新車販売、生産台数共に減少(南ア)
需要低迷、熾烈な競争、グローバルマーケットの影響も大きく

2025年6月30日

南ア自動車製造者協会(NAAMSA、National Association of Automobile Manufacturers of South Africa)の発表によると、2024年の南アフリカ共和国(以下、南ア)の新車販売台数(乗用車と商用車合計)は前年比3.0%減の51万5,850台だった。NAMMSAが昨年予測していた56万台に大きく届かない結果になった。NAAMSAは2024年の自動車業界について、「上半期の厳しい経済情勢と下半期の新車販売台数の増加という二極化の年になると予想していたが、残念ながら完全には実現しなかった」と総括した。

2024年は消費者物価指数(CPI)の安定(平均4.4%)や、下半期にかけて利下げなどがあったにもかかわらず、個人消費や企業支出が伸び悩み、2024年のGDP成長率は0.6%にとどまった。

表1:国内新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年(予測)
台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比
乗用車 246,539 △ 30.6 304,338 23.4 363,682 19.5 347,372 △ 4.5 351,555 1.2 369,000 5.0
階層レベル2の項目輸入台数 187,115 △ 30.1 238,845 27.6 292,890 22.6 269,631 △ 7.9 275,801 2.3 290,000 5.1
小型商用車 110,912 △ 27.6 133,078 20.0 135,711 2.0 151,490 11.6 133,251 △ 12.0 145,000 8.8
階層レベル2の項目輸入台数 17,163 △ 29.2 24,579 43.2 32,551 32.4 29,373 △ 9.8 31,142 6.0 33,000 6.0
中・大型商用車
(輸入台数含む)Medium and Heavy Commercial Vehicles (Including Imports)
22,614 △ 18.9 26,906 19.0 29,942 11.3 32,690 9.2 31,044 △ 5.0 31,000 △ 0.1
合計販売台数 380,065 △ 29.2 464,322 22.2 529,335 14.0 531,552 0.4 515,850 △ 3.0 545,000 5.7

出所:NAAMSA「Automotive Trade Manual 2025」からジェトロが作成

商用車販売が苦戦

セクター別に見ると、特に商用車販売が低調だった。小型商用車の販売台数は前年比12.0%減の13万3,251台、中・大型商用車も前年比約5.0%減の3万1,044台だった。小型商用車が低迷した理由の1つについて、全国自動車ディーラー協会(NADA)のブランドン・コーエン会長は、「タクシー向けファイナンスの撤退が要因だ。大手金融機関も追随した」と指摘した。同会長によると、これによりタクシー販売は月間1,000台以上から数百台に減少した。

一方、乗用車は前年比1.2%の微増だった。ジェトロが当地の自動車関連企業にインタビューしたところ、「経済指標から乗用車販売の低成長は予測していたが、想定よりは悪化しなかった。乗用車部門は微増ではあるものの、中国車の新モデルの参入が相次ぎ、それらが売れた分が増加しただけだとみている」と分析した。

NAAMSAは、2025年の年間新車販売台数を54万5,000台(前年比5.7%増)と予測した。新車販売台数は通常、南アのGDP成長率に連動する。南ア準備銀行は、2025年の経済成長率を1.7%と予測(3月20日時点)している。これを踏まえNAAMSAは2025年、インフレ率の落ち着きや金融緩和、国民統一政府(GNU)の政策などに伴う経済指標の好転、景況感や事業環境の改善、成長率に比例する販売台数の回復に期待する。また、「南アの自動車産業は国際市場の需要回復から恩恵を受けるはず」と外部環境の改善にも期待を寄せる。一方、米国のドナルド・トランプ大統領政権下でリスクを増すサプライチェーンや市場の混乱は、南アも不可避だ。

メーカー別首位はトヨタ

2024年の新車販売台数をメーカー別に見ると、(1)トヨタが首位(シェア24.9%)。続いて、(2)フォルクスワーゲン(VW)(12.9%)、(3)スズキ(11.6%)の順だった(図参照)。トヨタの首位は45年連続になるが、昨年のシェア(26.8%)と比べると微減だった。スズキは堅調に市場を拡大しており、ついに全体シェアの1割を突破した。

モデル別販売実績を見ると、(1) VW「ポロ・ビボ」2万5,914台(前年比7.8%増)、(2)トヨタ「カローラ・クロス」2万1,861台(前年比3.3%減)、 (3)スズキ「スイフト」1万5,764台(前年比1.3%減)で、2023年から変わらず上位を占めた。大幅増だったモデルは、5番手に躍進したヒュンダイ「グランドi10」1万3,669台(前年比29.8%増)、第6位の奇瑞汽車(チェリー)「Tiggo 4 Pro」1万2,610台(前年比21.4%増)だった。

なお、小型商用車(LCV)では、9年連続でトヨタ「ハイラックス」が3万2,656台(前年比12.6%減)と最も売れたモデルだった。「ハイラックス」は国内のダーバン工場で生産されており、トヨタブランドの中でも売れ筋だ。

図:新車販売台数市場シェア(2024年)
トヨタが24.9%。VWが12.9%。スズキが11.6%。フォードが6.4%。現代が6.0%。いすゞが4.5%。日産が4.3%。ハバル(GWM)が3.6%。ルノーが3.1%。起亜が2.9%。その他が19.8%。

出所 NAAMSA「Automotive Trade Manual 2025」からジェトロ作成

中国メーカーの勢いが加速

当地に進出する自動車関連日系企業に2024年の販売動向のヒアリングをしたところ、多くの企業が「ついに中国車が全体シェアの1割を超えた」と述べ、年々危機感を強めていると答えた。

業界関係者によると2024年時点で25以上の中国車モデルが市場に投入された(乗用車・商用車含む)という。前年同様(2024年7月8日付地域・分析レポート参照)、けん引しているのは奇瑞汽車(チェリー)と長城汽車だ。両社はSUV部門で攻勢を強めている。チェリーが2023年に発売開始した、コンパクトSUV「Tiggo 4 Pro」や高級志向のブランド「Omoda」モデルをヨハネスブルク市内で見かける機会が増えた。


「Tiggo 4 Pro」(ジェトロ撮影)

「Omoda」(ジェトロ撮影)

2024年10月、業界関係者が一堂に集まるAuto Week(2024年10月23日付ビジネス短信参照)のセッションに、NAAMSAの副会長を務めるタト・マガサ氏が登壇。中国メーカーの台頭について、「南ア国民にとって、購入できる自動車の選択肢の幅が拡がった。一方、国内で現地生産のために投資している従来のメーカーは、安価な輸入車への対抗に苦戦している。輸入数の増加は、2035年までに国内生産140万台の目標を掲げる『南アフリカ自動車マスタープラン2035(SAAM2035)』に反することを懸念する」と述べた。

新エネ車(NEV)シェア、3%を突破

新エネルギー車(NEV)の新車販売台数は、前年から倍増の1万5,611台だった(2023年7,782台)(表2参照)。これにより、新車販売台数に占めるNEVのシェアは3%に拡大した。台数としては多くないものの、2年前は1%以下だったことから、着実に増加している。このうち、ハイブリッド車(HEV)が8割以上を占めるという傾向に変わりはない。

2024年2月、政府はバッテリー式電気自動車(BEV)生産への投資インセンティブとして、150%の税額控除優遇措置を発表した。この措置は2026年3月から開始し、2036年まで10年間継続する。ただし、この発表には、BEV購入に対する補助金が含まれていない。南アは都市部を含め、充電ステーションなどが整っていないため、BEVが一気に拡がる環境では現状ない。

表2: 新エネルギー車の新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
台数 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比
HEV 101 624 517.8 4,066 551.6 6,485 59.5 13,616 110.0
PHEV 131 54 △ 58.8 126 133.3 368 192.1 738 100.5
BEV 92 218 137.0 502 130.3 929 85.1 1,257 35.3
合計 324 896 176.5 4,694 423.9 7,782 65.8 15,611 100.6

注1:この表で言う「HEV」はハイブリッド車、「PHEV」はプラグイン・ハイブリッド車、「BEV」はバッテリー式電気自動車。
注2:大型商用車を含む。
出所:NAAMSA「Automotive Trade Manual 2025」からジェトロ作成

生産台数は前年比減に転じる

NAAMSAの発表によると、国内生産台数(乗用車・商用車合計)は前年比5.2%減の59万9,754台だった。生産台数は2020年以降右肩上がりだったが、2024年は減少に転じた。国内経済の課題(金利上昇、消費者買い控えなど)と、モデルチェンジによる国内生産ラインの一時停止、欧州市場への輸出減などが重なった。

金利が高水準を維持し、借入コストの高止まりにより高額商品の消費者負担が増加した。2024年には、4年ぶりに利下げが行われ(8.25%から9月に8%、11月に7%へ引き下げ)、インフレの緩和と燃料価格の低下も相まって自動車市場の好転が期待された。しかし、販売台数の伸び悩みが足かせになり、生産台数も低迷した。特に、第4四半期の業界全体の設備稼動率は軒並み低迷した。NAAMSAは、長期化する港湾の混雑と遅延によるサプライチェーンの混乱、弱い国内需要、輸出量の減少が停滞を招いたと報告した。

セクター別にみると、生産でも小型商用車(LCV)が前年比約17.2%減(21万7,562台)に縮小した。その一因として考えられるのは、上述したタクシー向けファイナンスの撤退だ。当地での現地人向けタクシーは、一般的に乗り合いのミニバスを指し、公共交通機関が発達していない南アでの重要な交通インフラだ。そのミニバス市場を独占しているのが、ダーバン工場で生産されているトヨタのハイエースだ。ハイエースの国内販売は、前年比54.9%減(7,688台)となり、需要に見合った生産調整が進んだ。

NAAMSAによると、国内生産の約65%を占める輸出が減少したことも大きな要因だ。生産台数は、2020年から堅調に伸びていたが2024年の輸出台数(乗用車と小型商用車合計)は、前年比2.3%減の38万7,495台だった。NAAMSAは輸出台数減少の要因について、南アの主要輸出地域である欧州の経済低迷、需要鈍化、中国メーカーとの競合、排ガス規制の厳格化などに言及している。

トヨタ南アフリカモーターズ(TSAM)の減産も影響があったと考えられる。2024年1月に発覚した豊田自動織機(TICO)のエンジン認証における法規違反の影響を受け、TSAM はTICO製エンジンを搭載する南ア製ハイラックスの欧州への輸出を一時停止した。2025年3月14日付けの「Engineering News」のインタビューで、TSAMの広報担当は「この件は、南ア国内市場向けハイラックス生産にはほとんど影響しなかったが、EU向けの生産には影響があった」と述べた。2025年1月に、TICOは調査の完了をEUの関連当局に通知し、以降輸出は再開した。

表3:国内生産台数 (単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年(予測)
台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比
乗用車 237,214 △ 32.0 239,266 0.9 309,423 29.3 336,012 8.6 350,384 4.3 365,000 4.2
階層レベル2の項目輸出台数 178,299 △ 31.4 173,085 △ 2.9 237,627 37.3 256,902 8.1 273,113 6.3 285,000 4.4
小型商用車 185,691 △ 27.0 232,166 25.0 215,472 △ 7.2 262,646 21.9 217,562 △ 17.2 236,000 8.5
階層レベル2の項目輸出台数 91,725 △ 26.7 123,210 34.3 111,659 △ 9.4 139,661 25.1 114,382 △ 18.1 124,000 8.4
国内生産合計 446,216 △ 29.4 499,086 11.8 555,885 11.4 632,362 13.8 599,754 △ 5.2 633,000 5.5

注:中・大型車の生産台数は発表なし。
出所:NAAMSA「Automotive Trade Manual 2025」からジェトロ作成

世界の自動車生産台数に占める南アのシェアは、2023年の0.67%から2024年には0.65%に低下した。しかし、イタリアの不振を受け、世界の自動車生産台数ランキングでは22位から21位に上昇した。

2024年のアフリカでの自動車生産台数117万7,400台の50.9%を南アが占めた。

厳しい環境でも投資は顕在

南アの市場環境は決して良好とはいえないが、民間企業の新規投資がいくつか発表された。NAAMSAの報告によると、2024年の主要メーカーによる設備投資総額は前年比1.4倍の73億ランド(約584億円、1ランド=約8円)で、主に新世代モデルへ製造への設備投資向けだった。NAAMSAは、南アでHEVやPHEVへの投資が増加していると報告した。

主な例を列挙すると、次の通り。

  • フォルクスワーゲン(VW)グループ・アフリカ(ドイツ)
    2024年4月17日、カリエガ(Kariega)工場で40億ランドの投資を発表。2027年から第3モデル(コンパクトSUV)の生産を開始予定。
  • スズキオート南アフリカ(日本)
    6月27日、四輪販売、部品販売の好調によりヨハネスブルクメイン倉庫の在庫スペースが不足したことから、初の西ケープ部品倉庫を開設。需要の多い部品をケープタウン港で荷揚げし、西ケープ州および東ケープ州への部品供給を円滑化、配送リードタイムを削減することが目的。
  • 豊田通商アフリカ(日本)
    8月22日、オギハラ(本社・タイ)およびトヨタ南アフリカモーターズ(TSAM)と協力して、新しい合弁会社「オギハラ南アフリカ」を設立すると発表。同社は総額11億ランドを投資し、TSAMに供給される部品を製造予定。
  • BMW(ドイツ)
    10月9日、5,200平方メートルの倉庫を立ち上げた。ロスリン工場で生産予定の新型「BMW X3 PHEV」の部品保管に利用する。
  • 日産(日本)(注)
    11月4日、南アフリカ日産はハウテン州アイリーンに、南アを含むアフリカ地域の販売ネットワーク向けサービスを提供する南ア事業本部を正式に開設した。
  • FAW トラック南アフリカ(中国)
    11月11日、進出する東ケープ州の工場に2億ランドの投資を発表。組み立て工場の生産性を向上し、施設、保管エリアやトレーニングセンターを拡張・改善する予定。

注1:

日産は2019年にも工場拡張のための投資を発表していたが(2019年4月24付ビジネス短信参照)、2025年3月の決算説明会で工場の削減を発表。複数のメディアが、南ア工場は削減検討対象の1つと報道している。

執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
堀内 千浪(ほりうち ちなみ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ浜松などを経て、2021年8月から現職。