グーグルのベストパートナーを目指し南米進出(ブラジル)
ブラジル進出日系スタートアップ企業に聞く

2024年3月22日

近年、急速に発展を遂げているブラジルのスタートアップ(SU)業界。米国調査会社CBインサイトによると、2023年10月時点での国別ユニコーン企業数ランキングでブラジルは、シンガポールと並び9位(16社)にランクインしており、日本よりもその数が多い。またエコシステムの評価も高く、スタートアップブリンクによれば、ブラジル最大の都市サンパウロのエコシステムは世界17位で、東京(14位)の評価と大差はない。

そんなブラジルで拠点を構え、ブラジル市場に挑戦する日系のSU企業がある。グーグルクラウドのパートナーとして、企業へのクラウド導入支援、開発サポート、エンジニア育成などのサービスを提供するクラウドエース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだ。クラウドエースは、2023年3月にサンパウロに現地法人を設立し、現在は現地の進出日系企業を中心にサービスを提供している。また、ジェトロがブラジル輸出投資促進庁(Apex-Brasil)などと共同で、SU企業のブラジルでのビジネス展開をサポートするプログラム「スケールアップ・イン・ブラジル(Scaleup in Brazil外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、注1)」に参加し、現地での事業拡大に取り組んでいる。

今回は、クラウドエースのブラジル進出の経緯から、ブラジル市場の魅力、今後の事業展開などについて、同社ブラジル法人でマネージングディレクターを務める青木サウロ氏に話を聞いた(インタビュー実施日:2024年3月1日)


クラウドエースのブラジル法人でマネージングディレクターを務める青木サウロ氏
(クラウドエース提供)
質問:
貴社の事業概要は。
答え:
当社はグーグルクラウドを専門とするシステムインテグレーターで、クラウドの導入設計から運用・保守までをワンストップでサポートしている。事業の9割以上は、企業が利用しているITインフラをグーグルクラウドにマイグレーション(注2)するためのシステム開発やコンサルティングをしている。また、グーグルの生成AI(人工知能)のコンサルティングや、グーグルワークスペースのリセールも行っている。
質問:
ブラジル進出を決めた経緯は。
答え:
当社は世界一のグーグルパートナーになるために、アグレッシブな事業拡大戦略に取り組んでいる。既にアジアには拠点があったが、南米には進出していなかったため、最も市場規模が大きいブラジルへの進出を決めた。ブラジルにはグーグルのデータセンターがあり、「Google for Startups(注3)」もブラジルに注力している。グーグルのパートナーとして、グーグルが注力している地域での事業をサポートしたいと考えていた。
質問:
ブラジルに進出するメリットは。
答え:
市場が大きい点が一番のメリットだと考えている。ブラジルは人口が多く、今後GDPも拡大していく市場だ。また、SU企業数が多い点も魅力の1つ。さらに今後、南米のマーケットを獲得する上で、ブラジルがその拠点になりえると考えている。

ブラジルのSU企業に事業紹介をするクラウドエースの青木氏(ジェトロ撮影)
質問:
ブラジル進出で苦労したことは。
答え:
いまだに苦労しているが、人材の獲得に苦労している。良い人材が見つかっても要求される給与が高い。職種別では、管理職の獲得が難しい。日本はマルチタスクな人材が多く管理職に適した人材が多いが、ブラジルは専門分野に特化しているので、管理職の適任が少なく、そのため組織を構築することが難しい。またブラジルは税制が複雑なため、ポルトガル語の専門用語も相まって内容を理解するのが困難。優秀な弁護士を雇う必要があるが、質が低い割に費用が高くつくことが多いので、事業を回す上で発生する税務コストが高くなる。
質問:
ブラジルのビジネスで心掛けていることは。
答え:
ブラジルの文化と商習慣を理解することが大切だと考えている。ブラジルではサービスの提案や商談につなげようとしても、レスポンスがなくスムーズに進まないことがある。またブラジルの経営者は、目の前の問題を解決する能力はあるが、長期的な計画を立てて、計画通りに仕事を進めることが苦手な印象がある。日本であれば、先のことを予測しながら仕事ができるが、ブラジルでは先のことが読めないので、ビジネスを進める上で難しさがある。
質問:
スケールアップ・イン・ブラジルへの参加目的は。
答え:
新規顧客獲得に向けて参加している。スケールアップ・イン・ブラジルでは、潜在顧客とマッチングしてもらったり、現地のSU関連のハブやコミュニティを紹介してもらったりしているので、新規顧客獲得という意味で満足している。実際、紹介してもらったSU関連ハブで、グーグルクラウドの活用方法についてのセミナーを行うことになり、見積もり依頼を受けたこともある。また本プログラムの一環として、現地のコンサルティング会社からブラジルでの事業戦略について無料レクチャーを受けたことも役に立っている。

現地SU企業関係者と一対一の面談に臨むクラウドエースの青木氏(ジェトロ撮影)
質問:
どのようなときにジェトロを活用しているか。
答え:
現地の日系企業とのコネクションを持っているので、日系企業とつながりたいときに相談している。実際、ジェトロからの紹介で、日系の大手企業と商談する機会が生まれた。また、現地SU企業や関連コミュニティとのコネクションも持っているので、「スケールアップ・イン・ブラジル」のプログラムに入ってないようなSU企業やコミュニティを紹介してもらっている(注4)。
質問:
今後のブラジル事業の展望は。
答え:
今後はエンジニアを2~3人ほど採用して、現地の日系企業、小売企業、SU企業に営業をかけ、事業を拡大させていきたい。2024年はブラジルでの実績として、顧客にPRできるようなケーススタディを作ることを目標としている。2025年からは、エンジニアの数をさらに増やして、キャパシティを強化したい。

注1:
2019年にブラジル輸出投資促進庁(Apex-Brasil)、ブラジル・プライベートエクイティ・ベンチャーキャピタル協会(ABVCAP)、イスラエル・トレード&インベストメントが共同で立ち上げたプログラムで、2023年度で4回目。海外のSU企業がブラジルでビジネス展開するのを支援することを目的としている。2022年からジェトロとエンタープライズ・シンガポール(両国の貿易・投資振興機関)が協力機関に加わり、日本とシンガポールのSU企業が同プログラムの対象企業となった。参加企業は、ブラジル進出に必要なビジネス環境のレクチャー、現地の潜在顧客や投資家とのマッチング、現地のステークホルダーとの面談やアクセラレーションチームによるメンタリングなどの支援を受けることができる。
注2:
過去に構築した既存のシステムを新たなシステムに移行すること。
注3:
グーグルが提供しているSU企業のスケールアップをサポートするプログラム。
注4:
ジェトロで、海外の現地有力アクセラレータなどと提携し、日系SU企業のグローバル展開を支援する「ジェトロ・グローバル・アクセラレーション・ハブ」を設置している。中南米では唯一、ブラジルのサンパウロ市内に設置されている。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課中南米班
小西 健友(こにし けんゆう)
2022年、ジェトロ入構。米州課中南米班でメキシコ、ブラジルなどの政治・経済の調査を担当。