中国ラオス鉄道、急増する貨物輸送
開通4年目の現状分析(1)

2025年11月18日

本稿は、開通から4年目を迎えた中国ラオス鉄道の開通以降、貨物輸送量が拡大し、ラオスおよび周辺国の物流構造に変化をもたらしていることを分析する。前編では、特に、ラオス・中国間の越境輸送を中心に取り上げる。輸送量の推移、品目構成の変化や中国側における通関・検疫体制の整備、輸送効率の向上に向けた取り組みなどを整理し、同鉄道が地域経済の物流基盤として定着しつつある実態と課題を説明する(注1)。

なお、旅客動向については別稿(2025年10月21日付地域・分析レポート参照)を参照されたい。

増加する貨物輸送

2021年12月に開通した中国ラオス鉄道のラオス区間(注2)における貨物輸送量は、年々、着実に増加している(表1参照)。開通初月の2021年12月の輸送量は4万7,100トンだったが、翌2022年には222万4,700トン、2023年は409万8,100トン(前年比84.2%増)、2024年は505万700トン(前年比23.2%増)に達した。さらに、2025年上半期(1~6月)には前年同期比9.3%増の305万6,400トンを記録するなど、同鉄道が物流において重要なインフラとして定着しつつある。

表1:中国ラオス鉄道(ラオス区間の月別貨物輸送量の推移)(単位:トン)
2021年 2022年 2023年 2024年 2025年
1月 70,306 314,345 452,441 487,678
2月 84,050 333,404 429,695 459,208
3月 125,461 382,717 514,197 574,034
4月 145,012 350,711 463,202 473,329
5月 147,606 383,479 467,993 529,463
6月 178,630 382,941 467,672 532,662
7月 211,832 393,209 468,800
8月 218,064 378,529 437,226
9月 223,194 346,766 267,439
10月 267,157 187,760 299,000
11月 250,791 268,468 349,000
12月 47,105 302,636 375,759 434,000
合計 47,105 2,224,739 4,098,088 5,050,665 3,056,374

注:「-」は値なし。
出所:ラオス公共事業運輸省鉄道局

また、貨物列車の運行頻度も、開通当初は平均2往復/日だったものが、2024年4月には平均14往復/日、2025年には20往復/日に大幅に増加するほか、本数もピーク時には最大27本/日が運行するなど、需要の高まりに応じた運行体制が構築されている。


ラオス・ボーテン駅の貨物検査場(ジェトロ撮影)

中国ラオス鉄道のラオス区間における貨物輸送は(1)ラオスと中国間の2カ国間越境輸送、(2)タイやロシアなどの第3国からの越境トランジット輸送、(3)ラオス国内輸送、の3形態に分類される。

このうち、最も顕著な成長を示しているのが、(1) ラオス・中国間の越境輸送だ。各種報道によれば、同越境輸送量は2021年に5万トンだったが、2022年は213万トン、2023年には441万トン(前年比2.1倍)、2024年478万トン(前年比8.4%増)、そして2025年上半期には330万トン(前年同期比9.0%増)に達した(表2参照)。新型コロナ感染症による移動制限下においても、当初計画を大幅に上回る輸送量を達成した。さらに、取扱品目は3,800品目以上に拡大した。表1と表2の比較からも明らかなように、ラオス区間における貨物輸送の大半は越境輸送で、国内区間のみで完結する輸送量は限定的と考えられる。なお、ラオス国内向けの輸送手段としては、2024年3月に小口配送サービスが開始された(2024年3月12日付ビジネス短信参照)が、現時点では取扱量は少量にとどまっているものとみられる。

一方、中国区間では、国内輸送量(越境貨物を含む)がラオス区間の輸送量を大きく上回っている。具体的には、2022年に1,120万トン、2023年に1,781万トン、2024年に1,964万トン、そして2025年上半期には1,200万トンを超えており、ラオス区間の約4~5倍に相当する。これは、中国国内において鉄道輸送の需要がより高く、同鉄道が国内物流網の一部としても機能していることを示している。

表2:中国ラオス鉄道のラオス・中国観の越境貨物輸送計画と実績(単位:万トン)
越境貨物輸送量 中国区間の貨物輸送量
計画 実績 実績
2021
2022 160 213 1,120
2023 240 441 1,781
2024 340 478 1,964
2025(注2) 330  1,200

注1:「-」は値なし。
注2:2025年は上半期(1~6月)まで。
注3:計画は雲南省「中国ラオス鉄道の維持・運営と沿線開発・建設のための習近平総書記の重要演説の精神を実行する3カ年行動計画(2022年2月)」を参照。
出所:各種報道を基にジェトロ作成

では、越境貨物の輸出入バランスはどのようになっているのだろうか。ラオス区間を運営するラオス中国鉄路(LCRC)の発表によると、2021年12月2日から2023年12月5日までの2年間における累積貨物輸送量は599万8,000トンだった。うち、中国からラオス(第三国を含む)への輸送量は96万3,000トン、ラオス(第三国を含む)から中国向けが503万5,000トンだった。重量ベースでは中国向けが圧倒的に多く、この差は、中国発のコンテナの空荷比率が高いという深刻なコンテナ不均衡の存在を示唆する。

さらに、報道による推計では、2024年1~9月に中国ラオス鉄道を通じて輸送された中国側の貨物量は376万5,000トンだった(図1参照)。このうち、ラオスとの貿易は345万9,000トン(全体の91.9%)を占めており、一方、タイなどその他の国との貿易は30万6,000トン(同8.1%)にとどまった。輸送貨物の大部分がラオスと中国の間で取引されている。

図1:中国ラオス鉄道を介した中国と相手国・地域の貨物輸送量
(2024年1~9月、推計)(単位:万トン、%)
ラオスは345.9万トン、91.9%。その他の国・地域が30.6万トン、8.1%。

出所:各種報道を基にジェトロ作成

輸送効率を改善

中国ラオス鉄道の貨物輸送では、利便性の向上とコスト削減を目的に、輸送ネットワークの拡大や、効率化技術の導入、通関・検疫体制の整備など、多様な施策が展開されており、注目に値する。

輸送ネットワークの拡大では、ラオス・中国間のクロスボーダー輸送において、第三国からのトランジット貨物を含め、チャーター便に加えて、国際貨物定期便の運行が拡大している。2022年1月には、雲南省昆明とビエンチャンを結ぶ「瀾滄(らんそう)快速」が運行を開始し、「北京-雲南-瀾滄線」や「上海-雲南-瀾滄線」などのルート整備も進められている。

さらに、2022年7月にはタイ国鉄との共同プラットフォームが稼働し、タイ・ラオス・中国間の一貫輸送も可能となった(2022年7月7日付ビジネス短信参照)。この取り組みはその後さらに拡大し、2023年12月にはロシアのモスクワから成都を経由し、中国ラオス鉄道およびタイ国鉄(マプタプット駅)を結ぶ「中欧・瀾滄快速」が運行を開始した。2024年4月には「中国-ラオス-タイ-マレーシア」を結ぶ鉄道による一貫輸送も実現し、広域的な物流ネットワークの形成が加速している。これにより、現時点では中国国内31省(自治区・直轄市)とラオス、タイ、ベトナム、シンガポールなど19カ国・地域を結ぶ国際物流ネットワークが構築されている。

輸送効率の向上に向けた、技術的な取り組みも精力的に進められている。牽引力の高い機関車の導入で、1列車あたり最大2,800トンの貨物輸送が可能となり、輸送単位の大型化が実現されている。また、40フィート多機能コンテナ「オレンジ・ ロング・ キャビネット(注3)」の一部導入により、積載効率の向上と多様な貨物への対応が可能となっている。

検疫・通関体制の整備では、2022年12月に中国側の国境駅であるモーハン駅で植物・動物検疫が開始され、タイ産マンゴーやラオス産バナナの一貫輸送が実現した(2022年12月16日付ビジネス短信参照)。さらに、2023年10月からは穀物・芋類・豆類の植物検疫も開始され、現在では果物や穀物からチルド水産物まで幅広い品目の検疫が可能だ。通関手続きにおいても、デジタルL/C(信用状)や2段階申告(注4)、短時間で検査可能な大型スキャン検査装置「H986」などの導入により、手続きの迅速化と透明性の向上が図られている。

これら設備や制度整備の結果、2024年5月時点での通関所要時間は、開業当初の約40時間から5時間以内へと大幅に短縮されており、これにより、ビエンチャンから昆明までの輸送は26時間、タイ・マプタプットから成都までは72時間で完了する体制が整っている。

中国ラオス間の鉄道を介した輸出入額と品目

中国ラオス鉄道を介した両国間の物流は急速に拡大しているものの、品目別の詳細な統計の把握には依然として課題が残されている。ラオスの通関統計では、鉄道輸送とトラック輸送の区別が明確にされておらず、中国税関も鉄道輸送に特化した品目別データを公表していない。そのため、鉄道を介した貿易額を正確に把握するには限界がある。

しかし、各種報道から推計すると、2024年1~9月に中国ラオス鉄道を通じて行われた中国の輸出入総額は138億1,000万元(約19億4,000万ドル、1ドル=7.12元)に達した。このうち、ラオスとの貿易額は91億6,400万元(約12億8,700万ドル)で全体の66%を占めた。一方、その他の国との貿易額は46億4,600万元(約6億5,200万ドル)で34%を占めた(図2参照、注5)。

図2:中国ラオス鉄道を介した中国と相手国・地域の輸出入額
(2024年1~9月、推計)(単位: 100万ドル、%)
ラオスは1,290万ドル、66.4%。その他の国・地域が650万ドル、33.6%。

出所:各種報道を基にジェトロ作成

各種報道によれば、ラオスから中国への輸出は主に以下の品目で構成されており、付加価値の低い一次産品が中心となっている。一方、中国からラオスへの輸出は、以下のように比較的付加価値の高い工業製品が中心となっている。

ラオスから中国への輸出品目
鉱物資源:鉄鉱石、銅鉱石、カリウム、マンガンなど
農林産物:天然ゴム、キャッサバ、バナナ、マンゴー、もち米、コーヒー豆など
中国からラオスへの輸出品目
工業製品:ケーブル、機械、建設資材、化学肥料、化学薬品、鉄鋼、電気自動車(EV)など
消費財:加工食品、野菜・果実類など

両国間の鉄道貿易の実態把握には詳細な統計が不可欠で、データが公開されれば本格的な分析が可能となるため、今後のデータ整備が待たれる。


中国ラオス鉄道の貨物列車(ジェトロ撮影)

本稿では、中国ラオス鉄道が開通以来、越境物流の要として急成長を遂げ、地域の輸送効率と経済連携を高めていることを確認した。一方、品目別統計の整備や輸送バランスの課題が残るほか、正確な実態把握のためにはデータ整備と制度強化が不可欠だ。後編では、タイ・中国間貿易の現状と課題を分析するほか、中国ラオス鉄道の開通が地域物流や地域経済の連携深化に果たす役割や課題を展望する。


注1:
LCRC(ラオス中国鉄路)は財務諸表を開示しておらず、現時点ではその収益性に関する定量的分析を実施することは困難なため、本稿ではその分析・言及を控える。
注2:
ラオス区間は、ビエンチャン南駅から中国との国境にある「友好トンネル」(全長9.6キロ)までの422キロを指す。貨物駅では8駅(ビエンチャン南駅、ポンホーン駅、バンビエン駅、カシー駅、ルアンパバーン駅、ムアンサイ駅、ナトゥイ駅、ボーテン駅)が置かれている。
注3:
オレンジ・ロング・キャビネットとは、中国ラオス鉄道で導入された多機能コンテナ。トップカバーを開けることができ、大型貨物やバルク鉱物貨物の搬出入に適している。
注4:
2段階申告は、中国ラオス鉄道で国際貨物輸送に適用する、事前審査と本番審査の2段階の審査プロセス。通関時間を大幅に短縮する。
注5:
同様に、中国税関の広報によると、2024年1~8月の金額ベースでは、中国とラオス間が67.6%、中国とタイ間が32.1%だ。中国とその他の国間は0.2%で、中国とラオス間以外の取引はほとんどがタイとの貿易であることがわかる。また、ラオス商工省統計によると、2024年のラオスと中国の輸出入総額は54億ドル、そのうちラオスから中国への輸出は24億1,900万ドル、中国からラオスへの輸入は29億8,100万ドルだ。鉄道輸送が両国間貿易の中で一定の割合を占めていることがわかるが、依然として道路輸送や海路輸送など他の手段も重要な役割を果たしている。

開通4年目の現状分析

執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員