在インド日系製造業のいま
2024年度海外進出日系企業調査の結果から

2025年2月25日

インドに、日本企業からの熱視線が注がれている。国際協力銀行(JBIC)の「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告(2024年)」によると、有望事業展開先として、インドが3年連続で首位を飾った。

インド政府は、慢性化する貿易赤字と国内雇用創出を目的に製造業振興政策「メーク・イン・インディア」を掲げ、国外からの製造業誘致を積極的に行っているが、足元の産業部門別GDPで製造業が占める割合はいまだ14%程度と、実を結んではいない。そこで本稿では、ジェトロの「2024年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」(以下、日系企業調査、注1)の結果とインドでのヒアリングを基に、進出日系製造業の実態と生産地としてのインドの可能性を探る。

インドで好調な日系製造業、事業拡大意欲は世界でトップ

インドで、日系製造業が好調だ。日系企業調査によると、8割以上の日系製造業が2024年(1~12月)に黒字を見込んだ。特に「化学・医薬」「精密・医療機器」「輸送機器」「輸送機器部品」などの業種で、相対的に黒字を見込む割合が高かった。また、2024年の営業利益見込みについて、前年と比較して「改善する」と回答した割合は59.6%と、全体の過半に及ぶ。その理由としては、「内需の増加」を挙げる声が多かった。

直近10年の動きを確認すると、「黒字」を見込む企業の割合は堅調に推移している。新型コロナウイルス禍の影響によって、一時は急激な落ち込みを見せた。しかし、V字回復を遂げ、2024年度調査では83.1%と直近10年で最高割合を記録した(図1参照)。

日本企業の注目がインド市場に集まる理由の1つには、このような既進出企業の景気の良さも背景に挙げられよう。

図1:在インド日系製造業の黒字見込み割合の推移(製造業のみ、%)
「黒字」を見込む企業の割合は堅調に推移している。新型コロナウイルスの影響により一次急激な落ち込みを見せたものの、V字回復を遂げ、2024年度調査では過去最高 の83.1%を記録した。

出所:日系企業調査からジェトロ作成

ただし、この好調ぶりを読むにあたっては、丁寧にデータをひも解くことが重要だ。黒字を見込む企業について、進出時期別に整理した結果が図2だ。

図2:2024年の黒字見込み割合(進出時期別、製造業のみ、%)
黒字を見込む割合について、2004年以前に進出した企業では92.0%以上、2005年~2009年進出で85.7%、2010年~2014年進出では90.9%といずれも9割前後の企業が黒字を見込む。一方で、2015年~2019年進出は61.5%、2020年以降は50.0%と同割合は3分の1程度落ち込む。

出所:日系企業調査からジェトロ作成

2004年以前に進出した企業は、92.0%以上が2024年に黒字を見込んでいる。2005年~2009年進出では85.7%、2010年~2014年進出で90.9%だ。いずれも、9割前後の企業が黒字を見込だかたちだ。一方で、2015年~2019年進出は61.5%、2020年以降の進出では50.0%と、大きく落ち込んだ。参考までに、2022年度と2023年度調査でも、進出から10年経過している企業とそうでない企業の黒字見込み割合には大きなギャップがあった。従前からインドでは黒字化の道のりは長いとされている。近年の日系企業の好調ぶりは、長期的にインドで事業を展開してきた企業の実績が表れた結果と理解できよう。そのため、一辺倒に「景気が良い市場」と認識してしまうのは、いささかミスリーディングとなりかねない。

視点を変え、今後の事業展開を聞く設問で「拡大」と回答した企業は、79.7%だった。これも、直近10年で最高の記録になる。業種別では、「電気・電子機器」「電気・電子機器部品」「化学・医薬」「一般機械」「精密・医療機器」などで、拡大割合が8割を超えた(図3参照)。

図3:今後の事業展開を「拡大」と答えた企業の割合
(2015年~2024年、製造業に限る)
今後の事業展開を聞く設問では、「拡大」と回答した企業の割合は79.7%と、直近10年で最多を記録した。

出所:日系企業調査からジェトロ作成

製造業を営む企業が拡大の理由として最も多く挙げたのは、「現地市場ニーズの拡大」(88.8%、複数回答)だった。14億という人口規模と今後増大が見込まれる中間所得層という背景もあってか、拡大する機能については、「販売」(67.5%)、「高付加価値品の生産」(54.7%)と答えた割合が多かった(表1参照)。

表1:拡大する機能(製造業のみ)(単位:%)
項目 販売 生産(高付加価値品) 生産(汎用品) 新規事業開発 研究
開発
カスタマーサービス 地域統括機能 その他
製造業全体 67.5 54.7 47.9 21.4 15.4 13.7 4.3 3.4
食料品 (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*)
繊維・衣服 (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*)
紙・木製品・印刷 (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*)
化学・医薬 90.0 50.0 30.0 30.0 30.0 10.0 10.0 0.0
プラスチック製品 (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*)
ゴム・窯業・土石 (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*)
鉄・非鉄・金属 25.0 87.5 50.0 12.5 12.5 0.0 0.0 0.0
一般機械 75.0 40.0 70.0 15.0 0.0 35.0 10.0 5.0
電気・電子機器 87.5 50.0 37.5 12.5 12.5 12.5 0.0 0.0
電気・電子機器部品 66.7 50.0 66.7 16.7 16.7 33.3 0.0 16.7
精密・医療機器 100.0 60.0 20.0 60.0 40.0 40.0 0.0 0.0
輸送機器 50.0 66.7 50.0 0.0 0.0 0.0 0.0 16.7
輸送機器部品 53.3 56.7 46.7 20.0 20.0 6.7 3.3 0.0
その他製造業 66.7 55.6 44.4 11.1 22.2 0.0 11.1 0.0

注1:回答社数5社以上の業種だけを表示。
注2:(*)有効回答なし。
出所:日系企業調査からジェトロ作成

市場シェアは増加も、地場企業の存在感は圧倒的

ではインドにおける競争環境はどう変化してきたのか。2019年以降、主力製品・サービスの市場シェアが「増加した」と答えた割合は、製造業全体で57.1%。とりわけ「化学・医薬」(81.8%)、「精密・医療機器」(80.0%)などの業種で顕著だった。他方、競合相手数の変化について、「増加した」と答えた割合は47.2%であった。また、当地での競争相手について、最も競争力が強いとしたのは「地場企業」(50.0%)で、「中国企業」を挙げた回答は少なかった(6.2%)。

ここで、インドでの中国企業の存在感について、ASEAN進出日系企業の回答結果と比較しながら、もう少し詳しく見ていきたい。次の2つの表は、インドとASEANで、進出先の最も強い競争相手として挙げた企業の所属国・地域割合を業種別に表したものだ。

表2-1:インド市場で競争力が強い企業(複数回答)
インド
項目 地場
企業
日本
企業
中国
企業
台湾
企業
韓国
企業
欧州
企業
米国
企業
その他
製造業 50.0 15.4 6.2 0.0 3.1 18.5 6.2 0.8
食料品 (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*)
繊維・衣服 (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*)
紙・木製品・印刷 (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*)
化学・医薬 58.3 0.0 0.0 0.0 8.3 16.7 16.7 0.0
プラスチック製品 (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*) (*)
ゴム・窯業・土石 66.7 16.7 0.0 0.0 0.0 0.0 16.7 0.0
鉄・非鉄・金属 62.5 12.5 0.0 0.0 0.0 12.5 0.0 12.5
一般機械 45.5 9.1 13.6 0.0 0.0 31.8 0.0 0.0
電気・電子機器 0.0 33.3 11.1 0.0 11.1 22.2 22.2 0.0
電気・電子機器部品 50.0 0.0 0.0 0.0 16.7 16.7 16.7 0.0
精密・医療機器 20.0 20.0 0.0 0.0 0.0 20.0 40.0 0.0
輸送機器 62.5 37.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
輸送機器部品 54.3 17.1 5.7 0.0 2.9 20.0 0.0 0.0
その他製造業 54.5 18.2 9.1 0.0 0.0 18.2 0.0 0.0

注1:回答社数5社以上の業種だけを表示。
注2:「進出先市場における競争相手について、競争力が強いと思われる企業」を尋ねた質問に対する回答。
注3:(*)有効回答なし。
出所:日系企業調査からジェトロ作成

表2-2: ASEANで競争力が強い企業(複数回答)
ASEAN
項目 地場
企業
日本
企業
中国
企業
台湾
企業
韓国
企業
欧州
企業
米国
企業
インド
企業
その他
製造業 29.2 27.5 26.5 2.8 3.1 5.7 2.2 1.0 2.0
食料品 50.8 6.2 15.4 0.0 3.1 13.8 3.1 0.0 7.7
繊維・衣服 15.2 21.2 51.5 0.0 3.0 6.1 0.0 0.0 3.0
紙・木製品・印刷 57.1 19.0 14.3 4.8 2.4 0.0 2.4 0.0 0.0
化学・医薬 21.4 16.7 32.1 2.4 0.0 14.3 3.6 3.6 6.0
プラスチック製品 36.7 34.2 21.5 0.0 3.8 0.0 0.0 0.0 3.8
ゴム・窯業・土石 34.0 26.0 26.0 2.0 2.0 6.0 4.0 0.0 0.0
鉄・非鉄・金属 35.9 26.2 23.4 4.1 6.2 2.1 1.4 0.0 0.7
一般機械 28.9 25.3 22.9 8.4 1.2 7.2 1.2 3.6 1.2
電気・電子機器 20.8 26.4 28.3 0.0 7.5 7.5 7.5 1.9 0.0
電気・電子機器部品 13.4 23.9 46.3 6.0 4.5 3.0 1.5 0.0 1.5
精密・医療機器 11.1 16.7 38.9 0.0 11.1 11.1 11.1 0.0 0.0
輸送機器 14.8 63.0 18.5 0.0 0.0 3.7 0.0 0.0 0.0
輸送機器部品 22.0 46.1 22.7 2.8 0.7 2.8 0.0 1.4 1.4
その他製造業 30.0 22.0 30.0 0.0 2.0 10.0 6.0 0.0 0.0

注1:回答社数5社以上の業種だけを表示。
注2:「進出先市場における競争相手について、競争力が強いと思われる企業」を尋ねた質問に対する回答。
出所:日系企業調査からジェトロ作成

競争力が強い企業として「中国企業」を選んだ割合は、ASEANで26.5%にのぼった。対照的にインドでは、前述のとおり6.2%にとどまっている。特に「電気・電子機器」「電気・電子機器部品」「輸送機器」「輸送機器部品」などの業種を中心に、ASEANに比べ中国企業の存在感が弱い。

インド政府は、2020年4月から中国を含め、インドと国境を接する国からの投資を政府の事前許可制にした。インド標準規格局(BIS)による強制認証(2024年3月18日付地域・分析レポート参照)についても、中国製品に対する認証取得のハードルが高いのが現状だ。こういった投資環境がインドの市場競争のユニークさを形作っている。

伸び悩む現地調達率、地場サプライヤーの品質向上に期待

今後1~2年の現地調達の方向性を聞く設問で、現地調達を「拡大する」と答えた在インド日系企業は68.1%。アジア大洋州地域内で、トップになった(図4参照)。

図4:今後1~2年の現地調達の方向性
今後1~2年の現地調達の方向性を聞く設問では、現地調達を「拡大する」と答えた企業の割合は68.1%と、アジア地域内でトップとなった。

出所:2024年度日系企業調査からジェトロ作成

一方で、インドでは足元の現地調達率は伸び悩みを見せる。以下の図5は、直近10年の現地調達率を聞いた回答の推移を表したものだ。2016年度調査以降、新型コロナ禍を除きほぼ横ばいで推移していることがわかる。

図5:現地調達率の推移(2015年~2024年)
直近10年の現地調達率ほぼ横ばいで推移している。

出所:日系企業調査からジェトロ作成

現地調達の課題としては、「現地調達先の品質や技術力が不十分」を挙げた割合が76.4%と最も高かった。これに、「現地で原材料を供給できるメーカーがない」(30.7%)、「現地で部品を供給できるメーカーがない」(29.7%)が続いた。2024年12月にデリー首都圏でジェトロがヒアリングしたところ、現地日系企業から次のような声が上がった。

  • 日系企業A:インド産部材には、耐久性の観点から問題がある。インドでは、日本市場で評価されないようなレベルのものが市場に出回るのが現状。
  • 日系企業B:裾野産業が未発達。そのため、細かいステップごとにベンダーを変えなければならない。
  • 日系企業C:現地サプライヤーのレベルは、上がってきてはいる。しかし、成長速度がどれだけ早いかがカギ。

なお、現地調達を拡大する方針を持つ企業にその理由を聞いたところ、約8割が「原材料・部材費のコスト上昇」を挙げた。政府の「メーク・イン・インディア」などに追随した結果とは、言えなさそうだ。国産化促進政策の影響は実際のところ、相対的には限定的であることがわかった。

税務や行政手続きに「煩雑さ」、労務面にも課題

インドで製造活動をする上で、どのような難点に直面することになるのか。

「投資環境面でのリスク」についての設問(複数回答)について、製造業企業からの回答を抽出してみると、「税制・税務手続きの煩雑さ」が57.5%と最も多かった。「行政手続きの煩雑さ(許認可等)」が52.1%と続いた。この点については、日系企業からは「税制が未熟で、当局の解釈も不透明」(日系企業D)、「税務訴訟が多く、対応のために大変な労力を割く必要がある」(日系企業E)などの声が上がった。

このほか、「労働争議・訴訟」の回答も30.8%あった。この調査の中で、特別に顕著な数字というわけではないが、当地での労働組合の強さや、労働交渉が頻発する現状に言及する企業が相対的に多かった印象だ。

生産拠点としてのインドの課題

ここまで、日系企業調査の結果や現地日系企業の声を概観してみた。総じて、製造業の集積地を目指す上で、インドが今後より注力すべきポイントはソフトインフラ、特に税・法制度の整備、手続きの簡素化なのではないか、と筆者は考えている。

無論、ハードインフラの整備(道路や電気など)には、なおも取り組むべき余地がある。しかし、ハードインフラ面について苦言を呈する企業数は、徐々に減少してきているような印象を抱いた。筆者が2024年3月にインド国内の工業団地を数カ所訪問した際も、道路は想像をはるかに超えるほど整備されており、瞬間的な停電は頻発するにせよ、長時間に及ぶ停電がほとんどなかったことに驚いた記憶がある。

他方、地場サプライヤーの技術力が未成熟にもかかわらず、非関税障壁を設けて部材の輸入を制限するなど、アクセルとブレーキのバランスが取れていない政策運営や、税・法制度の突発的な変更に苦労する企業は多い。また、労働力人口は多いものの、生産管理のためのホワイトカラーが圧倒的に足りていないという声も聞かれ、人材育成でも課題が残っている。

インドへの日系中小企業の進出は全体の15%(注2)と限定的だ。ジェトロの「2024年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」でも、今後の事業拡大先として、大企業と中小企業間の偏差が最大だったのがインドだった。前述のような不透明かつ突発的な政策運営への対応には、コストが高くつく。大企業に比べて資金力や人的リソースが限られている中小企業にしてみると、非常に高い参入障壁になる。

インドが製造拠点として総合力を強化していくためには、地場サプライヤーの育成が必要不可欠であるが、既に技術やノウハウを持った外資サプライヤーを誘致し、そこから学ぶことが、地場サプライヤー成長の最短経路と思われる。そのため、外資中小企業を積極的に誘致していく姿勢として、ソフトインフラ面の整備を拡充し、参入障壁を低減していくことが重要ではないだろうか。


注1:
本調査は、2024年8月20日~9月18日、アジア・オセアニア20カ国・地域に進出する日系企業(1万3,727社)を対象に実施。有効回答数は5,007社、有効回答率は36.5%だった。なお、20カ国・地域の内訳は、北東アジア5カ国・地域、ASEAN9カ国、南西アジア4カ国、オセアニア2カ国。
注2:
製造業・非製造業全体での割合。
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
深津 佑野(ふかつ ゆうの)
2022年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課を経て、2023年8月から現職。