インド政府がグリーン水素・グリーンアンモニア生産に新たな奨励制度

2024年2月9日

インド政府は、2030年までにグリーン水素の年産能力を500万トンに引き上げることを目標にしており、達成に向けた各種の政策を打ち出している。本稿では、2024年1月16日に発表されたグリーン水素・グリーンアンモニア製造のための奨励制度を概説し、既存の制度との違いなどを示す。

CO2排出量を年5,000万トン削減

インド政府は、目標とする2030年までのグリーン水素年産能力500万トンが実現し、全量が利用されれば、年間約5,000万トンの二酸化炭素(CO2)排出削減が可能だとしている。政府は2023年1月4日、目標の達成に向けて、1,974億4,000万ルピー(約3,554億円、1ルピー=約1.8円)の資金を投入する「国家グリーン水素ミッション(NGHM)」を閣議決定した。同ミッションの政策には、(1)輸出と国内利用喚起による需要創出、(2)グリーン水素製造(電解槽製造を含む)のためのインセンティブを提供する「グリーン水素転換のための戦略的介入(SIGHT)」プログラムの推進、(3)鉄鋼、モビリティー、海運などの産業でパイロットプロジェクトの実施、(4)グリーン水素ハブの開発などのための財政的・非財務的措置を盛り込んでいる。

新たな奨励制度(モード2)導入

インド新・再生可能エネルギー省(MNRE)は2024年1月16日、国内のグリーン水素製造(電解槽製造を含む)、グリーンアンモニアの製造のための新たな奨励制度を開始したと発表した。同奨励制度は、実施機関により集約された総需要に応えるかたちを採用する(2023年6月9日付2023年8月24日付地域・分析レポート参照)。

新奨励制度は、NGHMに基づく「SIGHT」の第2弾(モード2)で、グリーンアンモニア製造(モード2A)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(879KB)グリーン水素製造(モード2B)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(887KB)の2つのカテゴリーがある。どちらも生産規模の急拡大や技術革新、コスト削減を目的として施行される。NGHMの予算規模は、2029年度までに1,974億4,000万ルピーの支出を見込んでおり、そのうちの1,749億ルピーがSIGHTプログラムによる財政的インセンティブとして割り当てられている。

モード1との違い

2023年6月に導入したSIGHTプログラム第1弾の奨励制度(モード1)では、競争的選考プロセスを通じ、3年間の期間中に必要となる財政的インセンティブを最低限に抑えるための入札が行われてきた。一方、今回の新奨励制度(モード2)では、実施機関が集約した総需要に対し、あらかじめ財政的インセンティブを定めた上で、最も低コストで製造・供給できるように入札をかける仕組みを取った。応札者は、新・再生可能エネルギー省が通知した「国家グリーン水素基準」に定められている詳細基準に従い、応札することが求められる。

グリーンアンモニア製造奨励制度(モード2A)の概要

グリーンアンモニア製造奨励制度(モード2A)では、新・再生可能エネルギー省がインド太陽光発電会社(SECI)を実施機関として、総需要の集約や入札、インセンティブ付与などの制度運用を行う。同制度では、(1)生産・供給されたグリーンアンモニアについて、1キログラム(kg)当たりの直接奨励金が生産開始から3年間支給される、(2) 奨励金は、初年度は1kg当たり8.82ルピー、2年目は同7.06ルピー、3年目は同5.30ルピーとする、(3)見積もられた供給量分のグリーンアンモニアを製造しなければならず、取引や裁定取引は認めない、(4)SIGHTプログラムでは、同一の水素とその誘導体の生産・供給に対して、モード1とモード2の両方のインセンティブを受けることはできない。なお、モード2AのトランシェⅠ(第1回分)で入札可能なグリーンアンモニアの容量は、年間55万トン。その後のトランシェについては、新・再生可能エネルギー省が決定する。

グリーン水素製造奨励制度(モード2B)の概要

グリーン水素製造奨励制度(モード2B)では、石油・天然ガス省(MoPNG)が選定する石油・ガス会社や高度技術センター(CHT)が実施機関となり、総需要の集約や入札、インセンティブ付与などの制度運用を行う。同制度では、(1)グリーン水素の製造・供給を開始した日から3年間、製造・供給されたグリーン水素について、kg当たりの直接奨励金が支給される、(2)奨励金は、初年度1kg当たり50ルピー、2 年目は同40ルピー、3年目30ルピーとする、(3)見積もられた供給量分のグリーン水素を製造しなければならず、取引や裁定取引は認めない、(4)引き渡し地点は各製油所のバッテリー・リミット(注)地点とし、サプライヤーは保管や輸送を含め、納入地点への製品の納入に責任を負う、(5)SIGHTプログラムでは、同一の水素とその誘導体の生産・供給に対して、モード1とモード2の両方のインセンティブを受けることはできない。なお、モード2BのトランシェⅠで入札可能なグリーン水素の容量は年間20万トン。 その後のトランシェについては、新・再生可能エネルギー省が決定する。

また、奨励金の算定方式は、「当該年の奨励金額(単位:ルピー/kg)」×「割当容量、または当該年の生産・供給実績(単位:kg)のいずれか低い方」で決定される。

地元メディアによると、2023年6月に発表されたNGHMによる従来の奨励制度(モード1)に応札した14社には、大手財閥リライアンス・インダストリーズや、電力会社JSWエナジー、同トレント・パワー、国営石油バーラト・ペトロリアムなどの名が挙がっている。電解槽製造の奨励制度には、リライアンス・インダストリーズ、新興財閥アダニ・グループ、鉄鋼ジンダル・インディア、建設会社・総合エンジニアリング大手ラーセン&トゥブロ(L&T)、重電大手バーラト・ヘビー・エレクトリカルズ(BHEL)を含む20社が応札したとされている(「マネーコントロール」1月18日)。


注:
サプライヤーが納入しようとする装置、プラントなどの納入および工事施工範囲境界。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。