ウィーライド、自動運転でグローバル展開を加速(中国)

2025年9月22日

中国で、新エネルギー車(NEV)の輸出が拡大を続けている。2024年は前年比6.7%増。128万4,000台と、過去最高を記録した(2025年6月27日付地域・分析レポート参照)。国内での過当競争を背景に、当地NEV企業が利益率の高い海外市場への進出を本格化した結果と言える。

こうした動きの中で、自動車メーカー各社は車両のスマート化や、自動運転技術の研究開発を一層加速。業界全体で、構造転換が進んでいる。次世代モビリティー市場で優位性を確立するには、自動運転技術の導入が決め手になるだろう。

この状況下、ウィーライド(WeRide)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは2017年の創業以来、自動運転の技術開発と商用化を推進してきた。その軸になったのが、自動運転OSを核に据えて自社開発した汎用(はんよう)プラットフォーム「ウィーライド・ワン(WeRide One)」だ。

本稿では、成長戦略やグローバル展開、日本市場への取り組みなどを追う。同社のグローバル・マーケティング・コミュニケーション部長、張羽雪氏に聞いた(インタビュー実施日:2025年6月9日)。

「ウィーライド・ワン」で戦略的展開が可能に

質問:
設立以来、自動運転分野でどう発展し、どう成果を出してきたか。
答え:
ウィーライドは、2017年に創業したテクノロジー企業。その後、中国、米国、アラブ首長国連邦(UAE)、シンガポール、フランスで自動運転ライセンスを取得。この5カ国で取得できたのは、当社が世界で唯一だ。
現在は10カ国30都市で、研究開発から実証、運用まで展開している。2019年には広州市で中国初の有料自動運転タクシーサービス「Robotaxi」を開始。累計運行日数は2,000日を超える。これまで自社の責任による安全に関わる事故は一度も発生せず、累計走行距離は4,000万キロを突破している。2024年10月25日には、米国のナスダックに上場。Robotaxiと汎用自動運転技術を中核とする企業として、世界的な注目を集めた。
「ウィーライド・ワン」は、ソフトウエア、ハードウエア、クラウドアーキテクチャーをモジュール化した汎用自動運転プラットフォームだ。このプラットフォームによって「1つのプラットフォーム、3つの応用シーン、5つの製品」という戦略的展開を可能にしている。つまり、「移動」「配達」「清掃」といった都市生活の3つのシーンに対して、前述のRobotaxi、自動運転ミニバス「Robobus」、無人配送車両「Robovan」、無人清掃車両「Robosweeper」などの5製品を展開することができる。さらに、自動運転レベル4(注1)の応用を通じて、ドイツのボッシュと提携。レベル2水準の運転支援ソリューションを提供している。
質問:
「ウィーライド・ワン」の主な特徴と強みは。
答え:
「ウィーライド・ワン」は、継続的な自己学習と最適化機能を備えた汎用自動運転プラットフォームだ。異なる都市や3つの主要応用シーン、レベル2とレベル4の各ソリューションから収集したデータをクレンジング。アルゴリズムのトレーニングに反映させることで、製品性能を絶えず向上させている。
また、最新の人工知能(AI)モデルを導入したことで、従来のルールベース型アルゴリズム(注2)と比べて、意思決定の柔軟性と精度が大幅に高まった。シミュレーションで生成した極端な状況のデータも学習対象にできる。例えば、歩行者の違法横断や車両の割り込み、透明な障害物の認識、小動物の回避、水たまりの通行判断など、複雑な交通環境への対応力を強化している。
ハードウエア面では、センサーキットをバージョン5.6に更新。軽量・コンパクトな設計を採用した。カメラ、ライダー(LiDAR)、ミリ波レーダー、位置決めモジュールを統合して、量産車への搭載を実現している。複数モジュールのセンサーにより、360度と200メートルの死角なし検知を可能にした。次世代の6.0バージョンは年内にリリースを予定している。

グローバル市場で先行

質問:
業界内競争に対応するため、どのように優位性を維持しているのか。
答え:
ウィーライドが自動運転分野でリーダー的地位を確立したのは、先見性のある技術判断を基に、数年の歳月をかけて「ウィーライド・ワン」プラットフォームを構築したことによる。これにより、当社はレベル4水準の自動運転技術で業界最多の製品ラインを有することになった。商業化と国際展開の両面で先行するかたちだ。
人材面では世界中に2,000人以上の従業員を擁し、そのうち約90%をエンジニアで構成している。技術人材のグローバルな分布により、競争力の高い開発体制を構築している。
知的財産戦略でも積極的な姿勢を示している。専利(特許、実用新案、意匠を含む)の累計出願件数は約1,300件に達し、うち半数以上が特許権だ。専利の登録率は80%を超える。国内外での積極的な専利戦略が、国際的な技術競争力の向上に寄与している。
質問:
ウィーライドはグローバル市場でどのように展開しているのか。
答え:
中国国内では、北京市、広州市、南京市、蘇州市、内モンゴル自治区オルドス市でRobotaxiの商業運行を実現している。特に北京市と広州市では、最高ランクのライセンスを取得した。主要交通ハブの空港や駅の周辺で、自動運転タクシーの運行が可能となっている(2025年5月15日付ビジネス短信参照)。
さらに、Robobus、Robovan、Robosweeperも20都市以上に導入済みだ。ボッシュとの協業による運転支援技術は、奇瑞汽車(チェリー)が高級電気自動車(EV)ブランド「エクシード」に採用している。

自動運転バスの運行(ジェトロ撮影)
海外展開は、中東から始めた。2021年にアブダビでRobotaxiサービスを開始している。2023年にはアラブ首長国連邦(UAE)の国家レベルで、全域・全車種を対象にする自動運転ライセンスを取得。2024年にはウーバーと提携して、アブダビで当社アプリ経由のRobotaxi配車サービスを開始した。今後5年間でさらに15都市への展開を計画している。ウーバーは、1億ドルの追加投資を表明済みだ。2025年5月にはアブダビで完全無人運転ライセンスを取得し、無人Robotaxiのテスト運行を開始した。
東南アジアでは、2022年にシンガポール法人を設立。現地の投資を受けて2023年、自動運転ライセンスを取得した。2024年にはセントーサ島でRobobusを導入し、現地企業CTMと連携してRobosweeperを運用している。
欧州市場では、株主のルノーグループと共同で、サービス展開を進めている。具体的には、2024年6月に開催された全仏オープン期間中に、Robobusによるシャトルサービスを提供。2025年には、(1)スペイン・バルセロナ市中心部でRobobusの試験運行や、(2)全仏オープン期間中の無人シャトルサービスの継続を予定している。
そのほか当社は、スイス・チューリッヒ空港と鉄道駅での自動シャトルサービス、南フランス地域での有料ミニバスの運行なども展開する予定。新規プロジェクトも進行中だ(2025年1月23日付2025年8月27日付ビジネス短信参照)。

日本の運転手不足などに注目

質問:
日本市場での自動運転技術の需要と可能性をどうみているか。
答え:
交通事故の主因は、人為的ミス(飲酒運転や運転疲労など)だ。自動運転技術には、(1)そうしたミスに基づく事故の防止に加え、(2)先進国での労働力不足の解消、(3)都市部の交通渋滞の改善、(4)環境負荷の低減、といった社会課題への対応策として注目が集まっている。これらの点は、日本市場が抱えるニーズと合致している。日本では高齢化の進行に伴い、公共交通や都市と地方間の移動サービスでの人手不足が深刻化。従来の人手によるサービスでは、個別の移動ニーズに応えるのが困難になっている。加えて、日本は持続可能な発展に強い関心を持っている。自動運転車の電動化による排気ガスの削減は、環境保護理念に合致する。
日本政府も自動運転技術の実用化を積極的に支援。試験運行区域の設定や戦略目標の明確化を通じて、スマート交通システムの構築を後押ししている。日本国内では現在、自動運転ミニバスの実証実験を実施中だ。このように、政策面からも前向きな姿勢を示している。
質問:
日本市場での事業展開についてどのように考えているか。また、日本でのビジネスパートナー探しを検討しているか。
答え:
当社は、日本の公共交通分野では運転手不足が深刻な課題と捉えている。ウィーライドが展開する自動運転ミニバスを地域の公道や施設内でのシャトル運行に活用可能と考えている。このモデルは既に欧州市場で実証や商用化が進んでいる。このことから、日本市場でも高い導入可能性を有するだろう。また、無人配送車や無人清掃車も同様に、国内市場のニーズにマッチしている。
事業展開に当たっては、製品ごとに関連業界との連携を視野に入れている。具体的には、(1)公共交通事業者との協業によるRobotaxiやRobobusの導入(注3)、(2)自動車メーカーやTier1サプライヤーとの協力による運転支援ソリューションの開発、(3)清掃業者や地方自治体との連携による無人清掃車の実装、さらに(4)宅配や物流の企業との協業による無人配送サービスの展開、を計画している。

注1:
中国工業情報化部による「汽車駕駛自動化分級(自動車運転自動化分類)」の国家標準で、自動運転レベルの1つ。レベル0からレベル5まで6段階あり、レベル4は高度自動運転という定義になっている。
注2:
ルールベース型アルゴリズムとは、明確に定義されたルールやロジックに基づき、エンジニアによって事前に手動で設計・実装されたものを指す。例えば、「前方に障害物がある場合に減速または停止」といった動作をあらかじめ定めている。
注3:
ウィーライドは2025年7月、北海道で自動運転ミニバスの運行を開始したと発表した(「日本経済新聞」7月17日)。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
李 文郁(り ぶんいく)
2017年からジェトロ・広州事務所勤務。現在、イノベーション関連業務を担当。