中東プロ野球リーグが初の試合を開催、2024年も開催へ

2024年5月15日

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで2023年11月に、プロ野球リーグ「ベースボール・ユナイテッド(BU)」の初めての試合となる「ショーケース」が開催された。米国メジャーリーグ(MLB)で活躍した元メジャーリーガーや日本プロ野球(NPB)でのプレー経験を持つ選手が多く参加したこともあり、日本を含む世界の野球ファンの中で話題を呼び、野球関係者も注視を続ける。2024年には、第2回のショーケースを予定しており、徐々にリーグの体制を拡大していく計画である。本稿では、「中東初のプロ野球リーグ『ベースボール・ユナイテッド』が発足」(2023年10月10日付地域・分析レポート)の続報として、2023年11月に行われたショーケースを振り返るとともに、今後の展望、日本とのビジネスの協業可能性について考察する。

2023年11月に初の試合を開催

2023年11月24、25日に「オールスター・ショーケース」として2試合が開催された。会場はドバイ国際クリケット場を野球仕様にグラウンドを改変し、使用された。当初は、発表されていた4チームが総当たり戦を行う計画であったが、直前に変更となり、「EAST」と「WEST」の2チームに再編成し、「オールスター・チーム」として開催された。

選手は、米国を中心として世界各地から集められ編成された。2023年10月23日にドラフト会議が開催され、その様子はYoutube Liveでも配信された。ロビンソン・カノー選手やバルトロ・コロン選手といった元メジャーリーガーや、日本でのプレー経験がある選手も多く選ばれ、日本人では元横浜DeNAベイスターズの平田真吾投手が選ばれるなどし、日本を含む世界の野球ファンの話題となった。また、開催地域である中東や南アジア、アフリカからの「地元枠」選手も数人選出され、地域に根付くリーグを目指す意図が見える選手選考となった。

当日はUAE在住の野球ファンを中心に観客を集め、観客数は11月24日が4,500人、25日が4,200人(主催者発表)だった。テレビやインターネット上での中継も行われ、テレビでは中東地場のメディア企業であるMBCやパキスタンの「Aスポーツ」チャンネルをはじめ、米国やオーストラリアなど世界120カ国以上で放映された。野球の試合を開催するほか、会場ではライブ音楽の演奏やビール、ピザの販売なども行われ、お祭りの雰囲気を演出するなどして盛り上がった。また、独自の追加ルールが導入され、「指名走者」制度や、ホームランを打つと得点が倍になる「マネーボール」などで話題作りにも取り組んだ。実際に、2試合目では「マネーボール」ルールを適用した打席でパブロ・サンドバル選手が「6ランホームラン」を打ち、またそれによって平田投手が勝利投手となったことで日本でもスポーツ紙を中心に話題となった。


試合前に談笑する選手(ジェトロ撮影)

スタジアムにはBUのロゴが大きく打ち出された
(ジェトロ撮影)

試合前の国歌斉唱(ジェトロ撮影)

試合の様子(ジェトロ撮影)

2024年も第2回ショーケースを計画

2023年のショーケースは、運営およびビジネスモデルの概念実証(POC)と位置付けで開催された。結果として、BUは今後も事業を続けていく決断を下した。2024年秋に第2回のショーケースを開催することで、計画を進めている。

第1回は、テレビやインターネット・ストリームの放映権は無料で提供され、売り上げは基本的にはチケット収入と一部の飲食売り上げのみであったが、今後はテレビやインターネット・ストリームの放映権収入を軸に売り上げを確保し、ビジネスモデルの確立を狙う。開催地は、初回に開催したドバイに加えてアブダビでの開催を計画している。ドラフト会議も試合に先立ち実施し、それぞれのスケジュールは今後発表される予定である。

また、4チームのうちUAEにフランチャイズを置いていた2チームの名称を変更した。当初「アブダビ・ファルコンズ」「ドバイ・ウルブズ」であったチーム名を、それぞれ「ミッド・イースト・ファルコンズ」「アラビア・ウルブズ」とし、中東のより広域な地域を包摂していく意図を明確にしている。一方、現状はリーグが保有している各チームにスポンサーを付け、企業や個人が保有する形を将来的には目指す。

着実にアライアンスを拡大

今後の事業を拡大するため、地域での連携や参画者、賛同者を着実に増やしている。BU発足当初は5人に満たなかった共同出資者や共同オーナーは現在20人にまで増えている。全員がMLBで活躍していた元メジャーリーガーだが、20人目として名を連ねたのはアトランタ・ブレーブスで現在もプレーするロナルド・アクーニャ・ジュニア選手で、人気の高い現役選手が参画したことで注目度にも弾みがつくことが期待される。

2024年3月4日には、サウジアラビアの野球・ソフトボール連盟(SBSF)とのパートナーシップ締結を発表した。同国は脱石油依存を企図し、国家プランである「サウジ・ビジョン2030」を軸に、観光業やエンターテインメント産業の促進、製造業の誘致などを積極的に進める。スポーツ振興にも積極的で、2022年10月には2029年のアジア冬季競技大会を超大型スマートシティプロジェクト「NEOM」での開催が発表されている。SBSFは2019年に設立されたばかりだが、今回の提携にはリヤド、ジッダ、ダンマンでのフランチャイズチーム設立が盛り込まれた。

中東でのプロスポーツ振興、そして日本との協業可能性は

現状、中東地域におけるプロスポーツは、サッカーのプロリーグがサウジアラビアやUAEなど各国に存在するが、欧州や東アジアなどの地域と比べれば、商業的に成功しているとは言い難い。地場の高い資金力に支えられて運営されているケースがほとんどだと言える。

その中で、BUがどのように収益性を確保していけるかのカギは、1つは資金力の豊富な現地のスポンサーを獲得することである。米国や中米などで活動する元メジャーリーガーからの支援も重要だが、地元からの支援は地域密着のきっかけにもなる。もう1つは、BUが設立当初から収益構造の軸として挙げているように、放映権収入の確保である。現代では、中東や南アジア地域に限らず、日本を含めた世界各地のテレビ局やインターネットメディアと放映契約を結べる可能性がある。

また、BUは日本を注力すべき市場として挙げている。日本は米国に次ぐ世界2位の野球マーケットであることが最大の理由である。日本のファンは野球への情熱やコミット度が非常に高く、海外の野球に対しての関心度も高いと見る。ファン層の厚さのみならず、プロ野球をはじめとする野球組織、また日本発の野球に関する技能やビジネスソリューションとの連携可能性も十分にある、とBUは見ている。2023年のショーケース開催を機に、日本の野球関係者とはコミュニケーションを始めており、将来的には選手の交流などの可能性にもBUは期待する。また、スポンサーシップ獲得に向けて、関心を持つ日本企業とも協議を開始している。

ビジョンは持ちつつ、現実や進捗度を見ながら柔軟にプランを変更するなど、少しずつではあるが着実にリーグの運営とビジネスの拡大を目指して取り組みを進めている。

執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部商流構築課(執筆当時)
山村 千晴(やまむら ちはる)
2013年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ岡山、ジェトロ・ラゴス、ジェトロ・ドバイ事務所を経て、本部。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課長
松村 亮(まつむら まこと)
1993年、ジェトロ入構。展示部、ジェトロ名古屋、ジェトロ・ダルエスサラーム事務所、企画部、輸出促進部、ジェトロ・上海事務所、ジェトロ大分、アジア経済研究所勤務などを経て、2023年5月から現職。