2024年の新車登録は好調も自家用車は不調、生産は大幅減(英国)
EV登録台数は堅調もさらなる需要喚起が必要

2025年6月16日

英国自動車製造者販売者協会(SMMT)によると、2024年の英国の新車登録台数は堅調に増加した。登録台数の増加はフリート(社用車など)が牽引している。一方で、自家用車の登録台数は減少した。業界からは電気自動車(EV)の需要喚起策が求められている。

生産台数は大幅に減少した。一部のメーカーから投資の停止や工場の閉鎖なども発表されている中で、2024年に誕生した労働党新政権はEV移行に向けた措置の緩和を発表している。

新車登録台数は堅調に増加も、自家用車向けは減少

2024年の新車登録台数は前年比2.6%増の195万2,778台だった。増加の要因は前年に続いてフリートによるものだ。自家用車と商用車がそれぞれ8.7%減、3.1%減となったのに対し、フリートは11.8%増と好調だった(表1参照)。

表1:形態別の新車登録台数(△はマイナス値)
車種 2023年 2024年 前年比(%)
台数 構成比(%) 台数 構成比(%)
自家用車 817,673 43.0% 746,276 38.2% △8.7%
フリート 1,041,350 54.7% 1,163,855 59.6% 11.8%
商用車 44,031 2.3% 42,647 2.2% △3.1%
合計 1,903,054 100.0% 1,952,778 100.0% 2.6%

出所:SMMT

表2:燃料車種別の新車登録台数(△はマイナス値)
燃料車種 2023年 2024年 前年比(%)
台数 構成比(%) 台数 構成比(%)
ディーゼル車 142,434 7.5% 123,104 6.3% △13.6%
ガソリン車 1,066,211 56.0% 1,019,128 52.2% △4.4%
バッテリー電気自動車(BEV) 314,687 16.5% 381,970 19.6% 21.4%
プラグインハイブリッド車(PHEV) 141,311 7.4% 167,178 8.6% 18.3%
ハイブリッド車(HEV) 238,411 12.5% 261,398 13.4% 9.6%
合計 1,903,054 100.0% 1,952,778 100.0% 2.6%

出所:SMMT

燃料車種別(表2参照)にみると、バッテリー電気自動車(BEV)の新車登録台数は前年比21.4%増の38万1,970台、プラグインハイブリッド車(PHEV)が18.3%増の16万7,178台だったほか、ハイブリッド車(HEV)は9.6%増の26万1,398台だった。BEVが全新車登録台数に占める割合は19.6%で、前年比3.1ポイント増加した。一方、ガソリン車の新車登録台数は101万9,128台で最大だったが、全新車登録台数に占めるシェアは前年比3.8ポイント低下して52.2%と、依然として低下傾向にある。

表3:新車登録の上位10車種(単位:台)
順位 国・地域名 台数
フォード「プーマ」  48,340 
起亜「スポテージ」  47,163 
日産「キャシュカイ」  42,418 
日産「ジューク」  34,454 
テスラ「モデルY」  32,862 
VW「ゴルフ」  32,370 
現代「ツーソン」  32,174 
MGモーター「HS」  30,207 
ボルボ「XC40」  30,202 
10  VW「ポロ」  28,981 

出所:SMMT

新車登録の上位車種(表3参照)をみると、米国フォード「プーマ」が4万8,340台で前年に続いて1位、前年4位だった韓国起亜「スポテージ」が4万7,163台で2位に上昇した。日産の「キャシュカイ」「ジューク」が続いた。

生産は大幅減、輸出先として米国の存在感高まる

2024年の自動車生産台数は前年比13.9%減の77万9,584台だった(表4参照)。内燃車からEVへの移行に苦戦する中で、2024年は10カ月連続で生産台数が減少した。BEV、HEV、PHEVの合計生産台数も減少し、前年比20.4%減の27万5,896台となった。一方で、SMMTは、2023年と2024年に発表された投資を踏まえると、この減少は一時的との見立てを示している。

国内市場向け生産台数は前年比8.0%減の17万6,019台、輸出向けは15.5%減の60万3,565台だった。輸出先上位10力国・地域については、EUは引き続き最大の輸出先だったものの、シェアは6.3ポイント減の54.0%。反対に、米国が前年から6.6ポイント増加し16.9%となった(表5参照)。

表4:英国の自動車生産状況 (単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2023年(台) 2024年(台) 構成比(%) 前年比(%)
国内向 191,247 176,019 22.6 △8.0
輸出向 713,870 603,565 77.4 △15.5
合計 905,117 779,584 100.0 △13.9

出所:SMMT

表5:輸出先上10カ国・地域(単位:%)
順位 国・地域名 シェア
1 EU 54.0
2 米国 16.9
3 中国 6.6
4 トルコ 4.3
5 日本 2.9
6 オーストラリア 2.2
7 カナダ 1.7
8 韓国 1.5
9 アラブ首長国連邦 1.1
10 イスラエル 1.1

出所:SMMT

表6:メーカー別生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
メーカー 2023年 2024年 構成比 前年比
日産 324,893 282,124 36.2 △13.2
ジャガー・ランドローバー 238,422 257,110 33.0 7.8
ミニ 184,996 110,742 14.2 △40.1
トヨタ 122,193 98,055 12.6 △19.8
ベントレー 12,859 10,770 1.4 △16.2
その他 21,754 20,783 2.7 △4.5
合計 905,117 779,584 100.0 △13.9

出所:SMMT

メーカー別の生産台数では、日産が前年比13.2%減の28万2,124台と減少したものの、前年に続いて1位だった。トヨタも19.8%減の9万8,055台で、前年同様に4位だった(表6参照)。

EV投資の一方、一部メーカーは投資撤回や工場閉鎖を発表

ジヤトコ(日産傘下の部品メーカー)は、英国の生産拠点設立に向け投資する。生産開始見込みは、2026年。その後、日産は、サンダーランド工場でジヤトコが現地生産する電動パワートレインを調達する。なお日産とジヤトコは、この件を進めることで英国政府と合意していた。

このほか、ジャガー・ランドローバー(JLR)は9月、5億ポンド(約980億円、1ポンド=約196円)を投じ、同社のヘイルウッド工場で内燃車、ハイブリッド、BEVの並行生産を可能にすることを発表した。発表時点で2億5,000万ポンドは生産ラインや機械などに投資済みで、今後数年間で残りの2億5,000万ポンドを投資するとしている。同社は今回の投資について、同工場での生産の完全EV化に向けたものと位置付けている。

一方で、EVへの移行で苦戦を強いられている企業もある。ミニは2025年2月、2023年に発表したEV製造への転換に向けた投資を停止することが複数メディアで報じられた。ステランティスも、傘下のボクソールがルートンに持つバン工場を閉鎖することを発表し、エレスメア・ポート工場に生産拠点を統一して、電動バンを製造するとされている(BBCニュース、2024年11月27日)。

政権交代に伴い政策に変化

2024年7月に労働党政権が誕生し、新たな政策が発表されている。そのうちの目玉政策の1つが産業戦略の策定だ。2035年までの長期的な産業政策として、成長産業を特定し、支援するのが狙い。その1つとして、EV向けバッテリーの製造など先端製造業を挙げた。最終的な戦略は2025年の6月以降に発表される予定だ。

EVへの移行に関しては、前の保守党政権が2035年に延期していたガソリン・ディーゼル車の新車販売禁止を2030年へと再度変更(2024年10月31日付ビジネス短信参照)。前政権が導入した、自動車メーカーに対し一定割合のゼロエミッション車(ZEV)の販売を義務付けるZEVマンデートに関しては、政権発足直後は変更を行わなかった。しかし、2024年の目標(22%)達成がEV需要の伸び悩みで危ぶまれる中(2024年11月26日付ビジネス短信参照)で、前述のボクソールのルートン工場閉鎖や業界からの要望などもあり、12月に見直しを目的とした意見公募することを決定。2025年4月に意見公募に対する政府の回答というかたちで複数の緩和措置を発表した。具体的な措置として、まず2026年までとされていたZEVマンデートのアロウアンス(allowance、注)の前借りを認める期間を2029年まで延長し、前借り分の返済も2030年まで認める。また、罰金を減額し、アロウアンス1単位あたり乗用車については1万5,000ポンドから1万2,000ポンド、バンについては1万8,000ポンドから1万5,000ポンドへ減額した。(その他、詳細は2025年4月15日付ビジネス短信参照

併せて政府は、2030年(ガソリン・ディーゼル車の新車販売を原則として、禁止する年)以降も販売可能な車種についても詳細を発表。まず、乗用車についてはHEVとPHEVの新車販売を2035年まで認めると明示した。また、零細(年間登録台数1,000台未満)・小規模メーカー(同1,000台以上~2,500台未満)についてはそもそも、当該禁止の対象外にする。政府によるとその結果、アストンマーチンやマクラーレンなどのスーパーカーブランドも、禁止対象から外れる。さらにバンについては、2035年までガソリン・ディーゼル車の新車販売を認める。

トランスポート・エンバイロンメント(欧州で輸送の脱炭素化を推進する団体)によると、ZEVマンデートで超過達成していたブランドには、BMWやメルセデスベンツのほか、テスラやBYD、上海汽車集団(SAIC)など、中国で生産するメーカーや中国系のメーカーが挙げられている。

ZEVマンデートの緩和措置を発表する会見で、キア・スターマー首相は、「EV目標は国内メーカーに資するものでなければならない」と発言。「重い罰金を支払わせたり、外国のEVメーカーからクレジットを購入させたりするようなことはしたくない」とした。

この措置に対し、SMMTは歓迎の意を示した。同時に、(1)消費者需要の不足と地政学の変動があること、(2)その中で、ZEVマンデートの目標は依然として達成が困難なこと、(3)財政面で大胆なインセンティブが必要なこと、を指摘。需要喚起を求めた。SMMTはまた、EVへの乗り換えを促すには、信頼性が高く値ごろで包括的な充電インフラを、国内全体に確保することが必要とも言及。充電ポイント運営者に対し普及・拡大(roll out)の加速を働きかけるよう、政府に求めている。


注:
ZEVマンデートの遵守状況を測定するための単位。各メーカーは、販売台数と当該年の目標割合に応じて毎年、アロウアンスの付与を受ける。メーカーは、当該年に販売したゼロエミッションでない乗用車またはバン(非ZEV)1台当たりに対して、1つのアロウアンスを使用する。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
ワルダ・ホリー
2024年11月、ジェトロ・ロンドン事務所入所。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
山田 恭之(やまだ よしゆき)
2018年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課、欧州ロシアCIS課を経て2021年9月から現職。