市場の拡大と日本の実績
サウジアラビアのファッション市場(1)

2025年5月20日

サウジアラビアでは伝統的に民族衣装として、男性は「トーブ」と呼ばれる白い長衣、女性は「アバヤ」と呼ばれる黒いコート形の長衣をよく着用してきた。トーブに合わせて男性は、頭部を赤と白のチェック模様の「シュマーグ」と呼ばれる布で包み、頭頂部に黒い縄状の輪「イカール」を載せて固定することが多い。女性は「ニカーブ」と呼ばれる布で顔を覆って、目から下の部分を隠すこともある。厳格なイスラム教国であるサウジアラビアの人々の服装については、イスラム教の教義に沿ったもので非常に保守的だという印象を抱く人が多いのではないだろうか。


トーブを着用したサウジアラビア人男性
(ジェトロ撮影)

アバヤを着用したサウジアラビア人女性の後ろ姿
(ジェトロ撮影)

しかし近年、2016年に発表された国家戦略「ビジョン2030」による社会改革が進み、サウジアラビアの人々のファッションも大きな変化を遂げている。変革のうねりの中にある同国のファッション業界で、新たなビジネスチャンスを探るべく、前・後編の2回にわたって、同国の最新市場動向に迫る。前編である本稿では、サウジアラビアのファッション市場について統計を基に概観し、その将来性や、日本の実績について紹介する。

拡大するファッション市場

世界銀行によれば、サウジアラビアの人口は2023年に約3,300万人に達し、20年前(2003年)と比較して約1.8倍に拡大している(図1参照)。国連の「世界人口推計2024」(注1)によれば、2024年時点の平均年齢は29.6歳となっており、若年層が厚い人口構成であることもわかる。同推計によれば、サウジアラビアの人口は2050年に約4,800万人、2100年には約7,100万人まで増加することが見込まれている。また、サウジアラビアの人口構成の特徴として、自国民の比率が高いことも挙げられる。中東湾岸地域の産油国では、外国人労働者の人口が自国民を上回っていることが多く、アラブ首長国連邦(UAE)やカタールでは、自国民が総人口のわずか1割程度という状況である。一方、サウジアラビアでは総人口の約6割が自国民(2022年、サウジアラビア総合統計庁調べ)であり、他の中東湾岸諸国よりも、自国の民族衣装や、宗教的な服装規定に沿った衣料品の需要が大きいと考えられる。

図1:サウジアラビアの人口の推移(単位:人)
2003年は1,878万6,767人だったところ、2023年は3,326万4,292人となっており、約1.8倍に増加している。

出所:世界銀行

1人当たり名目GDPに関しては、IMFが2025年4月に発表した世界経済見通しによると、2024年にサウジアラビアは3万746ドルとなっている。これは、中東の湾岸協力会議(GCC)諸国の中では、1位のカタール(7万1,583ドル)、2位のUAE(4万8,830ドル)、3位のクウェート(3万1,641ドル)に次いで4位となっている。日本(3万2,498ドル)と比較しても大きく変わらない値である(注2)。

このように、今後も旺盛な内需が期待できるサウジアラビアでは、ファッション関連の市場も拡大している。ユーロモニターによれば、サウジアラビアにおける2024年の衣料品・履物の販売金額は約779億リヤル(約3兆848億円 1リヤル=39.6円)だ。同分野の販売金額は新型コロナ禍の2020年に落ち込んだもののその後は順調に回復しており、2029年には約1,000億リヤルに達するとの予想だ(図2参照)。

図2:サウジアラビアにおける衣料品・履物の販売金額推移
(単位:100万サウジ・リヤル)
2010年に約413億リヤル、2011年に約444億リヤル、2012年に約483億リヤル、2013年に約571億リヤル、2014年 に約571億リヤル、2015年に約625億リヤル、 2016年 に約641億リヤル、2017年に 約642億リヤル、2018年 に約633億リヤル、2019年 に約642億リヤル、2020年 に約529億リヤル、2021年 に約589億リヤル、2022年 に約671億リヤル、2023年に約735億リヤル、2024年に約779億リヤル、2025年に約824億リヤル、2026年に約868億リヤル、2027年に912億リヤル、 2028年に954億リヤル、2029年に約996億リヤル。2020年から2021年、2021年から2022年の前年比変化率が特に大きく、それぞれ11.3%、14.0%と2桁を超えている。

注1:店舗型小売事業者と無店舗型小売業者の両方による小売売上高を対象としている。
なお、中古品は含まれていない。
注2:2025年以降は予測値。
出所:ユーロモニター

また、サウジアラビアにおいて衣料品分野は輸入に頼るところが大きく、グローバル・トレード・アトラス(GTA)によれば、2023年の衣料品(HSコード61、62の合計、注3)の輸入額は約42億6,454万ドル、貿易赤字は約40億7,823万ドルとなった。輸入額を国・地域別に見ると、中国が45%と半数近くを占め、インド(13%)、バングラデシュ(8%)が続く(図3参照)。

図3:サウジアラビアにおける衣料品の国・地域別輸入額割合(2023年、単位:%)
中国が45%、インドが13%、バングラデシュが8%、香港が5%、トルコが5%、イタリアが3%、パキスタンが3%、ベトナムが3%、英国が2%、アラブ首長国連邦が2%、その他が11%。

出所:グローバル・トレード・アトラス(GTA)からジェトロ作成

日本はサウジアラビア向け化学繊維輸出で確かな実績

日本については、衣料品分野ではサウジアラビアの輸入額ランキングで42位(約157万ドル)にとどまっているが、ポリエステルなど人造繊維(化学繊維)の分野では存在感を示している。GTAによれば、2023年のサウジアラビアにおける人造繊維の長繊維・織物等(第54類)の輸入額は約4億8,086万ドルで、そのうち日本は、1位の中国(約2億7,562万ドル)、2位の韓国(約5,977万ドル)に次いで3位(約3,625万ドル)だ(図4参照)。また、人造繊維の短繊維・織物等に関しては、2023年のサウジアラビアにおける輸入総額が約2億9,870万ドルで、1位の中国(約9,847万ドル)に次いで、日本は2位(約5,136万ドル)である(図5参照)。

図4:サウジアラビアにおける人造繊維の長繊維・織物等(HS第54類)の国・地域別輸入額割合(2023年、単位:%)
中国が57%、韓国が12%、日本が8%、インドが6%、その他が17%。

出所:GTAからジェトロ作成

図5:サウジアラビアにおける人造繊維の短繊維・織物等(HS第55類)の国・地域別輸入額割合(2023年、単位:%)
中国が33%、日本が17%、インドネシアが12%、韓国が10%、インドが9%、その他が19%。

出所:GTAからジェトロ作成

日本からサウジアラビアへ輸出されている人造繊維は、主に男性の民族衣装トーブの生地として利用されている。サウジアラビアにおいて、トーブはオーダーメイドの販売店が多く、顧客は小売店などで生地を選び、個人の体形や好みのデザインに合わせて仕立てる。ジェトロの現地トーブ工場などへの取材によれば、サウジアラビアにおいて、日本製のテキスタイルはその品質を高く評価されており、国家行事など格式の高い場面で着用されるトーブの生地として採用されるなど、高級品のイメージを持たれている(取材日:2025年2月20日)。

日本からサウジアラビアへの繊維製品の輸出の歴史は古く、繊維・同製品の輸出額は1970年台後半から急激に増加して、1982年には約4億8,000万ドルに達した(図6参照)。1985年のプラザ合意後は円高の影響も受けて輸出額が減少しているが、2022年から再び微増傾向にあり、2024年の日本からサウジアラビアへの人造繊維・織物等輸出額は約147億円となっている(図7参照)。この金額は、同年の日本からの人造繊維・織物等輸出額の合計(約5,022億円)の約2.9%を占める。

図6:日本のサウジアラビア向け繊維・同製品輸出額の推移(1971年~1987年)
1971年に約2,855万ドル、1973年に約5,627万ドル、1975年に約1億6,525万ドル、1977年に約1億8,796万ドル、1979年に約2億9,271万ドル、1981年に約4億6,600万ドル、1983年に約4億6,103万ドル、1985年に約3億5,558万ドル、1987年に約3億2,468万ドル。

注:HS条約が発効した1988年以前の統計であるため、品目分類は関税協力理事会品目表(CCCN)に基づく。
出所:財務省

図7:日本のサウジアラビア向け人造繊維・織物等輸出額の推移(1988年~2024年)
1992年にかけて約322億円まで増加したがその後は急激に減少し、2004年には約69億円まで下がった。2010年代に入ると微増傾向が続き、2024年は約147億円となった。

注:輸出額はHS第54類と第55類の合計。
出所:財務省

ここまで見てきた通り、今後も人口増加が見込まれるサウジアラビアでは、ファッション市場も堅調な拡大が期待される。同国のアパレル・テキスタイル分野は現状、輸入が中心であり、日本は主に人造繊維の分野で輸入額シェアの上位を占めている。日本は、主にトーブに利用される繊維・同製品のサウジアラビア向け輸出において長い歴史を持っており、輸出額は1980年代前半にピーク期を迎えた。その後は日本からの輸出額が減少傾向にあり、中国のシェアが大きくなっている。今後日本企業がサウジアラビアのファッション市場でビジネスを拡大するにあたって、どのようなアプローチが有効だろうか。

後編では、サウジアラビアにおける近年の社会的な変化を振り返り、それらがファッションに与えた影響について取り上げる。併せて、ジェトロの現地での取材を基に、サウジアラビア政府による同国のファッション産業振興に向けた取り組みや、日本製品への新たな期待についても紹介する。


注1:
本稿で紹介している各年の人口と年齢中央値は7月1日時点のもので、中位推計値を利用している。
注2:
2024年のGCC諸国および日本における1人当たり名目GDPは、すべて推計値である。
注3:
HSコードの第61類は「衣類および衣類付属品(メリヤス編みまたはクロセ編みのものに限る)」、第62類は「衣類および衣類付属品(メリヤス編みまたはクロセ編みのものを除く)」である。

サウジアラビアのファッション市場

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執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 リサーチマネージャー
久保田 夏帆(くぼた かほ)
2018年、ジェトロ入構。サービス産業部サービス産業課、サービス産業部商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部ECビジネス課、ジェトロ北海道を経て2022年7月から現職。