自動車市場は停滞基調も、xEV市場は拡大が継続(チリ)

2025年5月8日

チリ全国自動車産業協会(ANAC)の発表によると、2024年の新車販売台数(バスなど大型車を除く)は、前年比3.7%減の30万2,366台だった。

2018年以降の推移を見ると、社会騒乱(2019年10月29日付ビジネス短信参照)や新型コロナ禍による負の影響が大きかった2020年に次ぐ低い水準であることが分かる(図1参照)。

図1:チリにおける年間新車販売台数の推移
2018年は41万7,038台。2019年は37万2,882台。2020年は25万8,835台。2021年は41万5,581台。2022年は42万6,777台。2023年は31万3,865台。2024年は30万2,366台。2018年から2024年までの平均は35万8,192台。

出所:ANAC

2021~2022年には、(1) 新型コロナ禍からの経済の回復、(2) コンテナ不足による国際物流の滞りの解消、(3) 安全な移動手段としての自動車需要(公共交通機関の利用と比較した際にウイルスの感染リスクを低く抑えることができる)などを背景に、新車販売台数は40万台を突破。2022年には過去最高の42万6,777台を記録した。

しかしながら、2023年には国内経済が減速(2024年3月25日付ビジネス短信参照)。31万3,865台まで減少した。2024年にはそこから回復するどころか、さらに減少した。

2024年、チリの実質GDP成長率は2.6%で、内需についても前年比で1.3%増加した。しかし、デロイトが2025年3月12日に公開した世論調査結果によると、直近5年間でチリの消費者マインドの改善は進んでいないことが分かる(図2参照)。

図2:現在の経済状況を消費者としての目線から
「とても良い」または「良い」と評価する割合
2020年上半期に26%、下半期に36%。2021年上半期に39%、下半期に46%。2022年上半期に30%、下半期に22%。2023年上半期に22%、下半期に25%。2024年上半期に29%、下半期に29%。2025年上半期に30%。

注:チリ国内の18歳以上の男女が対象。2025年上半期の調査は2025年2月12~14日に実施。有効回答数は703件。
出所:Deloitte

長城汽車の躍進が目立つも、日本メーカーも上位に

車種別で、前年比で販売台数が増加したのは、チリで以前から人気が高いSUV(前年比2.6%増)のみ。乗用車(同7.6%減)、ピックアップ(同12.7%減)、商用車(同3.5%減)は、軒並み減少した。

上位5社の顔触れは前年と変わらない。計2万3,535台を売り上げたトヨタが首位を堅守した。一方、前年に3位だった現代がシボレー(ゼネラルモーターズ:GM)を抜いて2位に浮上。前年5位だったスズキが起亜を抜いて4位に浮上した(表1参照)。

表1:メーカー・車種別新車販売台数(2023~2024年)
順位 メーカー 2023年
販売台数
2024年
販売台数 市場シェア 前年比 乗用車 SUV ピックアップ 商用車
販売台数 市場シェア 販売台数 市場シェア 販売台数 市場シェア 販売台数 市場シェア
1 トヨタ 25,947 23,535 7.8% △9.3% 2,993 4.9% 11,758 8.0% 8,754 14.2% 30 0.1%
2 現代 20,831 20,821 6.9% △0.05% 8,911 14.5% 9,432 6.4% 1 0.002% 2,477 7.8%
3 シボレー(GM) 21,319 20,225 6.7% △5.1% 4,764 7.7% 9,292 6.3% 4,780 7.7% 1,389 4.4%
4 スズキ 17,705 19,942 6.6% 12.6% 13,898 22.6% 5,865 4.0% 0 0.0% 179 0.6%
5 起亜 18,334 18,752 6.2% 2.3% 8,623 14.0% 8,368 5.7% 0 0.0% 1,761 5.6%
6 プジョー 16,818 15,981 5.3% △5.0% 2,668 4.3% 5,326 3.6% 1,467 2.4% 6,520 20.6%
7 フォード 13,288 15,706 5.2% 18.2% 176 0.3% 6,112 4.1% 8,188 13.3% 1,230 3.9%
8 長城汽車(GWM) 8,018 14,449 4.8% 80.2% 57 0.1% 7,032 4.8% 7,360 11.9% 0 0.0%
9 MG 11,657 11,660 3.9% 0.03% 3,276 5.3% 8,384 5.7% 0 0.0% 0 0.0%
10 三菱自動車 10,766 11,220 3.7% 4.2% 0 0.0% 3,301 2.2% 7,919 12.8% 0 0.0%
11 長安汽車(CHANGAN) 9,046 10,040 3.3% 11.0% 953 1.5% 6,602 4.5% 996 1.6% 1,489 4.7%
12 日産 14,736 8,904 2.9% △39.6% 2,101 3.4% 5,671 3.8% 1,131 1.8% 1 0.003%
13 マクサス 10,543 8,220 2.7% △22.0% 0 0.0% 515 0.3% 5,605 9.1% 2,100 6.6%
14 マツダ 9,573 8,083 2.7% △15.6% 1,338 2.2% 5,721 3.9% 1,024 1.7% 0 0.0%
15 奇瑞汽車(CHERY) 9,660 7,499 2.5% △22.4% 4 0.01% 7,495 5.1% 0 0.0% 0 0.0%
その他 95,624 87,329 28.9% △8.7% 11,783 19.1% 46,560 31.6% 14,457 23.4% 14,529 45.8%
総計 313,865 302,366 100.0% △3.7% 61,545 100.0% 147,434 100.0% 61,682 100.0% 31,705 100.0%

出所:ANAC

8位の長城汽車(GWM)は、前年までSUVの売り上げがほとんどなかった。それが2024年、同社の「Jolion」がSUVのモデル別販売台数で2位を獲得するなどの好調によって、前年比80.2%増と大きく販売台数を伸ばした。

その他、乗用車、SUV、ピックアップの3カテゴリーでは、トヨタ、スズキ、三菱自動車、日産、マツダ、スバルなど、日本メーカーのモデルが上位に食い込んだ(表2参照)。

表2:車種・モデル別新車販売台数(上位20モデル、2024年)

乗用車
順位 モデル名 メーカー 販売台数
1 Soluto 起亜 5,176
2 Swift スズキ 4,980
3 Baleno HB スズキ 4,765
4 Grand I-10 HB 現代 4,379
5 Sail シボレー(GM) 3,736
6 Yaris トヨタ 2,803
7 Accent 現代 2,692
8 Morning 起亜 2,104
9 Versa 日産 1,942
10 Mg3 MG 1,867
11 C3 シトローエン 1,538
12 S-Presso スズキ 1,516
13 Celysee シトローエン 1,367
14 208 プジョー 1,289
15 All New Mazda3 マツダ 1,035
16 New Corsa OPEL 1,013
17 Alsvin 長安汽車(Changan) 953
18 Grand I-10 Sedan 現代 950
19 Nuevo Alto スズキ 931
20 Celerio スズキ 893
SUV
順位 モデル名 メーカー 販売台数
1 Groove シボレー(GM) 5,419
2 Jolion 長城汽車(GWM) 4,360
3 MG ZS MG 4,012
4 Territory フォード 3,703
5 Creta 現代 3,505
6 Tucson 現代 3,126
7 Sonet 起亜 3,123
8 All New Mazda CX-5 マツダ 2,939
9 Raize トヨタ 2,871
10 Corolla Cross トヨタ 2,858
11 Kicks 日産 2,834
12 RAV4 トヨタ 2,819
13 C5 Omoda 2,686
14 Crosstrek スバル 2,521
15 2008 プジョー 2,509
16 MG ZX MG 2,471
17 Jimny スズキ 2,430
18 Yaris Cross トヨタ 2,263
19 All New Forester スバル 2,255
20 3008 プジョー 2,237
ピックアップ
順位 モデル名 メーカー 販売台数
1 Hilux トヨタ 8,743
2 L-200 三菱自動車 7,919
3 Poer 長城汽車(GWM) 6,415
4 New Ranger フォード 5,656
5 T60 マクサス 5,137
6 Silverado シボレー(GM) 2,290
7 Grand Musso サンヨン 1,948
8 Gran Avenue 江鈴汽車(JMC) 1,933
9 Ram 700 RAM 1,865
10 F-150 フォード 1,596
11 Landtrek プジョー 1,467
12 Montana シボレー(GM) 1,449
13 Vigus 江鈴汽車(JMC) 1,171
14 Foton G7 福田汽車(Foton) 1,163
15 New Navara 日産 1,131
16 T8 江淮汽車(JAC) 1,042
17 Colorado シボレー(GM) 1,041
18 New Bt-50 マツダ 1,024
19 Hunter 長安汽車(Changan) 996
20 Maverick フォード 936
商用車
順位 モデル名 メーカー 販売台数
1 Partner プジョー 4,998
2 Berlingo シトロエン 2,564
3 Porter 現代 1,812
4 Frontier 起亜 1,757
5 N400 Max シボレー(GM) 1,389
6 Transit Van フォード 1,223
7 Sprinter メルセデス・ベンツ 1,169
8 Tm5 福田汽車(Foton) 1,131
9 Tm3 福田汽車(Foton) 1,057
10 Combo L1 OPEL 1,013
11 Midi 福田汽車(Foton) 952
12 Expert プジョー 774
13 Sunray 江淮汽車(JAC) 757
14 Boxer プジョー 748
15 Deliver 9 マクサス 731
16 Staria 現代 648
17 C35 マクサス 596
18 Express ルノー 583
19 G10 マクサス 546
20 Q22 KARRY 425

出所:ANAC

安定して拡大を続けるxEV市場

新車販売台数全体としては前年比減となったものの、バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)、レンジエクステンダー(EREV、注1)、ハイブリッド(HEV)、マイルドハイブリッド(MHEV)を合計したxEV市場は拡大した(図3参照)。

新車販売台数に占めるこれらxEVの販売台数の割合は、2023年に3.0%だったものが2024年には6.3%になった。その分母となる新車の販売総数が減少した影響もあるが、車種別の内訳を見ると、EREV以外の販売台数が前年比で大きく増加していることが分かる。

図3:タイプ別xEV販売台数(2023~2024年)
マイルドハイブリッドは2023年に3,197台、2024年に6,940台。ハイブリッドは2023年に3,766台、2024年に6,356台。バッテリー式電気自動車は2023年に1,588台、2024年に4,507台。プラグインハイブリッドは2023年に506台、2024年に1,147台。レンジエクステンダーは2023年に276台、2024年に151台。

出所:ANAC

xEVの中で最も販売台数が多かったMHEVのカテゴリーでは、スズキの「Fronx」、「Grand Vitara」、「Swift」の3モデルがモデル別販売台数トップ10に名を連ねた。同様にHEVでは、トヨタの「Corolla Cross」、「RAV4」、「Yaris Cross」、「Corolla」の4モデルがトップ10入りした。なおEREVは、2024年は日産だけが販売したカテゴリーだった(表3参照)。

表3:メーカー・タイプ別新車販売台数(外部からの充電非対応のxEV、2024年)
順位 メーカー HEV・MHEV・EREV
販売台数
タイプ別内訳
HEV 市場
シェア
MHEV 市場
シェア
EREV 市場
シェア
1 トヨタ 4,270 4,270 67.2% 0 0.0% 0 0.0%
2 スズキ 4,157 0 0.0% 4,157 59.9% 0 0.0%
3 プジョー 991 0 0.0% 991 14.3% 0 0.0%
4 長城汽車(GWM) 913 913 14.4% 0 0.0% 0 0.0%
5 ボルボ 499 0 0.0% 499 7.2% 0 0.0%
6 フォード 423 423 6.7% 0 0.0% 0 0.0%
7 現代 361 361 5.7% 0 0.0% 0 0.0%
8 BMW 319 7 0.1% 312 4.5% 0 0.0%
9 レクサス 282 282 4.4% 0 0.0% 0 0.0%
10 ランドローバー 258 0 0.0% 258 3.7% 0 0.0%
11 吉利汽車(Geely) 196 0 0.0% 196 2.8% 0 0.0%
12 マツダ 169 0 0.0% 169 2.4% 0 0.0%
13 日産 151 0 0.0% 0 0.0% 151 100.0%
14 RAM 150 0 0.0% 150 2.2% 0 0.0%
15 マクサス 91 0 0.0% 91 1.3% 0 0.0%
その他 217 100 1.6% 117 1.7% 0 0.0%
総計 13,447 6,356 100.0% 6,940 100.0% 151 100.0%

出所:ANAC

BYDとテスラの台頭

2024年にBEVおよびPHEV市場では、中国の比亜迪(BYD)と米国のテスラのシェア拡大という大きな変化が生じた。

2023年のBYDの新車販売台数は、BEVが173台、PHEVが91台だった。2024年にはBEVが723台、PHEVが435台まで増加し、BYDはこれら2車種の合計販売台数が1,000台を超えた唯一のメーカーとなった。

テスラは、2024年1月に南米初のショールームをチリに開設した(2024年2月6日付ビジネス短信参照)。上半期の好調(2024年7月16日付ビジネス短信参照)を、年間を通じて維持したことで、2024年BEV販売のトップメーカーになった(表4参照)。

モデル別販売台数は、BEVではテスラの「MODEL 3」が、PHEVではBYDの「SONG PLUS DM-1」がそれぞれトップだった。

表4:メーカー・タイプ別新車販売台数(外部からの充電対応のxEV、2024年)
順位 メーカー BEV・PHEV
販売台数
タイプ別内訳
BEV 市場
シェア
PHEV 市場
シェア
1 BYD 1,158 723 16.0% 435 37.9%
2 テスラ 948 948 21.0% 0 0.0%
3 ボルボ 911 669 14.8% 242 21.1%
4 東風汽車(Dong Feng) 365 365 8.1% 0 0.0%
5 ルノー 285 285 6.3% 0 0.0%
6 マクサス 171 171 3.8% 0 0.0%
7 哪吒汽車(Neta) 154 154 3.4% 0 0.0%
8 BMW 138 58 1.3% 80 7.0%
9 東風小康汽車(DFSK) 131 28 0.6% 103 9.0%
10 フィアット 131 131 2.9% 0 0.0%
11 江淮汽車(JAC) 105 105 2.3% 0 0.0%
12 起亜 104 104 2.3% 0 0.0%
13 シボレー(GM) 94 94 2.1% 0 0.0%
14 奇瑞汽車(Chery) 81 4 0.1% 77 6.7%
15 MG 71 71 1.6% 0 0.0%
その他 807 597 13.2% 210 18.3%
総計 5,654 4,507 100.0% 1,147 100.0%

出所:ANAC

BEV、PHEV、EREVの普及にあたってインフラになる充電設備についても、年々増加傾向にある。ANACのレポートの中で引用されている電気・燃料監督庁(SEC)の公開情報によると、チリにおけるEV用の充電設備(注2)の新設は、2022年に413カ所、2023年に868カ所、2024年に1,240カ所。年々その数が増加している。国内の既存充電設備数は3,000カ所を超えた。そのおよそ35%が公的な設備、残りの6割強が私的な設備に分類されている(注3)。

今後10年間で、自動車市場のゼロエミッション化は実現されるか

これまで見てきたように、2024年のチリの新車販売市場は、全体としては前年比で縮小した。しかし、環境への負荷が少ないxEV市場は着実に成長した。チリは、以前から環境フレンドリーな政策を進めてきた国だ。2021年以降、効率的なエネルギーの利用や、ゼロエミッション車の普及に向け、国の方針の策定や関連する法の施行を進めてきた(注4)。ANACは、近年のチリのxEV市場拡大の主因として、こういった政府による方向づけと法整備による取り組みの成果を強調している。

2025年3月時点で、チリ中央銀行は2025年の実質GDP成長率を前年とほぼ同水準の1.5~2.5%と予測している(2025年3月25日付ビジネス短信参照)。ANACは、2025年の新車販売台数を31万台程度と予測しており、短期的には自動車市場全体では停滞基調が続きそうだが、その中で拡大するxEV市場には期待がかかる。チリが掲げる政府目標は日本や欧州並みに野心的で、「2035年までに、小型車と中型車の新車販売を100%ゼロエミッション車にする」というものだ。この目標を達成するためには、残された10年で急ピッチの対応が求められる。


注1:
発電機として小さなエンジンが搭載され、航続距離を伸ばす仕組みが施されたEV。ANACのレポートでは外部からの充電非対応のxEVに分類されているが、同充電が可能なモデルも存在する。
注2:
大型車(バスなど)用の設備は含まない。
注3:
(1)公的と(2)私的の別は設置主体ではなく、利用者を限定する場合には(2)、そうでない場合には(1)に分類される。
注4:
エネルギー効率化計画とその関連法(スペイン語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」や「エレクトロモビリティ国家戦略(スペイン語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を指す。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課 課長代理(中南米)
佐藤 竣平(さとう しゅんぺい)
2013年、ジェトロ入構。経理課、ジェトロ・サンティアゴ事務所長などを経て、2023年9月から現職。