で首位
スペイン自動車工業会(ANFAC)の年次報告(スペイン語)によると、2024年の自動車新車登録台数は121万9,267台と、前年比8.1%増加した。内訳は乗用車101万6,907台(7.1%増)、小型商用車16万5,850台(13.6%増)、トラック・バス3万6,510台(12.5%増)で、全体として回復傾向が続いている。EU主要市場が軒並み前年割れとなる中、スペインが際立って好調だった背景には、堅調な国内景気や観光需要拡大に伴うレンタカー・バス需要の増加、さらに、10月末の東部洪水被害後に自動車需要が急増したことなどが挙げられる。ただし、新型コロナウイルス感染拡大以前の2019年水準には依然として2割近く届いていない。
主要メーカー・ブランド別の新車登録台数(表1参照)では、トヨタ(レクサスを含む)が10万4,773台(20.3%増)で3年連続首位となった。各市場の事情に応えるために多様な選択肢を準備するマルチパスウエー戦略の下、主力のHEVに加え、プラグインハイブリッド車(PHEV)やBEVの販売も順調に伸び、シェアは10.3%と、2位のセアト(クプラを含む、8万7,731台、13.2%増、シェア8.6%)を引き離している。3~5位のフォルクスワーゲン、現代、ルノーも、HEVモデルが大幅に増加した。
メーカー・ブランド | 販売台数 |
前年比 伸び率 |
シェア |
シェア (前年比) |
---|---|---|---|---|
トヨタ/レクサス | 104,773 | 20.3 | 10.3 | 1.1 |
セアト/クプラ | 87,731 | 13.2 | 8.6 | 0.5 |
フォルクスワーゲン | 66,904 | 4.7 | 6.6 | △ 0.2 |
現代 | 64,855 | 10.2 | 6.4 | 0.2 |
ルノー | 64,237 | 14.3 | 6.3 | 0.4 |
起亜 | 59,915 | △ 9.6 | 5.9 | △ 1.1 |
ダチア | 54,777 | 12.1 | 5.4 | 0.2 |
プジョー | 51,767 | △ 11.5 | 5.1 | △ 1.1 |
メルセデス | 47,067 | 9.5 | 4.6 | 0.1 |
BMW | 45,249 | 29.4 | 4.4 | 0.8 |
アウディ | 38,770 | △ 4.7 | 3.8 | △ 0.5 |
シトロエン | 38,475 | △ 8.9 | 3.8 | △ 0.7 |
シュコダ | 38,255 | 20.4 | 3.8 | 0.4 |
日産 | 31,519 | 26.5 | 3.1 | 0.5 |
MG | 30,770 | 5.9 | 3.0 | △ 0.0 |
オペル | 25,719 | △ 6.6 | 2.5 | △ 0.4 |
フォード | 25,596 | △ 16.6 | 2.5 | △ 0.7 |
ボルボ | 18,178 | 25.2 | 1.8 | 0.3 |
マツダ | 17,526 | 8.1 | 1.7 | 0.0 |
テスラ | 16,680 | 26.0 | 1.6 | 0.3 |
その他 | 88,147 | 5.5 | 8.7 | △ 0.1 |
合計 | 1,016,910 | 7.1 | 100.0 | ― |
注:トヨタはレクサスを含む、セアトはクプラを含む。
出所:スペイン自動車工業会(ANFAC)のデータを基にジェトロ作成
中国メーカーは急速な販売網構築を背景に、前年比31.2%増、2年前の4.5倍に当たる計4万8,689台を登録し、シェアは4.8%に達した〔(参考)日本車16.8%、韓国車12.8%〕。中国系ブランド数は24に拡大しており、そのうち6割強を占めるのは中国上海汽車(SAIC)傘下のMG(3万770台、15位)だ。これに奇瑞汽車(Chery)の「オモダ」(7,786台、26位)、比亜迪汽車(BYD、5,393台、28位)が続く。
新車登録台数上位5モデルは、ダチア「サンデロ」(3万2,994台)、トヨタ「カローラ」(2万2,129台)、セアト「イビサ」(2万2,021台)、現代「ツーソン」(2万1,595台)、MG「ZS」(2万386台)だった。
ハイブリッド車が初めてガソリン車抜く
燃料タイプ別の乗用車新車登録(表2参照)では、HEVが引き続き絶好調だった。2024年のHEVの登録台数は39万2,391台に達し、市場全体の38.6%を占め(前年比6.7ポイント増)、初めてガソリン車(同37.2%)を上回ってトップとなった。
燃料タイプ | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 |
前年比 (%) |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
台数 | 台数 | 台数 | 台数 | 構成比 | 台数 | 構成比 | ||
ハイブリッド車(HEV) | 137,428 | 219,426 | 239,672 | 302,846 | 31.9 | 392,391 | 38.6 | 29.6 |
ガソリン車 | 423,579 | 387,931 | 341,063 | 387,609 | 40.8 | 378,687 | 37.2 | △ 2.3 |
ディーゼル車 | 235,890 | 171,164 | 139,599 | 118,646 | 12.5 | 96,380 | 9.5 | △ 18.8 |
プラグインハイブリッド車(PHEV) | 23,310 | 43,227 | 47,791 | 62,164 | 6.5 | 58,559 | 5.8 | △ 5.8 |
バッテリー式電気自動車(BEV) | 17,920 | 23,680 | 30,521 | 51,612 | 5.4 | 57,376 | 5.6 | 11.2 |
その他(注) | 13,083 | 14,049 | 14,730 | 26,482 | 2.8 | 33,514 | 3.3 | 26.6 |
合計 | 851,210 | 859,477 | 813,376 | 949,359 | 100.0 | 1,016,907 | 100.0 | 7.1 |
注:その他は、燃料電池車(FCV)、天然ガス自動車(NGV)、液化石油ガス自動車(LPG)を含む。
出所:ANFACのデータを基にジェトロ作成
一方、プラグイン車(BEVとPHEV)の普及はやや鈍化した。BEVは前年比11.2%増の5万7,376台(構成比5.6%)と伸びたものの、PHEVは5万8,559台(同5.8%)で5.8%減少した。両者を合わせたプラグイン車のシェアは11.4%で、前年から0.6ポイント縮小し、欧州平均の20.4%を大きく下回った。2024年のPHEV不振は、BEVのラインナップ拡大や低価格化によってPHEVとの価格差が縮小し、購入補助金や自治体の税優遇を考慮すると、消費者がBEVを選好する傾向が強まったことが背景と考えられる。
プラグイン車の普及を左右する購入補助制度(MOVES III)は2025年も継続しており、乗用車の場合、電気だけによる航続距離90キロメートル(km)以上のBEV/PHEVは最大7,000ユーロ(廃車を伴わない場合は4,500ユーロ)、航続距離30km以上90km未満のPHEVは最大5,000ユーロ(同2,500ユーロ)の補助を受けられる。2024年末時点で稼働中の公共充電器は3万8,725基(うち高速充電は9,786基)と、前年比32.2%増えたが、設置や送電網接続の許認可に時間を要するため、人口100万人当たりの基数は805基にとどまり、EU平均の1,877基を大きく下回っている。
なお、2025年に入ると、プラグイン車のシェアは急速に拡大しており、6月時点では新規登録に占める割合が16.8%で、前年から5.4ポイント増加した。これは、購入補助の継続に加え、中国メーカーを中心とした手頃で航続距離がBEV並みのPHEVモデルの投入が大きく寄与したとされる。
対中BEV相殺関税回避の動き
2024年10月に正式導入されたEUによる中国製BEVへの相殺関税(2024年11月6日付ビジネス短信参照)は、中国からの乗用車輸入にも大きな影響を与えている。輸入額は2020年の約700万ユーロから2023年には約28億ユーロに拡大したが、同年9月のEUによる反補助金調査開始を境に減少へ転じ、2024年は約22億ユーロに縮小した(注1)。特にBEV輸入の落ち込みが顕著で、輸入額に占める割合は2023年まで8割超だったのが、2024年は61%、2025年前半(1~5月)には26%まで低下した。
一方で、中国からのPHEV輸入は2024年秋以降に急増し、同年は前年比2.9倍、2025年1~5月期には前年同期比7.1倍と急拡大し、ついにBEV輸入額を上回った。PHEVは相殺関税の対象外(適用は10%の通常関税のみ)なことに加え、スペインでは電気による航続距離90km以上のモデルはBEVと同等の補助金・減税措置を受けられる。このため、中国メーカーは相殺関税を回避すべく、BEVから航続距離の長いPHEVへの輸出シフトを進めたとみられる。2025年7月時点では、人気PHEV上位10モデルのうち4モデルを中国車が占めている。
欧州市場でのEV低迷、CAFE規制対応で減産
スペインは世界第9位、欧州ではドイツに次ぐ第2位の自動車生産国で、国内には欧米主要メーカーの完成車工場が11拠点ある。ANFACによると、2024年の自動車生産台数は237万7,091台で、前年比3.0%減少した。うち乗用車は191万8,244台で、小型のスポーツ用多目的車(SUV)と小型車が全体の約3分の2を占めている(図参照)。
生産減少の理由は輸出減で、その背景には需要・供給両面の要因がある。主要輸出先の欧州市場でのプラグイン車の需要低下に加え、2025年からの新たな二酸化炭素(CO2)排出基準規則(注2)に対応するため、BEV製造ライン導入に伴う生産調整が進められた。
輸出台数は前年比4.0%減の212万3,584台に減少した。輸出の93.1%が欧州とトルコ向けで、上位5カ国はフランス(39万2,000台)、ドイツ(36万3,000台)、英国(26万8,000台)、イタリア(26万2,000台)、トルコ(20万3,000台)。欧州以外ではメキシコ(3万7,000台)、モロッコ(2万1,000台)、オーストラリア、日本(いずれも1万3,000台)が主要輸出先となっている。

出所:ANFAC
BEVの垂直統合サプライチェーン構築が進む
2024年のスペインでの乗用車生産台数は192万台だった。燃料別では、全体の6割を占めるガソリン車が113万台(前年比10.9%減)、ディーゼル車が11万台(42.2%減)と大幅に減少した一方、HEVは47万台と58.8%増加し、全体の4分の1近くを占めるまで拡大した。HEV生産を牽引したのはルノーだ。バリャドリッドとパレンシアの工場で計7モデル(うち1車種はルノーがOEM供給する三菱自動車の「ASX」)を生産しており、HEV車は3車種。また、2025年末には三菱自動車のHEV車の新型SUV「グランディス」も追加される予定だ。
一方、BEV、PHEVといったプラグイン車の生産は伸び悩んだ。2024年のBEV生産は約9万台(前年比9.1%減)、PHEVも同9万台(27.8%減)にとどまり、両者の合計は全体の9.2%にすぎない(前年比3.3ポイント減)。
こうした中で、EUの乗用車・バンのCO2排出基準規則への対応を迫られる各社は、BEVを軸とした垂直統合型のサプライチェーン構築を本格化させている。国内最大規模の生産能力(年産100万台近く、表3参照)を持つステランティスは、2025年1月に小型BEV専用の新プラットフォーム「STLA Small」をビーゴとサラゴサの工場に導入することを正式決定し、報道によると、2027年後半から量産を開始する計画という。電池面では中国の寧徳時代新能源科技(CATL)と合弁で41億ユーロを投じ、サラゴサにリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池工場〔最大50ギガワット時(GWh)、2026年末に稼働予定〕を建設する。
メーカー(OEM含む) | 2019年 | 2024年 | 増減 |
主な生産車種 (2025年5月現在) |
---|---|---|---|---|
ステランティス(注2) | 93 | 98 | 5 | ビーゴ工場(プジョー「2008」、シトロエン「ベルランゴ」、トヨタ「プロエース・シティ」など同OEM車ほか、バッテリー組み立て)、サラゴサ工場(オペル「コルサ」、ランチア「イプシロン」など)、マドリード工場(プジョー「208」、シトロエン「C4」、バッテリー組み立て)。BEV/PHEVモデルは11車種を生産。 |
セアト/クプラ/アウディ | 50 | 48 | 1 | バルセロナ工場(セアト「レオン」など、クプラ「フォルメントール」、その他、アウディ「A1」)。BEV/PHEVモデルは5車種を生産。 |
ルノー/三菱 | 48 | 35 | △ 13 | パレンシア工場(ルノー「オーストラル」「ラファール」「エスパス」「メガーヌ」)、バリャドリード工場(ルノー「キャプチャー」「シンビオズ」、三菱「ASX」)。BEV/PHEVモデルは4車種を生産。 |
フォルクスワーゲン(VW) | 32 | 27 | △ 5 | ナバラ工場(「タイゴ」「Tクロス」など)。BEV/PHEVモデルはなし。 |
メルセデス・ベンツ | 15 | 13 | △ 2 | バスク工場(「Vクラス」「ヴィトー」など)。BEV/PHEVモデルは2車種を生産。 |
フォード | 35 | 12 | △ 23 | バレンシア工場(「クーガ」)、バッテリー組み立て。BEV/PHEVモデルは1車種を生産。 |
イベコ | 4 | 5 | 1 | マドリード工場(「S-WAY」「X-WAY」「T-WAY」)、バリャドリッド工場(「デイリー(キャブ付きシャシー)」)。BEV/PHEVモデルはなし。 |
注1:2025年年始発表/報道時の各社暫定値のため、合計はANFACの生産台数データとは一致しない。
注2:ステランティスの2019年はグループPSA(当時)としての数値。
出所:各社プレスリリース、ANFAC、報道を基に作成
フォルクスワーゲン(VW)グループも、2万ユーロ台前半の低価格で最大航続距離450kmの新型BEV「ID.2」と派生SUV計4車種を2026年からセアトのバルセロナ工場とナバラ工場で本格生産する予定で、バレンシアでは傘下の電池子会社パワーコ(PowerCo)が大型電池工場(最大40~60GWh)を2026年に稼働させる計画だ。さらに、ナバラ工場向けには、韓国・現代モービスがナバラ県にバッテリーシステム工場を建設中だ。
いずれのプロジェクトも、EU復興基金を財源とするスペイン政府の官民連携助成「EV・コネクテッドカー分野の戦略的復興・変革プロジェクト(PERTE-VEC)」を活用しており、6月には第4弾(予算12億5,000万ユーロ)の公募が始まった(2022年3月28日付、2023年3月30日付ビジネス短信参照)。他のメーカーもこの枠組みを利用し、バッテリー生産やBEVサプライチェーン強化に動くとみられる。
スペインでの自動車生産は、電動化の移行期の需要不足と生産調整が続く可能性がある。しかし、中期的には、各社のBEV製造拠点の構築や、2026年からバルセロナでBEV共同生産を予定する奇瑞汽車のような新興プレイヤーの参入により、生産台数は回復が期待される。
- 注1:
- 輸入額には欧州メーカーの中国生産車も含まれるが、大部分は中国メーカーのモデルと考えられる。また、2024年の登録台数が前年比3割増となったのは、中国製BEVへの相殺関税導入前の2023年中に輸入を積み増して在庫を確保し、それが翌年の登録に反映された可能性が高い。
- 注2:
- 米国の企業別平均燃費基準(CAFE)規制に相当するEUの「新車の乗用車・小型商用車(バン)のCO2排出基準に係る規則」では、2025~2029年に新車登録される乗用車の排出目標を1km当たり93.6グラム(2021年比15%削減)と定めており、未達成のメーカーには、超過1グラムごとに新車1台当たり95ユーロの罰金が科される。 2024年のEV需要の低迷を受け、欧州委員会は同規則を改正し、2025年7月より排出基準は維持するが、2025~2027年に限って単年ではなく3年間の平均値で順守状況をみるよう猶予を設けた(2025年4月7日付ビジネス短信参照)。

- 執筆者紹介
-
ジェトロ・マドリード事務所
伊藤 裕規子(いとう ゆきこ) - 2007年よりジェトロ・マドリード事務所勤務。