統計から見る中国文化産業の興隆と外国コンテンツ

2024年9月30日

新型コロナウイルス禍以前には、訪日中国人観光客による「爆買い」が話題となった。ほどなく、中国人観光客の消費マインド変化をとらえた「モノ消費からコト消費へ」という表現も目にするようになった。ブランド品や化粧品、家電製品の購入が減る一方で、茶道や和菓子作り体験、レンタル着物を着た古都散策、伝統芸能の鑑賞、人気アニメ聖地巡礼など、日本独自の文化を楽しむ中国人観光客が増えた。物質的価値から精神的価値へという購買動機の変化は、成熟した消費社会における世界共通のトレンドと言える。

中国においても、消費者が求める価値は変化している。博報堂の上海現地法人が2023年12月に中国都市部在住3,000人に対して実施したアンケート調査によれば、「仕事での成功よりも、プライベートな生活を大切にしたいという意識」について、2019年以前と比べ「強まった」との回答が64%を占め、「弱まった」との回答はわずか8%だった。また、精神的な豊かさを求める消費志向は特に「Z世代」と言われる若年層で顕著だ。高い購買力を持つZ世代の消費の特徴として「装飾品や趣味を中心とした、自分らしさを表現できる商品を選びやすく、趣味や自分の好きなことに対してお金を惜しまない傾向」が挙げられる(2022年1月19日付地域・分析レポート参照)。

こうした背景から、中国でも発展を続けているのが文化産業である。「クリエイティブ産業」または「コンテンツ産業」とも呼ばれるこの産業分野は、可処分所得の増加がもたらす精神的幸福感の追求を主眼とする消費行動の拡大とともに発展する。本稿では、主に統計資料から中国における文化産業の発展状況とその特徴、さらに外国コンテンツの参入状況を概観する。

なお、本稿で使用する「文化産業」の範囲は、特段の断りがない限り、「中国文化及び関連産業統計年鑑」における定義を用いる(表参照)。

表:「中国文化及び関連産業統計年鑑」における「文化産業」の範囲
項目 コード 大分類 主な内容
文化核心領域 01 ニュース情報サービス ニュース、新聞、放送、テレビ、インターネット
02 コンテンツ創作生産 出版物制作、番組制作、演劇、デジタルコンテンツ(アニメ・ゲーム・アプリ・ソフトウェア)、コンテンツ保存(図書館、博物館など)、工芸品美術品、陶芸
03 クリエイティブ設計サービス 広告サービス、設計サービス(建築デザインなど)
04 文化リリース(伝播)チャンネル 出版物発行、テレビ放送、映像放映、演劇公演、インターネット文化娯楽プラットフォーム、芸術品オークション、芸術品小売
05 文化投資運営 投資・資産管理、運営
06 文化娯楽レジャーサービス 娯楽レジャー、公園・遊園地など、観光レジャー
文化関連領域 07 文化補助生産・仲介サービス 文化補助用品製造(紙、インク、画材など)、印刷コピー、版権サービス、会議・展覧会、文化エージェントサービス、文化設備用品リース、文化科学研究・トレーニング
08 文化設備生産 印刷設備製造、放送・テレビ・映画設備製造販売、撮影設備製造販売、演芸設備製造販売、娯楽レジャー設備製造販売、楽器製造販売
09 文化最終消費財生産 文具製造販売、筆記具製造、おもちゃ製造、慶弔用品製造、情報サービス端末設備製造販売(テレビ、イヤホン、スピーカーなど)

出所:中国統計出版社「中国文化及び関連産業統計年鑑」

マクロから見た中国文化産業

中国における文化産業の規模は2000年代以降、拡大を続けている。図1の通り、2004年の同産業分野の付加価値増加額は3,440億元(約6兆8,800億円、1元=約20円)、GDP比で2.1%であったが、2022年には15倍以上の5兆3,782億元、GDP比は4.5%まで拡大した。

図1:中国文化産業の付加価値増加額と対GDP比の推移
文化産業付加価値増加額は、2004年3,440億元から2022年5兆3,782億元まで毎年増加を継続。文化産業付加価値増加額の対GDP比は、2004年2.1%から2018年4.5%まで一貫して増加するも、その後は2019年4.5%、2020年4.4%、2021年4.6%、2022年4.6%と足踏み状態。

出所:中国統計出版社「中国文化及び関連産業統計年鑑」、国家統計局

文化産業を、文化製造業、文化卸売・小売業、文化サービス業に分類して産業規模拡大の推移を見てみると、2014年以降は文化サービス業が急速に拡大している(図2参照)。文化製造業の付加価値増加額は2016年以降、約1兆2,000億元前後の規模を維持しているが、比率は徐々に低下し現在は30%を下回っている。

図2:文化製造業、文化卸売・小売業、文化サービス業の付加価値増加額の推移
文化製造業付加価値増加額は2015年1兆1053億元から2021年1兆3687億元まで一定水準だが、文化サービス業付加価値増加額は2015年1兆1952億元から2021年3兆3508億元まで急増。それにより両者の差は全体比率で、2015年文化製造業40.6%対文化サービス業50.1%だったが、2021年文化製造業26.1%対文化サービス業64.0%と徐々に拡大。

出所:中国統計出版社「中国文化及び関連産業統計年鑑」

さらに細かく、表1の分類により2017年と2021年の文化産業付加価値増加額の構成を示したものが図3である。「文化補助生産」「文化設備生産」など製造分野が比率を落とす一方で、「コンテンツ創作生産」「クリエイティブ設計サービス」「文化リリース〔伝播(でんぱ)〕チャンネル」といった、デジタル技術の活用が進むサービス分野・クリエイティブ分野が比率を伸ばしていることが見て取れ、この分野が近年の文化産業発展の中心となっていることがわかる。

図3:2017年および2021年の文化産業付加価値増加額の分類別比率(%)

2017年
2017年の比率は、コンテンツ創作生産21.3%、クリエイティブ設計サービス15.1%、文化リリース(伝播)チャンネル8.1%、文化補助生産・仲介サービス17.8%、文化設備生産5.6%。
2021年
2021年の比率は、コンテンツ創作生産23.9%、クリエイティブ設計サービス17.1%、文化リリース(伝播)チャンネル10.0%、文化補助生産・仲介サービス15.1%、文化設備生産4.1%。

出所:中国統計出版社「中国文化及び関連産業統計年鑑」

文化サービス業の発展は、中国で急速に進むデジタル技術の実用化とそれを可能にしたインターネットやデジタル端末の急速な普及を背景にしている。中国のインターネット普及率は、2010年より前は30%にも満たなかったが、着実に比率を伸ばし2022年には75%を超えた(図4参照)。また、携帯電話端末の国民1人あたり保有台数(契約件数)は、2009年の0.56台から2017年に1.00台を超え、2022年には1.19台に達している。

図4:中国と日本のインターネット普及率と
携帯電話(モバイル端末)保有状況の推移
中国インターネット普及率は2009年28.9%から2022年75.6%へ、中国の人口1人あたり携帯電話保有台数は2009年0.563台から2022年1.192台へといずれも一貫して増加。一方、参考として日本は、個人インターネット利用率が2009年78.0%から2022年84.9%へ、モバイル端末世帯保有率が2009年96.3%から2022年97.5%へといずれもほぼ横ばい。

出所:(中国)中国統計出版社「中国文化及び関連産業統計年鑑」、中国インターネット情報センター「第53回中国インターネット発展状況統計報告」 (日本)総務省「通信利用動向調査」

新型コロナウイルス禍の状況

前述の図1で見られる通り、2020年の新型コロナウイルス感染拡大以降、文化産業規模の対GDP比は足踏み状態となっている。国民1人あたりの文化娯楽支出を見てみると、2017年ごろから主に都市部で頭打ちの状態であったが、2020年から2022年にかけて新型コロナウイルス感染拡大により著しく減少した(図5参照)。厳しい外出制限などにより、観光・レジャー・文化施設・映画鑑賞などの消費が落ち込んだことが原因とみられる。同図から見て取れるように、同期間の文化娯楽支出の低迷は特に都市部において顕著であった。

図5:都市部および農村部における1人当たり文化娯楽支出の推移
一人あたり文化娯楽支出額の2013年から2022年までの推移、都市部は、 945.7元、1,087.9元、1,216.1元、1,268.7元、1,338.7元、1,270.7元、1,290.6元、821.8元、922.8元、814.2元。農村部は 174.8元、207.0元、239.0元、251.8 元、261.0元、280.0元、289.1元、242.2元、280.5元、288.7元。

出所:中国統計出版社「中国文化及び関連産業統計年鑑」

新型コロナウイルス禍の影響を強く受けた分野の1つが映画である。中国の映画興行収入の推移をみてみると、2019年までは継続的に増加傾向にあったが、感染拡大によって防疫措置がとられていた2020年から2022年の3年間は大きく落ち込み、映画産業の発展に水を差すかたちとなった(図6参照)。

図6:中国における映画興行収入の推移
中国における映画興行収入の推移は、2006年57.3億元から2019年642.7億元まで一貫して増加。以後、2020年204.2億元、2021年472.6億元、2022年300.7億元、2023年549.15億元。

出所:中国統計出版社「中国文化及び関連産業統計年鑑」、国家電影局

中国市場における外国コンテンツ

最後に、中国文化産業市場における外国コンテンツの状況を確認したい。中国では、ハリウッド映画や日本のアニメなどの外国コンテンツに根強い人気がある一方、外国コンテンツの中国市場参入は厳しさを増している。

まず、ドラマやアニメなどテレビ映像作品の海外からの輸入額を見てみると、2010年代半ば以降に増加したが、2018年をピークに近年は減少傾向にある(図7参照)。

図7:テレビ映像作品の輸入額の推移
テレビ映像作品の輸入総額の推移、2009年4億9,146万元、2010年4億3,047万元、2011年5億4,099万元、2012年6億2,534万元、2013年5億8,658万元、2014年20億9,024万元、2015年9億9,398万元、2016年20億9,872万元、2017年19億278万元、2018年36億621万元、2019年16億4,302万元、2020年9億6,223万元、2021年13億3,054万元、2022年6億9,243万元。うちアニメは2014年までわずかだが2015年以降4億4,472万元、10億5,645万元、8億2,254万元、25億634万元、10億8,290万元、4億5,826万元、5億7,420万元、2億3,218万元、と推移。

出所:中国統計出版社「中国文化及び関連産業統計年鑑」

また、テレビ映像放送に占める外国作品比率を見ると、ドラマ、アニメいずれも2010年前後は全体の4~5%程度であった。しかしその後、総放送数・時間数が増加ないし横ばいの状況の中で、外国作品比率は減少を続け、最近では1%に満たなくなっている(図8参照)。テレビはもともと規制が厳しい分野であるのに加え、若年層のテレビ離れが進み、主に若年層をターゲットにした海外ドラマやアニメ獲得へのインセンティブが低下している事が背景にあると見られる。

図8:ドラマおよびアニメのテレビ放送数と外国作品比率の推移

話数
テレビドラマ放送数は、2009年605万900話から2022年734万2800話まで微増なのに対して外国作品比率は2009年3.7%から2022年0.1%へと激減。
時間
テレビアニメ放送時間は、2011年28万255時間から2022年46万5326時間へと増加傾向なのに対して外国作品比率は2011年5.3%から2022年0.6%まで激減。

出所:国家統計局

次に映画だが、中国の映画興行データ分析アプリ「猫眼専業版」によると、2023年の中国国内における映画興行収入ランキングでは、1位から11位まで国産映画が並び、外国映画としては12位の「ワイルド・スピード/ファイヤーブースト」がトップであった。過去数年のランキングと比較しても、トップ10に外国映画が入らないのは珍しい。

興行収入における外国映画の比率は、新型コロナウイルス感染拡大以前は40%前後で推移していたが、2020年以降は15~16%台に低迷、総興行収入が新型コロナ禍前に近づいてきた2023年においても外国映画比率は低いままである(図9参照)。コロナ禍で米国ハリウッドなど外国では映画製作が著しく減少したのに対して、中国では厳しい防疫体制の中でも映画製作が続けられていたこと、国産映画の水準が急速に高まり1本当たりの興行収入が増加する傾向が続いていることなどが要因として挙げられる。

図9:中国映画興行収入と外国映画比率の推移
中国映画興行収入における外国映画比率の推移は、2013年41.3%、2014年45.5%、2015年38.4%、2016年41.7%、2017年46.2%、2018年37.8%、2019年35.9%、2020年16.3%、2021年15.5%、2022年15.2%、2023年16.2%。

出所:中国統計出版社「中国文化及び関連産業統計年鑑」、国家電影局

日本政府の取り組みを追い風に

日本政府が2024年6月に策定した「新たなクールジャパン戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.3MB)」では、コンテンツ産業の構造改革と強靭(きょうじん)化推進を目的とした「コンテンツ官民協議会」の設置など、日本コンテンツの海外展開の推進強化が提唱された。また、同月には「コンテンツ産業活性化戦略」の推進などが盛り込まれた「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.2MB)」も閣議決定された。

本稿で見てきた通り、中国では文化産業が大きく発展を続けているが、様々な要因により外国作品の参入は厳しい状況が続いている。一方で、14億人の人口を抱え日本コンテンツファンも多い中国は、日本の関連企業にとって魅力的な巨大市場であることは間違いない。例えば、数々のエンターテインメント事業を展開するソニーグループは、中国事業におけるエンタメ分野の売上比率はグローバルに比してまだまだ低く、今後の有望市場と認識している。

物質的価値から精神的価値へと購買動機がシフトする中国の消費需要を日本の関連企業がうまく取り込むことは、日本の関連産業の活性化にもつながる。中国の文化産業が、外国文化も適切に受け入れつつ、さらなる発展を続けることを願う。

執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 次長
森永 正裕(もりなが まさひろ)
1998年、アジア経済研究所入所。ジェトロ・上海事務所、JOGMEC・北京事務所長(出向)、研究企画課長、ジェトロ・成都事務所長などを経て現職。