変化する英国の消費トレンドと産業構造
エシカル消費の浸透(1)
2025年5月14日
近年、英国では「エシカル消費」が広がりを見せており、消費者の価値観が変化している。日本製品の英国向け輸出においても、従来の価格や品質だけでなく、環境負荷の少なさや、共感を生むストーリーの提供が求められるようになっている。本レポートでは、英国の消費トレンドを概観し、エシカル消費の拡大が与える影響と、日本製品の輸出に求められる対応について、2部構成で考察する。
前編では、消費トレンドを見る上での前提となる、英国経済の現状と産業構造の特徴を概観する。
2024年英国経済は後半に減速、力強さを欠く個人消費
まずは、足元の英国経済の状況を確認する。パンデミック後期にかけて急速な回復を遂げたものの、2023年には成長が大きく鈍化。2024年は緩やかな持ち直しが見られるものの(表参照)、第3・第4四半期の実質GDP成長率はそれぞれ前期比0.0%、0.1%と減速している。失業率は2022年の3.8%から2024年には4.3%へと悪化し、賃金上昇率も2023年の7.0%から2024年は5.2%へと鈍化した。イングランド銀行(BOE、中央銀行)は2025年2月、過去6カ月で3度目の利下げを実施し、また予算責任局(OBR)は3月26日、2025年の成長率予測を前回予測の半分となる1.0%へと引き下げた。
インフレに関しては、国内の物価や賃金の上昇圧力は緩和しつつあるものの、依然高い水準になっている。BOEは、物価・エネルギーの価格が依然として高い状況が継続しているため、2025年第3四半期にはインフレ率(消費者物価指数上昇率)が3.75%まで上昇すると予測している。小売りの実績値に目を向けると、名目小売売上高は2022年以降右肩上がりで上昇しているが、物価変動の影響を除いた実質小売売上高は2023年、2024年ともに2022年実績値を下回っている。はびこる物価高が消費者の購買を抑制していると推測される(図参照)。米国による追加関税など国際的な通商政策の不確実性も高まっており、個人消費については楽観視できない状況が続く。
項目 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 |
---|---|---|---|---|---|
GDP成長率(実質) | △10.3% | 8.6% | 4.8% | 0.4% | 0.9% |
失業率 | 4.6% | 4.6% | 3.8% | 4.1% | 4.3% |
賃金上昇率(名目) | 1.7% | 5.9% | 6.2% | 7.0% | 5.2% |
消費者物価上昇率(CPI) | 0.9% | 2.6% | 9.1% | 7.3% | 2.5% |
出所:英国国家統計局(ONS)

注:2022年は基準年のため名目・実質とも同額。
出所:英国国家統計局(ONS)
歴史的な産業転換による製造業の衰退
続いて、英国の消費トレンドを理解するにあたり、産業構造の特徴とその成り立ちを整理する。英国の産業構造を日本と比較した際、大きく目立った違いは製造業の比率である。日本はGDPの2割程度を製造業が占めるが、英国では1割程度となっている。
かつては世界有数の工業国であった英国は、1979年に登場したサッチャー政権下で金融・不動産を中心とするサービス経済へのシフトが明確になった。これにより英国経済は金融サービスを中心に発展を遂げたものの、製造業の民営化や補助金削減、自由貿易の推進により海外生産と輸入依存が進行し、産業の空洞化が顕著になった。1970年には770万人以上であった製造業就労人口は、2024年には約271万人まで減少した。
こうした背景から、英国では日用雑貨(食品、家具、インテリア用品など)の分野においても国産品の存在感が希薄になり、低価格の輸入品が市場を席巻するようになった。かつて英国の製造業が誇っていた繊細な職人技や伝統技術を生かした製品は減少し、特に国内で生産されるテキスタイル、陶磁器、木工製品などは、一般消費者にとって手が届きにくい高級品へと移行していった。日常的に使用される製品の多くは海外生産品に置き換わり、現在では英国で売られている日用品やインテリア、ライフスタイル雑貨の大半が、欧州他国やアジアからの輸入品となっている。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ロンドン事務所 (執筆当時)
高橋 慧多(たかはし けいた) - 2017年、七十七銀行入行。2023年4月からジェトロへ出向し、2025年3月までジェトロ・ロンドン事務所に在籍。