中国ラオス鉄道、貨物動向と今後の課題
開通4年目の現状分析(2)
2025年11月18日
後編では、中国ラオス鉄道がタイ・中国間の貿易に果たす役割と経済的意義を分析する。鉄道の開通により、ラオス経由の陸路輸送に新たな選択肢が加わり、輸送構造に変化が生じている。
本稿では、両国間の貿易額や品目構成、コスト面での優位性、高付加価値農産物の利用実態を確認するほか、季節変動やコンテナ不足といった課題を示す。最後に、中国ラオス鉄道が地域物流網の発展に与える可能性や課題を展望する。
タイ・中国間貿易での中国ラオス鉄道の活用
タイと中国間の陸路貿易でラオスを経由する輸送ルートは、地理的・政治的・インフラ面での優位性から、圧倒的な比率を占めている(注1)。特に中国ラオス鉄道の開通以降、鉄道輸送の活用が進み、従来主流だったトラック輸送に加えて、新たな選択肢として注目されている。ラオスを経由するタイ・中国間の陸路輸送には、以下の4つの主要ルートがある(図1参照)。
- チェンライルート(トラック輸送):チェンライ県(タイ北部)-ボケオ県(ラオス)経由
- ノンカーイルート(鉄道輸送):ノンカーイ県(タイ東北部)-ビエンチャン首都経由
- ナコンパノムルート(トラック輸送):ナコンパノム県(タイ東北部)-カムアン県(ラオス)経由-ベトナム経由-中国
- ムクダーハンルート(トラック輸送):ムクダーハン県(タイ東北部)-サワンナケート県(ラオス)経由-ベトナム経由-中国
出所:ジェトロ作成
なお、2023年1~8月のタイの国境貿易統計によると、ラオスを経由したタイと中国との陸路輸送額は、1. チェンライルート〔522億バーツ(約2,506億円、1バーツ=約4.8円)〕、2. 中国ラオス鉄道を利用するノンカーイルート(110億バーツ)、3. ナコンパノムルート(611億バーツ)、4. ムクダーハンルート(1,068億バーツ)で、トラック輸送が主流になっている。
また、中国ラオス鉄道の開通以降、鉄道を利用したタイ・中国間の輸出入額は急速に拡大している(表1参照)。特にタイから中国への輸出では、2024年に鉄道経由の取引額が陸路輸送全体の約1割に達した。一方、中国からタイへの鉄道輸送額は2022年から2023年にかけて減少した。これは、新型コロナウイルス禍で高騰していた海上輸送費が2023年に下落し、輸送手段が船便へとシフトしたことが要因とみられる。ただし、2024年以降は再び鉄道輸送が増加している。
| 項目 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年(注1) |
|---|---|---|---|---|
| タイ→中国(ラオス経由) | 2,596 | 4,346 | 4,984 | 3,955 |
うち鉄道経由
|
56 | 238 | 510 | 449 |
| 中国→タイ(ラオス経由) | 3,476 | 5,594 | 6,305 | 3,933 |
うち鉄道経由
|
334 | 183 | 300 | 254 |
注1:2025年は1~6月まで。
注2:1バーツの対ドル為替レート(2022年は0.029ドル、2023年は0.029ドル、2024年は0.028ドル、2025年は0.030ドル)で算出。
注3:中国ラオス鉄道経由の2023年10月のデータが欠損している。
注4:便宜上、ノンカーイ税関を経由した中国向けの貿易は全額鉄道経由と見なしている。
出所:ラオス経由のタイ・中国間貿易額はタイ商務省外国貿易局統計、中国ラオス鉄道経由の貿易額はタイ外国貿易局統計とノンカーイ県貿易統計を基にジェトロ算出
2024年の輸出額ベースでは、タイから中国への鉄道経由輸出のうち、89.2%(4億4,900万ドル)をドリアンが占めており、圧倒的な比率を示している(図2参照、注2)。次いでマンゴスチンが9.5%(4,800万ドル)を占め、その他にはリュウガン、パイナップル、冷凍エビなどの水産加工品や、ヘマタイト鉱石などが含まれる。これらの果物は中国市場で高価格帯かつ人気が高い品目で、鮮度保持が重要なため、冷蔵コンテナを用いた短時間・安定輸送が可能な鉄道輸送が適している。実際、タイのマプタプット駅から中国・広州までの約3,450キロは、5~6日間で輸送できる体制が整っている。
一方で、幾つかの課題もある。タイ産ドリアンの輸出は収穫期の4月から8月に集中するため、鉄道貨物の需要が季節的に大きく偏る。この時期に十分な冷蔵コンテナや貨物便を確保できるかどうかが輸送の安定性を左右する重要な要因となる。現時点では、冷蔵コンテナの深刻な不足に関する報告はないが、中国ラオス鉄道ではラオス産の鉱物資源や農産物を優先的に輸出しており、タイ事業者の予約枠が限られているとの指摘がある。今後輸出量がさらに増加した場合には、輸送能力の逼迫やコンテナ不足が生じる可能性がある。
出所:ノンカーイ県貿易統計からジェトロ作成
一方、中国からタイへの鉄道輸出は、品目の多様性に顕著な特徴を持つ。輸出品には、ディスプレーモジュール、シリコン・ウエハー半導体、機械部品、圧縮鋼板などの工業製品に加え、白菜、キャベツなどの野菜類やブドウやかんきつ類などの果物、さらに肥料も含まれており、その輸送対象は広範にわたっている(図3参照)。
(単位:100万バーツ、%)
出所:ノンカーイ県貿易統計を基にジェトロ作成
特に今後の成長が見込まれる分野として、野菜や果物、花卉(かき)類の輸出が挙げられる。中国・雲南省は、東南アジアに近接する地理的条件と豊かな農業資源を有しており、同省では年間2,800万トン以上の野菜(白菜など)と、1,300万トン以上の果物が生産される。花卉では特にバラやカーネーションなどの切り花が年間150億本を超える。
これらの農産物は品質が高く、価格も比較的安価なため、東南アジア市場で高い競争力を持つと考えられる。昆明からタイへの輸送は約55時間で完了する体制が整っており、鮮度が重要な生鮮品や花卉の輸送に適している。さらに、タイ産の熱帯果物と中国産の農産品を同一の冷蔵コンテナで往復輸送することで、空コンテナの回送を減らし、往復輸送の効率を最大化できる可能性がある。

中国ラオス鉄道の輸送コスト分析
中国ラオス鉄道を活用した国際貨物輸送では、コスト削減効果が各種報道で強調される傾向にある。具体的には、従来の陸上輸送に比べて、30~50%の輸送コスト削減が可能とされ、例えば、ラオスから中国へ輸送するコーヒー豆でコンテナ1台当たり5,000元(約10万8,500円、1元=約21.7円)、天然ゴムは1,900元の削減効果などがある。また、タイから中国向けの冷蔵コンテナ輸送では、海路が7万~8万元に対し、鉄道では2万元の削減との試算もある。ただし、輸送コストは出発地・仕向け地の距離や地理的条件、輸送品目の性質、コンテナの種類などにより大きく異なる。さらに、中国政府による国際貨物物流補助金制度の適用可否も重要な要因となる。例えば、雲南省プーアル市では国際貨物鉄道運賃の10%を補助する制度があり、実質的なコスト低減に寄与している。
このように、輸送コストには多様な要因が影響するため、正確な評価には個別条件を踏まえた精緻な分析が必要だ。なお、表2は、ラオス・中国・タイにそれぞれ拠点を有する物流会社から見積もりを取得し、補助金を除いた条件で鉄道と海路輸送のコストを比較した。その結果、ラオスやタイから中国南部内陸部への輸送で、鉄道が一定のコスト競争力を持つことが確認された。
| 出発地 | ルート | コンテナの種類 | 所要日数 |
輸送コスト (ドル/コンテナ) |
|---|---|---|---|---|
| ビエンチャン内経済特区 | ビエンチャン-(中国ラオス鉄道)-重慶駅ランプ | 40Fドライ | 5~7日 | 3,000~3,300 |
| 40F冷蔵 | 5~7日 | 3,600~3,900 | ||
| ビエンチャン-(トラック)-レムチャバン港-(海路)-深セン港-トラック-重慶CY | 40Fドライ | 15~20日 | 5,200~5,500 | |
| 40F冷蔵 | 15~20日 | 6,400~6,800 | ||
| バンコク内陸コンテナデポ(ICD) | タイ鉄道-(中国ラオス鉄道)-重慶駅ランプ | 40Fドライ | 8~10日 | 4,000~4,300 |
| 40F冷蔵 | 8~10日 | 5,000~5,300 | ||
| ICD-(トラック)-レムチャバン港-(海路)-深セン港-(トラック)-重慶CY | 40Fドライ | 12~18日 | 4,600~4,900 | |
| 40F冷蔵 | 12~18日 | 5,000~5,300 |
注:コストには、発地国輸出通関、諸費用、国境での通過エントリー費用を含む。冷蔵品目は熱帯果物、ドライ品目は鉱物(バルク品)と仮定した。
出所:現地物流企業へのインタビュー(2025年9月24日)を基にジェトロ作成
また、ラオスと中国間の陸路輸送におけるトラック輸送と鉄道輸送のコスト比較でも、鉄道の優位性が報告されている。Lertpusitらの論文(注3)によると、タイ産ドリアンをバンコクから昆明まで輸送する場合、中国ラオス鉄道を利用した場合の輸送コストが2,320ドルなのに対し、トラック輸送(タイ・チェンライルート)では8,085ドルと試算されている。
さらなる活用に向けた政策的展望と課題
中国ラオス鉄道は、2021年の開通以来、貨物輸送量の増加と輸送効率の向上を着実に進めてきた。そして2025年現在、開通から4年を経て、さらなる活用に向けた政策的取り組みが本格化している。
2025年9月、中国雲南省政府は「中国ラオス鉄道沿線総合開発3カ年行動計画(2025~2027年)」を発表した。この計画では、2027年までに全区間の累積貨物量を1億2,000万トン以上へ、このうち累積越境貨物輸送量を2,700万トン以上とする数値目標が掲げられている(注4)。一方、ラオス政府も2025年5月に「国家貿易運輸円滑化ロードマップ(2025~2030年)
(1.6MB)」を策定し、2030年までに中国ラオス鉄道を介した貨物輸送量を年間614万7,100トンとする目標を設定した。このロードマップでは、政府は以下の2点を主要課題として指摘している。
- 補助金アクセスの格差:中国政府の国際貨物物流補助金制度は、中国側代理店を通じて利用できる一方、ラオス企業は制度へのアクセスが難しく、相対的に高い輸送コストを負担している。
- 貨物品目の偏りとコンテナ不足:ラオスからの輸出貨物は、鉱物資源や農産物に偏っており、特に農産物の収穫期には冷蔵コンテナの供給が逼迫する傾向がある。
そして、前述の課題に対して、国際輸送での競争力強化を目的に、以下の対応策を打ち出している。
- 貨物サービス料金の定期的な見直し
- ラオス企業向けデジタルプラットフォームの整備(予約・運行情報へのアクセス改善、外国代理店への依存度の低減)
- 貨物の集約化と積み荷の多様化(コンテナ供給の安定化と輸送効率の向上)
- ドライポートとラオス鉄道公社との連携強化
中国ラオス鉄道は今後も輸送の効率化を図りながら、地域経済の発展と国際物流の円滑化に貢献することが期待されている。具体的には、列車の運行頻度や輸送品目の最適化による輸送能力の向上、運行コストの削減、中国発の空コンテナ問題など積み荷の偏りの是正、通関・検疫手続きのさらなる簡素化、事故やトラブルなどのリスクを最小限に抑える取り組みが重要な課題だ。
これらの取り組みを通じて、中国南部とインドシナ半島を結ぶ中国ラオス鉄道は、国際物流の戦略的ルートとしての地位をさらに高め、ASEAN諸国との経済的な連携を一層深めることが期待される。
- 注1:
- なお、タイと中国間の陸路輸送は、ラオス経由、カンボジア・ベトナム経由、ミャンマー経由の3ルートが想定できる。タイの国境貿易統計(2023年1~8月)では、ラオス経由が2,310億バーツに対し、ミャンマー経由が3億6,000万バーツ、カンボジア経由が1億6,000万バーツだった。
- 注2:
- 2024年の中国モーハン税関の発表によると、2024年の通関総額は186億8.000万元(前年比40.8%増)、そのうち果物輸入額は39億4,000万元(前年比81.4%)に達した。中国が中国ラオス鉄道を通じて輸入する果物のうち、大部分(82%)がタイ産ドリアンだ。
- 注3:
-
Lertpusit, S., Suvakunta, P., & Chaipiphat, T. (2025). Opportunity and Potential of Chiang Khong in Exporting Thai Fruits to China after the Operation of Kunming-Vientiane Railway
. Political Science and Public Administration Journal, 16(1), 1–26.
- 注4:
- 2024年末時点の全区間の累計貨物量4,845万トン、累積越境貨物1,137万トン。
開通4年目の現状分析
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- 執筆者紹介
-
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう) - 2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員




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