2023年の乗用車新規登録台数、生産台数ともに回復(ポーランド)

2024年7月30日

ポーランド国内の2023年の乗用車生産台数は29万9,930台だった。2016年の約55万4,600台をピークに、6年連続で減少していたが、新型コロナウイルス感染拡大やウクライナ戦争、半導体不足などによる低迷から脱し、前年比で17.3%増加した。

2023年の国内乗用車生産台数、7年ぶりに前年比プラスに

同国の自動車生産の中心は、ポズナン市に工場を置くフォルクスワーゲン(VW)だ。同社の2023年の生産台数は前年比約10%増の約25万台で、新型コロナ禍前のレベルに回復した。

ポーランド自動車工業会(PZPM)によると、2023年のポーランドの乗用車新規登録台数は前年比13.2%増の47万5,032台だった。新規登録台数は過去最高だった2019年の55万5,598台の水準に及ばなかったものの、2020年以降で最高値を記録した。2022年に注文された自動車の納品が進むなどして、全ての月で、前年同月比で増加した。

乗用車新規登録台数も回復

乗用車新規登録の内訳をみると、新車登録台数の72.5%を占める法人向けは34万4,417台で、前年比15.5%の伸びを示した。これに対し、個人向けは前年比7.4%増の13万615台だった。ポーランドでは中古自動車の輸入を背景に、車齢の長い乗用車が多く、2023年時点で10年以上が60.5%を占め、4年以上10年未満が30.8%、4年未満が8.7%となっている。一方で、法人による保有車両の入れ替えが新車の登録台数の増加につながった。

また、自動車市場調査会社サマルの2023年12月の発表によると、新車乗用車価格は5年間で70%上昇した。新車の購買価格は、ポーランド中央統計局(GUS)による月額平均賃金の約32倍に相当し、ポーランド人の購買力は過去5年間で変わっていない。

上位5メーカーの順位は前年と同じ

メーカー・ブランド別にみると(表1参照)、上位2社(トヨタ、シュコダ)の合計が市場の30%を占めたのに対し、3位以下の市場シェアはいずれも1桁だった。トヨタは前年比23.5%増の9万1,195台と、4年連続で首位を維持した。シュコダは2020年にトヨタに1位を奪われて以降、一貫して2位にとどまっており、前年比22.4%増の堅調な伸び率を示したが、5万1,478台で市場シェアの差は拡大する一方だ。それに続くのが起亜、フォルクスワーゲン(VW)、現代で、いずれも前年から新規登録台数が増加し、順位を維持した。なお、VW傘下のクプラが前年比 2.9倍と大幅な伸びを記録し、初めてトップ20位入りを果たした。その一方で、前年比減のメーカー・ブランドもあり、フォードは26.3%減、ダチアは13.9%減、プジョーは10.2%減となった。

表1:ポーランドの乗用車新規登録台数(メーカー・ブランド別)(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 メーカー・ブランド 2022年
台数
2023年
台数 シェア 前年比
1 トヨタ 73,862 91,195 19.2 23.5
2 シュコダ 42,067 51,478 10.8 22.4
3 起亜 33,714 36,081 7.6 7.0
4 フォルクスワーゲン(VW) 30,814 33,924 7.1 10.1
5 現代 26,887 26,931 5.7 0.2
6 アウディ 19,323 26,024 5.5 34.7
7 BMW 23,806 23,240 4.9 △ 2.4
8 メルセデス・ベンツ 21,356 21,339 4.5 △ 0.1
9 ルノー 14,559 18,222 3.8 25.2
10 ダチア 20,718 17,844 3.8 △ 13.9
11 ボルボ 10,947 12,542 2.6 14.6
12 フォード 16,435 12,111 2.5 △ 26.3
13 マツダ 7,255 11,055 2.3 52.4
14 レクサス 5,657 10,496 2.2 85.5
15 オペル 9,343 9,524 2.0 1.9
16 プジョー 9,795 8,792 1.9 △ 10.2
17 クプラ 3,073 8,779 1.8 185.7
18 スズキ 5,149 8,415 1.8 63.4
19 日産 6,028 6,638 1.4 10.1
20 シトロエン 6,127 5,701 1.2 △ 7.0
その他 32,834 34,701 7.3 5.7
合計 419,749 475,032 100 13.2

出所:ポーランド自動車工業会(PZPM)からジェトロ作成

日系メーカー・ブランドの5社(トヨタ、マツダ、レクサス、スズキ、日産)はいずれも、前年比プラス成長を遂げている。合計で12万7,799台を販売し、シェアは26.9%と前年比3.6ポイント拡大した。トヨタ以外の日系メーカー・ブランドの市場シェアは小さいが、マツダは前年比52.4%増の1万1,055台で、順位を2022年の15位から13位に上げている。レクサスは前年比85.5%増の1万496台と販売台数を大幅に伸ばし、マツダに僅差で迫った。

モデル別でもトヨタ人気が圧倒的

メーカー・モデル別(表2参照)にみると、トヨタ・カローラが販売台数2万6,850台(前年比25.6%増)で、首位を維持した(注1)。続いてシュコダ・オクタビアが1万5,800台で、前年の5位から2位へ順位を上げた。近年人気の高いスポーツ用多目的車(SUV)は引き続き好調だった。トヨタのカローラ・シリーズ初のSUVのカローラクロスは前年比8.7倍と販売台数を伸ばし、クプラ・フォーメンターのクーペSUVは前年比2.5倍と大幅な伸びを示した。順位を落としたのは現代i30で、前年の8位から18位となり、前年比39.6%減だった。

表2:2022年の乗用車新規登録台数上位20モデル (単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 メーカー・モデル 2022年
台数
2023年
台数 シェア 前年比
1 トヨタ・カローラ 21,371 26,850 5.7 25.6
2 シュコダ・オクタビア 10,893 15,800 3.3 45.0
3 トヨタ・ヤリス 12,478 13,459 2.8 7.9
4 トヨタ・ヤリスクロス 9,033 13,402 2.8 48.4
5 起亜スポーテージ 11,176 12,453 2.6 11.4
6 現代・ツーソン 9,197 10,699 2.3 16.3
7 トヨタC-HR 8,018 10,629 2.2 32.6
8 ダチア・ダスター 10,958 9,100 1.9 △ 17.0
9 トヨタRAV4 10,580 8,366 1.8 △ 20.9
10 フォルクスワーゲンT-Roc 7,755 7,502 1.6 △ 3.3
11 起亜シード 7,177 7,146 1.5 △ 0.4
12 シュコダ・ファビア 7,670 7,010 1.5 △ 8.6
13 クプラ・フォーメンター 2,667 6,710 1.4 151.6
14 シュコダ・カミック 5,675 6,677 1.4 17.7
15 シュコダ・スペルブ 5,403 6,161 1.3 14.0
16 トヨタ・カローラクロス 705 6,151 1.3 772.5
17 ボルボXC60 5,365 6,133 1.3 14.3
18 現代i30 9,142 5,521 1.2 △ 39.6
19 シュコダ・コディアック 4,365 5,297 1.1 21.4
20 シュコダ・カロック 3,828 5,283 1.1 38.0
その他 256,293 284,683 59.9 11.1
合計 419,749 475,032 100.0 13.2

出所:ポーランド自動車工業会(PZPM)からジェトロ作成

高級車の販売台数が増加

高級車と言われるプレミアムブランドの販売台数が相対的に増加し、2023年は11万8,246台で、前年比23.1%増、初めて10万台を超えた。それに対し、その他の一般乗用車の登録台数は約3倍の35万6,786台(前年比10.2%増)だった。PZPMは、高級車の好調には法人向け乗用車とゼロエミッション車の販売増加が貢献していると指摘している。ポーランド経済が安定するとともに、企業幹部による社用車の買い替えが進んでいる。また、近年、環境に対する企業の責任感が高まっていることで、企業はガソリン・ディーゼル車以外(以下、代替燃料自動車)の購入に積極的だとしている。

2023年の高級車の販売台数をメーカー・ブランド別に見ると、アウディは前年1位だったBMWを抜き返して1位となった。2位はBMW、3位は前年と同じくメルセデス・ベンツだった。なお、ボルボは4位だが、同社のXC60はプレミアムブランドの人気モデルとして、15年連続で首位となった。

代替燃料自動車の普及率は5割弱に

新規登録台数を燃料種別にみると(表3参照)、ガソリン車とディーゼル車はそれぞれ前年比1.3%減の19万8,100台、1.7%増の4万6,800台だった。市場シェアの合計は数年間、低下傾向で推移しており、2020年の81.5%から2023年の51.6%まで下がった。代替燃料自動車は33%増の23万100台で、シェアは48.4%まで増加した。内訳をみると、マイルドハイブリッド車(MHEV)は9万4,400台(29.0%増)、ハイブリッド車(HEV)は9万2,900台(41.2%増)、液化石油ガス車(LPG)は1万2,500台(2.5%増)、バッテリー式電気自動車(BEV)は1万7,100台(51.3%増)、プラグインハイブリッド車(PHEV)は1万3,200台(26.9%増)、水素を使用する燃料電池車(FCEV)は83台(前年比2.0倍)と軒並み増加した。

表3:燃料種別の乗用車登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
燃料種別 2022年 2023年
台数 シェア 台数 シェア 前年比
ガソリン車 200,800 47.8 198,100 41.7 △ 1.3
ディーゼル 46,000 11.0 46,800 9.9 1.7
代替燃料 173,000 41.2 230,100 48.4 33.0
階層レベル2の項目MHEV 73,200 17.4 94,400 19.9 29.0
階層レベル3の項目HEV 65,800 15.7 92,900 19.6 41.2
階層レベル3の項目LPG 12,200 2.9 12,500 2.6 2.5
階層レベル3の項目BEV 11,300 2.7 17,100 3.6 51.3
階層レベル3の項目PHEV 10,400 2.5 13,200 2.8 26.9
階層レベル3の項目FCEV 41 0.0 83 0.0 102.4

注:ガソリン車、ディーゼル車、代替燃料自動車の台数は概数。
出所:ポーランド自動車工業会(PZPM)からジェトロ作成

代替燃料自動車のうち、前年から50%以上成長したBEVは、市場に参入するモデル数も増えている。ポーランド・ニューモビリティー協会(PSNM、注2)によると、2023年には137車種(乗用車104車種、バン33車種)を記録した。メーカー・ブランド別にみると、テスラ、日産、BMWの順に人気だった。BEVの市場拡大には、2021年にポーランド政府が導入したBEVなどのゼロエミッション車購入助成制度(「マイEV」プログラム)が貢献している。しかし、輸送コストの上昇やインフレ、部品調達の問題などにより電気自動車(EV)の平均価格が上昇しているにもかかわらず、補助対象となる車両価格の上限は同プログラム開始時の22万5,000ズロチ(約900万円、1ズロチ=約40円)のままのため、対象車種が減少し、同プログラムの貢献度が減少しているとPSNMは指摘する。2023年の乗用車新規登録台数におけるBEVのシェアを見ると、ポーランドは3.6%でEU平均(14.6%)の約4分の1と低く、購入支援策の拡充が求められている。

充電インフラのさらなる拡充が課題

ポーランド・ニューモビリティー協会(PSNM)によると、2023年末時点で国内3,282カ所の公共充電ステーションに5,933基の充電器があった。公共ステーション数は前年比で37%増加した。充電器のうち74%が交流(AC)普通充電器、26%が直流(DC)急速充電器だった。特にDC急速充電器は新たに528カ所設置され、増加率は前年比92%と顕著だった。しかし、PSNMは、EUの代替燃料インフラ規則(2023年8月2日付ビジネス短信参照)と、ポーランドのEV市場の成長を考慮すると、2030年までに国内で利用可能な公共充電インフラの電力を6.5倍まで拡大する必要があると分析する。また、充電インフラ拡大への課題として、充電ステーションと配電システムとの接続にかかる手続きや工事に要する時間の長さ、自動車道・高速道路近くのエネルギー・インフラの整備不足などを指摘している。公共充電設備の47.6%が首都ワルシャワのあるマゾフシェ県を含む4つの県に集中していることも課題だ。PSNMは、充電インフラの拡大には、包括的な法整備や充電設備・電力インフラ双方への公的資金の補助、1回の充電による走行距離を伸ばす技術開発などが必要と訴える。


注1:
ただし、個人向けでみると、トヨタはカローラが4,780台に対し、ヤリスクロスが6,917台と人気を集めた。
注2:
ポーランド代替燃料自動車協会(PSPA)は2024年4月、ポーランド・ニューモビリティー協会(PSNM)に改名した。ポーランドおよび中・東欧地域で、持続可能な輸送の分野で活動する自動車メーカーやインフラ関連企業、エネルギー関連企業などの業界団体で、200社以上の企業が加盟している。

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2024年8月7日)
第3段落
(誤)4月以外の全ての月で、前年同月比で増加した。
(正)全ての月で、前年同月比で増加した。
変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2024年9月26日)
表2
「その他」のシェア
(誤)61.1
(正)59.9
執筆者紹介
ジェトロ・ワルシャワ事務所
ニーナ・ルッベ
2017年からジェトロ・ワルシャワ事務所に勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・ワルシャワ事務所
柴田紗英(しばた さえ)
2021年、ジェトロ入構。農林水産食品部を経て、2023年9月から現職。