ヤマハ発動機のインド戦略の今
プレミアムクラス二輪車で市場を開拓
2025年12月5日
2024年度(2024年4月-2025年3月)、1,960万台が販売されたインドの二輪市場。このうち1,230万台がオートバイ、残りの730万台がスクーターとモペッドが占めるという構成となっている(2025年6月19日付地域・分析レポート、2025年7月28日付ビジネス短信参照)。ただし、オートバイのうち大部分は、1,000万台程度を通称「コミューター」と呼ばれる低価格のモーターサイクルが占めており、市場構成全体としてはコミューターが半分、それ以外が半分となっている。
1995年のヤマハ・モーター・インディア設立以降、ローカル企業との合弁解消、スクーターセグメント進出などで変遷してきたヤマハは、2018年以降オートバイの中でも「スポーツ・プレミアム」にターゲットを絞り、「The call of the BLUE(青の魅惑)」戦略によって販売台数を順調に伸ばしている。2024年度には合計70万台の二輪車を販売し、スポーツ・プレミアムセグメントに限っては25万台、シェア17%に達している。
これまでの同社のインドにおける取り組みや今後の展望などについて、同社のランドモビリティ事業本部MC事業部事業マネジメント統括部に所属する加藤伸新興国部長、山田隆史南アジアグループマネージャー、須永優太シニアチーフに聞いた(インタビュー日:10月17日)。

進出当初のコミューター層から、プレミアム・セグメントへ推移
- 質問:
- インドでの製造・販売、ターゲットの推移について。
- 答え:
- インド市場にはローカル企業への技術援助を目的に、1985年に参入した。1995年にヤマハ・モーター・インディアを立ち上げ、現在はグループ4社で活動している。南部チェンナイに本社と工場を構え、北部スーラジプールにも工場を持つ。当初は、インド市場ではマスであったコミューターセグメントへの参入を試みたが、現在の2トップであるヒーローやホンダなど競合が多かったこともあり、2018年からはスポーツ・プレミアム市場を狙う方向に舵(かじ)を切った。
- 現在では、人口の3割程度を占めるZ世代(おもに18歳~24歳)をターゲットに、スポーツ・プレミアムを前面に出したオートバイと、一般的なスクーターよりも高価格帯である排気量125cc以上クラスのスクーターを投入している。ヤマハのイメージカラーであるブルーを押し出してストーリー性を持たせた「The call of the BLUE(青の魅惑)」戦略によって、直近2024年度はスポーツ・プレミアムセグメントで25万台を売り上げ、シェアも17%に達している。インドは人口が多いため、少々ニッチなセグメントを狙ったビジネスになっている。
- また「BLUE SQUARE(ブルー・スクエア)」と呼ぶ販売店を展開、3S(販売/サービス/部品)を担うほか、独自の取り組みとしてインドではまだ一般的ではないツーリングイベントやサーキット走行会なども開催、当社製品のオーナーにはプレミアムモデルに見合ったワンランク上の体験や、バリューを提供している。
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ヤマハの現地販売代理店「BLUE SQUARE」(ヤマハ発動機提供) 
ヤマハの現地販売製品ラインナップ(ヤマハ発動機提供) - 質問:
- インドにおけるマーケティング戦略の特徴について。
- 答え:
- Z世代をターゲットにプレミアム・スポーツを広めている中で、この世代は一般論的にはSNSでの情報発信、口コミにより訴求を行っている。またインドの場合は人口が多いこともあってさまざまなインフルエンサーが存在し、発信情報の信頼性も不透明であることから、家族や友人といった比較的身近で、信頼できる口コミにも焦点を当てている。特に若い世代は親や親戚といった身内の声に敏感である一方、定番化されたものに固執し、レッテルを貼る傾向にある。結果的に、当社のスポーツ・プレミアムというコンセプトが、その他とうまく住み分けができている。
- 他方、マーケティング手法を模倣できてしまうために、当社の「The call of the BLUE」と似たようなプロモーション活動を展開している競合他社もでてきている。
- また、インドは、それぞれの各州がそれぞれ多様であり、特徴が大きく異なっている。北部は、経済力はあるが保守的な傾向がある一方、南部は英語ができる層も多くグローバルな情報を自分で取る傾向にあり、当社のマーケティングがうまく機能し売り上げも伸びている。
現地調達と懸念点
- 質問:
- 現地調達について。
- 答え:
- インドでは現地二輪メーカーが市場シェアの6割強を占めており、価格競争力を維持するためには部品の現地調達は必須。多くの日系、欧州系サプライヤーが進出しており、ほぼ全ての部品をインドで調達できる環境になっている。
- 質問:
- 中国企業の影響は。
- 答え:
- インドと中国の関係は改善されつつあるが、規制の厳しさから二輪車については中国からほとんど完成車が入っておらず、アジアでよく見かけるコピー製品などの被害もあまり聞かない。理由として、インドでは生産開始後も規制対応の監査が実施されていることから、その場しのぎの対応ではなく根本から真面目に取り組む必要がある。中国企業がインド基準に適合させると、インド製に対しての価格優位性を出すことが難しくなり、結果として淘汰(とうた)されていると考えられる。
- 質問:
- 日本の中堅・中小サプライヤーの新規参入可能性は。
- 答え:
- インドの二輪車市場は大変競争が激しくコミューターが6万ルピー(約10.2万円、1ルピー=約1.7円)程度の非常に安い価格で販売されており、新規参入となると想像以上に高いコスト競争力を求められる。
インドからの輸出の可能性
- 質問:
- インドからの輸出について。
- 答え:
- 現在、近隣のネパール、バングラデシュをはじめフィリピン、メキシコ、コロンビア、その他の南米地域、アフリカ地域の合計約60カ国に輸出している。また、政情不安、外貨問題で止まっていたスリランカにも、輸出を再開している。
- インドは新興国にもかかわらず、欧州と同水準の排ガス規制・ブレーキ規制やエタノール燃料規制(E20)を他国に先立ち導入しており、規制が厳しい先進国向け輸出拠点としてのアドバンテージも有している。また、インドの工場はグローバルの輸出拠点として、インド政府が推進するメーク・イン・インディア政策に貢献し、低コストの生産能力を活かす一方で高い品質を追求している。
- アフリカ地域については低価格の商品をインドから輸出しているが、総じて低価格商品へのニーズが強く、当社より安価なインドローカルのバジャジ、TVSや中国メーカーなどが主流となっている。彼らは古いモデルをコンプリートノックダウンで輸出している。
EV化の進展と懸念点
- 質問:
- インドでは、政府が二輪、三輪を中心にEV化を進めている点について。
- 答え:
- 現在、二輪の登録台数においてEVが占める比率は6%だ。これまではEV二輪専業のメーカーが多かった一方、近年ではTVS、バジャジといった内燃機関で著名な二輪車・三輪車メーカーもEVに参入してきた。2024年度までは、EV二輪専従のオラ・エレクトリックがトップシェアだったが、今年度はTVSがトップとなっている。EV市場は緩やかに伸びているが、どのような角度で伸びているかは見極める必要があり、どこがメジャープレーヤーになるかは動きが読めない。また、インドは世界2位のサトウキビ生産国でもあり政策としてバイオエタノール車も推進している。
なお、インタビュー後の11月11日、ヤマハ発動機は自社開発の電動スポーツスクーター「AEROX E(アエロックス イー)」と、River Mobility Private Limited(本社:インド カルナータカ州)との協業による電動スクーター「EC-06(イーシー ゼロシックス)」の2モデルをインドで発表した。両車ともインドで生産し、今後はEV領域においても、インド市場でのプレミアムイメージの構築を狙っていく。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部主幹(南西アジア)
河野 将史(こうの まさし) - 1997年、ジェトロ入構。貿易開発部、ジェトロ新潟、対日投資ビジネスサポートセンター、ジェトロ・ムンバイ事務所長、上海万博日本館現地事務局、企画部国内事務所運営課長代理、ジェトロ・プノンペン事務所長、ジェトロ山梨所長などを経て、2021年12月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課
野本 直希(のもと なおき) - 2016年大手生命保険会社入社、2025年から現職。




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