アフリカの潜在市場に商機(ナイジェリア、タンザニア、コンゴ民)
3カ国の財閥企業が議論
2025年10月14日
アフリカ開発会議(TICAD)は、日本とアフリカ諸国との協力関係を築く重要な枠組みだ。1993年に開始し、「援助主導」から「ビジネス主導」へ転換してきた。
第9回会議(2025年8月20~22日)会期中には、ジェトロが「TICAD Business Expo & Conference(TBEC)」を主催した。本稿では、その初日メインステージ第3部のパネル「変貌するフロンティアとビジネスの新潮流」について紹介する(第2部については、2025年9月30日付地域・分析レポート参照)。このパネルでは、資源や人口増で注目を集める3カ国〔コンゴ民主共和国(DRC)、タンザニア、ナイジェリア〕のコングロマリットのリーダーが登壇。各国の成長戦略や課題や日本企業への期待を語った。
外務省の海外進出日系企業拠点数調査によると、アフリカに進出する日本企業は現在、約1,000社。その半数が、南アフリカ共和国(南ア)、ケニア、モロッコ、エジプトの4カ国に集中。地域的広がりを欠いている。
他方で、この「Big 4」以外のナイジェリア、DRC、タンザニアが、今後30年間で世界人口上位15カ国にランクインする予測になっている(表1参照)。潜在市場として、ポテンシャルが高いと言えるだろう。例えば、タンザニアの人口は2024年時点で6,856万人、世界22位。それが2054年には、約2倍の1億4,000万人に達する。非常に高い人口増加率だ(注1)。
人口増加だけではない。3カ国とも、資源を豊富に有している。まずナイジェリアは、アフリカ最大の石油産出量と天然ガス埋蔵量を誇る。またDRCは、重要鉱物を含む鉱物資源が豊富。コバルトで世界生産の76%、銅鉱石で同14%を占める(2024年時点、注2)。
表1:世界人口上位20カ国(2024年、2054年)
順位 | 国名 |
人口 (万人) |
---|---|---|
1 | インド | 145,094 |
2 | 中国 | 141,932 |
3 | 米国 | 34,543 |
4 | インドネシア | 28,349 |
5 | パキスタン | 25,127 |
6 | ナイジェリア | 23,268 |
7 | ブラジル | 21,200 |
8 | バングラデシュ | 17,356 |
9 | ロシア | 14,482 |
10 | エチオピア | 13,206 |
11 | メキシコ | 13,086 |
12 | 日本 | 12,375 |
13 | エジプト | 11,654 |
14 | フィリピン | 11,584 |
15 | コンゴ民主共和国 | 10,928 |
16 | ベトナム | 10,099 |
17 | イラン | 9,157 |
18 | トルコ | 8,747 |
19 | ドイツ | 8,455 |
20 | タイ | 7,167 |
順位 | 国名 |
人口 (万人) |
---|---|---|
1 | インド | 169,207 |
2 | 中国 | 121,485 |
3 | パキスタン | 38,945 |
4 | 米国 | 38,415 |
5 | ナイジェリア | 37,618 |
6 | インドネシア | 32,214 |
7 | エチオピア | 23,955 |
8 | コンゴ民主共和国 | 23,751 |
9 | バングラデシュ | 21,862 |
10 | ブラジル | 21,542 |
11 | エジプト | 16,720 |
12 | メキシコ | 14,969 |
13 | タンザニア | 14,032 |
14 | フィリピン | 13,506 |
15 | ロシア | 13,499 |
16 | ベトナム | 10,964 |
17 | 日本 | 10,242 |
18 | イラン | 10,197 |
19 | スーダン | 9,068 |
20 | トルコ | 9,062 |
出所:国連「World Population Prospects」(2024年)からジェトロ作成
そうしたことから近年、これらの国に力を入れる日本企業も出てきた。ナイジェリアでは、大塚製薬が2022年11月から、最大都市のラゴスでポカリスエットの店頭販売を開始。2023年11月には、南西部オグン州で生産工場建設を開始している(2023年4月14日付ビジネス短信参照)。また2023年8月には、地場企業のサクラル・インダストリーズが、ダイキン工業の空調機器を組み立て生産する事業を開始している(2024年4月16日付ビジネス短信参照)。
現地資源を生かし、段階的に事業拡大
第3部パネルでは、「アフリカの潜在市場」とも呼ぶべき3カ国の企業動向を紹介。日本企業に、どのような学びや協業機会が得られるかを提示する機会になった。今回登壇したのは、DRC、タンザニア、ナイジェリアで活躍する現地企業5社だ(表2参照)。まず各パネリストが自社の事業展開を紹介した。

本社 所在国 |
企業名 | 概要 | 登壇者名 | 役職 |
---|---|---|---|---|
DRC |
リバティー・グループ(Liberty SARL)![]() |
同国最大級の流通・小売・製造企業グループの1つ。南部(ルブンバシなど)で、スーパーマーケット事業などを広く展開。 | チャンダン・シャルマ氏 | 最高経営責任者 (CEO) |
DRC |
ビンマート・グループ(Vinmart Group)![]() |
同国最大のコングロマリットの1つ。スズ、タンタル、タングステンなどの資源採掘や供給網を構築。 | チャールズ・チバンダ・カソルワ氏 | 事業開発担当ゼネラルマネジャー、MES製造業委員会委員長 |
タンザニア |
CRDB銀行(CRDB Bank)![]() |
同国最大の商業銀行。DRCやブルンジなどにも進出。 | ボマ・ラバラ氏 | 最高商務責任者(CCO) |
タンザニア |
バクレサ・グループ(Bakhresa Group)![]() |
東アフリカを中心にアフリカ10カ国に展開するコングロマリット。食品加工を中心に、スポーツクラブ経営や新たに通信なども手掛ける。 | フセイン・スピア・アリー氏 | 渉外総括 |
ナイジェリア |
TGIグループ(Tropical General Investments Group)![]() |
食品・アグリビジネス、消費財、ヘルスケア、金融など幅広い事業。アフリカ、アジア、中東など13カ国に展開。 | ファルーク・モハメド・グメル氏 | 副会長 |
出所:ジェトロ作成
- リバティー・グループ(シャルマ氏)/DRC:
創業者である父親は1960年代初頭、インドからアフリカに移住。そこで立ち上げた事業が、リバティー・グループの起点になった。
同社は1970年代、DRCで電化製品の輸入販売からスタートした。その後、冷凍食品の流通に進出。さらに2000年代以降は、家具製造や食肉加工へ事業を拡張した。
現地資源を活用した製造業への転換を図ったのが、特に注目点だ。「DRCは輸入依存が大きい。現地で最初に製造を始める企業になりたい」と語るように、輸入代替と産業育成を重視している。
現在は、チェーンストア展開とサプライチェーンの整備により、DRC国内で流通網を確立している。1,500人の雇用を創出。50万人に製品を供給する規模に成長した。
今後は食品、水産、農業の生産・加工分野への投資を計画。日本企業との技術連携を通じて、さらなる事業拡大と地域経済への貢献を目指している。 - ビンマート・グループ(チバンダ氏)/DRC:
1997年に創業したビンマート・グループは、消費財の流通からスタート。現在では、鉱業、インフラ建設、再生可能エネルギー(再エネ)、リサイクリングなど、多角的に展開している。特に、コバルトや銅などの採鉱に注力し、「DRCは、新しいエネルギー社会に不可欠な鉱物の供給拠点」と強調する。
同社は、採掘後の廃棄物を再利用するリサイクリング事業や、太陽光・水力発電などの再エネにも投資。「クリーン・コンゴ」構想の下、循環型経済の実現を目指している。日本企業との技術連携に積極的で、技術協力と市場アクセスの拡大に関心を示す。 - CRDB銀行(ラバラ氏)/タンザニア:
CRDB銀行はタンザニア最大の商業銀行として、情報通信技術(ICT)を活用した金融包摂を推進している。
ラバラ氏は「取引の98%がデジタルチャネルで行われている」と言及。デジタルトランスフォーメーション(DX)による業務効率化と顧客利便性の向上を強調した。
ブルンジやDRCに展開し、地域的な金融ネットワークの拡張を図っている。さらに、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで、代表事務所を設置するライセンスを取得した。
日本企業との協業にも積極的。タンザニア進出を目指す企業に対して、投資誘致機関であるタンザニア投資センターと協力しながら、全面的にサポートする姿勢を示している。 - バクレサ・グループ(スピア氏)/タンザニア:
当社は1975年、小規模店舗として創業した。現在では、アフリカ10カ国に展開する食品加工・物流企業に成長した。スピア氏は「学ぶ姿勢を持って市場に臨めば、必ず成功できる」と述べ、現地の規制や文化に適応した戦略の重要性を強調する。
同社は、日本製の機械を多数導入。高品質かつ手頃な価格の製品をマスマーケット向けに大量生産している。
タンザニアを起点に、ルワンダ、ウガンダ、ケニア、マラウイ、モザンビーク、ザンビアなどに事業を拡大。現時点で、2万5,000人を雇用。売上高は10億ドルを超えている。 - TGIグループ(グメル氏)/ナイジェリア:
TGIグループは、創業45年。ナイジェリアを中心に、農業、食品加工、化学肥料、製薬、金融など多岐にわたる事業を展開する同族経営の多国籍企業だ。コメ生産は西アフリカ最大級で、ゴマなどを輸出している。加えて、ドバイ、タイ、インドなどに、製造拠点を構える。グメル氏は「アフリカ発のグローバル企業」としての成長を強調した。
従業員は2万5,000人。地域経済への貢献と雇用創出に寄与している。特に人材育成に注力。大学との連携を通じて、アフリカ内外で活躍できる人材を育てる教育プログラムを講じている。
日本企業との直接取引や技術移転にも強い関心を示す。
5社には、共通項がある。(1)小規模からスタートして、段階的に事業を拡大してきたこと、(2)現地資源・ニーズの活用、(3)雇用を創出し、人材育成に貢献していること、(4)サステナビリティーを追求し、地域に貢献していること、などだ。
アフリカビジネスのリスクは克服可能
アフリカ市場進出に当たり、パネリストは共通してリスクの存在を認めた。同時に、その克服の道筋を強調した。
最初のリスクは、「政治的・治安上の不確実性」だ。ナイジェリアでは、暴動や治安悪化の可能性を抱える。TGIグループのグメル氏はこの点、「安全ではない状況は確かに存在する。しかし、われわれは3年ごとに事業規模を倍増してきた。人材育成と柔軟性によってリスクを克服できる」と言及。現場適応力の重要性を示した。また、CRDB銀行のラバラ氏は「6人の大統領の下でビジネスをしてきたが、タンザニアの政権交代は常にスムーズだった」と強調し、政治の安定性を訴えた。リスクの程度は国ごとに異なり、単純に「アフリカは危険」とくくるべきではないとした。
第2に、「マクロ経済と為替の脆弱(ぜいじゃく)性」がある。為替変動や外貨不足は企業活動を制約し得る。しかし、例えばタンザニアには、大量(推定57兆立方フィート)の天然ガスを埋蔵。これを背景に輸出拡大を図り、外貨準備を厚くしている。CRDB銀行のラバラ氏は「GDP成長率は6%を維持し、(ベンチマークとされる輸入額の3カ月を上回る)4カ月分の外貨準備を保有している。タンザニアは天然ガスなどの資源も豊富で、日本企業にとっても魅力的な市場だ」と述べた。
第3に、「民族や言語の多様性」が挙げられた。民族や言語の多様性は市場参入の障壁とみられがちだ。しかし、リバティー・グループのシャルマ氏は「文化や需要の違いは、当社が製品展開の幅を広げる上で追い風となった」と論評し、むしろ機会だと強調した。ビンマート・グループのチバンダ氏も「言語は確かに多様だ。しかしほとんどの国で、英語やフランス語、ポルトガル語、アラビア語などの主要言語でビジネスが可能」と指摘。あわせて「アフリカの経済共同体〔南部アフリカ開発共同体(SADC)や東アフリカ共同体(EAC)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)など〕の進展により、貿易障壁は減少しつつある」ことにも触れた。制度的枠組みが多様性を資産化する方向に作用していることと強調したかたちだ。
総じて、リスクは不可避だ。それでも、「長期的視点、柔軟性、現地適応戦略をもってすれば、克服可能」「日本企業にとっても参入余地が十分にある」との認識で一致している。
日本企業のプレゼンスを回復するには
パネリストは、日本企業の技術力や品質、倫理観を高く評価している。同時に、現状ではアフリカでの存在感が薄れていると、指摘した。例えば、TGIグループのグメル氏は「かつてわが家には、日本製品であふれていた。しかし今や、中国やインドが市場に浸透している。両国に比べて日本は、慎重すぎる」と述べ、日本のプレゼンス低下を強調した。そこから浮かび上がる示唆は、3点に整理できる。
第1に、「現場に深く関与する姿勢の必要性」だ。ビンマート・グループのチバンダ氏は、「日本企業は、仲介業者を回避した直接取引や、現地製造への参入を通じて、アフリカ企業とのより深い関係構築が可能」と示唆。日本企業がアフリカ市場にコミットするよう呼び掛けた。バクレサ・グループのスピア氏も「多くの海外直接投資(FDI)は『コピー・ペースト戦略』で失敗する。現地調査を通じて、戦略をローカルニーズに合わせることが重要」と説明した。アフリカ市場で存在感を取り戻すには、リスクを取って現地に根差す姿勢が不可欠だ。
第2に、「戦略的パートナーシップの重視」だ。バクレサ・グループのスピア氏は日本企業に対し、「メディア情報に頼らず、大使館やジェトロ、コンサルタント、現地銀行などにパートナーを推薦してもらい、慎重にパートナーを選択してほしい」と強調。適切なパートナー選定と官民ネットワークの活用を促した。
第3に、「日本的価値観の強みの活用」だ。リバティー・グループのシャルマ氏は「日本企業の品質へのこだわり、従業員を大切にする姿勢、倫理的経営はアフリカ社会に大きなインパクトをもたらす」と指摘。日本の企業文化が現地社会に貢献し、ひいては他国と差別化するうえでの要素になり得ることを示唆した。単なる製品輸出にとどまらず、企業哲学の共有が競争優位を形成し得るだろう。
以上から、日本企業がアフリカ市場で持続的に成功するためには、現場密着型の戦略、信頼できるパートナーとの協働、日本的価値観の発信という3つの要件を備えることが重要だ。
「なじみのない」アフリカでも戦略的に商機を
今回のパネルを通じ、DRC、タンザニア、ナイジェリアで新興企業が大きく成長し、日本企業にとって有力なビジネスパートナー候補に変貌していることが見えてきた。リバティー・グループやビンマート・グループをはじめとするDRC企業は輸入依存から脱却し、製造業に進出している。バクレサ・グループやCRDB銀行は、域内展開と金融包摂を推進。TGIグループは、アフリカ域内外に展開する多国籍企業として存在感を高めている。
これまで日本企業のアフリカ展開はともすると、南アやケニアといった「なじみのアフリカ諸国」に偏りがちだった。しかし、日本企業には次の一手として、これまで高リスクと捉えていた市場にも目を向けてほしい。DRC、タンザニア、ナイジェリアといった新興市場は着実に成長している。下手に見過ごすと、機会損失となりかねない。
TICAD9を契機に、アフリカビジネスへのモメンタムはさらに醸成してきた。その結果を生かして、信頼できる現地パートナーと連携してリスクを抑えつつ、DRC、タンザニア、ナイジェリアでの商機を戦略的に捉えるべきだろう。
- 注1:
-
国連「World Population Prospects
」(2024年)参照。
- 注2:
-
米国地質調査所(USGS)「Mineral Commodity Summaries 2025
(9.9MB)」から引用。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
馬場 安里紗(ばば ありさ) - 2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課/途上国ビジネス開発課、ビジネス展開・人材支援部新興国ビジネス開発課、海外調査部中東アフリカ課、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2024年10月から現職。