2028年LA五輪での食文化体験と日本食市場への波及可能性(米国)

2025年9月8日

2028年に米国で開催が予定されているロサンゼルスオリンピック・パラリンピック(LA28、2028年LA五輪)に向け、現地では調達の動きが活発化するなど(2025年6月6日付ビジネス短信参照)、大会運営体制の整備が着実に進められている。食関連の運営では、選手・観客双方に対するサービスの質向上と効率化が期待されており、日系企業にとっても新たなビジネス機会となる可能性がある。

飲食提供体制の革新:選手村・観客向けサービス

LA28では、オンデマンド型の飲食提供サービスとして、ウーバーイーツ(Uber Eats)とのパートナーシップが発表されている(LA28ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。これにより、観客のみならず選手もスマートフォンなどを通じて飲食を注文でき、効率的かつ柔軟な飲食体験が可能となる。こうした取り組みは、大会期間中の革新的な体験の一環として位置づけられており、従来の選手村内での一括提供に比べて選手の食体験の選択肢が広がるとともに、地元飲食店への経済波及効果も期待される。こうした新たな飲食提供の仕組みは、現地の日本食レストランのビジネス展開や、日本産食材のさらなる普及につながる可能性がある。LA28とウーバーイーツのパートナーシップを活用するにあたり、日本食レストランや日本食材を扱う企業には、次のような取り組みが効果的だろう。まず、ウーバーイーツへの積極的な出店(店舗登録)を通じて、五輪期間中の需要増に対応し、広範な顧客層への認知拡大を図ることだ。また、ウーバーイーツでは環境配慮型の経営に力を入れている。サステナブルな包装材の使用などで、ウーバーイーツの利用者が、商品を受け入れやすくなる可能性がある。さらに、オリンピック期間中に合わせた限定メニューやキャンペーンの企画・展開により、日本食の魅力を効果的に発信し、ブランド認知の向上と販路拡大につなげることが期待できると考えられる。

UCLAによる選手村の食事提供

LA28では、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の食堂施設が、選手村の食事提供拠点として活用される予定だ〔カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕。同大学は、日常的に1万5,500人の学生に食事を提供しており、サステナブルフード(注1)の導入など、環境配慮型の運営が高く評価されている〔カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕。ランキング・レビューサイトを運営するニッチ(本社:ペンシルベニア州ピッツバーグ)による「大学学食ランキング」では、5年連続で全米1位を獲得している。多様性に富んだメニュー構成も特徴で、日本食も提供されている。LA28では、UCLAの食堂施設を既存インフラとして活用することで、コスト効率の高い運営が見込まれている。

観客向けの食文化体験:Cultural Olympiad

LA28の開催と並行して、「文化オリンピアード(Cultural Olympiad、注2)」が開催される予定だ(LA28ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。現在、詳細な運営体制および企画内容は準備段階にあるが、前回のパリオリンピック・パラリンピックで、ロサンゼルス郡芸術文化局(LA County Department of Arts and Culture外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)はパリの複数の団体と協力し、フードテンプル・カリナリーフェスティバル(Food Temple Culinary Festival)という食の祭典に参加した。その中で、同局は以下のような料理関連イベントを実施した。

  • 健康志向・植物ベースの「ファーム・トゥー・テーブル」料理教室
  • ロサンゼルスのファーマーズマーケットを再現

このイベントは、メキシコ、韓国、中国の影響を受けた料理も登場し、カリフォルニアの食の多様性を祝う内容となった。

ロサンゼルスは食文化の発信に積極的に取り組んでいる。特に食を通じて地域の多様性や持続可能性を表現する姿勢は、カリフォルニアの文化的特徴として国際的な文化交流の場で広く紹介されている。

今回のLA28の文化オリンピアードも、ロサンゼルスの多様性を祝うことを目的の1つとしており、フェスティバルやポップアップ出店などを通じて、日本を含む様々な地域の食文化の魅力を発信する機会が提供される可能性が高い。ロサンゼルス郡芸術文化局から関連情報が随時公開されており(ロサンゼルス郡芸術文化局ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)、今後の動向に注目が集まっている。

日系企業への示唆

ロサンゼルスがオリンピック・パラリンピックの開催地となることで、日本食市場のさらなる拡大が期待される。すでに同地域では日本食市場が大きく、世界中から集まる選手や観客に対して、日本食の魅力を直接伝える絶好の機会となる。特に、健康志向が高まる米国の消費者やアスリート層にとって、日本食は栄養バランスの観点から親しまれている食材であり、今後のビジネス展開において大きな可能性を秘めている。LA28を契機に、日系企業が現地パートナーと連携し、ブランド認知の向上や販路拡大を図ることは、米国市場での持続可能な事業展開に向けた有効な手段だ。


注1:
環境や社会、そして生産者にも配慮し、長期的に持続可能な食料生産や消費を目指す食品、食材。
注2:
スポーツの精神を芸術、建築、音楽、絵画などを通じて表現する催しとして、各オリンピックで開催されている文化的イベント。
執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所
新井 美乃(あらい よしの)
2025年7月から、ジェトロ・ロサンゼルス事務所で米国輸出支援プラットフォーム事業を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所 米国輸出支援プラットフォーム担当ディレクター(執筆当時)
木村 恒太(きむら こうた)
2010年4月 農林水産省 入省
2018年5月 在ロサンゼルス総領事館 副領事(食産業担当)
2021年6月 農林水産省
2022年8月から2025年8月までロサンゼルス事務所に在籍